2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『ゴールデンアワー』(NIKO 2017年)

人気イラストレーター・南浜よりこさんの絵が特徴的なMOREの系列ブランド・NIKOの製作による青春アドベンチャー『ゴールデンアワー』。

主要な登場人物が全員学園の3年生ということもあり、受験や就職で悩む少年少女の等身大の物語が魅力の作品です。
物語開始時点で彼氏持ちのヒロインがいたり、以前主人公と付き合っていた元カノの幼馴染がいたりと、妙に生々しい関係性が特徴的。
変な口癖だったりカラフルな髪色だったりするような萌えキャラのいない、シックで真面目な作風です。

でも完全に現実的な物語かというとそういうわけでもなく、ちょっと不思議な設定や展開も用意されているので、序盤で提示される謎や伏線がどう回収されていくかも見所のひとつ。

そんなに長いお話でもないですし、メチャメチャ泣けるとか予測不能の展開というようなパンチの効いた物語でもありませんが、黄昏時にふと自分の青春時代を思い出してしまうようなノスタルジックな作品が好きな方におすすめです。

  • リアルとファンタジーを両立した世界観
  • 夕暮れを舞台にしたノスタルジックなストーリー
  • 南浜よりこ氏の描くポートレートのような美しいCG
ブランドNIKO
ジャンル忘れられない青春を過ごす
恋愛アドベンチャー
初回発売日2017.7.28
DL版価格8,800円
シナリオ小西翼
原画南浜よりこ
おすすめ度80
シナリオ傾向

あらすじ

サッカー全国大会 地方予選決勝の直前、主人公・石森雄也は
ケガによりサッカーが出来ない身体になってしまった。

目標を失った雄也は夢や希望、そして恋を半ば諦め、ただ時間を潰す日々を過ごす。
気になる女の子・広瀬夏未 に対しても、どうせ自分なんてと興味のないフリをしていた。

放課後に時間を潰すためゲームセンターへ向かう雄也は、ユキ と名乗る少女と出会う。
彼女はとても似ていた。 広瀬夏未に。
そして、初めて出会ったはずなのに、どこかそうじゃない気がして……。

彼女は突然 雄也に告げる。

「私があなたの恋を応援してあげる」

それは、雄也とユキの止まっていた時が再び動き出した瞬間だった。
残りわずかな時間の中で……。

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
ゴールデンアワーVista 7 8 102017.7.28
MORE&NIKO 青春アンソロジー7 8 102019.10.25やや難

パッケージ版は初回/通常版の違いはありません。同梱特典としてドラマCDが付きます。

『~ 青春アンソロジー』はこの作品以外にMORE及びNIKOで発売された『ヒマワリと恋の記憶』(2014年)、『この恋、青春により。』(2016年)、 『スワローテイル』(2019年)の4本を同梱したもの。DVDトールケースサイズのパッケージで、中古ショップではプチプレミア化(ほぼ新品と同じ値段)しているためちょっと手に入りにくいですね。

単品のパッケージ版は比較的流通量も多く、中古価格もお手ごろなので手に入れやすいのですが、ブランドの活動終了により公式サイトが閉鎖されているため、正規の手段で修正ファイルを手に入れることができません。
幸いwebarchiveに配布ページが残っているので、パッケ版を購入した場合はこちらから修正ファイルを入手してください。

ダウンロード版(FANZA独占)は修正ファイルが当てられた状態で配信されているので、今から買うならこちらを推奨。
ただダウンロード版は税込み定価8800円というちょっと強気の値段なので、できればセール時を狙いましょう。頻繁に500円均一の対象になっているのでかなりお得に購入することが可能です。
またFANZAのGAME遊び放題プラスの対象にもなっています。

システム

画面下にメッセージが表示されるADVタイプのシステムです。画面サイズは1600×900。
メッセージウインドウにはいわゆる”枠”がなく、薄くグラデーションして色分けしてるのみのシックな作り。
ただ文字がちょっと小さいので、離れて見るとちょっと読みにくいかも。

