2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『蒼の彼方のフォーリズム』(sprite 2014年)

エロゲーの世界で意外と少ないのがスポーツもの。

漫画やアニメだと『SLAM DUNK』や『弱虫ペダル』など胸が熱くなるスポーツ作品が数多くありますが、エロゲーだとかなり数が限られるんですよね。(『ワルキューレロマンツェ』や『セパレイトブルー』など無くはないんですが)

そんな中、エロゲ界でも数少ない”スポ根もの”として有名なのが今回紹介する『蒼の彼方のフォーリズム』。略称は「あおかな」。
制作は『恋と選挙とチョコレート』でアニメ化も果たしたsprite。萌えゲーアワード2014大賞及びユーザー支持賞、Getthu.com美少女ゲーム大賞2014総合部門2位を獲得した名作です。

物語は反重力素子を内蔵した靴「アンチグラビトンシューズ(グラシュ)」を履いて自由の空を飛べるようになった日本を舞台に、空中で互いの背中を狙う鬼ごっこのようなスポーツ「フライングサーカス(FC)」に打ち込む少年少女を描いた爽やかで熱い学園青春ストーリー。
”スポ根”といっても別に根性で勝つわけではなく、綿密な練習と作戦、そして相手との駆け引きが熱く描かれます。

美しい絵柄と熱い試合描写で知られ、物語もいい意味で変にひねらない王道的なもの。
スポーツものらしい熱さと学園ものらしい爽やかさを兼ね備えているので、初心者さんにも安心して薦められます。

ちなみにこの作品はアフターストーリーを収録したファンディスクも評価の高い作品です。
また本編は2016年にTVアニメ化もされ、『けいおん!』や『ガールズ&パンツァー』等で有名な吉田玲子さんがシリーズ構成を務めています。ゲームをプレイしたら是非視聴しましょう。

  • 「フライングサーカス」の試合描写が熱いスポーツもの
  • 仲間と共に空を飛ぶ爽やか青春物語
  • 万人受けする美しいグラフィック
ブランドsprite
ジャンル少女たちが空を駆け、
恋を知るADV
初回発売日2014.11.28
DL版価格8,127円
シナリオ木緒なち
渡辺僚一 陸奥竜介
原画悠木いつか 鈴森
おすすめ度85
シナリオ傾向

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
蒼の彼方のフォーリズムXP Vista 7 82014.11.28
蒼の彼方のフォーリズム TVアニメ化記念特装版XP Vista 7 8 102015.11.27
蒼の彼方のフォーリズムVITA2016.2.25
蒼の彼方のフォーリズム HD EDITIONPS42017.1.26
蒼の彼方のフォーリズム EXTRA1XP Vista 7 8 102017.6.30
蒼の彼方のフォーリズム for Nintendo SwitchSwitch2018.3.29
蒼の彼方のフォーリズム Perfect Edition7 8 102018.11.30
蒼の彼方のフォーリズム 4th Anniversary Box7 8 102018.11.30やや難
蒼の彼方のフォーリズム High Resolution8 102020.12.25
蒼の彼方のフォーリズム EXTRA28 10 112022.5.27

最初に発売されたのは初回版パッケージ。特典として原画集が付きます。通常版の類は発売されていません。
翌年に発売されたのが「TVアニメ化記念特装版」。初回版と同じ原画集に加え下敷きも付属します。

各種コンシューマ版はHシーンをカットして新規のシーンを追加したもの。PS4版以降はミニゲームも追加されています。

「EXTRA1」と「EXTRA2」はそれぞれ真白とみさきのアフターストーリーを収録したファンディスク。特に「EXTRA2」は演出面が強化されているので是非プレイしておきたいところ。

「Perfect Edition」はコンシューマ版にHシーンを復活させ、さらに新規のHシーンも追加。解像度もHDサイズになっています。
「4th Anniversary Box」は「Perfect Edition」と「EXTRA1」、それに加えてそれぞれのサントラ&ボーカルコレクションCDを同梱したもの。

「High Resolution」はコンシューマ版をPCに移植した全年齢版。パッケージの雰囲気が18禁版と似ているので注意してください。ショップによってはエロゲの棚に普通に紛れ込んでいることもあります。

