閉鎖空間の中に閉じ込められた登場人物が互いに殺しあう、いわゆる”デスゲーム”モノ作品、『シークレットゲーム』。有名どころで言えば「バトルロワイヤル」や「ダンガンロンパ」のようなものをイメージしていただければ良いかと。
物語は突然拉致された人間たちが、”ルールを破ると問答無用で殺される首輪”を嵌めさせらて巨大なビルの中に閉じ込められ、ある”ゲーム”に強制参加させられたところから始まります。
この”ゲーム”の特徴は、各プレイヤーに固有のPDA(ナウなヤングには馴染みがないかもしれませんが電子手帳のようなもの)が配られ、そこに示された自分の”クリア条件”を目指してそれぞれが協力したり騙し合ったり殺し合ったりする、というもの。
このクリア条件がクセ物で、「3日間生存」とか「全プレイヤーとの遭遇」といったマイルドなものもあれば、「自分以外全員死亡」みたいな無茶すぎる条件もあり、それが作中の”ゲーム”を混沌の渦に巻き込んでいきます。
この作品、元はサークルの作成した『キラークイーン』という同人作品だったのですが、シナリオの完成度の高さからめでたく商業デビュー。コンシューマからPCへと逆移植され、ブランドを代表する作品となりました。FLATはその後もコンスタントに作品を出していましたが、2014年を最後に残念ながら事実上の活動停止。系列ブランドのやも新作ゲームの制作を停止(2021年現在)しています。ゲーム会社って難しいのですね・・・。
作品全体の完成度で言えば、良くも悪くも所々”同人っぽさ”が残っているものの、良く考えられたルール設定と個性的なキャラクター、そして先の読めない展開にハラハラドキドキすること受けあい。デスゲームが好きな方は是非プレイしていただきたい作品です。
- 特殊なルールで行われるデスゲーム
- ルートによって全く異なるシナリオ展開
- 男女含め個性豊かな13人のキャラクター
ブランド | FLAT |
ジャンル | サスペンスアドベンチャー |
初回発売日 | 2006.8.13 |
DL版価格 | 7,124円 |
シナリオ | 健速 座敷猫 |
原画 | 己即是空 |
おすすめ度 | 80 |
シナリオ傾向 |
あらすじ
閉鎖された廃墟、閉じ込められた13人のプレイヤー
公式サイトより
仕掛けの仕込まれた首輪、トランプを模したPDA
72時間以内に与えられた条件をクリアしなければ首輪の仕掛けが発動する
(中略)
PDAは全部で13台存在する
首輪の解除条件はそれぞれ異なる
誰がどのPDAを持っているのかわからない、自分の条件は隠さなければならない
しかし、単独行動は不利、条件を明かして他のプレイヤーと共闘すべきだ
……いやまて、アイツは嘘をついているんじゃないのか?
