「エロゲーなんて紙芝居ゲーだ」なんて揶揄は結構昔から言われていることですが、私はあんまりそういうの気にしないんですよね。面白ければ紙芝居でもよくね?と思うタイプなので。
紙芝居ゲーだからこそ味わえる感動や驚きというものも確実にあると思います。
今回紹介する作品はそんな”紙芝居”としての演出をいい意味でとことん突き詰めた作品『ef – a fairy tale of the two.』。「tail」ではなく「tale」なので間違えないようにしてください。直訳すると「ふたりのおとぎ話」でしょうか。
制作は作品を出すごとに演出が進化していたにもかかわらず、残念ながら2019年に解散してしまった優良ブランド「minori」。
本編は物語前編である『ef – the first tale.』と、後編の『ef – the latter tale.』の2部構成になっているので必ず両方プレイしてください。
物語はかつて大震災に見舞われた街・音羽を舞台に、4人の主人公と4人のヒロインが織りなす4編のストーリーからなる、オムニバス形式の群像劇。
4編の物語それぞれが非常に濃密で完成度の高い作品です。
この作品の注目点はシナリオだけでなく、OPムービーをなんとあの新海誠監督が制作しているということ。
当然半端ないクオリティで、昔からエロゲを嗜んでいる人なら本編はプレイしていなくてもOPムービーは見たことがある、という人は多いのではないでしょうか。
物語本編は演出が非常に凝っているので、4つの物語で構成された1本の映画を見るような感覚でプレイするのがいいかと。
あとWikipediaは思いっきりネタバレをしている箇所があるため、プレイ前は見ないようにしましょう。
- 将来の夢や進路をテーマにした4編のオムニバスストーリー
- 膨大な量のイベントCGを使った臨場感のある演出
- 新海誠監督による美麗なアニメムービー
購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
ef -First Fan Disc- | 2000 XP | 2006.5.25 | 並 |
ef – the first tale. | 2000 XP | 2006.12.22 | 易 |
ef – Second Fan Mix | 2000 XP Vista | 2008.2.8 | 並 |
ef – the latter tale. | 2000 XP Vista | 2008.5.30 | 易 |
ef – the first tale.+ef – the latter tale. 初回版+予約特典 収納BOXセット | 2000 XP Vista | 2008.5.30 | 並 |
ef – a fairy tale of the two. | PS2 | 2010.4.29 | 並 |
天使の日曜日 “”ef – a fairy tale of the two.”” Pleasurable Box. | XP Vista 7 | 2010.9.17 | 並 |
最初に発売された『First Fan Disc』は先行ファンディスク。非常に短い内容なので「有料体験版」なんて揶揄されました。なので無理にプレイしなくてOKです。
本編となるのが『the first tale.』(前編)と『the latter tale.』(後編)。『latter tale』には特典として小冊子が付きます。
『Second Fan Mix』は『lattet tale』前に発売されたお楽しみBOX。ショートストーリーやオーディオドラマ、Webラジオアーカイブや小冊子等が入っています。
『BOXセット』は文字通り『first tale』と『latter tale』の2つのパッケージを収納できるボックスをセットにしたもの。今でもたま~に中古ショップで見かけます。
コンシューマはPS2版のみ。最初から前後編が一緒になっています。
『天使の日曜日』は本編後のアフターストーリーやifストーリーを収録したファンディスク。横スクロールアクションのミニゲームやminori作品のムービーを収録したブルーレイディスクも同梱されています。
今から買うなら本編である『first tale』と『latter tale』をダウンロード版で。
定価も安くなっていますし、定期的に半額セールの対象になっているので買いやすいと思います。Windows10/11にも正式に対応してますし。
パッケージ版はコレクション目的以外では買わないほうがいいです。
というのもパッケージ版は修正ファイルの配布が終了してしまっているので満足に動かない可能性がありますし、最近のOS(Windows 10以降)ではそもそもインストールができません。
システム
システム全般
基本的なシステムはADV形式になりますが、いわゆる明確なメッセージウインドウ的なものはなく、画面下をボヤっと色を変えた上にテキストが表示されます。画面サイズは800×600。
