あかべぇ系列のブランド・しゃんぐりらすまーと(ブランド整理により現在は”あかべえそふとすりぃ”)製作の純愛物語、『恋ではなく―― It’s not love, but so where near.』。
実在の地名である山形県酒田市を舞台に、3人の幼馴染を中心とした自主映画製作と恋愛の物語が展開されます。
この作品の特徴としては、八坂典史と槇島祐未の2人が実質的な主人公になっていて、進行によって物語の視点が頻繁に交代。そしてマルチシナリオでありながら、いわゆる攻略ヒロインは槇島祐未の1人だけという、かなり思い切った構成になっています。
また作品のテーマとして8mm映画とクラシックカメラにスポットが当てられていて、かなりマニアックなカメラ用語が頻繁に出てくるので、カメラ好きの人はより楽しめるかも。
派手な展開も面白おかしいシーンもない地味な作風ですが、田舎町で進路や恋愛に悩むリアルな少年少女を描いた、萌えとか無縁のいい意味でエロゲーっぽくない作品です。たまにはこういうのも良いんじゃないでしょうか。
- 地方都市を舞台にした青春群像劇
- 男2人女1人の三角関係
- フイルムカメラへのこだわり
ブランド | しゃんぐりらすまーと |
ジャンル | 青春群像劇ADV |
初回発売日 | 2011.5.27 |
DL版価格 | 7,124円 |
シナリオ | 早狩武志 |
原画 | トモセシュンサク |
おすすめ度 | 80 |
シナリオ傾向 |
購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
恋ではなく―― It’s not love, but so where near. | 2000 XP Vista 7 | 2011.5.27 | 易 |
パッケージは原画集のついた初回版のみ。予約特典には小説が付きます。
そんなにたくさん売れたわけではないようですが、中古ショップでは結構見かけますね。
値段も手ごろですし、一部の通販では新品もまだ残っているようなので、入手はそんなに難しくはないかと。
システム
パッケ版は初回プレイ時にインターネット接続が必要となりますが、中古でも問題なく起動できます。
画面サイズは1280×720のワイド画面。
中盤までの選択肢(全て2択で数は多め)によって分岐するシンプルなADVスタイルですが、群像劇の形をとっているので視点は頻繁に変わります(初期ルートではほぼ典史と祐未のみ)。
ただし時系列は重複しないため、同じ出来事を何度も見させられることは基本的にありません。
視点が変わるときはその都度アイキャッチが入り、誰の視点であるかも表示されるので混乱することはないかと思います。
作中でマニアックなカメラ用語が出てきたときは、用語をクリックすれば簡単な説明を読むことが出来ます。一度見た用語は用語集に追加されるので後から見るこ ともできますが、正直テンポが悪くなるので気にせず進めていったほうがいいかもしれません。私などカメラ用語といえば『トライXで万全』くらいしか知りませんが、意味がわからなくても物語は普通に楽しめました。
シナリオ
シナリオライターは名作『群青の空を越えて』を手がけた早狩武志さん。『群青~』での題材は戦闘機でしたが、今作のテーマはクラシックカメラ。この人ほんとにマニアックなお話が好きですね(笑
カメラ自体はもちろんのこと、フィルムや三脚にいたるまで商品名は全て実名で登場します。(ちなみにデジカメもチラッと出てきますが、さすがにこちらの商品名は出てきません)
物語は日本海側の地方都市である山形県酒田市の学校に通う八坂典史・槙島祐未・阿藤扶の3人の幼馴染を中心にして、8mmフィルムによる自主制作映画を作ることから始まります。
いわゆる”三角関係モノ”なんですが、男2人女1人の三角関係というのは男性向けゲームでは意外と珍しいですね。
ただ三角関係といってもヒロインの性格がサッパリしているため、昼ドラのようなドロドロとしたものではありません。多少ヤキモキはするかもしれませんが。
グラフィック
原画は『暁の護衛』シリーズ等で有名なトモセシュンサクさん。女性キャラの自信に満ちたキリッとした表情が印象的です。
