2000年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『装甲悪鬼村正』(ニトロプラス 2009年)

熱い燃えゲーを数多く生み出してきたブランド・ニトロプラスが、創立10周年を記念して制作したスラッシュダークADV『装甲悪鬼村正』。
正にニトロプラスの10年間の活動の集大成といった感じの大作です。
2009年2chベストエロゲ投票3位。この年は上位2作をバルドスカイが独占しているため実質2位ですね。というか2009年はこれ以外に『俺つば』や『マジ恋』、『Dies irae』等が発売されていて、稀に見る豊作の年でした。

現実とは異なる歴史を歩んだ1940年代の日本――っぽい国である極東の島国”大和”を舞台に、使用者に強大な力を与える”劔冑(ツルギ)”を纏った武者たちの戦いを描く壮大な物語。
武者同士の熱い戦いもさることながら、それぞれの登場人物の思惑が絡まりあう意味深で複雑なストーリー展開、暑苦しくも憎めない個性的過ぎるキャラクター、 綿密に練られた世界設定、そして「正義とは何か」「英雄とは何か」を考えさせられる重厚なテーマ、どれをとっても非常に完成度が高くて魅力的。00年代のラストを飾るにふさわしい燃えゲーの代表作といえると思います。

かなりボリュームのある作品のため、ある程度早くやっても50時間近くかかると思います。まとまった時間を取ってからプレイするようにしましょう。物語が佳境に入ると止め時が難しいです。
またシナリオ展開がかなり残酷で救いがありません。何の罪も無い人間が容赦なく惨殺されたりするので、その辺りの覚悟や耐性も必要です。

ちなみにエロ成分はかなり薄いのでそっちのほうには期待しないでください。というかこれエロゲーじゃなくてもいいよね・・・。美少女ゲームですらないよね・・・。むしろヨロイを愛でるゲームだよね・・・。

  • 戦後の日本をモデルにした重厚な世界観
  • 劔冑(ツルギ)を用いた手に汗握る熱い戦闘シーン
  • 様々な組織や人間の思惑が絡み合う複雑なシナリオ展開
ブランドNitroPlus
ジャンルスラッシュダークADV
初回発売日2009.10.30
DL版価格4889円
シナリオ奈良原一鉄
原画なまにくATK
おすすめ度95
シナリオ傾向

あらすじ

超能の鎧「劔冑(ツルギ)」を駆る戦士「武者」が戦場を席巻する世界。

非公式の警官を称する男・湊斗景明は、赤い劔冑「村正」を纏い、ある時は卑劣な連続殺人犯に、またある時は軍兵の暴虐に挑み、最強の武者たる己の力をもって打倒する。
だが決して、彼が正義を称することはない。
「鬼に逢うては鬼を斬り、仏に逢うては仏を斬る」
――劔冑との合身を果たす時に彼が口にする一句、それは過去を語り未来を予言する、真実の言葉なのである。
彼は殺すのだ。悪だけでなく、悪に虐げられていた善良な人々をも。
……これは驚くべきことであろうか? 否。
何故なら彼の劒冑の銘は勢洲右衛門尉村正。
呪われし「妖甲」、かつて大和全土を地獄に変えたことすらある、かの村正なのであるから。

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
装甲悪鬼村正 限定生産版XP Vista 72009.10.30
装甲悪鬼村正 通常版XP Vista 72009.11.27
装甲悪鬼村正 邪念編XP Vista 72010.8.26
装甲悪鬼村正 Windows10対応版XP Vista 7 8 102016.7.29

最初に発売された限定生産版は特に特典があるわけではありませんが、なんとパッケージが木箱です。大きさは通常のパッケージと変わらないものの、店頭で異彩を放っています。一時期プチプレミア化していましたが、今では安価で買うことが可能。
『邪念編』はファンディスクというよりアンソロジーディスク。本編を執筆した奈良原一鉄さんは関わっていませんが、鋼屋ジンさん(デモンベイン等)や東出祐一郎さん(あやかしびと、Fate/Apocrypha等)、秋田禎信さん(魔術師オーフェン等)といったそうそうたる面々がシナリオを執筆しています。

Windows10対応版はその名の通り現行OSに対応したもの。トールケースサイズになって値段も下がっています。DL版の内容も基本的にこれと同じ。

またこれ以外に、公式の二次創作コンテストで大賞を受賞した作品が、ノベルゲーム『装甲悪鬼村正 贖罪編』として公式サイトで無料公開されています。

今から買うならパッケ版かDL版のWin10対応版を推奨。別に旧版でも動かないことはないと思いますが、念のため最新版を。

システム

画面サイズは1024×768のワイド画面。この頃(2009年あたり)からエロゲ業界でもワイド画面化が増えてきました。
CGや背景をグリグリ動かしたりする演出が多いので多少CPU等の性能が必要ですが、最近のPCであればほぼ問題ないかと思います。タブレットPCとかはちょっときついかも?

