2000年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『Quartett!』(Littlewitch 2004年)

プロの音楽家を目指す学生たちの夢と葛藤を描く、Littlewitch制作の『Quartett!』。クラシック音楽(弦楽四重奏)を扱った珍しい作品です。

この作品を語る上でまず紹介しなければならないのは「フローティング・フレーム・ディレクター(FFD)」と呼ばれる特徴的なシステム。
吹き出しのセリフとCGの見せ方を上手く使って漫画のように細かい動きや心理描写を表現する演出は、一般的なギャルゲーに慣れた者には驚愕のシステムです。

大変な労力が必要になるシステムなので、さすがにシナリオの方はかなり短くなっています。
もちろんそれで内容がおざなりになるということはなく、むしろ短いからこそ極めて濃密に凝縮されていて、音楽を通じた仲間との絆を実に上手く描いています。プレイ後は思わずバイオリンでも初めてみたくなる人もいるんじゃないかと。

奇をてらった展開ではないものの、爽やかな感動が味わえる青春音楽ストーリーを独創的なシステムと共に是非ご堪能ください。

  • 音楽家の卵たちが織りなす青春物語
  • 漫画のような演出が可能なFFDシステム
  • 弦楽四重奏(カルテット)が奏でるクラシカルな楽曲
ブランドリトルウィッチ
ジャンルFFDアドベンチャーゲーム
初回発売日2004.4.23
DL版価格4,180円
シナリオ飯田和彦
原画大槍葦人
おすすめ度80
シナリオ傾向

あらすじ

コンクール開催まで、あと84日――。
3月17日、音楽祭のファイナルとして『マグノリア・カルテット・コンクール』は開催される。
全国から選ばれた24組96名の若者たちが腕を競い、優勝者には大きな名誉と成功への切符が約束されるのだ。
若者たちは、それぞれの夢や願いを抱いてコンクールを目指す。
かつての天才少女『シャルロット・フランシア』
陽気なムードメーカー『ユニ・アルジャーノ』
物静かな優しい少女『李・淑花』
主人公『フィル・ユンハース』
時にはぶつかり合い、悩みながらも、彼と彼女は、音楽から生まれたほんの小さな絆を信じて――。

公式サイトより

作品リスト

タイトル対応OS発売日入手難度
Quartett!98 2000 Me XP2004.4.23
Quartett! ~THE STAGE OF LOVE~PS22006.9.28
リトルウィッチファンディスク
~ちいさな魔女の贈りもの~
98 2000 Me XP2006.4.28やや難
Quartett! スタンダードエディション2000 XP2006.12.22

CD版には初回特典としてサントラCD(数曲のみ)と原画集「GIRLS」が付属します。
ちなみにこの原画集、凄く良いものなんですよ。普通初回特典の冊子というとオマケ程度のものが多いんですが、この作品ではオールカラー100Pの大ボリューム。ありがちなスタッフコメントやゲストイラストのない、真面目(?)な原画集となっています。

PS2版は特にシナリオ等の追加はせず、フルボイス化しただけのもの。
「~ちいさな魔女の贈りもの」はLittlewitch3作品のファンディスク。Quartett!のショートストーリーが3本収録されていますが、流通量がやや少なめ。
「スタンダードエディション」はDVDトールケースサイズの廉価版。内容はCD版と同じ。

残念ながら制作元であるLittlewitchが活動停止となってしまったので新品を買うのは難しいのですが、今のところ廉価版はある程度手に入りやすいかと思います。でも前述のように初回特典が素晴らしいのでCD版もお薦め中古ショップで投げ売り価格になってると思いますが、今となっては古いソフトなので多少見つかりにくいかも。

システム

この作品においてまずこの説明をしなければ始まらない、漫画のような見せ方を可能にしたリトルウィッチ脅威のメカニズム、「フローティング・フレーム・ディレクター(FFD)」システム。他のADVとは違い、いわゆる”地の文”がなく、漫画と同じように絵と台詞のみで物語が進行します。
Littlewitchの前作「白詰草話」でも使われたシステムですが、さらにブラッシュアップされています。

こ のシステムはただ単に漫画的なカットを表示するだけではありません。基本的な流れとしては、背景→登場人物のカット→吹き出し→台詞といった順番で表示し、さらにちょうどプレイヤーが目で追いかけるように表示タイミングを調整することにより、非常に読みやすくて臨場感のある演出になっています。
これは言葉で説明しても伝わらないと思うので、是非体験版をプレイしていただきたいところ。

文字の表示まで演出の一環なので、1ページ分表示し終わるまでページを進める左クリックを受け付けません。
その代わり、表示の途中であっても任意のタイミングでバックログやセーブ画面等を開くことは出来るので、操作性は非常に良いですね。システムメニューも大きなアイコンで表示されるので、とてもオシャレで直感的。

バックログに表示されるのは台詞のみですが、ちゃんと誰の台詞かどうかも表示されます。ロード再開後もログが保存される上に、全てのログが消えずに残るので、たとえエンディング直前であってもOPからのログを辿ることが出来ます。

