ロケット開発をテーマにしたチュアブルソフトによる10周年記念作品、『あの晴れわたる空より高く』。略称は「はれたか」。
どちらかというと萌えゲーを多く制作してきたチュアブルソフトですが、今作は2014年萌えゲーアワードにて準大賞及びシナリオ賞を受賞するほどシナリオを重視した作品となっています。
物語はロケット研究が盛んな島(言ってみれば種子島みたいなとこ)に暮らす主人公が弱小ロケット部に入部し、4人の仲間ともにロケットを製作していく学園青春ストーリー。
ある程度リアリティを追求していて、ロケットに関する様々な専門用語が出てくるので勉強になります。プレイすれば固体ロケットエンジンと液体ロケットエンジンの違いくらい誰でも簡単に説明できるようになるでしょう。
学園生活という限られた貴重な時間を仲間と共に全てロケットに費やし、時に意見を対立させ、何度も失敗を重ねながら夢に向かって一気に駆け抜けていく、そんなまぶしいくらいの青春物語を堪能できる作品です。
- ロケット制作をテーマにした青春部活物語
- ロケットに関する雑学が豊富
- 何度も試行錯誤しながら完成に近付けていくモノづくりの楽しさ
ブランド | チュアブルソフト |
ジャンル | 青春ロケットADV |
初回発売日 | 2014.9.26 |
DL版価格 | 3,800円 |
シナリオ | 範乃秋晴 草壁よしお |
原画 | ちり まんごープリン |
おすすめ度 | 85 |
シナリオ傾向 |
あらすじ
たった 5人で始めたロケット開発。 予算も設備も技術も足りず、多くの人が 「不可能だ」 と口にした。
公式サイトより
だけど俺は……俺たちは、誰一人として諦めなかった――
本土からはるか南、俺が住むこの天ノ島では宇宙航空研究が盛んだ。
天ノ島学園の宇宙航空学科には、未来のロケット技術者を目指して毎年、全国から多くの学生たちが集まってくる。
(中略)
高度100km―― あの晴れわたる空より高く――
そこに夢の結末があると信じて、俺たちは今日も走り続ける。
作品リスト
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
あの晴れわたる空より高く | Vista 7 8 | 2014.9.26 | 並 |
いまのところ関連作品は発売されておらず、パッケージ版はこれひとつのみで同梱特典としてトレカが付きます。初回版通常版の違いはありません。
パッケージ版はある程度の流通量はあるので問題なく手に入るかと思いますが、DL版を推奨。当初はフルプライスでしたが現在は価格改定で安くなってる上に、定期的に半額セールの対象にもなっている太っ腹対応です。そんなに古い作品でもないのに、セール時なら税込2000円以下で買える超お得ソフト! これは買うしか!!
システム
画面下に文章が表示されるオーソドックスなAVGスタイルです。画面サイズは1280×720のワイド画面で、フルスクリーン時もアスペクト比が固定されます。
専門用語が多いため用語解説機能も備えていて、文章中に初出の用語が出てくると単語の色が変わり、それをクリックすると用語解説に飛びます。
その他必要な機能はあらかた揃っていますが、既読スキップ時に場面転換すると既読文章であっても何故かスキップが一旦停止します。これは結構めんどいですね。
また、既読エピソードを丸ごとスキップするボタンもあるのですが、たまに未読のエピソードもスキップできたりするので要注意です。しかもAUTOモードのボタンと場所が近いので間違えてクリックしやすいんですよね。一応確認メッセージは出ますが。
エクストラモードではCG・音楽・ムービー・シーン回想を見ることができますが、CG回想とシーン回想は一体化していて、全てのイベントCGに対してそのCGが使われたシーン(もちろんHシーンも含む)を見ることができます。
シナリオ
メインのシナリオライターは範乃秋晴さん サブで草壁よしおさん。
弱小ロケット部”びゃっこ”が廃部の危機を免れるため大会優勝を目指し、最終的には宇宙まで飛ぶロケットを作るという物語は王道的で、良い意味で捻りのないストレートな青春学園モノのストーリーになっています。