基本的には通常のAVGと同じシステムですが、和風の雰囲気を出すためか文章が縦書きです。しかもテキストウインドウを中央に配置して左右に立ち絵を表示させるという珍しいスタイルをとっています。始めはちょっと違和感があったのですが意外とすぐ慣れるかと。
常に中央にテキストが表示されるわけではなく、イベント絵によっては右端に表示されたりしますし、作中で進駐軍の外人将校が喋っているときには横書きになります。

バックログでは常に横書き。ログはそれまで読んだ全ての履歴が保存されます。つまりエンディング付近でも序章の最初のテキストを振り返ることも出来ます。が、 ぶっちゃけあんまりそこまで戻って読むことは無いですし、テキスト量が膨大になるためシークバーをほんの少し動かしただけでもかなり戻ってしまうので、 ちょっと前のシーンを読むことも難しくなってしまっています。

バックログからのジャンプ機能はありませんが選択肢に戻る機能はあります。ただし戻れるのは1回分だけ。
その他の一般的な機能はだいたい揃っていると思います。
珍しい仕様としては、データをセーブする際にBGMの状態も保存されます。つまりデータをロードしたときにはBGMも途中から再生されます。別にダメってことはないですが、あんま意味ないような・・・。

テキスト量が膨大なため、通常のスキップ以外に”超速スキップ”という機能が搭載されてるんですが、正直使い勝手は良くありません。通常のスキップよりは速 いんですが、どうも演出等を表示しないだけで読み込んではいるらしく、戦闘シーンを含む章は言うほど速くないんですよね。しかも何故かスキップした分のテ キストログが保存されないので、選択肢の場面で止まってもどういう話の流れなのかわからなくなることもあります。

シナリオ

シナリオライターはニトロプラスの奈良原一鉄さん。
作中の舞台となるのは、日本をモデルにした極東の島国”大和”。大和は数年前に世界大戦で敗北し、”GHQ”といわれる国連(国際統和共栄連盟)の進駐軍に占領されています。
世界は大英連邦(ブリテン)が世界の半分以上を支配していて、国連も事実上ブリテンの支配下にありるという情勢です。

その国連から大和の統治を委任されているのが大将領・足利護氏を頂点に組織された武家政権”六波羅幕府”。
この六波羅幕府という組織は反抗する人間を皆殺しにし、国民を徹底的に弾圧してきたため評判は最悪。でもこの世界の主力兵器である”劔冑(ツルギ)”の運用を独占しているため国民は誰も反抗することが出来ず、GHQですら迂闊に手を出せない戦力を保持。そんな六波羅の本拠地である鎌倉を中心にしてストーリーが展開します。

物語の構成は5編の共通ルートの後、個別ルートが3編+α。共通ルートだけでもちょっとしたエロゲ1本分はあるんじゃないかと思うほどの分量です。
ただ、シナリオ自体はボリュームの割りにテンポ良く進みます。何事も無くまったりするような展開が少ないため、濃密で飽きが来ません。逆に言うと息つく暇が無いので止め時が難しい。
シリアスな場面が多いですが、意外とコミカルなシーンもあるので結構笑えます。笑いといっても下品なネタではなくシュールな笑いが多いので、この辺はライターのセンスの良さが伺えますね。

台詞や文章はやや固めで、難しい用語や古風な言い回しもよく出てきます。なんとなく時代小説とかに近い文体かも。読んだことないけど。
(場面にもよりますが)会話よりも地の文が多く、主人公以外の視点も頻繁に描写されるため、アドベンチャーというよりデジタルノベルに近い雰囲気です。
使用される漢字も難し目なので苦手な人はちょっと読みにくいかも。ある程度はルビが振ってありますが、「尤も」とか「悉く」「漸く」辺りはまだともかく、「忽ち」とか「煩い」はちょっと読めませんでした。読書経験の少なさがバレる・・・。

