最近、『隠れていた宇宙』(ブライアン・グリーン)という本を読んだんですよ。
その本によると、最新の超ひも理論では我々の住む宇宙とは別の平行宇宙・ブレーンワールドというものを考えることができるそうです。その別宇宙を直接観測することはできないけど、物理を構成する4つの力(強い力・電磁気力・弱い力・重力)のうち重力だけは伝わることができるという何とも不思議な話でした。
科学って突き詰めていくとこんなSFめいた話になるんですね。
こういう本を教養として読んでおくと、いろんなSF作品を楽しむ下地になりそうです。
というわけで(?)今回紹介するのは相対性理論や超ひも理論ががっつり出てくる作品、すみっこソフト制作のSF四季シリーズ2作目『なつくもゆるる』。略称は「なつゆる」でしょうか。
萌えゲーアワード2013にてシナリオ賞金賞を受賞した作品です。
シリーズ1作目の『はるまで、くるる』とストーリー上のつながりは全くありません。ただ作品の方向性は同じなので、先に『はるくる』をプレイしておいた方が雰囲気をつかみやすいかも。
物語はとある理由により少年少女が集められた全寮制の学校・壁川学園が舞台。
夏休みになり他の生徒が帰省する中、感染症にかかってしまったため学園から出ることができなくなった6人の少年少女がまったり過ごしていると、ある日電気も水道もネットも止められ教師も職員も誰もいなくなる、というミステリアスなストーリー。
作中にはやや難しめの生物や物理の概念が頻出する割とガチのSF作品です。
パッと見はロリっ子ヒロインばかりのキャラゲーに見えますが、シナリオはかなり読ませるものになっています。
いい意味でしょーもないギャグや下ネタで笑わせに来たかと思ったら急にシリアスになったりするという、メリハリの利いた展開が特徴的。
世界設定も序盤は意図的にボカしているので、「これはそもそも何なの?」という疑問をプレイヤーに抱かせながら物語が進行していきます。
そして少しずつ世界の謎が暴かれていき、シナリオ後半は思いもかけない壮大な展開が待っています。
かわいいヒロインとキャッキャしながら本格的なSF作品が読みたいという人におすすめ。
やや特殊な世界観とストーリーですが、前作『はるまで、くるる』が楽しめた人は問題なく本作も楽しめるかと。
- 可愛らしいロリっ子ヒロインと過ごす夏休み
- やや専門的な科学用語が頻出するSF設定
- プレイヤーを困惑させるシナリオ展開

購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
なつくもゆるる | XP Vista 7 | 2013.6.28 | 並 |
パッケージ版は1種類だけ。初回特典の類はありません。
そんなに数が多くないせいか、中古価格はあまり安くはありません。ただちょっと前までは新品と変わらないくらいの値段だったと思うんですが、最近は6000円くらいまで下がってきてますね。
予約特典にはサントラCDと前作同様パロディADV『スミッコ探偵倶楽部PARTII うしろめたい少女』、早期予約特典には『釧路連鎖殺人 タノウマベイに消ゆ』が付属します。相変わらず元ネタが昭和。
今から買うならダウンロード版(FANZA独占)を推奨。
ちょくちょく半額セールになっているので、セール時に買いましょう。どうせなら次作の『あきゆめくるる』も一緒に買っておいたほうがいいかも。
システム
オーソドックスなADVスタイルのシステムです。画面サイズは1024×576。
公式にはOSがWindows7までしか対応していませんが、私の環境ではWindows10でも問題なく起動できました。
初回起動時はタイトル画面を経ずいきなり本編が開始されるので注意してください。
オートモードのウエイト時間は文章の量に関わらず一定なのでちょっと使いづらいです。
その他は普通にプレイするうえで支障はありませんが、機能的には最小限なので最近の至れり尽くせりのゲームと比べると使い勝手は悪いかも。
特に「タイトルに戻る」「ゲームを終了する」ボタンがオプション画面(もしくはメニューバー)にしかないので、中断するときはちょっと手間ですね。
