2000年代中盤という泣きゲー全盛期に発売された”ぱれっと”のスマッシュヒット作『もしも明日が晴れならば』。略称は「もしらば」。
制作は2004年に『Dear My Friend』を生み出したNYAON(シナリオ)&くすくす(原画)のコンビ。2006年Getchu.com美少女ゲームランキングにてシナリオ部門・音楽部門・ヒロイン部門で1位を獲得している名作です。
物語開始時点でメインヒロインである恋人が死亡済みで、なおかつその恋人が幽霊になって戻ってくるという少々エキセントリックなストーリー。
この設定だけを見るとなんだか悲壮感の漂う鬱ゲーの香りがしますが、幽霊となった恋人・明穂は結構あっけらかんとした性格なので、中盤までは意外と明るい雰囲気で物語が進みます。
そして終盤の個別シナリオでは全てのルートに明穂が絡み、プレイヤーの涙腺を刺激します。やはり笑わせてから泣かす、というのが泣きゲーの常套手段。
NYAON×くすくすコンビが好きな人はもちろん、泣きゲー好きには是非プレイしておきたい作品ですね。
- 幼馴染の女の子が幽霊に
- かつて両想いだった幽霊との三角関係
- 涙なしには見られない終盤の展開
ブランド | ぱれっと |
ジャンル | AVG |
初回発売日 | 2006.2.24 |
DL版価格 | 7,124円 |
シナリオ | NYAON |
原画 | くすくす |
おすすめ度 | 80 |
シナリオ傾向 |
あらすじ
主人公、鳩羽一樹にとって、野乃崎明穂はかけがえのない人だった。
ずっと、家族同然に暮らしていた居候の女の子。
夏のはじめに告白をして、一樹の恋人にもなってくれた女の子。
これからずっと、幸せな思い出を築き上げていく予定だったのだ。
だが、そんな彼女は病に倒れ、あっけなくこの世を去ってしまう。
その出来事はあまりに突然で、いなくなった少女はあまりに大きな場所を占めていて…
残された者達は、泣くことさえも忘れて、ただ途方に暮れるばかりである。
それから数ヶ月の時間が流れ、彼らがようやく立ち直りかけた季節…
明穂は何の前触れもなく、この世に舞い戻ってくる。
「思い残すことがあったから」
そんな言葉と共に微笑む、ひとりのゆうれいとして。
作品リスト
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
もしも明日が晴れならば | 98 Me 2000 XP | 2006.2.24 | 並 |
もしも明日が晴れならば(リニューアルパッケージ) | XP Vista 7 | 2012.8.10 | 易 |
初回版はよくある紙製のパッケージ。予約特典にはサントラCDが付きます。
初回版のロットアップ後はしばらく通常版の発売が無かったため、一時期中古ショップでは1万円越えのプレミアソフト扱いになっていました。
リニューアルパッケージ版はファンが待ち焦がれた廉価版。トールケースサイズのデジパック仕様でドラマCD付き。
このリニューアルパッケージ版は付属のプロダクトIDがないと起動できないので、中古品を購入したときは必ず確認してください。ちなみにプロダクトIDはアルファベットと数字で構成されているのですが、0とO、1とlなどが区別しにくいのでご注意を。
今から買うならリニューアルパッケージ版を推奨。別に初回版でもいいですが、中古価格は大幅に値崩れしているので資産的価値はほとんどありません(笑
DL版は15年以上前の作品にしてはややお値段高め。ちょくちょく半額セールやまとめ買いの対象になっているので、買うならセール時にしましょう。
システム
要所で現れる選択肢を選んでいくオーソドックスなAVGタイプです。画面サイズは800×600。
全6章+αで構成されていて、章の合間にはTVアニメのような次回予告が入ります。この予告は何故かスキップすることが出来ないので2周目以降はちょっとめんどいですね。
この他にもキーボード操作でウインドウ消去が出来なかったり、セーブ画面では必ず最初にクイックセーブファイルのページになってたりと、ちょっと操作しづらいシステムデザインになっちゃってます。
良い面というか面白い演出としては、いわゆる”バックグラウンドボイス”が頻繁に使われています。
