2020年代作品美少女ゲームレビュー

同人ゲームレビュー『DemonsRoots』(深爪貴族 2021年)

同人ゲーム作家・紅唯まと(あかいまと)さんの個人サークル<深爪貴族>制作の名作同人RPG『King Exit』に続編が登場! その名も『DemonsRoots』(デモンズルーツ)。
前作と同じく女性主人公の長編RPGで、内容は大幅にボリュームアップしています。
同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2021において、「主演女優部門」「熱部門」「闇部門」「BGM部門」「脚本部門」「作品部門」を受賞した名作です。

前作『KingExit』はあくまで監獄からの脱出がメインのお話でしたが、今作では大陸全土を舞台に魔族が人類の国を征服していくという、非常にスケールの大きな物語が魅力。
前作においては”敵”としか描かれなかった魔族側を主人公にした物語で、人類との戦争において何があったのか、どうして人類世界を征服しようとしたのか、といったところが描かれます。

ストーリーの時系列では前作の10年前の物語になりますが、先に『KingExit』のほうをプレイしておくことを推奨。別に未プレイでも楽しめないわけではないですが、物語の見せ方が前作の物語を経験していることが前提の作りになっています。
というか『DemonsRoots』から先にやってしまうと魔族側に感情移入しすぎてしまうので、魔族を徹底的に悪者として描いた『King Exit』を後から楽しむのは無理。

同人ソフトにしておくにはもったいないくらい非常に良く出来たストーリーなので、是非多くに人にプレイしてもらいたい作品です。

  • 前作『King Exit』に繋がるストーリー
  • 程よい難易度でやりごたえのあるRPGパート
  • 感情移入しやすい魔族の主人公
ブランド深爪貴族
ジャンルRPG
初回発売日2021.11.19
DL版価格2,420円
シナリオ紅唯まと
原画紅唯まと
おすすめ度90
シナリオ傾向

あらすじ

魔王が人類に敗れてから・・・1000年。
その配下たる魔族たちは居場所を失い、暗黒の世界で、人知れず絶滅の時を迎えようとしていた。

生き延びるため、最後の戦いを決断をする魔族。

限られた戦力で、人類の世界に攻め込むとそこは・・・

奴隷がひしめく悲劇の大地だった。

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
Demons Roots7 8 102021.11.19
Demons Roots 特別仕様版7 8 102022.9.23やや難

同人ソフトですが、基本的にダウンロード販売のみ。以前はDLSite専売でしたが、今ではFANZAでも販売されています。Steamでも販売されていますが、日本語はサポートされていません。
セールもたまに行われていますがせいぜい15%OFF程度。そもそも定価がかなり安いので、気になったら即購入でよろしいかと。

2022年に「特別仕様版」というパッケ版が発売されました。このパッケ版には紅唯まとさんによるオーディオコメンタリーと、音楽担当のShadeさんによる対談も収録されていますが、現在はプレミア化しています。

今のところまだ関連作品はありませんが、この作品に使われたShadeさんのBGMを収録したサントラが同じDLSiteで販売されています。
このサントラは発売直後に初回特典としてゲーム本編に同梱されていて、私もサントラ付のときに購入したのですが、先にKingExitをプレイしているうちにダウンロード期限を過ぎてしまってサントラを手に入れることが出来ませんでした。追加で買うしかないのか…。なんか悔しい。
DL版の初回特典ってこういうことがあるんですね。

システム

システムはRPGツクール製の2DRPGになります。パッと見は古きよきスーファミ時代のRPGのような感じ。
フィールドマップこそありませんが、今作では街やお城の中も探索できるため、前作よりもよりRPG然としています。

前作ではキーボードとゲームパッド操作のみでしたが、今作ではマウス操作にも対応。
またプログラム的にフルスクリーンモードには対応していないみたいです。「Alt」+「Enter」でもダメ。
その代わり通常の「ウインドウの最大化」で大きく表示させることが出来ます。その際は描画領域のアスペクト比(4:3)も固定。
Windowsのタスクバーが気になる人は、タスクバーのプロパティから「タスクバーを自動的に隠す」をチェックしておきましょう。