セーブやコンフィグ等のボタンも画面上にないため、その手の機能を使うときは右クリックからメニューを表示させる必要があります。
またバックログはテキストを表示させるだけではなく、「シーンごと巻き戻す」形になります。例えばスクロールボタンを1回押して1個前のテキストに戻すと、テキストだけでなくCGやBGM、音声なんかもそのときのものが自動で再生されます。(どれだけ戻っても右クリックで元の場面に復帰)
こういう仕様って今ではほとんどなくなりましたが、2000年代くらいまではちょくちょく見かけました。
演出面
公式のジャンルは「インタラクティブ・ノベル」になっています。本来”インタラクティブ”という言葉は対話とか双方向性という意味ですが、この作品は別に何かプレイヤーが物語に介入できるわけでなく、選択肢による分岐も基本的にBADエンドしかないほぼ一本道のシナリオです。
多分メーカーさんとしては「普通のノベルゲーと違って演出に力入れてますよ」というニュアンスで「インタラクティブ」という言葉を使っているのではないかと。
そのため演出面では非常に凝っていて、膨大な量のイベントCGが使われています。
一応立ち絵もありますが、ひょっとしたらイベントCGを使ってるシーンのほうが多いんじゃないかと思うくらい。
さらに立ち絵はもちろんイベントCGにも目パチ・口パクを完備。句読点等で台詞が一瞬止まるときはちゃんと口パクも止まります。
ヒロイン視点のシーンではCGの上下がカットされ、さらに序章では音声のみでテキストも表示されず、強制オートモードで映画のように進行します。もうこの演出で序盤からがっちりプレイヤーの心をつかんでくるんですよね。
またこの作品は時折BGMが止まり、無音のシーンになることが良くあります。こういう演出って結構勇気がいると思いますが、私は好き。ちょっといいヘッドホンやイヤホンを使っている人は、雑音に邪魔されないようにノイズキャンセリング機能をONにするのがいいかもしれません。
パッケ版の注意
パッケージ版はインストール時にシリアルコードが必要になるので、コードの書いてあるハガキは無くさないようにしてください。『first tale』と『latter tale』で別々のコードが必要になります。
ちなみに私はパッケ版をWindows7でプレイしたんですが、『first tale』は無事プレイできたものの、『latter tale』はなぜがセーブができなかった(既読判定は保存された)ので、プレイ時は毎回最初からスキップするという苦行を強いられました…。軽くググっても同様の症状は見当たらないので私の環境のみの症状かもしれません。
繰り返しになりますが、今から買うならDL版を強く推奨します。
シナリオ
企画はminoriの代表でもある酒井伸和さん、監督は御影さん、シナリオは御影さんと鏡遊さん。御影さんは初代『ダ・カーポ』や後に『アマツツミ』『アオイトリ』等の名作を生み出す名シナリオライター。鏡遊さんはminoriの『はるのあしおと』でデビューしたライターさんで、その後もminoriで御影さんと一緒に『夏空のペルセウス』や『ソレヨリノ前奏詩』を担当することになります。
物語は全4章+αの章別構成。冒頭の序章に加え、章の合間にはインターミッション的なシーンが挿入されます。
それぞれの章は主人公とヒロインが異なるオムニバス構成。ストーリーの内容はそれぞれ違いますが、舞台や根底にあるテーマみたいなものは共通しているので統一感はありますね。
舞台はかつて(十数年前くらい)大地震とそれに伴う大火災によって壊滅した後、中世ヨーロッパ風の街並みに生まれ変わった音羽という街。
この街に住む4人の主人公と4人のヒロインを中心に、それぞれの夢や人生、恋愛模様を描いていきます。
ストーリーが分岐して個別ルートに入るような一般的な作品とは異なり、それぞれの章で物語が完結してから次の章に移る流れ。なので共通ルートと個別ルートの区別がなく、(BADエンドはあるものの)基本的に一本道のシナリオです。
物語自体は非常に濃密。
話の本筋と関係ないシーンが少なく、各章の冒頭から本格的にシナリオが開始されるので、ダレずに物語を読むことができます。
グラフィック
原画かは七尾奈留さんと2C=がろあさん。七尾さんはCIRCUSの『水夏』や『ダ・カーポ』、2C=がろあさんは枕/ケロQの原画家さんとして有名な方です。
全体的に可愛らしい感じで、黒目が大きく少し角ばってるのが特徴的。
腕や体つきも華奢で、どことなく少女マンガっぽいスタイルですね。こういう描き方は2000年代の作品に結構多かった気がします。
髪の色も黒か茶色といった色が多く、色がついても紫くらいの落ち着いた雰囲気。服装は制服がメインですが、私服も奇抜なものはなく現実的なファッションです。
CG枚数は『first tale』が459枚、『lattet tale』が722枚、合計1181枚。なんだこの枚数!