「殺される前にコロスしかない」
疑心暗鬼、そして何よりも死への恐怖が、プレイヤーたちの道徳と理性を蝕んでいく
作品リスト
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
キラークイーン | 98 Me 2000 XP | 2006.8.13 | 並 |
シークレットゲーム -KILLER QUEEN- | PS2 | 2008.8.21 | 易 |
シークレットゲーム -KILLER QUEEN- DEPTH EDITION | 2000 XP Vista | 2009.4.24 | 易 |
シークレットゲーム -KILLER QUEEN- PORTABLE | PSP | 2010.11.15 | 易 |
シークレットゲーム CODE:Revise | XP Vista 7 | 2011.3.31 | 易 |
リベリオンズ Secret Game 2nd Stage BOOSTED EDITION | XP Vista 7 | 2013.9.27 | 易 |
シークレットゲーム 究極完全合体BOX | XP Vista 7 | 2013.9.27 | やや難 |
開発の流れが、PC同人版(18禁)→PS2版(全年齢)→PC商業版(18禁)という特異な形になっています。
まず最初に発売された同人版『キラークイーン』は、今から振り返ってみるとパイロット版のようなものになります。定価は一番安いのですが、シナリオは2本のみ。
好評だった同人版をリメイクして一足飛びでコンシューマ化されたものがPS2版『シークレットゲーム』。キャラデザはほぼそのままにシナリオとグラフィックを一新して、シナリオ数も4本に倍増しています。
そのPS2版をベースにしてHシーンと新シナリオ1本を追加したものがPC商業版である『~DEPTH EDITION』。初回版にはサントラCD、予約特典にはキャラクターボーカルCDが付属します。
この他にPC商業版を移植した携帯アプリ版(Android)も出ています。
『~CODE:Revise』は続編になりますが、(無関係ではないものの)直接的な繋がりはありません。
『リベリオンズ』は『CODE:Revise』のリメイク版になります。
さらに『~DEPTH EDITION』と『リベリオンズ』をセットにしたものが『究極完全合体BOX』。
同人版はプレミア化してるわけではないのですが(むしろ安い)、パッケージ版はやや入手困難なため、今から買うならPC商業版『シークレットゲーム』を推奨。同人版もDL版なら今でも購入可能です。
続編もプレイしたいのであれば、セット版は中古価格がやや高価なためバラで買ったほうがお得かと。
以下、PC商業版『DEPTH EDITION』のレビューになります。
システム
システムは必要最低限の機能は備えているものの、見た目はちょっと古臭い印象がしますね。同人版のデザインをほぼそのまま使ってる感じ。画面サイズは800×600。
見た目は良くあるAVGなんですが、選択肢はほとんどないため、本質的にはデジタルノベルのような感じになっています。
画面の左端にはPDAのアイコンがあって、これによって見ることができるのはルールの確認のみ。ルールがやや複雑なので初めのうちは重宝するんですが、慣れてくるとまず使わなくなります。せめて今いる階数やゲーム内の経過時間なんかを表示してくれると有難かったんですけどね。
PS2版では誰が生き残るかを賭けることの出来る「BETシステム」という申し訳程度のゲーム要素があったんですが、PC版ではなくなりました。聞くところによるとかなり意地悪なシステムだったみたいですし。
シナリオ
メインライターは健速(たけはや)さん、サブで 座敷猫(EPISODE III)さん。
健速さんといえば『こなたよりかなためで』や『遥かに仰ぎ、麗しの』といった落ち着いた感動ストーリーが多いライターさんだと思ったんですが、今作では趣向をガラリと変えてハードな殺し合いが展開します。
ただ主人公が全く殺し合いをする気がなく、自分を犠牲にしてでも仲間を助けるような性格なのは健速さんらしいといえばらしいかも。
物語では13人の人間を建物内に閉じ込め、ある”ゲーム”によって殺し合わせるのですが、この”ゲーム”の設定が実に良く考えられているんですよね。