今から買うなら「Perfect Edition」を推奨。パッケ版は特に特典もないですし、中古価格はほぼ新品と変わらないのでダウンロード版で。
ダウンロード版はFANZA独占。「無印DL版」と「Perfect Edition」、全年齢版の「High Resolution」が並んで販売されているので間違えないようにしてください。
FANZAではそれ以外に「Perfect Edition」と「EXTRA1」をセットにした「Complete Edition」と、「EXTRA1」と「EXTRA2」をセットにした「EXTRA 1+2 PACK」も販売しています。

ちなみにですが制作ブランドのspriteは全年齢向けゲームに移行しているので、18禁版のサイトはすべて削除されています。全年齢版のサイトは残ってますし、修正ファイルはサポートページで配布されているので大きな問題はないんですが、なんかこういうの寂しいですよね…。

またこれ以外に『蒼の彼方のフォーリズム-ETERNAL SKY-』というスマホゲーも2016年に配信(制作はエディア)されましたが、約1年半ほどでサービス終了となりました。ですよねー。

システム

ゲームエンジンはEthornell。画面サイズは1024×576。
システムはテキストが画面下に表示される通常のAVGタイプ。

テキストウインドウはまるで大学ノートのように白地に罫線が引かれた見た目になっていて、学園ものの雰囲気が出ていいですね。
バックログからのジャンプ機能はありますが、”次の選択肢に進む”機能はありません。
ゲーム終了のボタンがテキストウインドウに付いてるのは珍しいかも。便利は便利ですがこういうのはセーブ画面に欲しかったです。

パッケージ版の場合は初回起動時にID入力を求められます。ネット認証をするわけではないのでオフラインでもできますが、IDの書いてある内箱(もしくはアンケートはがき)は捨てないようにしましょう。
また初回以外も定期的(多分起動20回ごと)にディスク認証が必要になります。中古対策なんでしょうけど、正直めっちゃダルいです。

シナリオ

企画・メインライターは木緒なちさん、その他に渡辺僚一さんと陸奥竜介さん。

物語は自由に空を飛べる靴「グラシュ」が普及した世界で、「フライングサーカス(FC)」という競技が盛んな街が舞台。かつてFCの天才と呼ばれた主人公が通う久奈浜学院に、FCはおろかグラシュのこともよく知らない少女が転校してくるところから始まる、熱血スポーツものです。
ただずっとFCばかりやっているわけではなく、中盤はFCから少し離れて遊んだり買い物に行ったりする日常的なシーンも多くなります。

ストーリー構成はアニメのように話数で区切られていて、共通シナリオ6話、個別シナリオがルートごとに2話ずつの全8話構成。各話終了時にはTVアニメのような次回予告が挿入されます。

物語の舞台となる「四島列島」は長崎県の五島列島がモデル。他にも長崎は「永崎」、九州は「仇州」といった感じで作中では微妙に架空の地名になっています。この配慮いる?
時代背景は「空を飛ぶ靴」が存在する以外は現代(というかこの作品が発売された2010年代前半)とほぼ同じ。スマホはありますがLINEのようなメッセアプリはまだ普及していません。あと若者が「写メ」とか言います(笑

作中のスポーツ「フライングサーカス」というのは、空中に正方形に並べた”ブイ”のある空間をフィールドにして”鬼ごっこ”のように追いかけ回りながら飛び回るもの。左回りに飛んでブイを順番にタッチするか、相手の背中をタッチすればポイントが入り、制限時間内でポイントを競うというルールです。
元々シンプルなルールですし、作中では初心者である明日香に対して周りがルールや戦術を丁寧に教えていくので非常にわかりやすくなっていますね。

FCプレイヤーは戦型によって、先にブイを狙うスピード重視の”スピーダー”と相手の背中を狙う近接戦重視の”ファイター”、両方をバランスよくこなす”オールラウンダー”に大別されます。この辺のルールや戦術設定が上手く考えられているので、試合の描写がより面白くなっている感じ。

グラフィック

原画・キャラクターデザインは悠木いつかさんと鈴森さん。SD原画に丹羽ことりさん。
メインキャラは悠木いつかさん、サブキャラは鈴森さんが担当しているみたいです。

イベント絵は通常のものが93枚、SD絵が22枚、過去のシーンで使われるノスタルジック調の絵が34枚。
非常にクオリティが高く、いい意味でクセのない万人受けする絵柄です。どれもPCの壁紙にしたら映えそう。
中でも印象的なのがライバルキャラの圧倒的な実力を前にしたときに見せた明日香の笑顔。普段の明るい表情とはまた違う、心からワクワクしているような顔に明日香の天才性が表れていてゾクッとします。

