2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『アオナツライン』(戯画 2019年)

「あなたにとって”青春”の思い出は何ですか?」と聞かれたら何て答えます?
正直私はあんまりたいした思いではなくて、せいぜい友達と日帰りで遊びに行った程度の、青春と呼ぶにもおこがましいありきたりな記憶しかないんですが、これって普通…なのかなぁ…。

今回紹介するのはそんな地味な私から見ると眩しく見えるようなド直球の青春物語『アオナツライン』。
萌えゲーアワード2019シナリオ賞金賞。2chベストエロゲ投票では7位でしたが、この年は「ぬきたし2」やら「さくら、もゆ」やら「MUSICUS!」やら、かなりの豊作の年だったので、その中で7位というのは逆に立派。

物語は主人公とその親友、及び幼馴染の女の子の仲良しグループ3人組に、転校生と後輩の女の子を加えた5人のグループを結成。実質最後のモラトリアムとなる2年の夏休みに何か思い出に残ることをしようと計画を練り始めるところから始まる学園青春ストーリー。
ファンタジックな設定や露骨な萌えキャラのいない、現実的で青春映画のような世界観です。
ヒロインの数が少なく、そんなに長いシナリオでもないので気軽にプレイすることができます。

それほど突飛なイベントが起こるわけでもない等身大の物語なので、爽やかな青春ストーリーが好きな方にお勧め。
「こんな青春送りたかったなぁ」と思わず自分の学生時代と比べて軽く鬱になるまでがワンセットです。

  • 5人の男女によるひと夏の思い出
  • 湘南を舞台にした現実的な設定
  • 読後感の良い爽やかな青春恋愛物語
ブランド戯画
ジャンルシネマチック
学園恋愛アドベンチャー
初回発売日2019.3.29
DL版価格9,680円
シナリオ大地こねこ
冬野どんぶく
原画うみこ
おすすめ度80
シナリオ傾向

あらすじ

「夏休み、何する?」と日々相談している、
平凡な男子学生「及川達観」、
元気な幼なじみ「向坂海希」、
ニヒルな悪友「榊千尋」の仲良しグループの3人。

そこに小さなきっかけから、
共学校に憧れ転校してきた、まっすぐすぎるお嬢様「仲手川結」、
学園デビューに失敗したイマドキ下級生「椎野ことね」が仲間に入ってくる。

5人の仲良し(?)グループによる、
人生で一度きりの、甘くせつない夏休みの計画が始まる。

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
アオナツライン 特装版 SUMMERTIME BLUE Edition7 8 102019.3.29
アオナツライン 初回限定版 BLUE Edition7 8 102019.3.29
アオナツライン 通常版 WHITE Edition7 8 102019.4.26やや難
アオナツラインPS4 Vita2020.4.23
アオナツラインSwitch2022.2.24

PC版はバージョンが3つあります。
まず初回特装版の『SUMMERTIME BLUE Edition』は紙パッケージで、特典としてボーカルCDとサントラ、キャンパスアートとアクリルスタンドが付きます。
初回限定版の『BLUE Edition』は特典がボーカルCDとサントラCDのみのもの。
通常版の『WHITE Edition』はトールケースサイズで特典はありません。

ダウンロード版もありましたが、制作元である戯画の撤退により2023年に販売を終了しています。
さらにPCパッケ版はすべてロットアップしているうえ、全バージョンプレミア化。
2025年現在の中古価格相場は特装版が3万円台後半、初回版が2万~3万円台中盤、通常版が1万円台中盤といったところ。どれも数が少ないので手に入りにくいです。

各種CS版は特に追加要素のないベタ移植。

今から買うならCS版を推奨。一応まだAmazonで新品パッケージ版が入手可能です。
というかCSの配信版も2025年に販売を停止してしまったため、事実上CSパッケージ版しか選択肢がありません。

システム

基本的にテキストが画面下部に表示されるADVタイプのシステムですが、それ以外にLINE(のようなメッセアプリ)を使ったやり取りもあるのがこの作品の特徴。
LINEで会話する際は、画面そのままで右側に自分のメッセ、左側に相手のメッセが流れて、可愛いイラストで描かれたスタンプも使われます。いや~、時代を感じますねぇ。