まず各プレイヤーにはトランプのマークが印されたPDAが配られ、そこに記された条件をクリアしないと各自に填められた首輪が作動して確実に殺される、というのが基本的なルール。条件によっては他人を殺さないといけないため、必然的に殺し合いが発生します。
それに加えて13人のうちの1人にはPDAを偽装する「JOKER」が与えられたり、時間によって進入禁止の階が増えたり、一切の戦闘行為が出来ない戦闘禁止のフロアがあったりと、”ゲーム”を盛り上げる様々な仕掛けによって緊迫感が増すようになっています。
ただテキストに関してはちょっと気になることも。
というのも文章の末尾が「・・・・・・だった。・・・・・・だった。・・・・・・だった。」みたいな感じで重なってしまうことが結構よくあるんですよ。個人的には凄く違和感があります。
またこの作品はAVGとしては珍しく全編三人称視点で綴られるんですが、主人公の内心を描いた後に場面転換なく別のキャラの内心が描かれたりすることがあるため、感情移入しにくい部分がありますね。
グラフィック
原画は己即是空さん。
大きめの瞳でいかにもギャルゲといったキャラデザなんですが、・・・うん、まぁその、他社のゲームと比べるとぶっちゃけあんまり綺麗な絵ではないですね。商業デビューしたばかりなので仕方がないといえば仕方がないんですが。
まぁでも同人版と比べると確実に良くなっていますし、その後のFLAT作品では結構上手くなってるようなので、成長過程にある段階と思っていただければと。
背景も基本的にコンクリート打ちっぱなしなので、少々殺風景な印象を受けます。まぁこれも仕方ないんですけど。
あと、拳銃を撃つときはちゃんと両手で持ちましょう。「左手は添えるだけ」ではダメです(笑
キャラクター
姫萩 咲実
実質的なメインヒロイン。
ちょっとキャラ立ちが悪いせいか、人気投票では地味な6位。
矢幡 麗佳
主人公よりやや年上の大学生。
金髪ツインテールの強気キャラ。
綺堂 渚
ゴスロリファッションと間延びした喋り方が特徴の女性。
20代でこういうキャラはどうなん?と思わなくもないけど、人気投票では1位。
北条 かりん
活発でボーイッシュな年下少女。
PS2版まではサブキャラだったけど、PC商業版でようやくヒロイン昇格。
色条 優希
主人公を「お兄ちゃん」と慕うロリっ娘。
EP3まではほとんど登場せず、設定も同人版から大幅変更。
御剣 総一
学校帰りに拉致られてゲームに参加することになった主人公。
この他の”ゲーム”参加者は、頼りになる受付のお姉さん陸島文香、会社社長のおばさん郷田真弓、見るからにチンピラの手塚義光、寡黙な戦闘マシーン高山浩太、妻子持ちのおっさん葉月克巳、ゲームとして人殺しを楽しむ長沢勇治、ただのエロおやじ漆山権造、以上13人。
キャラ人数全体は多いのですが、各エピソードに絡んでくるのは大体10人弱くらいで、ルートによっては主人公と会う前に脱落してしまうキャラもいたりします。
ボイス
遠藤紗哉/岡嶋妙(咲実) | 天神祭/田原なおみ(麗佳) | 梨本悠里(渚) | 紅月ことね(かりん) |
北都南/ひと美(優希) | HARUNA | 里都 | |
一条和矢 | 大久保けんたろう | 但馬綾介/水瀬慮介 | 本橋大輔/南 |
主人公以外フルボイス。基本的には同人版と同じキャストさんです。
メ インヒロイン役の遠藤紗哉さんと、当時からベテランの域にあった北都南さん・一条和矢さん以外は、正直あまり聞いたことのない声優さんが多いですね。まぁ同人ソフトではそれが普通なんですが、ベテランの演技が飛びぬけて上手いだけに稚拙さも目立ってしまうのはちょっと気の毒かも。
むしろ北都・一条コンビをよく起用できましたよね。(ちなみにCS版のひと美さんと一条和矢さんはリアルでご夫婦です)
BGM
音楽作成はShibayanさん、なるちょさん、831さん。曲数は同人版から使われている曲も含め26曲。
個人的なお気に入りは「Shut Maze」。おそらく一番流れることの多い、ある意味日常曲なのですが、不安定な感じを残して気の休まらない曲調は作品の雰囲気を象徴します。
他にもタイトル通り涙を流すシーンで流れる「Tears」、終盤で流れる「All hard get over」も印象に残る良曲。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「トラワレビト」 | 寺月恭一 | なるちょ | 遊女 | OP |