いやまぁ、これは各CGモードで見られる数を合計したもので、中にはただの背景的なCGもありますし、firstとlatterで重複しているCGも一部あるんですが、それでも膨大な量のCGが使われています。
CGの枚数は多いのですが、他作品のイベント絵のようにヒロインがアップになってポーズを決めてるようなCGはごく一部。むしろただ椅子に座っているだけとか、道端で立ち話をしているだけのようなありふれたシーンを描いたCG多く、どちらかというと立ち絵の延長のようなイベント絵になっています。これを大量に使うことによってシーンのイメージがしやすい演出になっているわけですね。
ほとんどのシーンに何らかのイベント絵が使われているので、正に究極の”紙芝居ゲー”といえるんじゃないかと。
イベント絵は基本的に”動き”が(目パチ口パク以外)ないんですが、唯一動いてるのがヒロインと一緒に歩くシーン。そのときはヒロインの横顔が歩みに合わせて上下に動かし、背景は歩く方向と逆向きに動かすことによってヒロインと一緒に歩いている動きを表現しています。
背景もただ動かすだけでなく、近い背景は速く、遠い背景はゆっくり動かすことによって遠近感のある絵になっているのはいいですね。
キャラクター
宮村 みやこ
音羽学園の2年生で第一章ヒロイン。サボリの常習犯だが成績は優秀。
快活だが気まぐれで、周りを振り回すこともある少女。
広野 紘
音羽学園2年生で第一章主人公。親の影響で絵が非常に上手い。
「新藤凪」のペンネームで活動するプロの少女漫画家だが周りには隠している。
新藤 景
学園の1年生で第二章ヒロイン。紘とは幼馴染で何かと世話を焼く。
ボーイッシュな見た目で口より先に手が出る暴力系ヒロイン。
堤 京介
学園の2年生で第二章主人公。紘とは親友でありクラスメイト。
軽い性格で恋愛経験も多いが、思いは一途。元映研所属で部長は元カノ。
新藤 千尋
第三章ヒロインで景の双子の妹。姉とは正反対で非常におとなしい性格。
とある事情で学校には通っておらず、家族とも離れて暮らす。
麻生 蓮治
学園の1年生で第三章主人公。ドイツ人である父親の影響で海外生活が多く語学も堪能。
常に本を持ち歩く活字中毒。日本の小説やラノベはもちろん、児童書や洋書までなんでも読む。
羽山 ミズキ
音羽の付属校に通う第四章ヒロイン。蓮治の従兄妹で家族ぐるみの付き合い。
やかましいくらい活発でぐいぐい来る性格。バスケ部の先輩である景に対し並々ならぬあこがれを持つ。
久瀬 修一
プロのバイオリニストで第四章主人公。蓮治の家の隣に住み、蓮治の母が好きだと公言する青年。
音羽学園のOBで火村夕とは親友。親の反対を押し切って音楽家になったため家族からは勘当状態。
雨宮 優子
序章から登場する謎めいた女性。現在は音羽の教会にいることが多いが、神出鬼没でどこにでも現れる。
一章から二章の物語は彼女の口から語られるという構成。
火村 夕
序章から登場する物語の中心人物。いつも教会にいるが教会関係者ではない。
常に落ち着いていて口数の少ない青年。三章から四章までの物語は彼の口から語られる構成。
この他に蓮治の母であるすみれや紘の姉である広野凪がサブキャラとして登場しますが、基本的にこの10人を中心にして物語は進みます。
ひとつの章につき1人のヒロイン&1人の主人公という構成ですが、主人公を含めほとんどのキャラは章をまたいで登場します。主人公がヒロインと恋人同士になった後も他の章で登場する、オムニバス形式ならではの展開です。
ボイス
赤沢かえで/田口宏子(みやこ) | 桜井美鈴/岡田純子(景) | まきいづみ/やなせなつみ(千尋) |
