エロゲーって何気にタイトルが良く考えられている作品が多くて、名作と呼ばれる作品ほどタイトルを見ただけで作品の方向性がある程度類推できたりします。しかもシンプルであればあるほどいい。個人的に作品の内容をそのまま文章にしたタイトルはあんまり好みではありません。
今回紹介する作品はそんなシンプルイズベストなタイトルが特徴的な『白昼夢の青写真』。
もうタイトルからして何か純文学作品のような雰囲気を醸し出してますね。まるで芥川賞作品みたい。
この作品はタイトルが示すようにゴリゴリのシナリオ重視作品。シナリオゲーメーカー・Laplacianの最大にして最高のヒット作です。
2020年Getchu.com美少女ゲーム大賞総合部門3位、5chベストエロゲ―投票4位。(萌えゲーアワードは不参加)
飛びぬけた評価ではありませんが、この年は『さくレット』に『ドーナドーナ』、『nineゆきいろ』に『サマポケ』など、近年まれに見る豊作の年だったので致し方ないかと。
その代わり批評データベースサイトErogameScapeでは『天ノ少女』と並んで事実上この年のTOP(中央値90)に君臨している名作中の名作です。
物語は時代も舞台も全く違う3つのストーリー(CASE)で始まります。
CASE1は現代の学園、CASE2は中世エリザベス朝のイギリス、CASE3は近未来の千葉が舞台。
全く違う舞台でありながらどこか共通項を感じる物語で、プレイしていくことによってなぜこの3つの物語が必要だったのかがわかる構成になっています。
作品全体のテーマは「『世界』と呼ばれた一人の少女を救う」という、いわゆる”セカイ系”の物語。
テーマとしてはこれまで数多くの作品で繰り返し扱われている割と直球の作品です。ただそこに至るアプローチが緻密に計算された非常に完成度の高い物語となっています。
世界設定はLaplacianの過去作をベースにしていますが、ストーリーのつながりはないのでいきなりこの作品からプレイしても問題はありません。ただ必須ではないですが、Laplacianの前作『未来ラジオと人工鳩』をプレイしておくとCASE3の特殊な世界設定を理解しやすいかも。
またそれほど致命的ではないものの、プレイ前はネタバレに注意してください。
公式サイトは全年齢向けにリニューアルされていますが、正直ちょっと情報を明かし過ぎだと思うので見ないほうが楽しめるかもしれません。
FANZAやげっちゅ等の販売サイトでの紹介量がちょうどいい塩梅ですので、この記事でもそれにならいます。
この作品はシナリオの面白さにステータスを全振りしているので、ヒロインとのイチャラブ要素は少なめ。
そのためシナリオ重視の作品が好きな方、特に主人公がヒロインを救う物語が好きな人にうってつけの作品です。
CASEによってはかなり身につまされたり心が折れそうになる展開もあるため、ある程度心構えをしてプレイするようにしてください。
- 3つの異なる舞台・キャラクターで構成される物語
- 繊細で美麗なグラフィック
- 「世界と呼ばれた少女」の真相

購入ガイド
| タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
|---|---|---|---|
| 白昼夢の青写真 | 8 10 | 2020.9.25 | 易 |
| 白昼夢の青写真 | Switch | 2022.11.17 | 易 |
| 白昼夢の青写真 コレクターズ・ボックス | Switch | 2022.11.17 | 易 |
PCパッケージ版は1種類のみ。
特典としてサントラCDが付きますが、基本的にボーカル曲のショートバージョンしか収録されていません。これサントラと言っていいのか…。
CS版はHシーンを削除する代わりにCGを追加したもの。SwitchとSteamで販売されています。
Switch版は『コレクターズ・ボックス』版も販売されていて、これには設定資料集(約50P)、ドラマCD、未収録&デモトラックCD、原作小説『世界と呼ばれた少女』上下巻が付属。
今から買うならPCパッケージ版を推奨。中古価格は割と高値安定(8000円前後)なので、今でも継続販売されている新品にしましょう。