システム的に必要な機能は揃っていますが、ゲームを終了するときにいちいちコンフィグ画面を開かないといけないのは地味にめんどいですね。

テキスト履歴はロード時も保存され、任意のシーンにジャンプすることもできます。
普通こういう機能ってジャンプした後のテキスト履歴は増えないことがほとんどですが、この作品はジャンプして戻った後もその時点でのテキスト履歴が表示されます。
何気に便利な機能ですが、さすがにジャンプできるのは元の履歴のあるシーンまでで、延々とジャンプで戻ることはできません。

シナリオ

メインのシナリオライターは小西翼さん、サブライターに垂花さん、企画及びディレクションはMOREの代表でもある北澤伸一郎さん。

物語はサッカー部のエースでプロチームとの契約目前だった主人公・石森雄也が怪我により選手生命を絶たれ、部活も辞めて自堕落な生活を送っていたところ、不思議な雰囲気をまとう少女・ユキに出会い何故か主人公の恋を応援される、という青春恋愛ストーリー。
主人公のスマホには学校で人気の少女・広瀬夏未との身に覚えのないツーショット写真が保存されているという、ちょっと不思議な謎が散りばめられた作品です。ところで今の若者も「ツーショット」って言葉使うんですかね?

シナリオ構成はいわゆる途中下車方式で、本筋のシナリオから順に分岐する形で個別ルートが開始します。
最終ルートであるユキルート以外は普通の恋愛物語です。どのルートも少し三角関係っぽい展開になりますが、そんなにドロドロしたものではありません。主人公はちょっとヘタレな感じですけど。

物語の舞台は深谷という街なんですが、これは埼玉県の深谷ではなく、渋谷をモデルにした架空の街のようですね。センター街とかスクランブル交差点とかも出てきます。架空の地名にするにしても、もうちょっとほかの地名にならかったですかね。深谷と渋谷では全然イメージが違ってくるので。

また主人公が元サッカー選手ということで、セリフの中にサッカーネタが良く出てきます。私サッカーあんまり詳しくないのでよくわかんなかった…。
サッカーネタに関しては「今更だけどエロゲしようぜ!」さんが解説してくれてます。

気になったところといえば、テキスト中にちょっと誤字が多すぎです。修正パッチを当てた状態でも頻繁に誤字が出てきます。日常シーンならともかく、クライマックスのシーンでも誤字があると正直萎えますね。
また声優さんによる誤読もちょいちょいあって、「大事(おおごと)」を「だいじ」と読んだり、「○○じゃない」のイントネーションで意味が全く違ったりしてしまうこともありました。これは声優さんが悪いというより、収録時のディレクションが甘いですね。誤字はまあ仕方ないとしても誤読はさすがに気付こうよ・・・。

グラフィック

原画はMORE系列の看板原画家・南浜よりこさん、サブに北風つかささん。
あまり萌え萌えっとした絵柄ではなく、やや現実よりでシックな雰囲気のキャラデザです。
キャラの髪色も黒色が中心。金色や銀色の髪色をしたキャラもいますが、これは本当にその色に染めているという描写があります。

イベントCGは全部で106枚。そのうちSD絵が5枚。正直、作風的にSD絵はいらなかったんじゃと思わなくもない。

イベント絵は非常に美しく、背景をぼかしたり光による陰影を際立てたりしてヒロインを引き立たせる写真のような構図も多いのが特徴的。
「ゴールデンアワー」のタイトル通り、夕暮れを意識したCGも多いですね。

またどのヒロインにも後ろ向き(正確には斜め45度くらい)の立ち絵が用意されていて、「一緒に並んで歩いてる感」を出すのに一役買っています。

ちょっと気になったところといえば、主人公の姿をはっきり描いたCGがしばしば出てきます。しかも主人公の見た目が結構チャラい。
主人公とヒロインの甘い関係を描きたかったという意図はわかるんですが、ぶっちゃけやや感情移入しにくかったですね。