安玖深音/後藤麻衣(ミズキ) | 山田ゆな/中島裕美子(優子) | 三咲里奈/伊藤静 |
小満皐/下野紘(紘) | 城樹翔/泰勇気(京介) | 伊香川椎音/高城元気(蓮治) |
安芸怜須ケン/浜田賢二(久瀬) | 壬生中将/遠近孝一(夕) |
主人公以外フルボイス。
男性キャラもその章の主人公でない場合は声が付きます。
面子を見まわすと00年代の実力者を中心に配役した感じでしょうか。
赤沢さん、まきいづみさん、アグミオンさんはこの年代のエロゲプレイヤーならおなじみの声ですね。
景役の桜井さんはあまり聞かない名前ですが、minori作品に多く出演されてる方みたいです。他の方の演技が上手いぶん、相対的にちょっと拙さを感じるかも。
優子役の山田ゆなさんはこの作品がデビュー作になるみたいですが、新人さんとは思えないほど安定しています。
作中でヒロイン視点になるときは、モノローグや地の文もヒロインによって朗読されます。上手い声優さんって地の文の朗読も上手いんですよね。感情を乗せつつ冷静に語るという微妙な演技が聴きどころ。
BGM
BGMの作曲はminori作品ならこの人、天門さん。ややクラシカルな感じのする曲が多いですが、ギャルゲーっぽいポップな曲もあります。
Musicモードで聴ける曲は、『first tale』が28曲、『latter tale』が40曲。
『fiest tale』で使われた曲は『latter tale』でも使われますが、Musicモードでの重複はありません。
個人的お気に入り曲は、しっとりとしたシーンで流れるピアノソロ曲「Two.only Two.」。ゆったり目な曲調で、優しさと前向きさを感じる癒し曲です。
まったりしたシーンで流れる「A moon filld sky」はピアノとヴァイオリンをメインにした良曲。特にヴァイオリンの音色(多分生音)が素晴らしい。
ハープっぽい楽器とシンセが奏でる「Sorrowful feather」は非常に悲しげですが、主題歌のアレンジ曲であることに気付くとゾクッとします。
物語終盤で流れる「Will」はまるで雨の上がった草原を歩いていくような、非常に前向きになれる曲。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「悠久の翼」 | 酒井伸和 | 天門 | 原田ひとみ | OP |
「emotional flutter」 | 酒井伸和 | 天門 | 原田ひとみ | OP |
「ever forever」 | 酒井伸和 | 天門 | 原田ひとみ | ED |
ボーカル曲を歌うのはダチャーンこと声優・歌手の原田ひとみさん。
残念ながらボーカル曲はMusicモードで聴くことはできません。Movieモードで代用しましょう。
「悠久の翼」は『first tale』のラストに使われますが、実質的には作品全体のOP曲と言ってもいい名曲中の名曲。
疾走感のあるイントロから呟くようなボーカルで始まり、中盤以降から徐々に盛り上がって印象的で力強いサビに繋がっていきます。めっぐっり~~あう~~♪
ちなみにこの曲は原田ひとみさんのソロデビューシングル『eternal feather』に収録されていますが、デジタル配信はされてないっぽいですね。
その代わり、アニメ版で使われた「悠久の翼 07.mix」(Vo.雨宮優子)が各種配信サイトで聴くことができます。
ムービー
ムービー制作は『君の名は。』で一躍日本を代表するアニメ監督となった新海誠さん。もうなんというか、エロゲ制作に新海さんが関わっていたという事実だけでエロゲファンとして誇らしいです。