ロケットがメインテーマだけあって技術的な話は結構本格的。素人には難解な専門用語がたくさん出てきますが、主人公も素人なのでその都度他の部員が簡単な図 解つきで解説してくれます。ロケットの飛ぶ原理のような基本的なところから、ロケットエンジンの仕組み、燃料充填の仕方、RLG(リングレーザージャイロ)の説明など多種多様。ちなみに図説つきの解説はシーン回想でも見ることができるので復習もバッチリ。
学生だけでロケットを作ることが できるというのはやや荒唐無稽な感じがしますが、この世界のロケット技術レベルは現実よりも少し進んでいて、ちょうど現実の最新技術がこの世界の学生たちにも扱えるほどの”古い”技術になっています。まぁそれでも莫大な金がかかるので、作中では宇宙開発機関である「AXIP」が技術生育成のために全面バックアップしてるという設定です。
グラフィック
メインキャラのデザインは”ちり”さん、サブキャラは”まんごープリン”さん、SD原画はオレンジゼリーさん。
どのキャラもやや頭身が低く、キャピキャピッとした雰囲気の萌えゲーチックなキャラデザインですね。あと、夏帆以外は胸も大きめ。そんなに大きくはないという設定のほのかでさえ結構なボリュームがあり、しかも制服が胸をかなり強調するデザインでいわゆる”乳袋”状態になってます。さらに私服に関しては露出度高めで、この辺はいかにもエロゲーっぽい。
そしてある意味キャラクターよりも力入ってると思われるのがロケットの描写。特にエンジンやノズル周りは相当細かく書き込まれていてリアリティがありますし、燃焼試験の描写は大迫力でそれだけでも一見の価値があります。
それに対して一般的な背景描写は簡素なもので、ちょっと手を抜いちゃったのかなと思わなくもない。
キャラクター
暁 有佐
天の島学園2年生でロケット部”びゃっこ”の部長。名前の元ネタは金星探査機”あかつき”。
気の強いツッコミ役で、「死んでもロケットを打ち上げる」という決意と共に部員をまとめる。
導木 ほのか
イタズラ好きの1年生。名前の元ネタは順天頂衛星”みちびき”。
主人公の幼馴染で高度なボケでからかってばかりいる。
黎明 夏帆
感情を表に出さず口数の少ない2年生。元ネタは小型技術実証衛星”れいめい”。
名門ロケット部”ARC”に所属するも、後に”びゃっこ”に移籍。唯一の貧乳。
伊吹 那津奈
有佐の幼馴染である3年生。元ネタは温室効果ガス観測技術衛星”いぶき”。
ロケット好きのお嬢様で、電波な性格のため一般人との会話が難しい。
隼 乙矢
本編主人公の2年生。元ネタは言わずと知れた小惑星探査機”はやぶさ”。
ロケットに関しては完全に素人の一般人代表。
その他のキャラは主人公の親友・大地、びゃっこのライバル部であるARCの部長・高乃酉、宇宙研会長・曙、部のアドバイザー・大澄といったように、ほとんどのキャラの名前が人工衛星や宇宙探査機を元ネタにしています。
キャラの性格は強気だったり無口だったり電波だったりと、割と萌えゲー等でよくある感じの良くも悪くも極端なキャラクター設定で、正直この辺は好みの分かれるとこかもしれません。
ボイス
結衣菜(有佐) | 秋野花(ほのか) | あじ秋刀魚(夏帆) | 香澄りょう(那津奈) | |
藤森ゆき奈 | 上田朱音 | 有栖川みや美 | 西乃ころね | 橘まお |
陸奥出流(乙矢) |
主人公以外フルボイス。場面によっては主人公にも声がつきます。
面子を見ると若手から中堅どころのキャスティングといった感じでしょうか。場合によっては正直ちょっと拙い感じがするところも無くは無いですが、十分許容範囲です。舌をかみそうな専門用語がたくさん出てくるのでちょっと声優さんが気の毒に思わなくも無い(笑
BGM
音楽担当はけんせいさん。曲数はボーカル曲を除いて全22曲。
印象的なのは、やはりロケット打ち上げのシーンでも使われる「Prove your wisdom!」や「Flight to tomorrow」ですね。前向きで勢いのある曲になっています。
シリアスなシーンで使われる「Liberty from sadness」はイントロからの入りが絶妙。
「Starry prayer」は深遠な宇宙を感じさせる神秘的な曲。天体観測がしたくなります。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「ロケット☆ライド」 | SHO(キセノンP) | SHO(キセノンP) | Duca | OP |
「Over the Skyblue」 | kskb440 Kato.yoshihal | Taishi | みとせのりこ | ED |