イベント絵はちょうど100枚。ヒロインだけでなく、(主人公を含め)男性キャラのイベント絵も結構あります。もちろんメインヒロインである祐未のCGが圧倒的に多いんですが。
あまり萌え萌えっとした絵ではなく、落ち着いたキャラデザですね。髪の色も割と現実的。
また背景は実際の酒田市の町並みを再現したものになっています。
人物だけでなくカメラの造形もリアル。視点が変わる際のアイキャッチでは各キャラのメインカメラ(典史ならスピード・グラフイック、裕未ならダイアル35)が表示されるので、自然と形が覚えられ、作中でもイメージしやすくなっています。
キャラクター
槙島祐未
酒田市の学校に通う傍ら、東京でプロのモデル活動もしている3年生。映画では主演女優を務める。
勝気な性格で何かと典史には対抗心を燃やす。
八坂典史
実質的な主人公で映画撮影ではカメラマンを担当。3人の中では年下の2年生で、そのことにコンプレックスを抱く。
自他共に認めるカメラオタクでカメラの話をしだすと止まらないが、写真の腕は確か。
阿藤扶
映画製作の中心人物であり監督。3人の中ではリーダー的存在。
裕未に気があるのは(本人も含め)周りにはバレバレ。
話の流れ上、噛ませ犬的な存在になってしまうのは不憫でなりません。正直、典史や裕未よりも扶に幸せになってほしい・・・。
裕未と典史は幼馴染でありながら、過去のとある出来事によってほぼ絶縁状態になっています。特に典史は裕未のことを「あの女」呼ばわりして憎しみすら抱いているくらい。
そんな2人の関係が徐々に縮まっていく様もこの作品の見所のひとつなのですが、序盤ではその過去の出来事がほとんど説明されないのでちょっともどかしさを感じるかもしれません。
この他にも後輩の1年生屋野好佳、脚本担当の林亮輔、写真部部長の宇渡美月、美月の恋人・須崎孝一、映研OBの関矢尚人、亮輔の妹・林朋子等が登場します。登場キャラの半数が男性キャラというのも珍しいですね。
ま たストーリーに直接絡みはしないものの、選択肢次第で他社のとあるゲームのキャラがゲスト出演するんですが、正直これはいらなかったかなぁと。カメラが テーマの作品なので知ってる人にはニヤリとできるんでしょうが、知らない人には「お前誰?」って感じでしょうし。キャラデザもちょっと浮いてるんですよね。
ボイス
海原エレナ(祐未) | 有栖川みや美 | 芹園みや | 草柳順子 |
小倉結衣 | 鈴谷まや | ||
古河徹人(典史) | 空乃太陽 | 杉崎和哉 | こんつ |
樹冬隆 | 木島宇太 |
主人公を含め、全キャラフルボイス。
男女ともベテランさんが多いですね。何気に男女比が同じというのも珍しい。
特に関谷先輩役の樹冬隆さんは一声聴いただけで誰もがわかる大ベテラン。さすがに年季が違います。
ちなみに起動時のタイトルコールは、裕未役の海原さん以外は全て男性声優さんが担当してます。いや、そこは女性声優も入れましょうよ(笑
サブタイトルである「It’s not love,but so where near.」も読んでくれるんですが、いかにも日本人的な発音だったり、思いっきりカッコつけた発音だったりと個性が出てて良いですね。
BGM
BGM担当はBarbarian On The Groove。バージョンの違いを含めて全38曲。どちらかというと落ち着いた感じの曲が多いですね。
お気に入りは『The Red Sky』。いかにも夕暮れの土手を歩いているようなセンチメンタルな気分にさせてくれます。
その他にはシリアスな場面で流れる『振動する空気』、包み込むような優しさのあふれる『Star Fall』といったピアノ曲も素晴らしい。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「ReflectionS」 | wight | mo2 wight | Barbarian On The Groove feat. カヒーナ | OP |
「Dancing in the Moment」 | RUCCA | 藤田淳平 | 佐藤ひろ美 | ED |
「深遠の絆」 | riya | 菊地創 | eufonius | ED |
ボーカル曲は3曲。何故か音楽鑑賞モードで聴くことができません。せっかくいい曲なのにもったいない。
