美少女ゲーム傑作選

プレイヤーの予想を超える異色のエロゲー10選

エロゲー、特にシナリオゲーの物語というと、ヒロインと恋仲になってなんかいろいろあって悩みやトラウマを克服して最後にHしてハッピーエンド、というものだと思ってる人も多いかと思います。
まぁそれはあながち間違ってなくて、そういうテンプレ的な物語であっても名作はたくさんありますし、むしろ初心者さんにはそういう王道的な物語が向いてると思いますが、そればかりだとさすがに飽きてくるというもの。
甘いお菓子ばかり食べてると、たまにはピリッとしたものが食べたくなりますよね?

そういうわけで今回は王道からは外れ、あえて奇をてらった異色のエロゲーを紹介したいと思います。
どの作品もパッと見は良くあるエロゲーに見えますが、プレイしていくうちに「え? ええ? えええええええ!?」と驚いてしまうほどパンチの利いた異色の作品たちです。

こういった作品は詳しく紹介するとネタバレになってしまいますし、そもそも「この後驚愕の展開が」という情報自体もある種のネタバレかもしれないのでどうやって紹介するか迷いましたが、とりあえずほんのさわりの部分だけ紹介したいと思います。
完全に情報をシャットアウトしたい方はタイトルだけでも確認してください。

『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(elf 1996年)

ブランドシナリオ原画発売日
elf剣乃ゆきひろ長岡康史1996.12.26

まず紹介したいのは、早世の天才シナリオライター・菅野ひろゆき(当時は剣乃ゆきひろ名義)さんプロデュースによるSFアドベンチャー『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。
シナリオゲー黎明期の1996年に発売され、その後のSFエロゲーの原点になったと言っても過言ではない伝説の作品です。

原典となったPC版はさすがに古すぎて手に入らないだけでなく、そもそも最近のOSでは動かないと思います。ただCGその他をフルリメイクしたコンシューマ版(Hなし・声あり)が発売されていますし、2023年にはオリジナル版の画風のまま最新OSに対応したリマスター版(Hあり・声なし)も出ているので今から買うならそのどちらかを推奨。

物語は大学教授の父をもつ主人公・有馬たくやが、父親から送られてきた謎の装置”リフレクターデバイス”を駆使して並列世界を行き来し、悲劇を回避するために奔走していく、というもの。
この”リフレクターデバイス”というシステムがとてもよくできていて、システムとストーリーを密接につなげています。このシステムは言ってみれば物語中 に”しおり”を挟める機能(回数制限あり)なんですが、セーブ機能として使えるだけでなく、選択肢の前に戻ったり別のルートへ飛んだりすることによって物語を進めることが出来るという代物。これを上手く使わないと物語が進まないので、どこでセーブするかが非常に重要になってきます。

ストーリー自体も非常に面白く、特にゲーム後半は壮大な展開が待っているのでクリックする手が止まりません。
物語後半で展開がガラリと変わるのは2000年以降の作品では割と見かける作風ですが、この作品はその先駆けかもしれませんね。

『最果てのイマ』(XUSE 2005年)

ブランドシナリオ原画発売日
XUSE田中ロミオあらきまき2005.8.12

『CROSS†CHANNEL』を生み出したシナリオライター・田中ロミオさんによる異色のSF作品。
物語は主人公が7人の幼馴染を「聖域」と呼ばれる廃工場に集めるところから始まります。
これだけみるとノスタルジックな青春モノに見えますが、物語を進めるに従って徐々に違和感が蓄積していき、中盤以降はそれまでとは打って変わった展開が待っています。
いや、途中で展開の変わる作品はこの時期そこまで珍しくはないのですが、そういう作品の中でもこの作品は異彩を放っています。

そして何よりこの作品はテキストが非常に難解。哲学的なワードや抽象的な表現も多く、独自のSF設定もたくさんあるので読んでて頭を使います。
また序盤からいたるところに伏線が張り巡らされていて、物語後半になって「あれはそういうことだったのか」と気付かされることが多々ありますが、難しすぎて気付かないこともあるのでプレイ後の解説サイトや考察サイト巡りは必須。
ちなみに私は笛子まわりの伏線は全く気付きませんでした。あれ1週目に自力で気付く人いるのか…。

