2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『金色ラブリッチェ』(SAGA PLANETS 2017年)

美少女ゲームのヒロインというのは、キャラの個性を強調するために髪の色が赤や青などカラフルになることが珍しくないんですが、今回紹介するのは主要ヒロインのほとんどが”金髪”であることが特徴の作品、『金色ラブリッチェ』。略称は「金恋」。

製作は20年以上続く老舗ブランド、通称サガプラことSAGA PLANETS。
2017年萌えゲーアワード準大賞及びシナリオ賞金賞受賞。2017年ベストエロゲー投票1位。Getchu.com美少女ゲーム大賞2017では、シナリオ部門・ミュージック部門・キャラクター部門・総合部門で1位という、名実ともに2017年を代表する作品です。

ストーリーは主人公の市松央路が、ひょんなことから北欧の国家「ソルティレージュ王国」の王女であり日本に留学中の少女・シルヴィアに気に入られ、良家の紳士淑女が通う私立ノーブル学園に編入するところから始まる学園物語。
王国のお姫様との恋愛という、『ローマの休日』から脈々と受け継がれたいい意味で王道的な設定です。

作品全体の完成度が高いのはもちろんのこと、ヒロインとイチャイチャするキャラゲーの要素と物語に感動するシナリオゲーの要素が上手く融合した、ストレートでわかりやすい作品だと思います。
エロゲーをやったことのない人に「エロゲーとはこういうものだ」ということを示すのに最適な作品なので、初心者さんの最初の一本としてもおすすめです。

  • サブキャラも含め魅力的なキャラクターたち
  • 涙なしには見られない最終ルート
  • 各シナリオ共通のテーマ「ゴールデンタイム」
ブランドSAGA PLANETS
ジャンル恋愛AVG
初回発売日2017.12.22
DL版価格7,920円
シナリオさかき傘
原画ほんたにかなえ
とらのすけ
有末つかさ
おすすめ度85
シナリオ傾向

あらすじ

私立ノーブル学園。
そこは未来の紳士淑女を作る場所。
教養だけでなく、品格を学ぶための全寮制の学園である。

とくに今年は、さる北欧の小国より王族を招いたとかで、
学園は例年にない緊迫感を帯びていた。

主人公、市松央路が思いがけないことからお姫様に気に入られ、
学園に叩きこまれたのはそんなとき。
寮の空き部屋の関係で、女子寮の端に押し込まれたのはそんなときだった……。

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
金色ラブリッチェ7 8 102017.12.22
金色ラブリッチェ -Golden Time-7 8 102019.2.22
金色ラブリッチェPS4 VITA2020.3.26
金色ラブリッチェSwitch2021.2.25

パッケージ版は初回/通常版の区別はありません。予約特典にはサントラと設定原画集が付いていました。
新品はすでにロットアップしているみたいですが、一部の通販サイトではまだ残っていますし、中古品もかなり出回っているので、入手は問題ないかと思います。

『Golden Time』は本編のアフターストーリーとサブキャラのルートを収録したファンディスク。このころからサガプラもファンディスクを出すようになりました。
こちらは初回版と通常版があり、初回版には原画集やドラマCDが付属します。

各種CS版はHシーンをカットしただけのベタ移植。VITA版以外はファンディスクの『Golden Time』も出ています。

これ以外にスマホ版とSteam版が配信されています(共にエロなし)。Steam版はR-18化パッチがありますが、日本からだと多分無理。ただ定価が3,600円とかなり安い上にたまにセールもやっているので、Hシーンいらなければかなりお得に買えます。

パッケージ版の無印は特に特典の類もないですし、中古価格も今のところそんなに下がっていないので、今から買うならダウンロード版を推奨。毎回ではないですがたまにセール(30%OFFくらい)になるので、セール時に見かけたら迷わず買いましょう。
少しでも安く済ませたいならパッケ版を中古で。

システム

ゲームエンジンにはビジュアルアーツ製のSiglusEngineが使われています。現在のサガプラはビジュアルアーツとの提携を解消していますが、サポートは引き続きビジュアルアーツが担っている模様。
プログラムは若干重いので非力なPCだと画面の切り替わり等がもたつくかもしれませんが、最近のPCなら大丈夫かと。