OP曲の「ReflectionS」は迷える少年たちの心情を表したような曲。ボーカルの方が中性的な声質なので落ち着いた中にも力強さを感じます。
それに対してEDの「Dancing in the Moment」は佐藤ひろ美お姉さんの魅力を生かした明るい曲調。こっちがOPでも良かったんじゃないかと思うくらい。ちなみに作曲はElements Gardenの藤田順平さん。今の藤田さんはバンドリやらなんやらで忙しそうですけど、たまにはエロゲに帰ってきて~。
そしてグランドEDに流れる「深遠の絆」は物語を締めるにふさわしい良曲。実にeufoniusらしい優しい曲になっています。
ムービー
OPムービー製作はおなじみ神月社さん。作りとしてはオーソドックスですが、OPテーマがフルサイズで流れるので、5分近くもある長いムービーになっています。
注目すべきはグランドEDで流れる最後のムービー。映画製作がテーマのこの作品らしい、ちょっと小粋な演出になっているのでお楽しみに。
攻略
総プレイ時間はゆっくりやって35~40時間くらい。そこそこボリュームがあります。
個別ルートの数は3つ。その3つ全てのEDを見ると最終シナリオである「GRAND ROUTE」が解放されます。
特に推奨攻略順があるわけではないですが、あえて推奨するなら、亮輔→扶→尚人→GRAND。はい、そうなんです。この作品はヒロインではなく、恋のライバルとなる男性キャラが変化する構成になっています。あ、もちろん男同士の恋愛というわけではないのでご安心を。
ルート分岐の難易度は少し高め。というのも典史視点だけでなく裕未視点でも選択肢が現れる上に、選択肢の結果が予想し辛く、選択肢の数も多いんですよね。
BADエンドはないので適当に選んでいっても1周目はどれかのENDに辿り着くはずですが、2周目以降は意識して選ばないと上手く分岐しないかもしれません。
どれかのEDに辿り着くたびに、SDキャラが写真の歴史を解説してくれる「写真入門」がEXTRAモードに追加されます。本編とは全く関係ないただの雑学なので、ぶっちゃけ見ても見なくてもかまいません。
Hシーン
回想モードに登録されるHシーンは全部で8つ。そのうち本番行為まで至るのは5つ。
相手はもちろん裕未のみ。GRAND ROUTEにはHシーンはありません。
行為自体はかなり軽いものなので、あまり”使える”モノではないかもしれません。前戯にかなり時間をかける上に、行為の最中に「そういえばあんなこともあったわね」みたいな昔語りが入ったりもするので、見てる側としてはもどかしく思います。ホテルで2人きりになってから挿入まで1時間くらいかかることも。
ただ挿入してからは結構あっという間に終わることが多いです。まぁある意味リアルっちゃリアル。
ルートによっては「さあこれから初体験か」と思わせて、次のシーンではもう終わっていたりもします。エロゲーで”朝チュン”って初めて見たかもしれません(笑
感想
早狩武志×トモセシュンサクという異色のタッグにより生まれたこの作品。クリエイターのネームバリューの割りにあんまりメジャーではないのは、地味な作風ゆえでしょうか。評価サイト等を見ても評価が分かれるというよりは、「良くもなく悪くもなく」みたいな微妙な感想が多いような気がします。
確かに個々のルートを見るとちょっと盛り上がりに欠けるのは否めません。物語の開始から恋の決着まで、特に大きな事件や修羅場があるわけでもなく、淡々と映画撮影が進んでいき、ラストもあっさりしたものが多いです。尚人ルートのみちょっとハラハラするかなという感じ。
でも私が思うに、この作品って4つのルート全体でひとつの物語となっている気がするんですよ。起承転結で言えば、最初のルートが”起”、2週目3週目が”承”、GRAND ROUTE前半が”転”、後半が”結”、といった感じ。
言ってみれば本編はGRAND ROUTEで初期の3ルートはキャラ紹介を兼ねたプロローグ的なものなのかもしれません。本格的な群像劇になっているのはGRAND ROUTEだけですし。
抱腹絶倒なシーンや、甘いイチャラブ展開があるわけでもない地味な作品ですが、友人との関係や将来の不安といった思春期特有の悩みをもつ少年少女の心情をこれでもかと掘り下げた、エロゲーにしておくのはもったいない真面目な作品だと思います。