例えば授業中に主人公が考え事をしているときでも、(テキストには表示されない)授業をしている先生の声が聞こえたりするので、雰囲気作りに一役買ってる感じ。
シナリオ
シナリオライターはNYAONさん。
物語は主人公とその幼馴染かつ同居人でもある野乃崎明穂が恋人になった直後に明穂が急死し、失意のどん底だった主人公の下へ明穂が幽霊となって戻ってくるところから始まる学園ファンタジー。
全6章のシナリオは5章までが共通ルート、長めの6章が個別ルートになります。2章以降の共通ルートは1章につきヒロイン1人ずつを中心とした物語になって いるので(2章:千早 3章:つばさ 4章:珠美 5章:明穂)、一般的な作品と比べると個別ルートが短めですが、ヒロインの掘り下げが浅いとは感じませ ん。
共通ルートの各章序盤はドタバタした学園生活を送りつつ、終盤はちょっとシリアスな展開になるというメリハリの利いた構成になっています。ただギャグシーンではちょくちょく”メタな”台詞が出てくるので、これは好みの分かれるところかもしれません。
ちなみに『もしも明日が晴れならば』というタイトルは、『もしも明日が・・・』(わらべ)という80年代のヒット曲の歌詞から取られたものだと思います。ライターさんの世代がわかりますね(笑
このフレーズは個別ルートでも一回ずつ使われます。作品タイトルが本文中に使われるのは名作の証。
グラフィック
原画家はくすくすさん。
万人受けするようなカワイイ感じのキャラデザで、全体的に落ち着いた淡い色合いのCGが多いですね。
この作品ならではの特徴としては、ほとんどのキャラに”後ろ向き”の立ち絵があって、演出に一役買っています。
こ れにより単にキャラの後姿を描くだけでなく、キャラが2人登場したときの片方を正面向き、もう片方を後ろ向き(かつちょっと大きめ)に描くことによって、 キャラ同士が正対するような奥行きのある立ち位置も上手く表現することが出来ます。(主人公と2人で1人のヒロインと話す、みたいな)
キャラクター
野乃崎 明穂
主人公と幼馴染であり、恋仲となった直後に病死してしまった少女。
幽霊となった後も本人はどこか諦観しているので悲壮感は無く、主人公と変わらずイチャイチャしたりします。
野乃崎 つばさ
明穂の妹で同居人。主人公を「お兄ちゃん」と呼ぶ典型的な妹キャラ。
ヒロインの中で何気に唯一の普通の人間。怒ったときにプクーっと膨れる表情がカワイイ。
湊川 珠美
つばさのクラスメイトで、京都弁を話す巫女さん。本業は彷徨う霊魂を成仏させる「鬼切り」といわれる陰陽師。
つばさとは親友以上の関係になりたい百合少女。
序盤では主人公にきつく当たるが、中盤以降はデレデレになる典型的ツンデレキャラ。
千早
学園の裏庭にある合歓(ねむ)の木の近くで出会う和服少女。本人曰く「疫病神」。
ある意味、明穂よりファンタジックなキャラ。正直このキャラを許せるかどうかはファンの間でも分かれます。
鳩羽 一樹
本編主人公。明穂やつばさと同居する受験を控えた3年生。
三角関係モノの宿命としてややヘタレなとこはありますが、置かれた状況を考えれば仕方のない気もします。
ただエロゲの宿命とはいえ、恋人が死んだとたんにモテモテになるのはちょっと・・・。
この他にクラス委員長の香坂彩乃もいい味出してます。サブキャラにしとくのがもったいない。というかなんで委員長ルートが無いんだ・・・。
オフィシャルの人気投票では明穂が1位だったみたいですが、個人的には珠美がお気に入り。
というか後輩で百合で巫女で陰陽師でツンデレで京都弁って属性重ねすぎ(笑
ちなみに珠美は同じNYAON作品の『晴れときどきお天気雨』にもゲスト出演しています。
ボイス
西田こむぎ(明穂) | みる(つばさ) | AYA(珠美) | まきいづみ(千早) | |
一色ヒカル | 吉沢悠亜 | 神月あおい | 倉田まりや | 星野みく |
小池竹蔵 | 中本伸介 |
主人公以外フルボイス。
西田さんとみるさんは2000年代に大活躍された声優さんです。残念ながら最近は耳にする機会が少なくなりました。
AYAさんの演じる珠美は京都弁を喋るのですが、少なくとも私には違和感はありません。ネイティブの方からしたらどうなんでしょ?