戦闘シーンの描写はかなり長め。動きが事細かに描写される上に、状況によっては戦闘の駆け引きや戦術なども解説図付きで説明されるためちょっとテンポが悪くなることもありますが、そのぶん非常にわかりやすくなっていますね。

テキストで上手いなぁと思ったのがキャラの登場のさせ方。登場キャラがかなり多いにもかかわらず、初登場でもちゃんとプレイヤーにどういうキャラなのかがわかるようになっています。特に第3編の冒頭では六波羅の首脳である足利護氏と4人の公方(幹部)が一気に登場するんですが、設定説明的な台詞がほとんどありません。にもかかわらず軽妙な会話のやり取りのみでそれぞれの性格や立場、関係性がわかるようになっています。これライター志望の人は凄く参考になるのではないでしょうか。

グラフィック

原画はニトロプラスの”なまにくATK”さん。キャラクターが描かれたイベント絵の枚数は101枚。これ以外に劔冑がメインのイベント絵も数十枚あります。
キャラデザインは良い意味であんまりエロゲっぽくない、青年漫画のような絵柄です。むしろこの絵だからこそこの「村正」という作品の雰囲気を良く表してると思います。

ちょっと残念なのは立ち絵の変化がほとんど無いことでしょうか。ほとんどのキャラが1種類のみで、メインキャラでもせいぜい2種類。表情の変化はテキストウインドウの上にあるフェイスウインドウに表示されるのみで、立ち絵の表情は変化しません。

劔冑(ツルギ)のメカニックデザインは石渡マコトさん。立体化に関しては模型雑誌のホビージャパンやマックスファクトリーが協力しています。この劔冑のデザインがまたカッコいいんですよ。
村正はいかにも鎧然としていますが、宿敵である銀星号は有機的でどこか宇宙人のような神秘さと禍々しさを感じます。しかも銀星号の表面はピカピカに磨き上げ られていて、角度によっては表面にちゃんと周辺のものが映りこんでいるんですよね。おまけモードで劔冑の3Dモデルを見ることができるんですが、思わず見入ってしまいます。

キャラクター


綾弥あやね 一条いちじょう
鎌倉に住む女学生。色んな意味でまだまだ成長途上。「そっちが名前だあああああああああ!!!!」
非常に強い正義感の持ち主で、民衆を弾圧する六波羅が許せない。

大鳥 香奈枝
大和人でありながらGHPに所属する軍人。色んな意味でデカい。
侍従の永倉さよと共にボケと突っ込みを華麗にこなす、コミックリリーフ的なキャラでもあります。

足利 茶々丸
六波羅四公方の1人で竜軍中将。要するに幕府の幹部。
ギリ10代の少女ながら卓越した政治力を持ち、陰謀の類も得意。今の立場も親を殺して手に入れた。
作品的に「ヒロインか?」と聞かれるとちょっと微妙な立ち位置ですが、一応個別ENDもあります。
鎧の隙間からチラッと覗く赤い下着がエロかわいい。

湊斗みなと 景明
本編主人公。ある目的のために警察官の立場を使って宿敵を探す。
誰に対しても礼儀正しく、その上一切笑わないクソ真面目なキャラなんですが、真面目すぎて逆に面白いという作品的に美味しいキャラ。

村正
景明と契約し行動を共にする劔冑ツルギ。正式名は勢洲右衛門尉村正三世。通称三世村正。
非装甲状態のときは蜘蛛の形を取って自立行動が出来ます。ちなみに性別は女性。
”劔冑”というのは鍛冶師が文字通り命を懸けて鍛造するもので、鍛冶師の死後もその魂が劔冑に宿るため仕手(使い手)とのコミュニケーションが可能。

この他にも大和を占領するGHQの将校や幕府に反抗する勢力、共通ルートでも各編それぞれにゲスト的なキャラが登場するためキャラ人数が非常に多くなります。しかもどいつこも魅力的なキャラばかり。

特に幕府幹部である四公方のキャラが濃すぎ! 
皆から一目置かれる豪放磊落な最年長、古河公方・遊佐童心。
派手好きのオカマキャラ、小弓公方・今川雷蝶。
陪臣上がりの野心家、篠川公方・大鳥獅子吼。
飄々としながら卓越した政治力を持つ最年少、堀越公方・足利茶々丸。