『リトルバスターズ!』(Key 2007年)

ブランドシナリオ原画発売日
Key麻枝准 都乃河勇人 城桐央 樫田レオ樋上いたる Na-Ga2007.7.27

泣きゲーメーカーKeyが放つファンタジーアドベンチャー。
主人公含め5人の幼馴染が野球チームを作るために仲間を集めていく学園ストーリー。…なんですがそこは老舗泣きゲーブランドKeyの作品、ただの青春物語で終わることはなく、中盤以降はKeyらしいストーリーが展開します。

Keyの過去作『AIR』や『CLANNAD』では”家族”やをテーマにしてきましたが、今作では仲間との”友情”が主なテーマ。美少女ゲームでありながら、男性キャラとの固い友情に熱い涙を流すこと必至。
またKeyらしく、序盤で展開される仲間たちとの抱腹絶倒なギャグシーンも魅力的。こういった面白おかしい日常があるからこそ、後半の展開に泣けるんですよね。

『俺たちに翼はない』(Navel 2009年)

ブランドシナリオ原画発売日
Navel王雀孫西又葵2009.1.30

池袋をモデルにしたと思われる架空都市・柳木原(通称ギバラ)を舞台に、進学校に通う学生・羽田鷹志と、ファミレスでバイトするフリーター・千鳥鷲介、夜の繁華街でなんでも屋をやって日銭を稼ぐ成田隼人の3人を中心とした群像劇。

遅筆の天才シナリオライター・王雀孫さんによって構成された複雑な物語は、もう見事としか言いようがありません。舞台も性格も違う複数の主人公を、よくもまあ矛盾なく一つのシナリオにまとめきったなと。
あと王雀孫さんらしく、日常のギャグシーンが面白過ぎる! この人の笑いのセンスは唯一無二ですね。

映像化は(いろんな意味で)無理なんじゃないかと思われましたが、2011年にあっさりアニメ化。しかも結構出来が良く、原作ファンも安心して見られます。

『素晴らしき日々 ~不連続存在~』(ケロQ 2010年)

ブランドシナリオ原画発売日
ケロQすかぢ基4% 硯 籠目 karory2010.3.26

喧嘩の強い姉御肌の少女・水上由岐や、いじめられっ子の少女・高島ざくろ等、複数の主人公で紡がれる物語。
まずそのテキストが哲学的かつ抽象的で非常に難解。過去の名作小説や哲学書からの引用もたくさん出てくる”文系向け”の作品です。

そして中盤の展開が、まあこれでもかというほど胸糞悪い。凄惨なイジメの描写や、頭がイっちゃってるような”電波系”のシナリオ等、他の作品とは一線を画し過ぎる作風です。ライターさんマジで頭おかしい(褒め言葉)。

でもそんなぶっ飛んだシナリオを中盤以降見事にまとめあげ、数々の伏線を綺麗に回収していく様は「うわ、そういうことだったのか」と驚くこと請け合い。
物語自体のメッセージ性も強く、多くの人の心に刺さるのではないでしょうか。
作風的にも構造的にもコンシューマ化やアニメ化は不可能で、正にエロゲーでしか表現できない作品と言えるかと。

『euphoria』(CLOCKUP 2011年)

ブランドシナリオ原画発売日
CLOCKUP浅生詠 和泉万夜はましま薫夫2011.6.24

1人の主人公が6人の女性たちと共に”白い部屋”に閉じ込められ、凄惨な性行為を強要されるインモラルハードコアADV。
文字通りインモラルでハードコアなHシーンが連続し、汚物やグロテスクな表現も多数描写されるので、正直言って吐き気を催すほど。これ使える人いるのか…。

ただこの作品が何より評価が高いのは、ただの凌辱ゲーにとどまらない良質なシナリオ。
二転三転する物語に驚き、何があっても恋人のために一途に尽くす究極の純愛劇に思わず目頭が熱くなります。

『はるまで、くるる。』(すみっこソフト 2012年)