インストールに際してランタイム等を導入する必要はありませんが、プログラム自体はかなり重め。
推奨環境はCPUが「CORE2DUO以上」ということになってますが、その世代の古いCPUだとかなりキツイと思います。というか私がきつかったです。
低性能PC向けに演出等をカットすることも出来ますが、それでも一部のシーンはゲームにならないほど動きが重かったですね。特にキャラクターがたくさん出てくるシーンでは極端に重くなります。

操作に関してはマニュアルがかなり不親切なので、ツクール製のRPGに慣れてない人は戸惑うかもしれません。基本的な操作は前作『King Exit』と同じなので、そういう意味でも先に前作からプレイしておいたほうが良いと思います。

敵との戦闘はシンボルエンカウント方式。敵キャラが見えるので物陰に隠れてやり過ごしたり、背後から接触してバックアタックを狙ったりすることも出来ます。
敵もこちらを発見すると追いかけてくるので、結構緊迫感がありますね。
戦闘自体はコマンド選択式のオーソドックスなターン制バトル。決定ボタン(「Z」か「スペース」か「Enter」キー)を押しっぱなしにすれば、コマンド選択を高速で行ってくれるので雑魚キャラ戦はかなり楽。
各キャラにはTPを大量消費して使う必殺技とも言うべきスキルが設定されていて、それを使うと格ゲーのようなカットインCGが挟まれます。カッコいいんですが非力なPCだと動きがもたつくかも。

またゲーム中盤に「敵から逃げなければならない」イベントがあるんですが、その際に袋小路に嵌り込んでしまうと脱出不可能になるので注意してください。バグのようなものだと思うので、あれ何とかして欲しいです…。

RPGが苦手な人のために敵のレベルを極端に落としたシネマティックモードというものがありますが、簡単すぎて逆に作業感があるので個人的にはあまりお勧めしません。

シナリオ

シナリオ担当はもちろん、サークルの代表である紅唯まとさん。
ストーリーは前作から10年前、魔族の住む暗黒世界が崩壊の危機となり、種の生存のため地上に進出して世界征服をせざるを得なくなった魔族たちと人間との戦争の物語を、参謀役である魔族の少女・デスポリュカを中心にして描いていきます。

当時の地上は人間の世界を牛耳る”帝国”の政策により奴隷制度が拡大。およそ人口の4割が奴隷となっていて過酷な仕打ちを受けているため、奴隷たちが魔族と手を結んで奴隷の解放を目指して共闘していく、というのが大まかな展開です。

この世界設定と物語の進め方が非常に良く出来ているので読み応えがあります。
中盤にかけては周辺の小さな国から順番に攻めて行きますが、その際に様々なキャラクターを掘り下げたり、少しずつ謎か解明されていったりするので、単調になったりすることがなく飽きずに物語を進めることができるんですよね。

前作の魔族は完全な悪役として描かれていましたが、今作のデスポリュカたち魔族は地上での生存権を確立する手段として、ある種正当に世界征服を進めていきます。別に人類を滅ぼしたいわけではなく、敵対しなければ奴隷であろうがなかろうが分け隔てなく共存していくという方針のため、魔族側に感情移入しやすくなっています。むしろこの物語においては人間の方がクソです(笑

異世界(現実世界)から迷い込んできたという設定の”オーバード”は今作にも登場。前作では他作品キャラを登場させるためのやや強引な設定でしたが、今作においてはシナリオにもがっつり絡んできます。

テキストはちょっと現代的で軽い文体。雰囲気的にはランスシリーズに近い感じですね。

グラフィック

グラフィックもシナリオと同じく紅唯まとさん。
キャラクターはややデフォルメされたデザインで、絵のタッチ自体はいかにも同人っぽいんですが、非常に細かく書き込まれていて彩色もしっかりしているため、同人ゲームにありがちなのっぺりした感じはありません。

キャラクター

デスポリュカ
本作主人公である魔族の少女。少女といっても数百年以上生きています。
地上の世界を征服するため、時には犠牲をいとわず冷静に作戦を立案する魔族軍の参謀。
戦闘では攻撃役と回復役をこなす勇者的なポジション。