なんかもう敵キャラにしとくのはもったいないくらいキャラが立ってます。雷蝶なんて一見すると咬ませ犬っぽい雰囲気で、絶対「クックックッ、奴は四公方の中でも最弱・・・」みたいな展開になると思ったのに・・・。
あと茶々丸かわいいです。

ボイス

海原エレナ(一条)吉川華生(香奈枝)金田まひる(茶々丸)須本綾奈(村正)九条信乃
北都南小倉結衣木村あやかまきいづみ河合春華
石川ゆうすけ(景明)氷河流秋山樹杉崎和哉蒼井大地
居口伝衛門空乃太陽転河統一瀬路啓維

主人公含め全キャラフルボイス。キャストも実力派の方ばかりです。

女性陣はメインはもちろんサブキャラにいたるまで00年代のエース級の声優さんを揃えた豪華な布陣。
ただ通常の演技は全く問題ないんですが、大声で叫ぶような戦闘シーンではちょっと迫力不足に感じることもありました。エロゲ声優だとこういうシチュエーションの経験が少ないでしょうから、ある意味仕方ないっちゃ仕方ないんでしょうけど。

操役の河合春華さんはなぜエロゲに出てくれるのかわからないくらいの大ベテランさんですが、今作では口数の少ないキャラなので味わって聴きましょう。河合さんは2011年以降はぱったりと出演がなくなりましたし。(年齢を考えれば仕方ないかも・・・)
茶々丸役のキンタもとい金田さんもベストマッチ。強気でありながらも可愛らしい声は金田さんの真骨頂。茶々丸の可愛さを十二分に引き出してます。

そしてこの作品は男性陣のキャストもメチャクチャ豪華。
特に主人公・景明役の石山ゆうすけさんはこの作品がエロゲデビューになりますが、難しい役どころを見事に演じきっています。(ちなみにドラマCD『装甲悪鬼村正~妖甲秘聞~』で景明役を演じているのは波形レベルで声の似ている寺島拓篤さん)

氷河流さんはいつもなら若いイケメン役をやられることが多いんですが、今作では白髪のオッサン役。さすがに初めはちょっと違和感がありましたが、じきに慣れると思います。ヒィーーッヒッヒッヒ。
雷蝶役の杉崎和哉さんと童心役の居口伝衛門さんはさすがベテランという感じの名演技。とくに居口さんは「これはしたり!」というような時代劇口調が凄く似合います。
足利護氏役の秋山樹さんも実力派のベテラン声優さん。この方の声ってなんとなく狂気を孕んだ役が多いような気がしましたが、今回は真面目な役なので最初全く気付きませんでした。

サブキャラやモブキャラは兼ね役の方が多いですが、きちんと演じ分けられています。まぁまきいづみさんのような特徴的過ぎる声質の方はすぐにわかっちゃいますし、居口伝衛門さんのように演技の上手すぎる方がモブキャラに声を当てていると逆に違和感があったりしますけど(笑

ちょっと気になったことといえば、テキストに使われる文章が難し目だったせいか、漢字の読みが間違ってると思われる箇所がいくつかありました。「管領(かんれい)」を「かんりょう」と読んだり、「遠江(とおとうみ)」を「とおえ」と読んだり、作品独自の名詞である「四公方(しくぼう)」を「よんくぼう」と読んでしまったりしまうこともあります。
同じ場面で他のキャラは正しく読んでいるのに一人だけ違う読みをしてしまうと結構目立ちますね。個別収録ならではの弊害かもしれません。

BGM

BGM作曲はニトロプラス作品おなじみの音楽チーム・ZIZZ。曲数は全部で37曲。
シックでカッコイイ曲が多いので良い意味でエロゲとは思えないBGMです。
和風の雰囲気を出すためか、琴や尺八といった和楽器を多用しているのも特徴です。一部の曲は奏者の息遣いも聴こえるのでおそらく生音ですね。これはサントラ買うべき。(Amazonのマケプレではプレミア価格になっていますが、公式通販で普通に買うことが出来ます)

お気に入り曲はたくさんありますが、まず1つ挙げるなら一条のテーマとも言える名曲「獣の正義」。印象的な横笛(篠笛か龍笛?)のイントロから始まり、主旋律を奏でるバイオリンの悲しげなメロディとそれを支えるベースと琴の音が、一条ルートにおける彼女の複雑な心情と悲壮な決意を非常に良く表してると思います。