タイトル画面ではメニューのバックにムービーが流れ続けます。面白い演出ですが、私の非力なPCではちょっと重かったです。

メニューにあるエクストラモードは最初から開放されていて、CGモードや(Hシーン)回想モードだけでなく、イベントモードでストーリー上の全てのエピソードを見ることができます。
これ「ストーリーがあとどのくらいで終わるのか」を確認する目安にもなるので、個人的に結構ありがたかったです。

そのほかのシステムは一般的なADVと同じ。画面サイズは1280×720。
コンフィグモードがとても充実していて、かなり細かい設定までいじることが出来ます。
メッセージウインドウはデフォルトでは完全に透明になっていますが、設定により色をつけることもできます。個人的には透明のままで良いですね。

操作はマウスやキーボードはもちろん、タッチパネルやゲームパッドにも対応。
マウスジェスチャーやフリック入力での操作も可能で、好きな機能を割り振ることができます。これメチャメチャ便利なので他のメーカーも真似して欲しい。

サウンドの設定では立ち絵の位置にあわせてボイスを左右に振り分けることもできるんですが、ONにしても私の環境ではほとんど違いがわかりませんでした。

キーボードのF3キー等で画面のスクショを撮る事もできますが、多分これWindows8以降限定ですね。私のWin7でやったらフリーズしました。

シナリオ

幼馴染の海希

メインライターは大地こねこさんと冬野どんぶくさん。大地さんは企画や演出も兼ねています。

物語は主人公の及川達観(たつみ)が幼馴染の向坂海希(みき)と親友の榊千尋(♂)の3人組で夏休みの計画を練っていたところへ、お嬢様学校から転校してき た仲手川結と、クラスメイトからハブられた後輩の1年生・椎野ことねが加わって5人のグループで夏休みを迎える学園青春ストーリー。
5人のメンバーは時に喧嘩してギスギスしたり、ウジウジ悩んだりもしますが、別に修羅場ったり鬱になったりすることはない爽やかな物語です。

物語の舞台は神奈川県にある架空の街ですが、鎌倉あたりをイメージすればいいかと。実際、学校の最寄り駅は江ノ電の鎌倉高校前駅がモデルになっています。
物語中に出てくる地名も東京以外は架空のものになっていますが、藤磯(藤沢)・門倉(鎌倉)・音島(江ノ島)・九里ヶ浜(七里ヶ浜)というようにそれぞれモデルがあります。
別に地名くらい実名でも良くね?とは思いますが、エロゲーって何故か実在の地名を使わないことが多いんですよね。

物語の構成は5月から7月前半までが共通ルート、7月後半の夏休みに入ってからがヒロインごとの個別ルートで全く異なったストーリーが展開します。
シナリオは細かいエピソードごとにまとまっていて、1つのエピソードはオートモードで大体10~15分くらい。場面や日付をまたぐときもありますが、新しいエピソードになると画面端に「オートセーブしました」と表示されるので、中断するときの目安になります。

テキストは非常に読みやすい文体です。場合によってはヒロイン視点で進むことがあって、視点が切り替わる際は特に表示があるわけではないのですが、言葉遣いや一人称の違い等で切り替わったことがすぐわかるように工夫されています。

主人公の性格が良くも悪くもちょっと真面目なので、会話のやり取りはそんなに笑えるものではなかったですね。全く笑えないわけではないものの、ヒロインがせっかく(?)ボケた台詞を言っても普通に流してしまうことが多いのでもったいないなぁと。やっぱツッコミって大事。

グラフィック

おいそこ代われ

イベント絵は全部で68枚。フルプライスの作品にしてはちょっと少なめ。

原画・キャラクターデザインは”うみこ”さん。この方はU-35名義でアニメ『白い砂のアクアトープ』のキャラ原案も担当されてます。
作風に合った非常に爽やかな画風です。彩色もあえて色のグラデーションをさせず、はっきりと陰影を描くことによって、いい感じでアナログ感を出している感じ。