『first tale』2章終了時に最初のムービーが流れます。
内容はもちろん全編アニメーション。
曲のリズムや歌詞、物語の内容に対して神がかり的にジャストフィットした見事なムービーです。ハッキリ言って短くないエロゲ史において最高のムービーだと思います。
作画も当然素晴らしく、何よりキャラデザが本編と全く同じなのもいいですね。一般的なアニメムービーだとキャラの雰囲気が変わってしまうことも良くありますし。
そして見どころはやはりサビのシーン。屋上にたたずむ優子を中心にして360°ぐるりと背景ごと回転します。素人目にも相当手間がかかってることを窺わせるシーンです。なんだこれ劇場アニメか?
タイトルが『first tale』ではなく『a fairy tale ~』だったり、3章以降の登場人物も描かれていることを考えると、おそらく分割販売が決定する前に制作されたものなんでしょうね。優子や夕周りの描写は思いっきり4章後半の内容ですし。
『latter tale』のムービーが流れるのは4章開始時。
冒頭の波紋を描く雨粒や、雨に濡れたミズキの描写はいかにも新海さんっぽいカットですね。『天気の子』の見すぎかもしれないけど。
サビでは空から階段を下りてくる優子をこれまた360°ぐるっと回りこむ演出。これも凄い。
一見するとファンタジックなカットですが、本編にこういうシーンがあるわけではありません。ただプレイしていると「あっ、ここのことか」とちゃんとわかるような作りになっています。新海さんの原作理解度が半端ない。
しかも今回はそれで終わりではありません。直後のミズキが草原を駆けるシーンでは真後ろの足下からカメラがグッと正面に回り込んでミズキの表情を映すというダイナミックなカット。どんだけ動画の枚数かけてんだ?と思うくらいぬるぬる動いてます。しかもよく見ると最初ミズキが躓いてちょっとバランスを崩していた描写まで入ってたりと、非常にこだわりのある動きです。
また個人的には、瓦礫の中でたたずむ優子・夕・久瀬の3人をミズキが見上げる一瞬のカットが凄く印象的。
なんというか、大震災を直接体験した優子たち大人世代の立ち入れない絆のようなものを感じます。
ちなみにデモムービーと本編に使われたムービーではラストのカットが異なっています。ムービーの〆としては本編版のほうがカッコイイですね。
攻略
3章までは各章数回選択肢が出てきて、選択を間違えるとBADエンドになります。
選択した直後ではなく、時間差でBADエンドになったりもするので気が抜けません。選択肢のセーブファイルは残しておきましょう。
4章以降は選択肢のない一本道。
どっしり構えて登場人物たちの選択を見守ってください。
総プレイ時間はゆっくりやって『first tale』が12~15時間、『latter tale』が20~25時間くらい。
後編の『latter tale』は結構ボリュームがあります。4章以降はいつ終わるのかわかりにくいと思いますが、ミズキのHシーン(本番)が終わったら残りわずかなので、その後は一気にプレイしてください。
Hシーン
Hシーンは各ヒロインあたり2回ずつ。千尋のみ1回。これは挿入までいかない未遂のシーンも含みます。
行為の内容は初々しくてオーソドックスなもの。卑語の類は言わないので修正もありません。
一部のキャラは口でしたりします。
行為の最中は主人公の顔も描写されたりしますが、男性器は透明。口でするときも体液で多少輪郭がわかるくらいで透明のまま。