場面転換時は日付と共に昔のNHKの時報に使われたアナログ時計が表示されます。これ若い人は見たことない人も多いんじゃないでしょうか。特に何かの伏線というわけではないのですが、改めて見るとこの時計って人の目みたいで怖いですね(笑
シナリオ

シナリオライターは前作と同じく渡辺僚一さん。
このころの渡辺さんの作風でもあるんですが、日常シーンに下ネタが多いです。エロまみれだった前作に比べると幾分マイルドになってはいますが、可愛らしい女の子が日常的に卑語も言うのでHシーンでもないのにP音まみれになったりすることも。まぁしばらくするとそれも慣れちゃうんですけどね。
物語は外界から隔離された学園で主人公の少年・当間進が夏休みに裏山でゴスロリ服を着てスコップを抱えた少女・狭霧紫穂と出会うところから始まります。
感染症に罹患したため学園に残っていた他の4人の生徒と共に寮で過ごしていたところ、夜中に突然停電が発生し、6人以外誰もいなくなる――。というミステリアスな展開です。
前作同様、序盤からHシーンが連続するのでちょっとダレてしまうかもしれませんが、物語が動き出すのがだいたい開始4~5時間くらいなので、それまでなんとか進めてください。
また結構本格的なSFなので物理や生物の専門用語も頻出します。
特に物理は一般相対性理論や超ひも理論のやや込み入った用語や概念が出てくるので、宇宙や素粒子に興味のない人は面食らってしまうかも。一応大半の用語は多少なりとも説明されますが、フィクションの用語も混じっているのでシナリオ後半はわかりにくいかもしれません。
それ以外に作中では戦闘シーンもあるのですが、その描写がすごく独特。
他の作品だと戦闘シーンといえば殴ったり撃ったり爆発したりという感じだと思うのですが、この作品では投げ技や関節技がメイン。しかも描写がすごくリアルで、相手の重心を崩したり人間の体の構造や反応を利用して相手を倒したりします。まるで柔道か合気道の演武を見ているようです。
描写が細かすぎてなかなか頭の中で動きをイメージしにくい場面もありますが、これはこれですごく熱い戦闘シーンでした。
グラフィック

原画は笹井さじさん、SD原画にイチリさん。
通常のイベント絵は67枚、SD絵が16枚。
ヒロインは全員等身が低く、顔も丸っこいので低年齢向けの少女漫画のようなキャラデザです。
髪型や表情も個性的でどのキャラも甲乙つけがたい。
シナリオ上は割とショッキングなシーンもありますが、CG上はあまりグロい描写はありません。
キャラクター

狭霧 紫穂
スコップを担ぎゴスロリ服を着た神出鬼没な少女。ロリ。
人見知りが激しく、犬のように吠えて警戒することが多い。
当麻 姫佳
ブラコン気味の主人公の妹。しっかり者の性格で礼儀正しい。ロリ。
学園の生徒ではないが、なかなか帰ってこない兄のためにわざわざ会いに来た。
鹿島 ユウリ
学園の生徒会長で金髪のロリ。常に生徒会室で仕事をしている。
不愛想だが落ち着いた性格で的確な判断を行う。武術を習っているためツッコミが激しい。
水名 りね
主人公たちが所属する生物部の部長。なぜか語尾に法隆寺がつく。ロリ巨乳。
テンションが高く明るい性格だが、生物に関する知識は非常に深い。
当麻 進
本作主人公で生物部部員。実はロリコン。
両親が事故で他界したため当麻家に引き取られた後、全寮制の壁川学園に入学。
これに加えて進と同室で生物部員の三田舜を加えた6人がメインのメンバー。
後に登場する2人の大人を加えた8人で物語は進行します。
閉鎖空間かつ少人数の物語がこのシリーズの特徴ですね。
センターヒロインの紫穂はゴスロリ服を着たり犬のようにガウガウ言ったりと、かなり極端な萌えキャラ設定。露骨すぎて最初はあんまり好みではなかったのですが、シナリオ後半は印象が一変しました。健気な忠犬かわいい。
個人的には生物部部長の”りね”がお気に入り。
他がロリキャラばかりなので豊満なおっぱいに注目せざるを得ないなり法隆寺。
ボイス
有栖川みや美(紫穂) | 森谷実園(姫佳) | みる(ユウリ) | 木村あやか(りね) |
かわしまりの | 青葉りんご | ||
古河徹人 | 越雪光 |
主人公以外フルボイス。