この作品では立ち絵も豊富で、名前のあるキャラはだいたい立ち絵が用意されています。
それぞれに「グラシュを使って飛んでいるとき用」の横向きの立ち絵(?)も使われているので、飛びながら話している雰囲気が良く出ている感じ。

FCの試合のときに着る競技用の「フライングスーツ」はカッコいいですね。露出度こそ高くないものの、水着のように体のラインがくっきり出るので結構エロいです。胸元のデザインが各学校の制服を模した形になっているのもわかりやすい。

またFCの試合中は各選手の機動がコントレイル(飛行機雲)という形で表示されますし、背中にタッチした時はエヴァのATフィールドのようなエフェクトが表れます。これによって非常にわかりやすく、ダイナミックな演出になっていますね。

キャラクター

倉科 明日香
久奈浜学院に転校してきた2年生。事実上のセンターヒロイン。戦型はオールラウンダー。
常に明るくて礼儀正しく、前向きな性格。FCは初心者ながらメキメキと実力を上げていく。

鳶沢 みさき
主人公のクラスメイトで2年生。中学時代までFCをやっていてかなりの実力を持つ。戦型はファイター。
マイペースでサボり癖はあるが、何事もそつなく上手くこなす天才肌。

有坂 真白
みさきLOVEの後輩1年生。実家はうどん屋。戦型はファイター。
全ての行動指針はみさきのため。何でもゲームに例える重度のゲーマー。

市ノ瀬 莉佳
主人公の隣に引っ越してきた少女。久奈浜学院とは別の高藤学園1年生。戦型はスピーダ―。
非常にまじめで努力家な選手で、高藤FC部では1年生ながらレギュラーを勝ち取る実力の持ち主。

日向 晶也
本作主人公。子供の頃から”天才少年”と呼ばれた有望選手だったが、今はFCから離れ、普通の学生生活を送る。
久奈浜FC部入部後はコーチやセコンドに徹する。

この他に久奈浜FC部部長の青柳、マネージャーの窓果、顧問の葵、高藤FC部部長の進藤と副部長の佐藤院あたりが主なキャラクター。
FCの実力は、進藤>佐藤院>みさき>青柳>莉佳>真白>明日香といった感じですかね。あくまで物語開始時点での話ですが。

これに加え大会で試合をすることになる海凌学園の乾沙希&イリーナ、四島水産の虎魚有梨華&我如古繭、堂ヶ浦工業の黒渕霞、上通社学園の覆面選手といった個性的なキャラクターたちが登場します。
こういう他校の有力選手がライバルキャラとして多数登場するのもスポーツものの面白さの一つですね。

ちなみに乾沙希をヒロインにした続編『蒼の彼方のフォーリズム-ZWEI-』も計画されていたのですが、残念ながら中止になったっぽい…。

ボイス

澤田なつ/福圓美里(明日香)紺野由梨/浅倉杏美(みさき)瀬良みと/山本希望(真白)
三代眞子/米澤円(莉佳)鈴田美夜子/若林直美小鳥居夕花/高森奈津美
北見六花/小野涼子納美夕子/水橋かおり緒方恵美/緒方恵美
陽月ひおり/小暮英麻夕城美馬/ささきのぞみ深城かなみ/甲斐田ゆき
桃井穂美/儀武ゆう子大和えみ/生天目仁美豊滝弥実/清水愛
平林哲平/近藤孝行梅咲チャーリー/興津和幸木島宇太/水島大宙
名義はPC版/CS版

主人公以外フルボイス。
開発段階ではアニメ化は考えていなかったという話ですが、まぁ普通にアニメ化しそうなキャストですよね。実際かなり早い段階でアニメ化も決定しましたし。

メインヒロインの明日香を演じるのは澤田なつさん。ヒロインの中では一番の実力者かと。各話終了時の”次回予告”もメインヒロインが持ち回りで担当していますが、正直澤田さんが一番聞きやすいです。
声質的にも明るく前向きな明日香というキャラにぴったり。しかしこの声で敬語口調だと某ウィッチーズのイメージがよぎります。こっちも空飛んでるし。

注目は葵先生役の緒方恵美さん。相変わらずエロゲでも堂々と表の名義で出演しています。漢だこの人…。
声質も先生のイメージにぴったりなんですが、かなり地声に近いので緒方さんがそのまま喋ってるように聴こえてしまいますね。

みなみ役の豊滝弥実さんはいわゆる車の人です。元ネタはトヨタの小型SUVキャミ。

佐藤院役はCS版では小野涼子さんが務めてましたが、産休のためアニメ版では種田梨沙さんに変更になっています。この2人は完全な別人なんですが、結構声の雰囲気似てますね。

BGM

BGM作曲はElements Garden。なんですが…

なぜか音楽鑑賞モードがありません!