オートモードの速度は、1倍・2倍・4倍・8倍・16倍・32倍から選ぶことができ、さらに設定により表示スピードや待ち時間を細かく調整することが出来ます。まぁこれは変にいじらず、1倍オートモードで進めるのがベストかと。32倍とか速過ぎてほとんど読めないですし。
これとは別に既読スキップがありますが、これはさらに高速。OPからEDまでフルスキップするとわずか数分で終了します。

画面サイズは800×600。初回版は毎回起動時にディスクが必要ですが、公式サイトのパッチを当てることによってディスクレス起動することが出来るようになります。

シナリオ

脚本は飯田和彦さん。後にミステリADV『カルタグラ』(innocentGray)のシナリオを担当される方ですが、それとは全く違う青春ストーリーです。とても同じ人が書いてるとは思えない…。

ストーリーはヨーロッパ(多分ドイツかオーストリア辺り)にあるマグノリア音楽院にバイオリン職人の主人公が編入し、共にコンクールを目指す3人のカルテットメンバーとの交流を描く、ある意味王道の物語。
序盤から中盤までの共通ルートではコミカルなイベントをはさみつつ仲間との絆を深め、終盤の個別ルートではそれぞれのヒロインの悩みに向き合っていくという、良い意味でシンプルな構成です。

背景が古い町並みなので、初めは時代設定を結構昔の話なのかと勝手に思ってましたが、途中でいきなり携帯電話が出てきてビビりました(笑
普通に現代が舞台だったんですね。

凝りすぎたシステムのためか、シナリオのボリュームはかなり短め。ゲーム中の1日あたりのシナリオ量も少ないので、良くも悪くもサクサクとテンポ良く進み、1ルート3~4時間ほどで終わります。まぁこのシステムで何十時間の作品を作るのはさすがに酷でしょうね。

グラフィック

原画はリトルウィッチの代表でもある大槍葦人さん。ファンでなくとも誰が描いたか一発でわかるほど他にはない独特のタッチで、非常に美しい絵をかかれる方です。この人の画力はエロゲ界の至宝。
枚数が多いので全てが細かく書き込まれているわけではないのですが、キャラの動きや感情が上手く表現された躍動感のある絵が多いですね。

彩色も漫画のカラー口絵みたいに筆で塗ったような感じで、アナログ感が上手く出ています。というか多分彩色した原画をそのまま取り込んでいるんでしょうね。

ギャ ラリーモードで見ることのできるイベント絵は大小あわせてなんと180枚! さすがに全てフルサイズというわけではないのですが、それでも膨大な量です。 この作品ではいわゆる立ち絵がなく、基本的にイベント絵と顔をアップにしたコマでゲームが進むので、これだけのイベント絵があってもわずか数時間のプレイ で使い切ってしまいます。

キャラクター

シャルロット・フランシア
かつては神童と呼ばれたほどの実力を持つ、カルテットの実質的なリーダー。第1バイオリン担当。
身長が低く見た目はロリっ子だが、実は最も年上で気が強い。

ユニ・アルジャーノ
陽気で明るいイタリア少女。ヴィオラ担当。
双子の妹のユニがいて、見た目はそっくりだが性格は正反対。

リ・スーファ(李 淑花)
メガネをかけた口数の少ない中国系少女。チェロ担当。
黒髪&巨乳の正統派美少女だが、設定は最も重い。

フィル・ユンハース
マグノリア音楽院に編入することになる主人公。第2バイオリン担当。
お調子者ではあるが、バイオリンの腕は確か。

ちなみにこの作品ではキャラの年齢が二十歳前後とはっきり設定されていて、普通に飲酒もしています。いやまぁ他のエロゲーも18歳以上ではあるんですけど(笑

このほかのサブキャラクターは、ライバルカルテットのメイ、シニーナ、ジゼル、ハンス、音楽院の講師であるクラリサ、かつてのカルテットメンバーだったソフィなど、どのキャラも非常に魅力的。

特にユニの双子の妹で自他共に認める天才であるメイがカッコ良すぎる! 何でこの子のルートがないんだ畜生!
「お前みたいな野郎に舐められるほどわたしの仲間は安くねえぞ!
 とっととケツまくって帰りやがれ!」
「いいか?わたしはメイ・アルジャーノだぜ?
 この程度のチャンスこの先いくらでも転がってるわ!」

きゃー!!ステキ!!抱いて!!!