キャラクター

広瀬夏未
主人公が憧れを抱く優等生のクラスメイト。
女子からの人気もあるほど性格も良く、勉強も家事もできる完璧超人。

北上まりか
主人公の幼馴染で元カノ。さっぱりとして明るい少女。
中学時代に主人公と付き合っていたが、主人公のサッカー留学をきっかけに別れることに。

七北田瑠璃
サッカー部の元マネージャーで、キャプテンと交際中。
まだ体の関係はないので安心してください(笑

名取すず
学校に通いながら雑誌の読者モデルとして活動中。
物静かな性格だが、社会人としてしっかりした面も持つ。

ユキ
主人公が偶然出会った意味深な少女。
見た目は髪色以外夏未にそっくりで、何故か主人公の恋を手伝い始める。

石森雄也
本作主人公で深谷校3年生。元サッカー部で、怪我をしてからはゲーセン通いの毎日。

これに加えて主人公の友人で元サッカー部の雅史を含めた7人が主なキャラクター。
学園モノで主要キャラが全員同級生、しかもユキ以外は全員同じクラスというのも珍しいですね。

ボイス

あじ秋刀魚(夏未) 鈴谷まや(まりか)ヒマリ(瑠璃)くすはらゆい(すず) 歩サラ(ユキ)
白月かなめ橘まお
神無月真琴中江漣あずま響介

主人公以外主要キャラフルボイス。
メインキャラには2010年代のエース級の声優さんを揃えた感じで、実力は十分。
個人的には、まりか役の鈴谷さんがドハマリでした。なんというか、変に作らない”普通の幼馴染感”が出ていて凄く良かったです。

BGM

BGMの作曲は北澤伸一郎さん、東条サダヲさん、セクシー大統領さんの3人。レーベルはMME(MORE MUSIC ENTERTAINMENT)というMOREの社内ブランドです。

曲数はかなり少なめで15曲。良い意味でエロゲーっぽくない、ムーディーで大人っぽい曲が多いですね。

個人的お気に入りは、タイトル画面でも流れるメインテーマ「Isomnia」。どこかノスタルジックなピアノ曲で、メインの旋律がまるで歌っているかのように聞こえるのが印象的。
明確なメロディのない「Goldemtime」は、まるで落ち着いたバーにでも流れていそうな曲です。バーとか行ったことないけど。

主題歌

タイトル作詞作曲編曲備考
「Change The World」ジェームズ伊達北澤伸一郎北澤伸一郎夢乃ゆきOP
「車窓の歌」ジェームズ伊達北澤伸一郎東条サダヲhanaOP
「ラストタイム」ジェームズ伊達北澤伸一郎東条サダヲ夢乃ゆきED

テクノ調の伴奏が印象的なOP曲は、良い意味で美少女ゲームっぽくない大人びた曲。この曲はグランドEDにも使われます。音楽モードではフルバージョンを聴くことが可能。
歌っている夢乃ゆきさんは元MMEの所属で現在もフリーで活動している歌い手さんです。

ED曲「ラストタイム」はエンディングにふさわしい名曲。青春時代の恋を描いた割とストレートな歌詞で、まるで女子高生が書いたような内容です。

ムービー

物語開始直後と、プロローグ終了後、ユキルート開始時の3箇所にムービーが差し込まれます。
このうち主題歌が流れるのがプロローグ後のムービー。作品的にもこれがメインのムービーっぽいですね。
作り自体は作中のCGを加工したオーソドックスなもの。所々でスマホのメッセージを見せる演出が特徴的です。

ムービー制作はKIZAWA studio。残念ながらムービー観賞モードはありませんが、インストールフォルダにあるpacフォルダにムービークリップが生で格納されているので、一般的なプレイヤーで直接見ることができます。