なんで!? どうして!? 今どき音楽モードないとかありえないでしょ。

…と思ったら最近になってYouTubeのsprite公式チャンネルでBGMのショートバージョンが公開されました。
公開されている曲は40曲。サントラに収録されいるBGMが44曲らしいので、だいたい公開されている感じでしょうか。

個人的お気に入り曲は、どこかのんびりした日常曲「夏の夕暮れ」。
ゆったりしたピアノとアコギの曲調に癒される「夕焼けと音楽室」。
佐藤院のテーマともいえる「四島に咲く一輪の薔薇」はネタ感のある曲ですが、よく聴くと結構いい曲ですね。

グラシュで空を飛んでいるときによく流れる「コントレイル」はまさに大空を飛翔しているかのような、この作品を象徴する爽やかな曲。
対決シーンでよく使われる「一進一退」は試合の緊張感が良く伝わってきます。
同じく試合で使われる「無限軌道」は非常にスピード感のある曲。
進藤のテーマともいえる「王者の風格」は立ちはだかる強敵といったイメージ。
一番好きな曲は、後半の試合で使われる「空域の支配者」。まるでモビルスーツ戦でも始まるかのような重厚で力強い雰囲気の曲です。ユニコーンガンダムとか出てきそう。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「Wings of Courage – 空を超えて -」川田まみ中沢伴行・尾崎武士川田まみOP
「INFINITE SKY」KOTOKO上松範康・岩崎星実KOTOKOOP
「空恋 -sorakoi-」RUCCA菊田大介倉科明日香ED
「Sense of Life」RUCCA藤田淳平鳶沢みさきED
「Millions of You」RUCCA喜多智弘有坂真白ED
「NIGHT FLIGHT」RUCCA藤間仁市ノ瀬莉佳ED
「Sky is the limit」川田まみ中沢伴行・尾崎武士川田まみED

川田まみさんの歌うOPテーマ「Wings of Courage」は前向きで浮遊感のある曲。作曲が中沢さんということもあってか、いい意味でいかにもI’veっぽい曲ですね。
この曲はゆっくりテンポのアコースティックバージョンも収録されていて挿入歌として使われています。

KOTOKOさんが歌う2ndOPテーマ「INFINITE SKY」はより勢いのあるスポーティーな曲。(クレジット上は挿入歌扱い)
上松さん作曲のこちらはコーラスもついていてなんとなくElements Gardenっぽい曲ですね。先入観があるかもですが。

個別ルートのエンディングはそれぞれのヒロインによるキャラソンになっています。
作詞を担当するRUCCA(溝口貴紀)さんというのは、様々なアニメ・ゲーム・声優さんに詩を提供している方。有名どころだとアニメ『パリピ孔明』のOP曲や『生徒会の一存』のED曲もこの方の作詞です。
作曲の菊田さん・藤田さん・喜多さん・藤間さんは正にElements Gardenのトップクリエイターたちですね。

ムービー

第1話のプロローグ後にOPムービーが流れます。ムービー制作は神月社さん。
キャラ紹介がややポップな感じで、いい意味で神月さんっぽくないですね。
基本的にイベント絵を使った構成ですが、物語の内容に合わせて”空”の画像がたくさん出てくるので非常に爽やかな雰囲気です。

3話終了時に流れるのが2ndOPムービー。
こちらは競技としてのFCを意識したようなスピード感あふれる構成。
ヒロインだけでなく他校のライバルキャラも”まだ見ぬ強敵たち”みたいな感じで紹介されるのがカッコイイですね。個人的にはこっちのほうが好み。

攻略

6話までに十数回出てくる選択肢によって分岐します。
選択肢の内容がわかりやすいので、ポジティブな選択肢を選んでいけば狙ったルートに入ることができるかと。
どちらのヒロインを選ぶか?みたいな二者択一の選択肢はありません。

おそらく5話までの選択肢で各ヒロインのフラグが立てられ、6話の選択肢で最終的に決定する、みたいな感じですかね。
なので5話までは全てポジティブな選択肢を選んでおいて、6話冒頭でセーブした後、狙ったキャラのみポジティブな選択肢を選んでいけば時間の無駄なく攻略できると思います。
どのヒロインルートにも入らないとノーマルENDになりますが特にCGはありません。