行為自体はそこまでエロいものではないというかむしろ薄いほうかと。ただこの作品はヒロイン視点のシーンも多くてヒロインに感情移入しやすいためか、なんだか他の作品よりもちょっとエロく感じてしまいました。もちろんHシーン自体は主人公視点で進むんですが。
あと乳腺が割とハッキリ描かれるのが個人的に良かったです(笑
感想
この作品は今となってはかなり古いものになると思うんですが、特殊な物語構成、うまく考えられた世界観、minoriらしい映画的な演出など、2020年代にプレイしても新鮮さを感じる名作です。
4つのストーリーに共通するもの
4つの章それぞれで主人公が違い、一見するとストーリーも独立しています。ただ根っこにあるテーマは共通していて、群像劇のような物語がラストシーンに繋がっていく構成は見事としか言いようがありません。
各種感想サイトやErogamescapeなんかを見ていると、『first tale』にあたる1章と2章の評価が低かったりするんですが、私自身は十分楽しめました。
3章以降はかなりシリアス度が増していき、特に4章後半からは読むのがつらくなるほど重い展開になっていきます。でも単に鬱になるだけでなく、どれも前向きな終わり方になっているので、非常に読後感がいいんですよね。
各章それぞれの物語も非常に完成度が高く、読み応えのあるものでした。
それぞれ主人公やヒロインの「将来の夢や進路」をテーマにしていて、「夢をかなえるにはどうすればいいか」「大人になるとはどういうことか」といった10代の若者らしい悩みや葛藤を描いています。
そんな中、作中で登場するのがとあるキーアイテム。
始めは何でもないもののように描かれるんですが、次々と人手に渡っていくうちに各章をつなげる重要かつ象徴的なものになっていることをプレイヤーに気付かせます。
まるで「自分はもう大丈夫だから次の奴がんばれ」というメッセージと共に渡されるバトンのような役割。こういうのはオムニバス構成ならではの展開ですね。
物語の舞台
そんな物語の舞台となるのが、かつて大震災に見舞われた”音羽”という架空の街。
全ての章が基本的に同じ街で描かれるため、海岸や教会、学校の屋上といった共通の場所が登場します。「この場所は前章でアレがあったとこか」なんて感慨にふけられるのも、オムニバスストーリーならではの楽しみ方ですね。
物語終盤ではとある秘密が明かされるのですが、これに関する隠し方と明かし方が非常に上手い。
実は私、ほんのちょっとだけネタバレを知った状態でプレイしてたんですが、それでもかなり驚かされました。
確かにプレイしていく上で、「あれ?なんでわざわざそんなことするの?」みたいな違和感は少しずつ積もっていたんですよね。それが実はみんな伏線だったと気づかされた時は、気持ちのいい「してやられた感」を味わえました。
作中ではネタばらしをするだけで細かい説明はされないため、プレイ後の考察サイト巡りが楽しい作品でもあります。多分自分が気付いてない伏線とかいっぱいありそう。
まぁ冷静に考えると少々強引な話ではあるんですが、それを差し引いてもあまりある驚きを味わえます。
そして物語をしめるラストシーンはminoriらしい映画的な演出も相まって感動の嵐。
ラストのテーマは”再会”。4つの物語全てに登場するキャラが一人だけいるんですが、そのキャラの思いが2人の再会を後押しします。短くはない4つの物語を経験しているからこそ、このシーンは涙無くして見られません。
全体として見ると重い話も多いんですが、登場人物全てが前を向いて歩きだす読後感の非常に良いストーリーが魅力の作品です。
どんな辛いことがあっても夢をもって歩き続けていく、そんなありきたりではあるけど強いメッセージを感じる物語でした。