ダウンロード版(FANZA独占)もありますが、基本的にセール対象にならない(たまにポイント還元セールになるくらい)ですし、+1000円で買えるサントラ付きもパッケ版と同じ仕様らしいのであまりお得感はありません。
何よりパッケ版は箱がリバーシブル仕様になっていて、メチャメチャ美麗なイラストが描かれているためちょっとしたインテリアにもなります。
特典が欲しければSwitch版のコレクター・ボックスが今でも新品で購入可能です。原作小説と設定資料はこれでしか手に入りません。(この小説とは別のノベライズ版が2025年11月29日にスニーカー文庫より刊行予定)
安く済ませたいならSteam版にしましょう。全年齢版になりますが、定価が安い(4800円)うえにたまにセール対象にもなります。
またSteamではサントラ(コンプリート版)もDLCとして分割販売されているので、ボーカルコレクションだけ購入することも可能です。
システム
通常のADVシステムで、使用エンジンはういんどみるのCatSystem2。画面サイズは1280×720。
ダウンロード版はブラウザプレイにも対応しています。
2020年の作品として必要なシステムは備えていて、特に機能的な不満はありません。
オートモードのウエイト時間も文章の長さによって変わる快適仕様です。
インストール後の初回起動時は、タイトル画面を経ずに直で物語が開始するので注意してください。冒頭のシーンは何気に重要なうえに後から見返すことができません。
メッセージウィンドウ周りのUIがプレイするCASEによって変わるのが特徴的。初めはやや戸惑いますが、まるで別作品をプレイしているような感覚になるのがいいですね。
ウインドウにはTwitter投稿ボタンもありますが、初回はアカウントを連携させる必要があります。
全てのキャラの立ち絵には目パチ・口パクが完備されています。目パチが動くのはキャラが喋っていないときのみ。
口パクに関しては、台詞と口の動きが合ってないシーンもたまにありました。口の動くタイミングが合ってなかったり、静かにしゃべっているシーンでも妙に口の動きが大きかったり。これはしょうがないかな…。
私の環境だと場面転換時にプログラムが強制終了してしまうことが頻繁にありました。ザーッとノイズが走るシーンは特に。
画面の瞬間表示と画面演出のカットである程度改善しましたが、これはこれで情緒不足になるかも。
軽くググってみても同様の症状が見当たらないので、非力なPC特有のエラーだったのかもしれません。というかそろそろPC買い換えないとダメですね。
シナリオ

企画及びシナリオライターはLaplacianの代表でもある緒乃ワサビさん。他にHシーンを担当したサブライターが数名。
概要で説明したように物語は3つの「CASE」に分かれていて、
CASE-1は現代の学園を舞台に、非常勤講師の中年男性とその教え子である少女の恋
CASE-2は1600年前後のイギリスを舞台に、演劇の脚本家と貴族の舞台女優の恋
CASE-3は近未来(西暦2061年)の千葉を舞台に、不登校の少年と教育実習の女子大学生の恋
を描いていきます。
時代設定が現在・過去・未来に分かれていますが、CASE-3に関してはあまり近未来感はないかも。ただそのぶん親しみやすい物語ですね。
世界観は過去のLaplacian作品を踏襲していて、
CASE-1が『キミトユメミシ』(2016年発売)
CASE-2は『ニュートンと林檎の樹』(2017年発売)
CASE-3は『未来ラジオと人工鳩』(2018年発売)
と共通しています。まさにこの作品はブランドとしての集大成といえるかも。
各作品とはストーリーのつながりはありませんが、ブランドのファンならニヤッとできる設定です。
この作品はSFものではありますが、序盤はSF設定や物語構造が意図的に隠されています。
始めは何もわからないままストーリーが進んでいくのでプレイヤーを混乱させますが、徐々に物語構造がわかるような構成です。
詳細なSF設定が明かされるのは物語終盤になってから。そのとき初めてすべての物語が繋がります。
そしてSF設定とドラマ性が非常にうまくかみ合っているんですよね。