画面サイズは1920×1080のFullHD。FullHDに対応していないディスプレイでも、自動的に解像度が下がるので問題なくフルスクリーン表示することができます。
ウインドウモードは私の環境(FullHD非対応)だとサイズが50%(960×540)固定になりました。
ちなみに初回起動時はタイトル画面を経ずに直で物語が開始するので注意してください。

システム的に必要な機能は大体搭載されていて、プレイする上での不都合は特にありません。
「前の選択肢に戻る」はありませんが、バックログから任意のシーンに戻るシナリオジャンプ機能があるのでそれで代替できます。

好きな台詞を登録して後で振り返ることのできるお気に入りボイス機能もあります。
こういうのって主にキャラゲーに使われていて、ヒロインの甘~い台詞を繰り返し聴くASMR的な使い方をすることが多いと思うんですが、シナリオゲーで印象的な台詞や名言を記録するのにも使えますね。
またヒロインの誕生日には起動時に特別なメッセージが流れます。これ私、全然気付かなくて一度も聴けませんでした…。

珍しいところではtwitter投稿ボタンがあります。これは多分プレイ中の画面をスクショして投稿するものだと思うんですが、なんとなく怖くて使ってません(笑
これってエロシーンで押しても投稿されちゃうの?

シナリオ

夕方の屋上でタバコを嗜む少女・理亜

シナリオ担当はさかき傘さん。過去作に『つよきすNEXT』や『辻堂さんの純愛ロード』等の学園ラブコメを手がけたライターさんです。

物語は静岡県浜松市をモデルにした街を舞台に、主人公・市松央路が偶然出会ったソルティレージュ王国の王女シルヴィアに気に入られ、上流階級の子息が通う私立ノーブル学園に半ば強引に編入させられた上、お嬢様たちとともに寮生活を始めるという学園ラブコメ。

シナリオ構成は長めのプロローグが実質共通ルートで、本編開始時に読みたいヒロインの個別ルートを選ぶというシンプルな作りです。(つまり本編に共通ルートはありません)

個別ルートは全部で5つあり、そのうち4つはいわゆる”キャラゲー”の要素が強く、シリアス要素がほとんどない代わりにヒロインとの面白おかしい学園生活や甘々な恋人生活を堪能することができます。
それに対して最後の1ルートは雰囲気が一変したシリアスな内容。いわゆる”シナリオゲー”の要素が強く、涙無しには見られない展開がまっています。

テキストはテンポが良く非常に読みやすかったです。
物語中のエピソードが大体1日にまとまっているので、中断もしやすかったですし。

ただ台詞回しでちょっと気になることがあって、「○○なので?」という外国映画のような言い回しが結構出てきます。ライターさんの癖かもしれませんが、なんか戸田奈津子みたい(笑

グラフィック

今どきのギャル・玲奈

原画担当は”ほんたにかなえ”さん、”とらのすけ”さん、有末つかささんの三氏。 SD原画はぴこぴこぐらむさん。
イベントCGは全部で90枚。SD絵が22枚。
良い意味でオーソドックスな明るい画風なので、万人受けしそうなキャラデザです。
ヒロインがみんな金髪だとキャラがかぶりそうですが、きちんと描き分けられています。

イベント絵は日常のワンシーンを切り取ったような絵が多いですね。まぁもともと派手なイベントのあるシナリオではないですし。
いわゆる”温泉回”とか”水着回”みたいなものもないので、サービスシーン的なCGも(Hシーン以外は)ほとんどありません。

キャラクター

王国のお姫様・シルヴィ

シルヴィア・ル・クルスクラウン・ソルティレージュ・シスア
北欧にある王国”ソルティレージュ”の第9王女。愛称はシルヴィ。
明るて表裏のない性格で、全校生徒から羨望の眼差しを受ける。

妃 玲奈
両親は普通の庶民だが、デザイナーになるためにノーブル学園に入学。
髪を金髪に染めた今どきのギャルで、その圧倒的なコミュ力の高さを生かして友人も多い。

エロイナ・ディ・カバリェロ・イスタ
シルヴィアとともに来日したソルティレージュの近衛兵。武芸に秀でていて特にフェンシングが得意。愛称は”エル”。
学園生として常にシルヴィアのそばに仕え、警護からスケジュール管理まで行う女騎士。