攻略

途中下車方式なので、本編中に数回出てくる選択肢を選んだ直後に即分岐します。選択肢が出てきたらセーブしておきましょう。

推奨攻略順は選択肢の出てくる順番通りに、瑠璃→すず→まりか→夏未→ユキ。
最後の選択肢は夏未とユキの二択になりますが、必ずユキは最後にしてください。大事なことなのでもう一度いいます。ユキは最後にしてください。

総プレイ時間はだいたい20~25時間くらい。昨今のシナリオゲーとしては短め。良い意味でコンパクトなシナリオです。

Hシーン

シーン回想に登録されるHシーンは23個。だいたい1ヒロインあたり4~5個くらいになります。
シーン1つあたり3回くらい達するのでそこそこ尺がありますが、どちらかが達するたびにCGが変わるのでダレずに楽しめますね。
あと何故か抜きゲーばりに”射精カウントダウン”が表示されます(非表示も可能)。

行為自体はオーソドックスなもの。ヒロインの台詞は結構乱れますが、卑語の類は言いません。

この作品、というか原画家の南浜よりこさんの特徴だと思いますが、いわゆる”バック”の絵に非常にこだわりが感じられます。
普通バックの体位ってヒロインの顔と体が見えるように正面か横からの構図が多いと思うんですが、南浜よりこさんの描く絵は必ず背中やお尻を向けた主人公視点の構図になってるんですよね。これはこれで臨場感があります。

また挿入時は、「途中まで入れてるCG」と「根元まで入れてるCG」を交互に表示することによって出し入れを表現しています。抜きゲーではたまに見られる演出ですが、シナリオゲーでは珍しいですね。

あとこの作品、避妊に関して気にしなさ過ぎです。いや別にフィクションなんだからそこまで避妊にこだわらなくても良いとは思うんですが、進路や将来について真剣に悩んだあとに「孕ませてやる」とか言って中出ししまくるのはさすがにどうかと思うな…。

感想

タイトルにある「ゴールデンアワー」というのは、撮影用語で日没後のわずかな時間に西の空全体が輝いて見える時間帯のことで、別名「マジックアワー」とか「マジックタイム」とかいわれているそうです。

この物語も学生生活最後の半年間を描いた、正に「ゴールデンアワー」というタイトルにふさわしい作品。
要所要所で”夕方”を強くイメージした作りになっていて、放課後に恋や進路で悩んでいたノスタルジックな青春時代を追体験できます。

個人的には彼氏持ちでありながら主人公に惹かれていく瑠璃ルートは、なかなかそそるものがありました。寝取られじゃなくて寝取りというのもシナリオゲーでは意外と珍しいシチュですね。

ただユキ以外の個別ルートはあんまりドラマチックな展開でもなく、Hシーン以外の分量も少なめなので、正直そんなに感動するようなストーリーではありません。
そのぶん、すべての謎が明らかになるユキルートのカタルシスは最高。物語の構成上、他のヒロインからの告白を断り続けた末にたどり着くルートなので、ユキがどういう思いで主人公の恋を応援していたかと思うと、非常に切なくなります。
唐突に出てくるファンタジー要素に違和感がないわけではありませんでしたが、まぁギリ許容範囲。一応個別ルートにもそれっぽい伏線はありましたしね。

ただ欲を言えば、最後のユキルートはもうちょっとボリュームがあっても良かったかも。ラストシーンもなんだか淡々と終わってしまった感があったので、もっと盛り上がるような演出があったらなぁと。

でもHシーンは多めで実用性は高く、主人公とヒロインの関係性も様々。純粋に愛し合ったセックスはもちろん、傷を舐めあうようなセックスや彼氏持ちのヒロインとの背徳的なセックスなど、十代少女との生々しい関係を味わうことができます。
萌えキャラには頼らず派手な展開があるわけでもない、地味といえば地味な作品ですが、ノスタルジックな恋愛模様を堪能しつつ一人の少女の一途な愛情に心を打たれる、まさにエロゲーならではの物語でした。

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