アンジュ
母国を滅ぼされ、仲間とともに奴隷となった戦士。ビキニアーマーはお約束。
力はないが他人を思いやる心は人一倍。
戦闘では主に回復や防御を担う盾役。

カリンカ
見世物として殺し合いをさせられる剣闘士の奴隷。
頭は悪いが性格は素直で天真爛漫。
戦闘では典型的な戦士タイプで重要なアタッカー。装備やアイテムは攻撃力優先で。

サラーサ
魔術の国ルックルックにて”魔法装置”として育てられた少女。
手足の自由を奪われて、使い捨てにされる自分たちの境遇に疑問を持つ。
戦闘ではいわゆる魔法使いタイプ。MP自動回復アイテムがあるので、MP残量を気にせず撃ちまくれます。

ダイアナ
異世界(プレイヤーからすれば現実世界)から迷い込んできた”オーバード”の女性。
元FBIの捜査官で考え方も現代的。
マシンガンやショットガン等の”オーバード”の武器を扱うことができ、多少の回復やデバフ攻撃も行えるユーティリティーキャラ。

リリィキラー
各国で少女を生きたまま切り刻む殺人鬼。
戦闘では対人間に特化したスキルを持つが、使いどころが難しい。

ナージェジタ
帝国の皇位継承戦に破れ奴隷に落とされた少年。…なんですが女装して再び皇位を目指す。
可愛いか?といわれると微妙なところですが、憎めないキャラではあります。

メビアス
魔族軍の幹部である”残滓”の1人。
戦士タイプのアタッカーで、素早さを生かした先行攻撃が得意。

この8人が主なパーティーメンバーですが、ストーリーの進み具合によって出たり入ったりもします。
戦闘に参加できるのはこのうち4人。戦闘に参加していなくても経験値はもらえますし、戦闘中にメンバーの入れ替えも出来るので、普段から固定していても大丈夫かと。
私は主にポリュカ、カリンカ、ダイアナ、サラーサの4人で進めてました。

一番魅力的なキャラはやはり主人公のデスポリュカ。”世界征服を目指す主人公”というとアンチヒーローなキャラのようにみえますが、全然そんなことはありません。常に冷静かつ強気で、被害や犠牲を最小限に抑える作戦を立て、仲間からの信頼も厚いむしろ王道的な主人公です。

パーティーメンバー以外にも当然様々なキャラが出てきます。前作『KingExit』のキャラも出てくるので物語の繋がりを感じることが出来ますね。

BGM

BGM 作曲は「bitter sweet entertainment」「Joel Steudler」「ユーフルカ」「煉獄庭園」「Murray Atkinson」「MUS MUS」「TK.Projects」「Richard John S」「MoppySound」、そして元アリスソフトのShadeさん。Shadeさんの曲以外はフリーの音源みたいですね。またこれ以外にRPGツクー ルに収録されている曲もたくさん使われています。
曲数はメチャクチャ多く、おそらく200曲近く使われています。

フリーの音源を大量に使っているだけあって、全体の雰囲気は良くも悪くもバラけていますね。オーソドックスなRPG風の曲もあれば、異国情緒たっぷりの曲もあったり、ファミコンの8bit音源のような曲もあります。

中でも目立つのがShadeさんによる戦闘シーンのBGM。「ギュイ―――ン」とエレキをかき鳴らす曲はだいたいShadeさんです(笑

お気に入りはメインの戦闘テーマとも言える「Revenge the Demons」。もうShade節炸裂!と言わんばかりの熱く激しい曲です。
「Change the Beats」は秘められた力を解放!いう感じのする曲。デスポリュカのための曲ですね。
これ以外にもShadeさんの曲はハズレがありません。サントラは是非買いましょう。返す返すも初回特典をダウンロードし損ねたのが悔やまれる…。

ムービー

ゲーム起動直後のアバンタイトルにちょっとしたムービーが流れます。

攻略

通常のRPGパートの難易度はそんなに高くありません。敵の強さもほどほどで、詰まるようなこともないかと。特にレベルアップ作業をしなくても、普通にダンジョンを攻略していけば自然とレベルも上がっていくと思います。

キャラのレベルアップ時はHPとMPが全快するので補給の必要もあんまりありません。MPを気にせずに攻撃魔法や回復魔法をバンバン使えます。ボス戦の直前には回復ポイントもあるので安心。
味方全員のHP・MP・TPを全快にする”精霊魂石”というラストエリクサーみたいなアイテムもありますが、ラスボス戦までとっておきましょう。というかラスボス戦はこれがないと無理です。