僧間 理亜
学校にはほとんど出てこない、愛煙家の不良少女。
口が悪く言葉遣いも男っぽいため友達がほとんどいない。

栗生 茜
主人公たちとは1年後輩で、陸上部に所属するスポーツ少女。
ヒロインの中では唯一金髪でないキャラクター。小柄で明るいみんなの妹。

市松 央路おうろ
本作主人公。シルヴィアと出会ったことで半ば強引にノーブル学園に編入。
何気にこの主人公もコミュ力が高く、編入直後は異物扱いだったものの、だんだん学園に溶け込んでいく。

これ以外にシルヴィアの妹ミナ、クラス委員の城ケ崎絢華、クラスメイトの男友達・鹿苑寺菊千代などが主なキャラクター。
ミナと絢華はファンディスクでヒロインに昇格。特に絢華はいわゆるツンデレなんですが、本編ではほとんど”デレ”がないため、絢華の魅力を堪能したければファンディスク必須。

ボイス

猫村ゆき(シルヴィ)遥そら(玲奈)あじ秋刀魚(エル)小鳥居夕花(理亜)土屋粘(茜)
秋野花風音遠野そよぎ梅宮ここ
鯉太郎ゆうひ

主人公以外フルボイス。名義はPC版とCS版で共通です。
どの方も数多くの作品でメインヒロイン役を張ってきた実力者ばかり。

特に遥そらさんの演技は、今どきのJKで気の置けない女友達という玲奈というキャラにぴったり。
茜役の土屋粘(つちやでん)さんのみあまりエロゲには出ない方みたいですが、演技のほうは問題ありません。

BGM

BGMの作曲は松本慎一郎さん、樋口秀樹さん、水月陵さん、そして音楽制作ブランドArte Refact。
曲数はボーカル曲を除くと30曲。シナリオのボリュームと比べるとちょい少なめでしょうか。
良い意味で美少女ゲームっぽくて聴きやすい日常曲が多いと思います。

個人的お気に入り曲は日常曲の「morning dew」。まったりした曲調でいつまでも聴いていられます。
「夢のまにまに」もゆったりした日常曲。ピアノとチェロ(?)のハーモニーが癒されます。
「揺れる水紋に」ピアノと弦楽器・管楽器という様々な楽器が旋律を奏でる癒し曲。
「Golden Time」はその名の通り作品を代表する曲で、ラスト近辺でかかると涙を誘います。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「Golden Mission」うらん菊田大介佐咲紗花OP
「shining! our life」柚子乃高瀬一矢柚子乃ED
「あの輝きを忘れない」樋口秀樹樋口秀樹茶太ED

インパクトのあるイントロで始まるOP曲「Golden Mission」を歌うのはアニソンシンガーの佐咲紗花さん。
ちょっとダンスミュージック調のノリノリで明るい曲です。

ED曲の「shining! our life」は非常に前向きで明るい、ガールズバンドのような曲。歌っているのは当時I’ve所属だった柚子乃さん。
グランドED曲「あの輝きを忘れない」は物語をしめるのにふさわしい優しげな曲。こういう曲は樋口さんの真骨頂。めっちゃ良い曲なのにショートバージョンしか聞けないのが残念です。

ムービー

OPムービー作成はyo-yu(よゆ)さん。
ノリノリの主題歌にあわせてムービーもノリノリ。ちびキャラが動きまくるポップな作りです。
立ち絵やイベント絵を加工して動きのあるCGになっています。ピアノを弾いてるシルヴィがウインクするしぐさがカワイイ。

またキャラ紹介時のテロップの雰囲気やブラウン管TVのような”枠”がある辺りは、なんとなくペルソナシリーズを彷彿させます。

EDも含め、すべてのムービーはムービー鑑賞モードで見ることが可能。

攻略

プロローグ後(もしくはタイトル画面からスタート後)、各ヒロインルートを直接選ぶことにより即個別ルートが開始します。最近は物語的な選択肢ではなく、こういう「○○のシナリオを始める」みたいなシステム的なルート選択で分岐させる作品も増えてきましたね。(個別ルート中にも選択肢は出てきます)

初回プレイ時に選ぶことができるのはシルヴィ、玲奈、エルの3人のみ。どれか1人でもクリアすると茜ルートが開放。
4人全員をクリアするとタイトル画面に最終シナリオ「GoldenTime」(理亜ルート)が開放されます。