ちょっと残念なのはメインヒロインの3人と親友の千尋以外の絵が一切ないということでしょうか。
海希の父親とか結構出てくるのに立ち絵すらないというのは寂しいです。

あとヒロインの胸の大きさがちょっと不安定。キャラの角度やポージングによっては妙に胸が大きく描かれていたりします。

キャラクター

みんなでプール掃除

向坂 海希(みき)
主人公の幼馴染で父親の経営する喫茶店の看板娘。
ポニーテールのよく似合う、明るくて活動的な少女。

仲手川 結
お嬢様学園から転校してきた少女。巨乳。
お嬢様らしく言葉遣いが丁寧で、思い切って達観たちに声をかける。

椎野 ことね
達観たちより1つ年下の後輩で1年生。思ったことはすぐに口に出す毒舌家。
クラスメイトとのいざこざがきっかけで孤立していたところを結に拾われる。

及川 達観(たつみ)
本作主人公。真面目で成績は良いが見た目が地味な男子生徒。
海希とは子どもの頃からの付き合いだが中学時代は一時疎遠に。

榊 千尋
達観の親友で元バスケ部員。高身長のイケメンで女子の人気も高い。
中学時代はやさぐれていたが、達観や海希と会ってからは性格も丸くなる。

主要キャラはこの5人のみ。
物語にはこれ以外にも何人かのサブキャラが出てきますが、深く絡んでくることはなく、あえてこの5人のみにフォーカスした物語の見せ方になっています。

ボイス

小鳥居夕花(海希)実羽ゆうき(結)夏和小(ことね)
安東朝夜(千博)

主人公以外フルボイス。名義はCS版も同じです。
メインの3人は実力のある声優さんで、あわよくばアニメ化を狙ったかのようなキャスティングですが、残念ながら今のところそれは叶っていません。
結役の実羽ゆうきさんはエロゲの出演本数こそ少ないですが、何気に経験は十分。

BGM

BGMの作曲はえびかれー伯爵さん。
曲数は全部で20曲とやや少なめ。全体的に落ち着いた曲調のものが多いですね。
ほとんどの曲がピアノをメインに構成されているのも特徴です。

個人的お気に入り曲は非常に落ち着いた癒し曲『SUMMERTIME BLUE』。
まったりと友人と駄弁っているような『砂時計はささやく』。
明るく物語を〆る主題歌のインストゥルメンタルアレンジ『Standing in the line』。

主題歌

歌を披露することね
タイトル作詞作曲編曲備考
「アオナツライン」KOTOKOえびかれー伯爵えびかれー伯爵KOTOKOOP
「海岸線」えびかれー伯爵えびかれー伯爵ハム向坂海希(CV:小鳥居夕花)ED
「結び目」えびかれー伯爵えびかれー伯爵えびかれー伯爵仲手川結(CV:実羽ゆうき)ED
「明日のこと。」えびかれー伯爵えびかれー伯爵池木紗々椎野ことね(CV:夏和小)ED
「Blue, Summertime Blue.」えびかれー伯爵えびかれー伯爵えびかれー伯爵紫咲ほたるED

ボーカル曲は全部で5曲。残念ながら音楽モードで聴くことはできません。なんで!?
OP曲「アオナツライン」は爽やかKOTOKOさんの真骨頂。歌詞もメロディもめっちゃ青春しています。らぁぁぁいぃぃぃぃ~~~ん♪
この曲は初回特典のボーカルCD以外に、KOTOKOさんのエロゲソングコンプリートボックス「The Bible」にも収録されています。(逆に言えばそれしか収録されていない)

「海岸線」「結び目」「明日のこと。」の3曲は挿入歌というくくりですが、実質個別ルートのEDテーマ。それぞれのヒロインが歌うキャラソンになります。タイトルにヒロインの名前がちょっとずつ含まれているのがいいですね。

グランドEDテーマを歌うのは紫咲(むらさき)ほたるさん。あまり聞かない名前ですが、いわゆる「歌ってみた動画」で活動されている歌い手さんみたいです。この作品以外にも『Re:LieF ~親愛なるあなたへ~』等の主題歌を担当されています。