設定の一つ一つに理由があって、それが後のドラマにつながっていき、終盤になってこの設定でないと成立しない物語であることがわかります。
このストーリーテリングは非常に上手いです。緒乃ワサビさん凄い。
グラフィック

原画は霜降さんと”ぺれっと”さん。
非常に美しくて繊細な画風です。紙に印刷として額縁に入れて飾っても違和感がないくらい美麗なCGもありますね。
イベントCGは全部で118枚。これはヒロイン以外のCGやちょっとした小道具の描写も含みます。
ちなみに公開されているサンプルCGは本編で使われていないCGもあります。
また本編中にはパッケージ絵もイベントCGとして使われます。こういうの意外と珍しいですね。
しかも使われて初めてパッケージ絵に描かれている意味や背景を知ることになるので、プレイ前と後ではパッケージ絵の印象がガラッと変わります。
キャラクター
波多野 凛
CASE-1ヒロイン。家族を亡くし一人で生活しながら学園に通う女子校生。
読書好きで物静かだが芯のある少女。父の遺産があるためお金には不自由していない。
有島 芳
CASE-1主人公。学園で古文を教える非常勤講師。一戸建てで妻と暮らすが夫婦関係は冷え切っている。
かつては小説家を目指していたが、今はその夢も諦め無味乾燥な生活を送る。
オリヴィア・ベリー
CASE-2ヒロイン。没落貴族の娘だが、その美貌で金持ち貴族の男に取り入る。
男の金で劇団を運営し、女が役者になれない時代でありながら自ら男装して舞台に立つ。
ウィル
CASE-2主人公。盲目の父から酒場を受け継ぎ一人で営業する青年。
店の売り上げが少ないため、時折演劇の脚本を書いて糊口をしのいでいる。
桃ノ内 すもも
CASE-3ヒロイン。教育実習で主人公の学園にやってきた女子大生。
おしゃれ好きであか抜けた性格。恋愛経験も豊富で、なおかつ振られたことがない。
飴井 カンナ
CASE-3主人公。学校に行かなくなった不登校児。母親を亡くし父と2人暮らし。
カメラマンだった母親の影響でカメラマンを志す。父とは疎遠で普段はキャンピングカーのおいてあるガレージで寝泊まりしている。
この他にもそれぞれのCASEで様々なキャラクターが登場します。
一部のキャラクターはデザインやボイスがCASEをまたいで共通するので、手塚漫画のスターシステム的な趣がありますね。そもそもヒロインからして赤目に白髪、同じボイスという共通項がありますし。
なによりCASE1の主人公が異色。45歳の既婚男性が主人公の作品とかシナリオゲーではまずありません。抜きゲーならたまにあるかもですが。
おっさんプレイヤーにはある種共感できるものがあるのではないでしょうか。
ボイス
| 神代岬 | |||
| 春乃いろは | 御苑生メイ | ||
| 杉崎亮 | インプレッサ次郎 | 牛蛙キタロウ | 電卓也 |
主人公以外フルボイス。名義はCS版と共通です。
この作品の売りは何といってもすべてのCASEでメインヒロインを演じる神代岬さんの神懸った演技。
落ち着いた女子校生、尊大な女貴族、明るい女子大生という全く異なるキャラを見事に演じ分けています。これは凄すぎる!
神代さんといえばどっしりと腰を据えたクールなキャラが多かったと思うのですが、すもものような垢ぬけたキャラの演技もいいですね。
神代さん以外も兼ね役で出演されている方が多いのも特徴的。
特にサブヒロイン役で出ている春乃いろはさんは全く気付きませんでした。というかキャストクレジットを見た後でも同じ人が演じているとは信じられない。
ちなみにですが2023年には本編の後日談を描いた朗読劇『白昼夢の青写真 CASE-_ 誰が為のIHATOV』が上演されました。
出演はヒロイン役が浅川悠さん、サブヒロイン役に三宅麻理恵さん、主人公は福島潤さんとなっています。
こちらも素晴らしい演技だったみたいですね。私観てないんですがソフト化とかしないのかなぁ。
BGM
BGM作曲はサウンドディレクターのMuu Doggさんを筆頭に、xelferyさん、かしこさん、momoさん、Ram4.MarkIIさん、上原一之龍さん。
なぜか音楽鑑賞モードが搭載されていないのが残念です。ほんとなんで?