推奨攻略順は、莉佳→真白→みさき→明日香。
みさきを最後にするのもアリだと思いますが(EXTRA2をプレイ予定なら特に)、話としては明日香を最後にしたほうがスッキリすると思います。

総プレイ時間はゆっくりやって35~40時間。
共通ルートはだいたい1話あたり2時間弱くらいで、個別ルートは1話3時間くらいでしょうか。

Hシーン

Hシーンは各キャラ2回。みさきのみ3回。なんでみさきだけ(笑
純愛作品らしく、軽めでオーソドックスな内容です。
シーンの尺自体はそこそこありますが、挿入してからはやや短め。
避妊は全く気にすることなく、基本的に中でフィニッシュします。これぞエロゲ!
卑語はそもそも言わないので特に修正もありません。

スタイルに関しては明日香とみさきは巨乳設定ですが、そんなに極端に大きいわけではなくむしろちょうどいい感じ。
フライングスーツを着た状態でのHが1つしかなかったのは残念と言えば残念です。せっかくエロいスーツなのに…

物語中は女の子の着替えを覗いてしまったり、いわゆるお風呂回や水着回のような”ちょっとHなイベント”が挿まれます。こういうアニメっぽいエロは個人的に好き。

感想

FCという架空のスポーツを扱った物語でありながら、いい意味で王道で非常に熱くなれる青春作品でした。こういう”部活もの”の話を読むと、自分も学生時代を思い出してスポーツでも始めたくなりますね。

・スポーツと努力
みさきルートや明日香ルートでは、FCというスポーツにそれまでとは別種の新たな戦術が登場したときの対応が描かれます。相手の技に対抗するために新たな技を生み出していくのはそれだけで熱い展開です。相手選手の資料を集めたり、練習相手を仮想敵にして徹底的に研究したりと、非常に詳細に描かれるので読みごたえがありますね。

かつて日本のプロ野球で杉下茂さんがフォークボールを初めて投げ出したときや、卓球のチキータレシーブ1が初めて使われたときも同様の対応がされたのではないでしょうか。

また必死の努力しているからこそ「これで本当にいいのか?」と不安になってしまうのは、スポーツに限らず何かに打ち込んだことのある人には共感できる部分もあるのではないかと思います。

・スポーツと楽しさ
それに加えてスポーツの勝敗と楽しさも重要なテーマ。
FCの常識を捻じ曲げてまで勝利を追及する相手に対し、あくまでFCの楽しさを追及して勝負する久奈浜FC部のメンバーの対比が引き立ちます。

こういう「ルールの範囲内なら勝つために何をしてもいい」という考え方と、「スポーツの理念を守り正々堂々と戦わなくては楽しくない」という考え方は現実のスポーツでもよく議論の的になりますね。
古いところでは1992年の甲子園で星稜の松井秀喜選手が5打席連続敬遠されたときや、最近では2013年に花巻東の打者がカット打法2で四球を取っていく戦術も物議をかもしました。

周りから「えげつない」とまで言われる戦い方で勝利を目指す相手を前に、純粋で前向きな性格も相まって笑みを浮かべながら対峙する明日香。人情としてはやはり明日香を応援したくなりますし、力も入ります。最後の戦いはメチャメチャ熱くなりました。

・主人公の物語
全編を通じてヒロインだけでなく主人公である晶也の成長も描いているのがこの作品の特徴です。
かつて天才少年としてFC界に名をはせたものの、とあるきっかけでFCから離れてしまった晶也。
そんな晶也がどうFCと向き合っていくかというのも各ルートの根底にあるテーマです。
物語のラストは非常に前向きなもので、プレイした誰もが「この続きを読んでみたい」と思うのではないでしょうか。
こういう読後感が得られるのがこの種の作品の理想形かもしれません。

自分もちょっとブランクがあるけど昔がんばったあれをもう一度やってみようか、そんな気持ちにさせる物語でした。

  1. チキータレシーブ:卓球でレシーブ側が2球目から攻撃する技。中国の張継科選手が2011年から本格的に戦術に取り入れ、国際大会で無双。今ではほとんどの選手が使う基本技術。 ↩︎
  2. カット打法:打者があえてヒットを狙わずファールで粘って相手投手を疲労させる戦術。その後花巻東は審判から警告を受け事実上禁止に。 ↩︎
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