また作中には音楽フェスに参加するシーンがあるんですが、その際のBGMとしてKOTOKOさんの「allegretto ~そらときみ~」(この青空に約束をOP)や「Cream+Mint」(ショコラOP)がステージ上で演奏されている感じで流れます。これは旧作ファンもニッコリ。

ムービー

長めのプロローグの後にOPムービーが流れます。ムービー制作はSyamoさんと立花詩穂さん。

一部アニメーションしますが基本的にイベント絵を加工したものです。
物語や主題歌に合わせて非常に爽やかなつくりになってます。ヒロインの人数に合わせた3本のラインが絡まりながら1本になっていく演出はこの作品を象徴する演出ですね。
キャラ紹介時は一瞬だけ小さく名前が表示されるだけのシンプルなもの。
一部のシーンでは作中の文章や歌の歌詞を一瞬だけ表示しますが、一瞬過ぎてコマ送りしないと読めないレベルです。

ちなみに作中でOPムービーの入り方が絶妙。
別に凄くびっくりする演出でもないんですが、直前の台詞を聴いた後におそらく100人中100人が「あ、この後OPムービーだな」とわかるくらいピタリとハマったタイミングでムービーが流れます。

攻略

物語前半で何度か出てくるエピソード選択画面でキャラを直接選んでいくことにより、後半の個別ルートが分岐します。
分岐させるには同じキャラを選んでいくだけなので、何も難しいところはありません。

推奨攻略順は、結→ことみ→海希。
海希は必ず最後にしましょう。繰り返します。海希は必ず最後にしましょう。
別にネタバレというわけでもないですが、海希ルートを先にやってしまうと他のルートを選ぶ気が失せます。

総プレイ時間はゆっくりやって20~25時間。
昨今のゲームとしては短めのシナリオです。

Hシーン

Hは1キャラにつき3回ずつ。伏字+音消しによる卑語修正あり。
行為自体は初々しいものでオーソドックスなHですが、全員に口でするシーンがあります。
尺はやや短め。1つのシーンに対し3枚くらいイベント絵が使われます。

全て着衣H(半裸)で全裸のシーンがないのも特徴的。もちろん全員に制服Hがあります。
またベッドでするシーンが意外に少なく、きちんと部屋でHするのは各キャラ1回だけ。初めてのHを学校の屋上でするのってチャレンジャー過ぎない?

学生らしく避妊に気を遣っていて各キャラ3回中2回は外に出します。逆に言えば1回は中に出すんですけどね。ゴメンですむならゴムはいらない。

感想

転校生のお嬢様・結

正に「ひと夏の青春」を描いたストレートな作品でした。
3年生になると受験勉強で忙しくなるため、実質2年の夏が最後のモラトリアム。それがわかってるからこそ、登場人物たちの全力で夏を楽しもうという意気が伝わってきます。

グループの友情をテーマにした作品は『リトルバスターズ!』や『真剣で私に恋しなさい』など他にもありますが、この作品の登場人物たちの絆ってそんなに強いものでもないんですよね。同じ部活に入っているわけでもなく、共通の秘密を持っているわけでもない。
結とことねに至っては後からグループに入ったため、少しよそよそしさもあり、達観たち3人に対してはどこか一歩引いた感じの緩いつながりです。

卒業したらほぼ間違いなくバラバラになるし、それどころか来年の夏ですら同じメンバーは集まらないかもしれない。
でも彼らにとったら別にそれで構わないんですよね。一生の友達になるかどうかはわからないけど、この夏の思い出は一生続く。
だからこそ輝いて見えるのかもしれません。

彼らが準備した夏休みの計画にしてもそんなに大それたことをするわけではなく、やろうと思えばいつでもできるものばかり。
髪型や服装も昨今のエロゲーとしては正直地味な部類です。もちろん奇跡や魔法もないし、世界を揺るがすような大事件も起きない。大きな出来事といえば、せいぜい仲間内でケンカしてちょっとギスギスするくらい。
でも地味だからこそ、リアルだからこそ憧れる、等身大で素敵な物語を堪能できる作品だと思います。

いや~、青春っていいものですねぇ。

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