その代わりボーカル曲を含めた『COMPLETE SOUND COLLECTION』がYouTubeの公式チャンネルで無料公開されていますし、各種音楽サブスクでも聴くことができます。
サントラに収録されているのはボーカル曲とそのインストVerを除くと66曲。それぞれのCASEで別の曲が使われているので、別作品感があっていいですね。
サントラは収録順も凝っていて、上から順に曲名の頭文字をつなげるといわゆる”縦読み”になっています。しかもその内容がヒロインからのメッセージになっているので、プレイ後に見ると泣けてくるんですよ…。
主題歌
| タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 歌 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 「クラムボン」 | 緒乃ワサビ | momo | momo | yuki | OP |
| 「冷たい壁のむこうに」 | 緒乃ワサビ | momo | momo | yuki | OP |
| 「恋するキリギリス」 | 緒乃ワサビ | momo | momo | yuki | OP |
| 「Into Gray」 | 緒乃ワサビ | momo | momo | yuki | OP |
| 「ブルカニロ 」 | 緒乃ワサビ | 小高光太郎 UiNA | momo | yuki | ED |
| 「夜明けの片隅で」 | 緒乃ワサビ | 上原一之龍 | かしこ | yuki | ED |
| 「夏のタイムカプセル」 | 緒乃ワサビ | xelfery | Muu Dogg | yuki | ED |
| 「凪いだ海のように」 | 緒乃ワサビ | momo | momo | yuki | ED |
各CASEにそれぞれ独自のOP・ED曲があります。歌っているのはすべてyukiさん。
一部の曲はLaplacianの過去作からのアレンジ曲になっています。
個人的お気に入り曲はCASE-3OP曲の「恋するキリギリス」。キャッチーなサビのリズムがCASE-3におけるひと夏の思い出を彷彿とさせます。歌詞も思いっきり恋する乙女の心情をつづったもの。恋愛強者だったすももがカンナと出会うことで初めて感じた戸惑いと成長を描く、青春恋愛ドラマのような内容です。
『Into Gray』は最初モノローグのような曲調でしっとりさせたと思ったら、急に勢いのある曲が始まるというインパクトが印象的。歌詞は物語後半の内容を示唆しているので、プレイ後に改めて聴くと泣けてきます。
ムービー
オープニングムービーも各CASEで別々のものが使われます。
冒頭のデジタリックな演出以外はそれぞれのCASEで雰囲気の全く異なる構成。
やや陰鬱なCASE-1、人物紹介を重視したCASE-2、ポップな青春アニメのようなCASE-3、それぞれ特徴的ですね。
一度見たムービーはシーン鑑賞モードから見返すことができます。
イベント絵だけでなく一部アニメーションも使われ、物語の内容をなぞるような構成になっていますね。もちろん直接的な表現ではないので、プレイ後に見ると「ここはあのシーンを暗示していたのか」とわかるようになっています。
攻略
序盤は三つのCASEがランダムに始まります。
その後中盤でどのCASEを見るかを選ばせる構成です。
どの順番で見てもほぼ変わらないので、特に推奨攻略順はありません。
強いて言うなら直前まで見ていたCASEと同じものを選べば、少なくとも一つは連続した物語を楽しめる、というくらいでしょうか。
他の二つは構成上、前半と後半でプレイする時間が空いてしまうのが難点といえば難点かも。
総プレイ時間はゆっくりやって25~30時間。適度な長さなのでダレずに進めることができます。
Hシーン
シーン鑑賞モードに登録されるHシーンは17個。そのうち5個はクリア後のおまけシナリオです。
基本的にはヒロインとのラブラブなHで特殊なプレイはありません。足でするのは特殊なプレイではないですよね? また1回だけサブヒロインとの凌辱めいたHがあります。
おまけシナリオのHはちょっとギャグテイストのものもありますね。結構笑わせてもらいました。
胸の大きさはオリヴィア>すもも>凛、といった感じ。
凛は立ち絵だと控えめですが、脱ぐと多少はありますね。あと何気に黒い下着がエロいです。
オリヴィアやすももは乳輪がちょっと大きめでぷっくり膨れているのもなんとなく母性を感じます。あんまり極端な感じでもないですが。
ちなみに3人のヒロインのうち2人は非処女です。今どきのエロゲーでは珍しいですが、ある意味リアリティはありますね。
主人公は童貞であることが多い(既婚者の有島は除く)ので、経験豊富なヒロインにリードされる展開が多いのも特徴的。こういうのもたまにはいいですね。
感想

この作品はErogameScapeをはじめ各種感想サイトで絶賛されている超有名作です。なので自分がプレイするときはかなりハードルが上がった状態だったのですが、物語の内容はもちろん世界設定やシナリオ構造も予想や期待を軽く超えてきました。
エロゲ業界って良くも悪くも成熟していて、ある程度のパターンは出尽くしたと思っていたのですが、2020年になってもこれだけ独創的な物語が生まれる余地があったんですね。
これからこの作品をプレイする人も、あらすじやキャラ紹介だけを読むと「はは~ん、これはああいう物語だな」と予想すると思いますが、多分それハズレです(笑