戦闘シーンで多くかかる「BLADE ARTS III」はテンションの上がるいかにも戦闘曲といった感じですが、序盤でリズムを刻む和太鼓の音がどこかお祭りのような雰囲気も醸し出します。
そして必殺技である陰義を展開するときに流れる「剣理殺人刀」も非常に力が入ります。思わず「電磁抜刀(レールガン)禍(マガツ)!!!」と叫んでしまいたくなるくらい。

同じ戦闘曲でも「一ノ太刀」は尺八と三味線(?)で構成された純和風の曲。達人同士が互いに剣を向け合い、「先に動いたほうが負ける」という緊迫感あふれる”静”の戦いを演出します。こんな曲はエロゲではこの作品でしか聴けません。

主題歌

タイトル作詞作曲編曲備考
「MURAMASA」渡邊カズヒロ磯江俊道磯江俊道小野正利OP
「落葉」渡邊カズヒロ磯江俊道立花泰彦いとうかなこED
「Fuel My Soul」渡邊カズヒロ村上正芳村上正芳ワタナベカズヒロED
「疼[uzuki]」Ken1榊原秀樹榊原秀樹VERTUEUXED
「The Call」渡邊カズヒロ磯江俊道磯江俊道YukkyED

メインテーマ「MURAMASA」を歌うのは紅白出場歌手でもある小野正利さん。一声聴いただけで「さすが」と言わざるを得ない素晴らしい歌声です。小野さんは他のニトロプラス作品でも歌ってらっしゃいますが、いったいどういう伝手でエロゲの主題歌を歌うことになったんでしょうか・・・。
曲自体も、何百回聴いても飽きが来ない熱く燃える曲。燃えゲーソングとしてはマブラヴオルタの『未来への咆哮』と並んでエロゲ史に残る名曲だと思います。

作中でFullバージョンが使われていますが、音楽モードで聴けるのはShortバージョンのみ。ただニトロプラスの公式チャンネルでFullバージョンの動画(画像が本編ネタバレ注意)が公開されていますし、また小野正利さん本人による歌ってみた動画もアップされています。

ムービー

ムービー制作はシルバー。OPムービーは第1編終了時に流れるものと、個別ルート「魔王編」冒頭で流れるものの2つがありますが、一部のCGと主題歌の歌詞が違う以外、大まかな構成はほぼ同じ。両方とも鑑賞モードで見ることができます。

ムービーの構成は基本的に本編で使われているイベント絵と2Dアニメや3DCGムービーをつなぎ合わせたものなんですが、これがまた奇跡的なくらい主題歌「MURAMASA」の曲調に合っていて、スピード感あふれるカッコ良いムービーです。
ムービー序盤で六波羅のメンツとGHQのメンツの立ち絵がずらずらっと並ぶ演出は、三つ巴となる雰囲気が良く出ていて本編の展開を期待させる作りになっていま す。魔王編のムービーでは表示される立ち絵のメンバーが変わっていて、全く違う物語になることを暗示している感じです。

鑑賞モードではOPムービー以外に販促用のPVも見ることができるんですが、これ序盤の展開を結構ネタバレしてるんですよね。

攻略

致命的なネタバレではないと思いますが、若干攻略情報に触れるので、ノーヒントでプレイしたいという方は以下の説明は読み飛ばしてください。

シナリオ構成は共通ルートに現れる選択肢によってヒロインの好感度が上昇し、それによって個別ルートへ分岐するという古風なスタイルですが、実は攻略難易度が結構高いです。初回プレイではほとんどの人が個別ルートへ入る前にBADエンドになってしまうと思います。

システム的には選択肢を選んだ後にキャラごとの好感度が表示されるという親切設計ではあるんですが、これがむしろ製作者のトラップ。実はこの作品において大事なのは”好感度を上げ過ぎない”こと。一般的なエロゲーを攻略するときとは全く逆の方針でプレイしなければなりません。

ある程度エロゲをやり慣れている人なら、最初にBADエンドになったときに「あ~なるほど、そういうことね」と察することが出来ると思いますが、初心者の方はどうすれば良いか途方にくれてしまうかもしれません。わからなければ各種攻略サイトを参考にしてください。

個別ルートに入った後も要所要所で選択肢が出現し、選択を間違えるとゲームオーバーになります。特に一部の戦闘シーンにおける選択肢では数が多い上に結果も予想し辛く、ほとんど運ゲーのような選択肢もあるのでその都度セーブしておきましょう。何度も失敗するとヒントが表示される場合もあります。