推奨攻略順は玲奈→エル→茜→シルヴィ→理亜。シルヴィルートは内容的に玲奈とエルルートのネタバレ(というほどでもないですが)を含むため、4人の中では最後にしたほうが良いと思います。
また理亜ルートクリア後にもう一度シルヴィルートをクリアすると追加エピローグを見ることができます。見逃しがちなので必ず見ておいてください。さらに追加エピローグを見た後にタイトル画面からExtraモードに入ると・・・。・゚・(ノД`)・゚・。

総プレイ時間はオートモードでゆっくりやって35~40時間。

Hシーン

シルヴィを守る騎士・エル

シーン回想に登録されるHシーンは24個。シルヴィ・玲奈・エルは6個、茜と理亜は2個ずつ。他にサブキャラのミナに2個。回数の多いキャラと少ないキャラが偏ってますね。
一部は直前の選択肢によってシーン自体が丸ごと変わるので、フルコンプを目指すなら選択肢のセーブファイルは残しておきましょう。

行為自体はオーソドックスなもの。尺は全体的にやや長め。卑語のテキスト修正はありませんが、音声にはP音が入ります。
またこの種の作品では珍しく、3Pのシーンが3回くらいあります。ただ3Pのシーンは尺が結構長いので、ぶっちゃけちょっとダルかったですね。30分くらい続くものもありますし。

一部のシーンには避妊具を使いますが、CG上はほとんどわかりません。またあるルートではピルを飲んだりしてかなり避妊にこだわっています。1回中出ししただけでわざわざ病院へ検査に行ったりするのはエロゲとしては新鮮。
かと思えば別のルートでは「できても構わない」みたいな感じでやりまくってるルートもあって落差が激しいです。さすがに自身の進路で悩んでいるのに子作りOK発言はどうかと思うな…。

総評

陸上部所属の後輩・茜

良い意味で非常に王道的でわかりやすい作品だったと思います。
初心者向け作品としてゆずソフトの『サノバウィッチ』やspriteの『蒼の彼方のフォーリズム』などと並んでお勧めされることの多いことも頷けます。

まず『金色ラブリッチェ』というタイトルのつけ方が上手い。「ラブリッチェ」というのは作中でチョコボールをモデルにしたお菓子のオマケである金と銀の”ラブリッチェマーク”(金のエンゼル/銀のエンゼル的なもの)から来てる造語なんですが、このワードをタイトルに持ってくることにセンスの高さを感じます。
一見すると「ん?どういう意味?」と首をかしげるタイトルに見えますが、改めて振り返ってみるといろいろ想像が膨らむ秀逸なタイトルだと思います。

またこの作品はプロローグの共通ルートが非常に読みやすかったです。
普通この手の作品の共通ルートってなんでもない日常をダラダラ描いたりして、ぶっちゃけ眠くなってしまうこともままあったりするんですが、この作品では最初異分子だった主人公が徐々にクラスメイトや寮生たちと仲良くなっていく様が丁寧かつテンポ良く描かれるので、退屈せずにすみました。むしろ共通ルートもっと長くても良くね?と思うくらい心地よかったです。

個別ルートの内容も、基本的にはヒロインたちのとイチャイチャを堪能できつつ、不意をつくように最後のルートでガツンとシリアスな話を持ってくるあたりは、美少女ゲームの面白さを凝縮した構成になっています。

ただ逆に言うと、最終ルートである理亜ルートとそれ以外のルートではかなり落差があるので戸惑うかもしれません。シナリオゲーを期待するとはじめの4ルートは肩透かしを食らうでしょうし、キャラゲーを期待すると最終ルートでは重すぎて鬱になりそうです。
なんというか、昔(00年代前半)はこういう「1本だけ重いルートがある」作品って結構ありましたよね。ネタバレを防ぐために名前は出しませんが、アレとかアレとか・・・。

この作品のキーワードは、タイトルにもある「金色」。
金色の髪、金色の指輪、金色のラブリッチェマーク、金色の夕日、単に金色のものを集めただけでなく、それぞれがシナリオ上ちゃんと意味のある重要な要素になっています。
そして共通のテーマになっているのが、金色の時間「ゴールデンタイム」。本来の意味は夕日が金色に輝いて見えるほんのわずかな時間を指す言葉ですが、ルートによって「ゴールデンタイム」という言葉のニュアンスが微妙に異なったりもして、それぞれの解釈で物語が進みます。
人生で最も輝いた時間を迎えたときにそれぞれのキャラがどうするのか、ゴールデンタイムがとっくの昔に過ぎ去った私から見ると物凄く輝いて見えますね。

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