物語のネタバレには触れないつもりですが、作品のキーワードのようなものについて語っているので、まっさらな状態でプレイしたい方は以下の感想を読み飛ばしてください。
3つの物語から繋がるセカイ系
もちろん独創的といっても100%新しい物語というわけではありません。
「これは、世界と呼ばれた一人の少女の物語。」
というキャッチコピーからもなんとなくわかるように、ヒロインの決断が世界の運命を左右する、いわゆる”セカイ系”というやつですね。私こういう話大好きです。
美少女ゲーム業界で言えばANIPLEX.EXEの『ATRI』(2020年)や、オーガストの『穢翼のユースティア』(2011年)に近い感じでしょうか。
また『白昼夢の青写真』ではまずプレイヤーに異なる3つの物語を見せるという特殊な構成になっています。こういう物語構成は同人ゲームの『ファタモルガーナの館』(2012年)でもありましたが、エロゲーではほとんどないですね。相当シナリオに自信がないとできない構成なのではないでしょうか。
なので3つの物語がそれぞれ1本の作品として売り出してもいいんじゃないかと思うくらい読みごたえがあります。物凄くインパクトがあるわけではないですが、徐々に心にくるものがある物語です。主人公や世界設定がばらけているのでプレイヤーそれぞれに好みのシナリオがあるのではないかと。
自分は年代が近いということもあってCASE-1の有島に感情移入してしまいました。
そしてその3つの物語がやがて1つに、というより1人に収束していきます。
この収束のさせ方も実に上手い。
一気にドンッとネタばらしをするのではなく、少しずつ真相を小出しにしていって、結果的に一つにまとまっているという感じです。
それぞれの物語に思いが込められていて、結末にも納得がいくんですよね。よく国語の授業でありそうな「このときの作者の気持ちを答えなさい」という問題をエロゲーでやっているような感覚になりました。(もちろんいい意味で)
過酷すぎるヒロインの運命
この作品は全体的にやや陰鬱というかあまり明るい雰囲気ではないことが多いのですが、とあるルートではかなり心が折れるような展開になります。これが本当に辛かった。
ただすべての人物が大義のために行動した結果なので、誰も責められないのがなおのこと辛い。この作品って悪人があんまりいないんですよね。立場が変われば主人公も同じことをしていたかもしれない。だからこそやり場のない鬱屈がたまります。
それに関連して、記憶と人格の関係も物語のテーマの一つになっています。
記憶を失う主人公やヒロインというのは物語の世界では割と定番だったりしますが、実際人間の人格ってそれまでの記憶から成り立ってると考えると、果たして記憶を失った人間ってそれまでと同一の人格とみていいのかどうか微妙なところですよね。
一般的な作品の場合、「俺のことを忘れてしまっても俺はお前のことを愛してるよ」みたいなことになるのがある種定番なんですが、それってうがった見方をすると「俺が愛してるのはお前の体だ」と言ってるのと同じなんじゃ?と思ってしまいます。
逆に自分がすべてを忘れている状態で見知らぬ異性に「あなたのことを愛してる」とか言わるのってちょっと怖いですし。
鴨志田一のラノベ『青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない』では、学校でいじめられたストレスから記憶を失った妹・花楓が2年間「かえで」として生活する話が描かれますが、これもラストはかなり切ない物語でした。
『白昼夢~』でもそれを彷彿とさせ、思わず「人格とは何か」「自我とは何か」を考えてしまう、ちょっと哲学的な要素もある作品だと思います。
生物は何のために進化するのか
この作品の重要なキーワードのひとつになっているのが「進化の袋小路」。
進化の行き過ぎた種はやがて滅びに向かう、といった感じでしょうか。
私の世代だとTV版新世紀エヴァンゲリオン第拾参話「使徒、侵入」における、
進化の終着地点は自滅。死、そのものだ。
というゲンドウの台詞が思い出されます。あれ最初聞いたときはちょっと意味が分からなかったんですが、改めて考えると深い言葉ですね。
広い意味で言えば、現実世界の先進国が抱える深刻な少子化問題もこの一旦かもしれません。
1960年代に行われた有名な実験「ユニバース251」(通称「楽園実験」)もそうですね。
環境に適応し天敵から身を守るために進化してきたのに、環境を支配し天敵がいなくなると数が増えまくると思いきや逆に減って滅んでしまう。なんとも皮肉というか、生態系の目に見えないバランサーのようなものを感じてしまいます。
いったい何のために長い時間をかけて進化してきたのかわからなくなりますね。
人類が種として存続していくためには適度なストレスや制限が必要だという考え方も、言われてみれば一理あります。でもとりあえず自分はストレスのないのんびりした人生がいいですねぇ。平和な中層民としてダラダラしたい(笑
まぁこんな人間だから自分の遺伝子残せないんだろうなぁ…。
- 「ユニバース25」 アメリカの行動学者ジョン・B・カルフーンによって行われた実験。十分なエサと水が用意された空間にオス・メス4匹ずつのマウスを住まわせると最初は倍々ゲームで数を増やしていったが、やがて増加数が減っていき、2200匹をピークに個体数が減少。交尾に興味を示す個体が激減し、最終的に絶滅してしまった。ただしこの実験は正規の科学誌で発表されたものではなく、今に至るまで実験そのものの再現性もない。 ↩︎