また、ルートによっては探索AVGのようなイベントが発生します。「○○を調べる」とか「移動する」みたいな選択肢を何度も繰り返していくんですが、結構めんどくさいですね。2周目以降はスキップできるようになります。

個別ルートは主に『英雄編』(一条ルート)と『復讐編』(香奈枝ルート)、及び『魔王編』の3つ。(これ以外に『悪鬼編』がありますが、これは魔王編の後日談になります)
初回プレイ時は英雄編と復讐編のどちらかを選ぶことになりますが、まぁ英雄編のほうがストレートな展開ですね。英雄編と復讐編をクリアすると共通ルートで選択肢が追加され、魔王編が開放されるという流れ。
というわけで攻略順は、英雄編→復讐編→魔王編を推奨。CGモードもこの順番で埋まっていきます。

魔王編の終盤では茶々丸ENDへ分岐する選択肢が現れます。本編のエンディングの前に見ておきましょう。この選択肢はわかりやすいものなので迷うことは無いと思います。茶々丸かわいいし。

また魔王編(及び悪鬼編)をクリアするとタイトル画面に「LINER NOTES」が追加され、クリックするとニトロプラスの公式サイトから開発者のコメントを見ることができます。
また、差分を含めた全てのCGを見ると、フルコンプおめでとう的なイラストを見ることができます。

総プレイ時間はゆっくりやって60~80時間。かなりのボリュームがあるのでたっぷりと時間をとってプレイしましょう。

Hシーン

Hシーンは全部で10個。
各キャラ1回しかないものがほとんどで、シーン自体も短め。しかも最後のフィニッシュまで描写されないものもあるので、正直抜き目的では使えないと思います。まぁこの作品はそういうゲームじゃないですしね。茶々丸はかわいいけど。

サブキャラにもHシーンがありますが、ほとんどが主人公以外による陵辱シーンです。一部グロいシーンがあって、体験版では割と直接的に描写されてた(らしい)んですが、製品版ではマイルドな表現になりました。

総評

茶々丸かわいい

ニトロプラス10周年の節目に制作された大作ADV『装甲悪鬼村正』。
エロゲとしてはニトロ最高傑作に推す人も多く、名実共にブランドを代表する作品だと思います。

まず何より特筆すべきはその唯一無二の世界観設定。
特に”劔冑”の設定は綿密に作りこまれていて、見た目は鎧、名前や来歴は刀、兵器としての性能は戦闘機のようです。戦闘シーンではまるでフライトシミュレーションのようなドッグファイトが展開され、一撃必殺の陰義(シノギ)の発動シーンはまさに厨二病全開で激熱。

シナリオも全く息つく暇が無いくらい濃密な展開が繰り広げられますし、個別ルート3本がそれぞれ全く違うストーリー展開になるため、ちょうど『Fate/Stay night』のようにルートによってキャラが敵になったり味方になったりします。
こういうルートによって全く異なった物語を楽しめる作品もゲーム媒体ならではですね。

ただシナリオが素晴らしいだけに、BADエンドに繋がる選択肢がやや煩わしく感じるかも。終盤の戦闘シーンでも選択肢を何度も選ばせられるため、ちょっとテンポが悪くなります。特に魔王編ラストの”アレ”はさすがにゲーム的過ぎるというか、最後の最後でそんなことやらせるの?とは思いましたね。エロゲーの攻略に電卓を使ったのは初めてですよ(笑
最後くらいシナリオに集中させてほしかった、というのが正直なところ。

ただそれを差し引いてもエロゲ史に残る名作なのは間違いありません。一般のエロゲとは一線を画すため初心者さんに薦められるかというと微妙なところですし、必ずしもハッピーエンドとはいえない後味の悪い物語ではあります。ただここまで濃密な作品はそうそう無いと思うので、燃えゲー好きの人もそうでない人も是非プレイしていただきたい作品です。

残念なのはメインライターの奈良原一鉄さんがこの作品を最後にシナリオライターを引退してしまったことでしょうか。これだけの物語が書けるのにもったいない! 
エロゲ業界って引退宣言してもしれっと復帰したりすることがよくあるので、いつまでも待ってますよ奈良原さん! 是非茶々丸メインの外伝を!!

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