ボイス

PC版にボイスはありません。
参考までにPS2版のキャストは次の通り

清水愛 (シャル)新谷良子 (ユニ)生天目仁美(スーファ)
広橋涼池澤春菜沢城みゆき浅川悠
友永朱音浅野真澄
櫻井孝宏(フィル)下野紘緑川光井上和彦

BGM

BGMの作曲はhosplugの細井聡司さん。ボーカル曲を除いた曲数は39曲。
作品の雰囲気に合わせて弦楽器やピアノを使った曲が多いですね。曲の一部は実際の楽器を使って演奏した”生音”で、演奏するのはバイオリニストの竹内純さん率いる竹内ストリングス。
音楽がテーマの作品だけ合って、非常にクオリティの高い曲が揃っています。これは是非サントラも買うべき。(プレミア価格になってますが・・・)

お気に入りはなんといってもオリジナルの弦楽四重奏曲『咲き誇る季節』。作中での名演出も相まって、これを聴くだけで作中での演奏シーンが思い出されてゾクゾクッとします。4人で演奏する通常バージョンと8人で演奏するDouble-quartettバージョン、さらにピアノも加えたバージョンの3曲があります。

作中での課題曲である『Set Peace』も素晴らしい。本編中ではなかなか曲の最後まで聴くことはないでしょうから、是非音楽モードで最後まで聴いてください。鳥肌が立つこと請け合いです。
ちなみに序盤の練習シーンで流れるときは、ちゃんと”ちょっと下手に”演奏されます。逆に凄いですね。

この他にも開始直後に流れる実質的なOP曲『das Lamm Gottes』、緊迫したシーンで使われる『Discovery』、日常曲の『レースの日傘』、どこかコミカルな曲調の『おもちゃの家』などなど、良曲を挙げだしたらキリがありません。

オ リジナル曲以外にもクラシック曲として、パガニーニの『奇想曲9番』、モーツアルトの弦楽四重奏曲『第15番ニ短調K421』『第17番ロ短調K458』 、シモネッティの『マドリガル』、ラフマニノフの『ボカリーズ』、エルガーの『愛のあいさつ』が使われています。なんというか、選曲が渋いですね。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「ランピン’」沢田あづき細井聡史中原涼挿入歌
「木漏れ日」中原涼細井聡史中原涼ED
「ツブオト」中原涼細井聡史中原涼ED
「虹の彼方へ」中原涼細井聡史中原涼ED

ボーカル曲を歌うのは中原涼(すずか)さん。
メインテーマ兼挿入歌の「ランピン’」は良い曲なんですが作中ではほんのちょっとしか使われないのでもったいないですね。
シャルEDで使われる「木漏れ日」は劇中曲「咲き誇る季節」のボーカルアレンジ。エンディングにこの曲を持ってくるのは卑怯過ぎる!(褒め言葉)

ムービー

この作品にはいわゆるOPムービーはありません。
EDムービー制作はWINFANWARKS。このEDはムービーファイルを再生するのではなく、FDDのシステムをそのまま使ってムービーのように流す形にしています。そのためムービー中でもバックログをみたりセーブファイルを開いたりも出来ます。

攻略

中盤までの選択肢により終盤の個別ルートに分岐します。わかりやすい選択肢が多く、”前の選択肢に戻る”機能もあるので、ほぼ狙ったルートに行くことが出来ると思います
推奨攻略順は、ユニ→スーファ→シャル。3人目のエピローグの後にグランドエンドとも言える”Finale”がシームレスに流れますが、シャルルートからが一番自然な繋がりになると思います。

総プレイ時間は1倍オートモードでわずか5~6時間ほど。フルプライスのシナリオゲーの中では最も短いのではないでしょうか。

Hシーン

個別ルートにて各キャラ2回ずつ、それとは別にサブキャラに2回で合計8回。行為自体はシンプルで短め。まぁ使えるか使えないかで言えば使えない人のほうが多いんじゃないでしょうか。

Hシーンでは通常の漫画的演出ではなく、イベント絵をアップで上下左右に動かしながら地の文が任意の位置に表示されます。
胸の大きさは大槍さんらしく小さめ。一番胸の大きい設定のスーファでも他の作品だと普通乳くらいの大きさです。

感想

「楽器やってる女の子」って凄く良くないですか? 別にエロい意味ではなく。
現実にも駅とかで楽器担いでる制服姿の女の子をたまに見かけますが、なんというか眩しいくらいの青春のオーラを感じます。
漫画『のだめカンタービレ』や『四月は君の嘘』なんかもそうですが、音楽に打ち込んでるキャラってどこか俗世間から離れているような不思議な魅力がありますね。

この『Quartett!』においてもプロを目指す音楽家の卵たちがコンクールに向けて奮闘します。音楽院を卒業しても演奏家として成功するのはほんの一握り。それをわかった上で青春の全てを音楽に捧げるカルテットメンバーには敬愛の念を抱かずにはいられません。

そしてそれを彩る素晴らしいBGMとエロゲ史上最高(だと思う)のシステム「フローティング・フレーム・ディレクター」。膨大なCGが必要になる割りにプレイ時間が極端に短くなるのでコスパが悪すぎるためか、これ以降LittlewitchもFFDを採用しなくなり、ついにはブランドまで消滅してしまったのは寂しい限り。

プレイ時間こそ短いものの、大槍葦人さんによる美麗なCGと細井聡史さんによる数々の名曲、そして飯田和彦さんによる素晴らしい物語の魅力がふんだんに詰まった作品でした。

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