「シークレットゲーム」 | 一石楠耳 | 神前暁・岡部啓一 | 遊女 | OP |
「桜花想恋」 | 寺月恭一 | なるちょ | 遊女 | ED |
「散って、咲いて」 | 一石楠耳 | Shibayan | 遊女 | ED |
ボーカル曲を歌うのは全て遊女(ゆな)さん。
「トラワレビト」と「桜花想恋」は同人版から引き続き使われている曲です。
個人的には思い出補正も含めて「トラワレビト」がお気に入り。不安感を煽る曲調が作品にベストマッチ。ちなみに同人版に付属するサントラには、この曲の北都南バージョンが収録されています。
で~ん♪でっ♪でっ♪で~ん♪という力強いイントロが印象的なPS2版以降の新OP「シークレットゲーム」も病み付きになりそうな良曲。どことなくアニメ主題歌っぽいなぁと思ったら、神前暁さんの作曲だったんですね。
ムービー
ムービー制作は癸乙夜さんと鰺乃ひらきさん。2人ともMju:zの所属です。
OPムービーはアバンタイトルで1つ、シナリオ中ではEPI~EPIIIで流れるものとEPIVで使われるもので計3つ。
作りはゲーム中の立ち絵やイベント絵CGを使ったオーソドックスなものですが、物語の世界観に上手く合っています。ただちょっとキャラ紹介パートが長い感じ。13人もいるから仕方ないんですが。
攻略
基本的に選択肢のない一本道のシナリオで、複数のルートが収録されています。
スタート直後に読むシナリオを選ぶ形式ですが、最初のシナリオをクリアしないと次のルートが解放されないので、攻略順はEPISODE I→EPISODE II→EPISODE III(A・B)→EPISODE IVで固定。EPISODE IIIのみ中盤に選択肢が出現し2つのルートに分岐し、両方クリアするとEPISODE IVが開放、という流れ。
総プレイ時間はゆっくりやって大体30~35時間くらい。各エピソードはどちらかというと短めですが、選択肢が1箇所しかなく既読スキップをほとんど使わないため、全体としては一般的なシナリオゲーと同等の分量かと。
全てのルートをクリアすると同人ゲームによくある楽屋裏的なおまけシナリオとNGボイス集が追加されます。
Hシーン
各EPISODEの終盤に一回ずつ。・・・なんですが、ぶっちゃけいらないです。
シチュエーションもそそるものではないですし、正直言って絵もあんまり上手くなく、胸の描き方もなんだか少年漫画のようにデフォルメされている感じなので、これを使うのはいくらなんでも厳しい・・・。
そもそも命の危険が迫ってる上に時間がないってときにHすんな(笑
ちなみに優希のHシーンはありません。同人版には収録されてるので、どうしてもロリのHが見たいという方はそちらへ。
感想
閉鎖空間で行われる命を掛けたゲームという、エロゲに限らず過去にたくさんの名作が作られたジャンルに挑戦した作品。
同人版とは一部のキャラ設定やゲームのルールが変更されているので、同人版をプレイ済みの人でも再び楽しめます。
商業化デビュー作ということもあってテキストやグラフィックに多少稚拙な感じが残りますが、それを差し引いても余りある面白さはシナリオライター健速氏の面目躍如。いつ殺されるかわからない緊迫感と先の読めない展開の連続に加え、ルートによってはキャラがバンバン死にまくるため、良い意味で読んでて疲れる物語になっています。
そのぶん、全ての決着をつける最終エピソードでのカタルシスは最高。ちょっと展開が強引な気もしないではないですが、あれ以上の結末は難しいと思います。賛否はあるみたいですが、少なくとも私は十分楽しめました。同人版のエンディングがきつかっただけに。
ただ欲を言えば、せっかく面白いルール設定なのだから、もう少し構成をいじってもよかったような気がします。というのも、各キャラが持つPDAはシナリオが変わっても(ジョーカー以外は)基本的に同じなので、読んでる側からすると「あ、コイツのPDAはアレだったな」てな感じでわかってしまうんですよね。そのおかげでジョーカーの意味もほとんど無くなってますし。
どうせならルートによってPDAをシャッフルしたり、いっそのこと主人公を変更したりするのも良かったかも。手塚や高山が主人公の物語も読んでみたいなぁ。