サブキャラに至るまで2010年前後におけるエース級の声優さんばかり。どの方もロリキャラ萌えを意識した演技をされているので脳がとろけそうになります。
それに対してしまりのさんは上から目線のお姉さん的な大人の演技。『グリザイア』シリーズの麻子もそうですが、しまりのさんはこういうキャラがすごく似合います。しかも今作の場合大人そうに見えてちょっと子供っぽい雰囲気も醸し出してるのがいいですね。
BGM
BGM作曲はSHIMさん。曲数は21曲とやや少なめ。
全体的に良い意味でいかにも美少女ゲーム然としていて、オーソドックスな雰囲気の曲が多いので非常に聞きやすいです。
個人的お気に入り曲は休日の午後に聴きたいまったりとした日常曲「stay with you」。
落ち着いていながらながらミステリアスな雰囲気を醸し出す「sky falls down」。
スピード感と緊迫感を併せ持つ戦闘曲「rencunter」。この曲はロック調になった「-heat mix-」バージョンも熱いですね。
探索時のBGMである「abyss」はまるで宇宙人の作った古代遺跡を調査しているような不安感に満ちています。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「なつのおくりもの」 | 木緒なち | naotyu- | 中恵光城 | OP |
「夏を送る者」 | 木緒なち | naotyu- | 中恵光城 | ED |
OP曲「なつのおくりもの」はポップで可愛らしい曲。なんとなく00年代風味を感じる、懐かしくも心地よい曲です。
ED曲「夏を送る者」はタイトル通り夏の終わりを感じるノスタルジックな曲。夏の間しか会えない友達との別れの哀愁と共に、ひと夏の経験を通じて少しだけ成長した少年が新たな一歩を踏み出すような情景が思い浮かびます。何気に名曲ですよねこれ。
2曲ともサントラCDや中恵光城さんのアルバム「STELLA -ステラ-」に収録されています。
ムービー
短いプロローグの後、OPムービーが流れます。内容はキャラ萌えゲーのようなポップなつくり。これだけ見るととてもハードなSFものだとは思えません。
スタッフクレジットが背景に描かれた文字として表示されるのはアニメのOPっぽいですね。
ムービーを一度見た後は起動後のアバンタイトルでも流れるようになります。
攻略
実質的に一本道なのでゲーム性や自由度はありません。
個別ルートが終わったら再び「ゲームをはじめる」を選んでください。冒頭にシナリオが追加されています。しばらく既読のイベントが続いた後に選択肢が現れますが、展開の異なるものを選べばOKです。
総プレイ時間はゆっくりやって25時間前後。
最初のルートが6~7時間くらいで、その後の個別ルートがだいたい4~5時間くらいでしょうか。
比較的コンパクトにまとまったシナリオ量なのでプレイしやすいですね。
Hシーン

回想モードで見ることができるHシーンは29個。
CGが変わると別シーンとして登録されるので、実質的な回数はその半分くらいになります。
前作「はるくる」のときはOP前にたくさんのHシーンがありましたが、今作で序盤にHするののは4回ほど。それも紫穂のみなので、前作のようなハーレム感はありません。
行為中はヒロインが結構乱れますが、卑語には伏字とP音による修正が入ります。というか日常シーンでも修正が入ります(笑
基本的にオーソドックスなHが多いですが、それぞれのヒロインに”担当”ともいえる個性的なHがあるのが特徴的。
具体的には、紫穂は足コキ、姫佳はおもらし、りねはおっぱい、ユウリはお尻、という感じ。
特に姫佳は毎回のようにおもらしするのでそっち方面の需要を満たしそう。ていうか緩すぎ(笑
個人的に下着の濡れる差分があったのがGoodでした。シナリオゲーでこれあるの少ないんですよね。
りね以外はロリ体型ですが胸は3人とも「膨らみかけ」。こういうの好きな人多そう。
感想

私がこのシリーズをプレイしたのは前作『はるくる』に続いて2作目。
前作は割と突拍子もない展開のハードなSFだったので今回はかなり構えてプレイしたのですが、想像を超える壮大さに面食らいました。
というか扱っている内容が人類の知覚できる範囲を軽く超えています(笑