「Into the Cosmos」 | kskb440 Kato.yoshihal | Taishi | Rita | ED |
ボーカル曲は全部で3曲。どれもロケットや宇宙をテーマにした曲になっています。
中でも印象的なのがOP曲「ロケット☆ライド」。ファミコン音源のようなイントロから始まり、思わず走り出したくなるような勢いのある曲ですね。特に注目すべきはその歌詞。普通に聴いてるだけでは気付きにくいのですが、よく聴くと歌詞の至る所に日本の人工衛星や惑星探査機の名前が散りばめられています。決して無理やりではなく自然に配置してるのが凄い。
「空を見上げるひまわり(気象衛星) 望み(火星探査機)を胸に抱きしめて
暁(金星探査機)を目指して歩き出す 夜を照らす月明かり(赤外線天文衛星)
輝き(オーロラ観測衛星)は幼い日の夢 瞳(超小型衛星PRISM)にはまだ眩しく映る」
作詞作曲は主にニコニコ動画等で活躍されているSHO(キセノンP)さんという方で、他にも宇宙関係の曲をたくさん作っているみたい。
ムービー
ムービー制作はyu-yuさん。OPムービーはテンポの良い曲に合わせた疾走感あふれる作りになっています。というか実際キャラが走ってます。
内容も単にイベント絵を流すだけではなくて、2DのCGを加工してを3Dキャラのような動きのあるムービーになっているのが特徴的。曲のイントロに合わせてヒロインたちがゆっくりと顔を上げていく演出は、これから始まる物語を想起させると共にロケット打ち上げに対する決意を窺わせる見事な作り。
攻略
選択肢は序盤に2箇所だけ。ヒロインの名前を選ぶだけなので迷うことはありません。
おすすめ攻略順は、ほのか→夏帆→那津→有佐。話の流れ的に有佐は最後にしたほうが良いかと思います。
総プレイ時間はゆっくりやって30~40時間ほど。初回プレイに15~20時間、2回目以降はスキップ多用して6~7時間といったところ。私は技術的な説明をがっつり読んでたので時間がかかりました。他のレビューサイト見てたら20~30時間で終わる人が多いみたい。みんな速いですね…。
Hシーン
Hシーンは各キャラ4~5回ほど。そのうち1~2回は個別ルートクリア後に現れる追加Hです。シーン回想モードではCGごとに分割されるので回想の数はこれより多くなります。
シナリオだけでなく、Hにも力を入れているのがこの作品の特徴で、Hシーンは結構エロい。どのヒロインも喘ぎまくり&叫びまくり&卑語言いまくりで、ここだけ見ると抜きゲーとしか思えません。
一応シナリオにも絡んでいて、Hをきっかけにしてロケットの問題点を解決するアイディアを閃いたりします。ただまぁ1度や2度ならともかく、こう何回もHで解決策を思い付かれると、正直「またこのパターンか」と思わなくも無いですね・・・。
感想
「ウォーターカーテン散水開始」
「フライトモードオン」
「SRB駆動用電池起動」
「全システム準備完了」
「メインエンジンスタート」
「SRB点火! リフトオフ!!」
作中の発射シーンはたぶんH2Aロケットの発射シーンを参考にしてると思いますが、やはり何度見てもロケットの打ち上げシーケンスというのは興奮しますね。ロケットというのは全ての男の子の憧れ。
エロゲに限らずロケットを扱った作品は数あれど、これほどロケットに対する愛や技術者に対するリスペクトにあふれた作品はそうそうありません。単にライターの知識自慢に終わることなく、プレイヤーにロケット開発の素晴らしさや面白さを伝えようとする意思をひしひしと感じます。
登場人物たちは誰も彼もロケットに対して一生懸命で、実験失敗するたびにみんなで失敗原因を考え、時に意見の違いから喧嘩になり、大人の職人たちから熟練の技術を継承し、何度も試行錯誤を繰り返して1つずつ問題を乗り越えていく部員たちは正に技術系学生の鑑。
ストーリー後半は多少ご都合主義というか予定調和的な展開もありますが、それを補って余りある爽やかな感動は数ある学園青春物語の中でも屈指の出来。
技術職を目指す若い学生さんたちにも是非プレイしていただきたい作品です。
惜しむらくは開発元のチュアブルソフトがメディアミックスに消極的で、アニメ化はおろかコミカライズやコンシューマ化も果たせなかった(その後チュアブルソフトは解散)ことでしょうか。メッチャいい作品なのにエロゲファン以外の知名度が低すぎる…。