戦闘でパーティが全滅すると負けた戦闘をリトライするか、ダンジョン内の特定のポイントからやり直すか、オマケ要素である”処刑用ダンジョン”をプレイするかを選ぶことになります。

プレイ時間は初回プレイでだいたい30時間前後。やりこみ要素や処刑用ダンジョン等のHイベントをどれだけ見るかでも変わってきます。
2週目以降もがっつり楽しんで実績全解除を目指そうとすれば、優に50時間以上はかかるかと。

Hシーン

Hシーンはストーリー上の必須イベントと、戦闘で負けた後のBADエンドイベント「処刑用ダンジョン」による陵辱シーン、及びエンタメの国”ドレミファッキングダム”でのHガチャイベントに分かれます。設定によりHシーンはスキップすることも可能。
処刑用ダンジョンとドレミファッキングダムは基本的にストーリーには直接絡まないオマケ的なものと思ってください。全く見なくてもクリアすることが出来ます。
ただ量はかなりあるのでフルコンプするのはかなり大変。

陵辱や羞恥シーンがほとんどで、純愛Hとよべるものはごくわずか。そもそもプレイヤーキャラに男が少ないですし。
シチュ自体はかなり豊富ですが、尺は短め。SEなどもありません。
使えるかどうかは正直微妙、…かな? 特に処刑用ダンジョンの陵辱シーンはかなりハードなものになります。
陵辱内容にしてもCGにしてもいかにも同人ゲームという感じなので、普段商業エロゲに慣れた人には使い辛いかもしれません。

感想

「これは同人ゲームのレベルじゃない」という評価はぶっちゃけ割と良く見かけるもので、この『Demons Roots』の感想でも良く見かける文言です。
正直プレイする前は「言うても”同人ゲームにしては”良く出来た作品ってことでしょ」とある意味タカを括っていたんですが、実際にクリアしてみての感想は、

これは同人ゲームのレベルじゃない…
というか商業ゲームでもこれだけ物語にグイグイ引き込まれる作品ってそうそうないですよ。

ゲームのコンセプトは『王道RPG』とのことで、クリア後に振り返ってみると確かに王道的なストーリーではあるのですが、決してありきたりなものではありません。
特に中盤以降は少しずつキャラの秘密や敵の正体が明らかになり、物語に深みを与えていきます。

特に主人公であるデスポリュカのキャラクター性が最高に魅力的!
ウジウジ悩んだりせず即断即決。常に強気の表情で仲間たちを引っ張っていき、魔族の生存のため自ら死地に赴くその姿は正に魔族側の救世主。
そんな彼女が終盤唯一見せた涙にこちらも思わずもらい泣き。ポリュカ様あぁぁぁぁ!!!!!

またデスポリュカたちが進める”世界征服”にしても、今作では魔族側に正義があるかのように描かれるので、「これが本当に前作『KingExit』の物語に繋がるのか?」という前作プレイ済みならではのドキドキ感がありました。
それに大きな影響を与えるのが中盤に唯一現れる選択肢。これが物語的に非常に良いスパイスになっていて、前作通りに人間と魔族との絶滅戦争になっていくのか、あるいはそれを回避したIFルートになるのか、最後まで全くわかりませんでした。

こんなに面白い作品なのに、惜しむらくは知名度が低すぎる…。ErogameScapeの投稿数も未だ100個前後ってどういうことっすか?(※2025年時点では240個)
みんなもっと同人ゲームもやろうよ! いや今回初めて同人RPGに手を出した私も他人のこといえないけど…。
もちろん同人ゲーム界隈ではかなり話題になった作品ではあるんですが、同じく同人発の作品で大ヒットした『ファタモルガーナの館』や 『Chusingura46+1』と比べるとエロゲファンに浸透しているとは言い難い。やっぱ商業化しにくいツクール製RPGというのがネックになってるんでしょうか。

紅唯まとさんの才能を埋もれさせるのはもったいないので、どこかのエロゲメーカーで商業ゲームに携わるというわけにはいかないですかねぇ。アリスソフトあたりなら活躍できそうな気がするんですが。

タイトルとURLをコピーしました