以下ネタバレとまではいかないもののちょっとだけ内容に触れるので、まっさらな状態でプレイしたい場合は読み飛ばしてください。
理系用語とSF設定
この作品はセリフの端々に生物や物理のやや専門的な用語や雑学が頻出します。物理はまだともかく、生物を扱った作品って珍しいですね。
象徴的なのが生物部の活動として行う「タイドプール実験」。これは海岸の潮だまりに貝類の天敵となるヒトデを排除した環境を人為的に作って、通常の環境と比べて生態系がどうなるかを観察するという、いかにも高校の生物部でやりそうな実験です。
この実験自体も普通に興味深いのですが、この作品が凄いのはそれがシナリオにがっつり絡んでいること。
実験行為自体が何かシナリオを動かすわけではないのですが、後から振り返ってみると実験の趣旨がストーリーの根幹をしっかり表しているんですよね。
ある種の伏線回収のようなものなので、序盤から綿密に組まれたシナリオであることをプレイヤーに気付かせる構成になっています。
プレイヤーを困惑させるシナリオ構造
この作品はシナリオの構造もやや特殊。
普通この種の作品は個別ルートがそれぞれ独立していることが多いと思います。しかしこの作品においては攻略順が固定されているため実質的に一本道のシナリオ構成です。
それだけならよくある構造なんですが、この作品においては各紺別ルートが実質的につながっていて、前のルートで明かになった謎が次のルートでは登場キャラにとっても周知の事実になっています。
一本道シナリオといっても建前上は別のルートなので、プレイヤーにとっては「え? なんで君らそのこと知ってるの?」という違和感を植え付ける構成になっているんですよね。
しかもルートによってキャラクターの立ち位置が大きく変わっていたりもするので、「え? なんでお前がそこにいるの?」という感じでプレイヤーの頭を混乱させることもあります。
また序盤はあえて設定を明かさずに物語が進行。その後シナリオが進むごとにキャラや世界の謎が判明していきますが、最後は壮大でかなりぶっ飛んだ世界観になるので驚かされました。
前作『はるくる』もそうですが、このライターさんはプレイヤーを(いい意味で)困惑させることが非常に上手いですね。
ただ終盤の展開は壮大すぎて細かい設定や内容がよくわからないことも。
一読しただけでは理解しにくいところもあるので、クリア後に解説や考察サイトを巡って補完するのが楽しい作品でもあります。
正直なところ「そうはならんやろ」と言いたくなる少々強引な展開も無くはないですが、あまり細かいツッコミをしないのがこのシリーズを楽しむコツかと。
人類と進化
作中では主人公の進がとある能力を獲得していきます。
これはバトルものでよくある個人の能力というわけではなく、現生人類から進化した新たな種として認識されます。すると能力を持たない他の人類からどう扱われるかも問題になってくる。
他作品で言うと貴志祐介の『新世界より』や、『機動戦士ガンダム』のニュータイプに近いものですね。
人間が新たな能力を獲得するのは別にこれまでも普通に行われてきたこと。
例えば我々が今笑えるのは、過去に”笑う”という能力を獲得した人間がいたから。そしてそれを絶やさずに残していたからこそ、今の人間は普通に笑うことができるんですね。あんまり考えたことなかったですが、言われてみれば確かにその通りです。最初に笑った人間は周りから「何こいつキモ…」と思われたかもしれない。
同じように「物語で感動できる」という能力も人類が後天的に獲得したものでしょう。
過去に物語で感動する人間が現れ、その能力を綿々と受け継いできたたからこそ、今の我々は物語で感動することができる。
絵で感動することも、文章で感動することも、映像で感動することも、エロゲで感動することも同じでしょう。誰かがエロゲを生み出し、別の誰かが感動し、それを絶やさずに残そうとした人がいる。それによって今の我々がエロゲで感動することができる。
そう考えるとエロゲひとつとっても人類の進化を感じることができます。言ってみれば我々は進化の一形態なのかも。
せっかく人類が獲得した能力です。
絶やすことなくしっかりと後世に伝えていきたいですね。