ブランドシナリオ原画発売日
すみっこソフト渡辺僚一師走ほりお 笹井さじ2012.4.27

人里離れたところで主人公と4人の少女たちが長く楽しい春休みを過ごす、という物語。
可愛らしいキャラデザに良くある萌えキャラ設定、ありきたりなあらすじを見ただけでは「はいはい典型的なハーレムゲーね」と思ってしまう人も多いかもしれません。

まぁ確かに序盤は良くあるハーレムゲーの様相を呈しています。ただ中盤以降は様相が一変し、割と本格的なSFストーリーが展開。
正直、序盤のハーレム展開に辟易してしまう人も多いかもしれませんが、これはもう意図的にそういう展開を最初に持ってくるシナリオ構造にしていると思われるので、頑張って最後までプレイしてみてください。
何というかうまく説明できませんが、エロゲに限らず漫画やラノベ、アニメ等の名作をたくさん経験してきた人にこそプレイしてもらいたい作品です。

『景の海のアペイリア』(シルキーズプラス 2017年)

ブランドシナリオ原画発売日
シルキーズプラス範乃秋晴いつい2017.7.28

学園に通う主人公・桐島零一が自我をもつAI少女・アペイリアを偶然開発し、それを使って完全没入型VRMMO「セカンド」を作って仲間と共に遊んでいたところ、ある陰謀に巻き込まれていくというSFアドベンチャー。
一癖も二癖もある登場人物たちに翻弄され、先の読めない展開に驚愕する体験はまさにアドベンチャー。謎が謎を呼ぶミステリー的な要素もあるので最後まで目が離せません。

作中では「二重スリット実験」や「多世界解釈」といった量子力学的なワードが頻出する”理系向け”の作品でもあります。そいう意味では『素晴らしき日々』とは真逆ですね。

『アメイジング・グレイス -What color is your attribute?-』(きゃべつそふと 2018年)

ブランドシナリオ原画発売日
きゃべつそふと冬茜トム梱枝りこ2018.11.30

記憶喪失の主人公・シュウが壁に囲まれた町で目覚め、聖アレイア学院で美術を学びながら仲間たちと学生生活を楽しんでいたところ、12月25日に謎の大火災が起こって街が壊滅。惨劇を回避するために不思議な力で過去に戻ってやり直す、といういわゆるループもの。

この作品の一番の魅力はその綿密に練られられたシナリオ。序盤の日常シーンに何気なく描写されたものが後の展開の伏線になっていたりするので、単なるループものにとどまらない完成度を誇ります。
終盤のネタばらしのときは、「言われてみればそうだった!」と誰もが驚愕すること間違いなし。

またこの作品は美術をテーマにしているので、過去の名画のトリビアがたくさん出てきます。
”アトリビュート”って概念は初めて知りました。プレイ後は絵画の見方が変わるかも。

『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?』(Qurppo 2018年)

ブランドシナリオ原画発売日
Qruppo倉骨治人 神近ゆううきまるつぼね2018.7.27

2018年に新規ブランドQurppoから彗星の如く登場し、話題をかっさらっていった作品です。通称『ぬきたし』。

「セックスしないと逮捕される」という”ドスケベ条例”が制定された島の学園を舞台に、誇り高き童貞である主人公・橘淳之介が仲間と共に生徒会へ反旗を翻す…。
この内容とタイトルだけを見ると、誰もがおバカな抜きゲーだと思うでしょう。ところがどっこい、この作品はれっきとしたシナリオゲーです。しかも独特のノリと勢いと下ネタで笑わせながらシリアスかつ熱い展開もあるという、正にエロゲーでしか表現できない作品でもあります。

2010年代に入ってエロゲー市場の縮小化や人材の流出等が危惧されるようになりましたが、この作品が現れたことによって「エロゲー業界はまだまだいける」ことを我々ファンに教えてくれた気がします。


とりあえず今回はこの10作品で。正直言ってこれらの作品はあまり初心者向けとは言えません。
むしろこういった作品は一般的なエロゲーの常識やお約束を逆手に取っている面もあるので、ある程度普通のエロゲーをプレイしておいた方がより楽しめるかと。

王道的なエロゲーの後でこういった(良い意味で)奇をてらった作品をプレイすると、エロゲーの可能性や懐の深さをつくづく感じます。
こういう作品がたまに出てくるからエロゲーはやめられないんですよね。

タイトルとURLをコピーしました