まきいづみさんはいつものまきいづみさんですね(笑
BGM
作中BGMは全部で23曲。作曲はBURTONさん。
作品の雰囲気に合わせて落ち着いた感じの曲が多いですね。
個人的お気に入りは『命を懸けて』。まるでこれから死地に赴くような決意のこもった曲で、珠美が刀を抜くときは大抵この曲が流れます。
ち なみに音楽鑑賞モードは表示されている曲名リストから直接再生することは出来ず、隣にある再生リストに1曲ずつ登録してから再生する仕様になっています。 お気に入りの曲をローテーションしたいときには便利ですが、任意の曲をちょっと聴きたいときはめんどくさいですね。まあ全曲登録すれば普通の音楽鑑賞モードと一緒になるんですけど。
主題歌
タイトル | 作詞・作編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|
「もしも明日が晴れならば」 | 樋口秀樹 | WHITE-LIPS | OP |
「凪」 | 樋口秀樹 | WHITE-LIPS | 挿入歌 |
「雛鳥」 | 樋口秀樹 | WHITE-LIPS | 挿入歌 |
「あなたを照らす、月になりましょう」 | 樋口秀樹 | WHITE-LIPS | ED |
ボーカル曲担当はWHITE-LIPS。ちなみに同じNYAON&くすくす作品である「Dear My Friend」や「さくらシュトラッセ」の主題歌も担当しています。
4曲ともWHITE-LIPSらしい優しい曲になっていますね。音楽鑑賞モードで全曲フルバージョンを聴くことが可能。
お気に入りは挿入歌の「凪」と「雛鳥」。この曲が流れたら「さあ泣く準備しろよ」って合図です(笑
ちなみに作中で流れる挿入歌は1曲流れ終わったらループせず、その後は通常のBGMが流れます。まあ確かに挿入歌がループするのってちょっと萎えますからね。
ムービー
長めのプロローグ後にOPムービーが流れます。ムービー制作は雪白さん。
イベントCGだけでなく、所々で3DCGも使って結構凝った作りになっています。
残念ながらムービー鑑賞モードはありませんが、インストールフォルダにそのままムービーデータが保存されるので、手持ちのプレイヤーで見ることができます。
攻略
選択肢の数はやや多めですが、比較的わかりやすいものなので難易度は低め。2周目以降はプロローグと1章を丸ごとスキップできます。
お勧め攻略順は、つばさ→珠美→千早→明穂。特に明穂は最後のほうがいいと思います。一応この作品は明穂がメインヒロインですし。
他の3人は正直どういう順番でも構わないと思いますが、つばさルートがある意味一番王道的なので最初に持ってきたほうがいいかもしれません。
珠美と千早はお好みで。というか時間がなければ飛ばしてもらっても。(2つとも良いお話ではあるんですが、どうしてもサイドストーリー的な扱いになってしまいますね)
中途半端な選択肢の選び方をするとBADエンドになります。とはいってもこれはこれでアリかなという終わり方ですし、1枚だけ専用CGもあるのでコンプを目指す人は見ておきましょう。
総プレイ時間はオートモードでゆっくりやって35~40時間。既読スキップがやや遅いのですが、それを差し引いても意外とボリュームがあります。
Hシーン
1キャラあたり3回で計12回。このうち各キャラそれぞれ最初の1回は4.5章に出てくるサービスシーン(未遂だったり自慰行為だったり)なので、本番行為はそれぞれ2回ずつになります。
行為自体は比較的軽めで、尺は長くもなく短くもなくといった感じ。この時期のシナリオ重視の作品としてはよくやってるほうでしょう。
むしろ4.5章でまとめて出てくるサービスシーンがやや強引な展開なので、ちょっと興ざめするかも。共通シナリオ中にこういうシーンを入れてくるのは珍しいですね。
感想
「メインヒロインが幽霊」という突飛な設定がまず注目されるこの作品。
女の子がクライマックスで死んでしまうエロゲは数あれど、開始時点で既に死亡済みという作品はなかなかありません。(無くはない)
人の生き死にを扱った重いテーマのわりに、終盤の個別ルート以外は比較的明るい雰囲気で物語は進みます。もうこのまま幽霊と一緒に楽しく暮らしたほうが良いんじゃね?と思ってしまいますが、さすがにそうはいきません。
幽霊となった明穂は自分の死を受け入れていて、自分の代わりに他のヒロインを主人公とくっつけようとしますが、明穂自身の主人公に対する気持ちを捨てられないため、結果的に三角関係のような形になってしまいます。
前提条件といて”明穂が死んでいる”という事実は覆らないので、「主人公のことは好きだけど、自分のことは忘れて幸せになってほしい」という明穂の葛藤は、ときにプレイヤーの心を深く抉ります。もうホント、なんて健気なんやこの娘は・・・。
このため明穂ルート以外ではいかに明穂のことを吹っ切るかというのが重要なテーマになってくるので、他の一般的な美少女ゲームと比べると後味はちょっと悪いかもしれません。
「死が二人をわかつまで」というのは結婚式の定番フレーズですが、本当に死によって恋人と別れた人がどうするのか、というのを味わえる稀有な作品でした。