新興ブランド・”きゃべつそふと”制作の第2作、『アメイジング・グレイス』。略称は”アメグレ”。
タイトルがタイトルなだけに、そのままネットで検索するとなかなか作品のページがヒットしません。作品情報を検索するときは、「きゃべつ」とか「エロゲ」といったワードを追加しましょう。
受賞暦は萌えゲーアワード2018シナリオ賞金賞、Gethu.com美少女ゲーム大賞シナリオ部門2位、2018年2chベストエロゲ投票では第3位。
ダントツの評価というわけではないのですが、2018年はこの作品のほかに『ランス10』や『ぬきたし』、一般向けでは『Summer Pockes』といった名作ソフトが発売されているため、他の年なら1位を獲っていてもおかしくなかったかもしれません。というかこの年は名作ソフトが多すぎです。
きゃべつそふとは第1作『星恋*ティンクル』のときは正直評価も知名度もそこまで高くなかったのですが、この『アメグレ』のヒットで一気に要注目ブランドにのし上がった感じです。
この作品は主人公がヒロインと協力しつつ、惨劇を回避するために何度も同じ時間を繰り返すという、いわゆる”ループもの”。方向性としては往年の名作『シュタインズ・ゲート』等に近い構成ですが、いわゆるタイムパラドックス的な要素はなく、何度も失敗しながら未来を変えていくという展開になります。
何より最大の魅力はとても綿密に練られた物語と世界観。序盤のほんのちょっとした台詞や背景の描写が後の展開の伏線になっていて、物語後半でそういった伏線を次々と回収していく様は非常に気持ちの良い「してやられた感」を得られます。
純粋に物語を楽しめるのは最初の一回のみなので、是非ネタバレを食らう前にプレイしてください。
- 序盤から綿密に張られた伏線
- 絵画に関する豊富な雑学
- 惨劇を回避し、犯人を探し出すループもの
あらすじ
主人公・シュウは記憶を失くし、雪の降る “町” で目を覚ました。
彼はそこをとても奇妙な場所だと思う。
中世の西洋を思わせるアンティークな町並み。
何よりも芸術を重んじる文化的価値観。
そして……町を囲むように閉ざしている、オーロラと呼ばれた巨大な壁。
だがシュウはそんな町の人たちに助けられ、
やがて聖アレイア学院という学び舎で学生たちと豊かな日々を過ごすことになる。
しかしそんな幸せはまたたく間に奪われる。
12月25日、原因不明の大火災により町は崩壊の一途をたどった。
誰よりも町を愛するユネは運命の変革を心に期し、
アドベントの初日─12月2日にまで時計の針を巻き戻す。
─なぜ、破滅は起こったのか?
─なぜ、何度やり直しても同じ運命を辿るのか?
─なぜ、これだけ時間を繰り返すことができるのか?
巡り巡る時の回廊。その果てに待つ世界を知るべく、
町というキャンバスに彼らは真実を描き出す。
購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
アメイジング・グレイス -What color is your attribute?- | Vista 7 8 10 | 2018.11.30 | 並 |
アメイジング・グレイス -What color is your attribute?- | PS4 | 2019.9.26 | 易 |
アメイジング・グレイス -What color is your attribute?-(価格改定版) | Vista 7 8 10 | 2021.2.26 | 並 |
PC版のパッケージは1種類だけ。2021年2月26日以降は価格改訂版が販売されていますが、基本的に同じものです。
新品はすでにロットアップしているうえに、最近は中古価格もややプレミア化しています。数は少なくないので入手困難というわけではないものの、ちょっと買いにくいですね。少し前までは普通に5~6000円くらいで買えたんですけど。
パッケージ版は特に特典の類もないので、今から買うならダウンロード版(Fanza独占)を推奨。結構早い時期からちょくちょく半額セールの対象になっていますし、毎年12月にはさらに安くなるキャンペーンをやっています。
Hシーンが本編に絡んでこないので、シナリオ目的ならPS4版でも良いかもしれません。ちょっと安いし。
システム
ゲームエンジンはEthornellを使っていて非常に安定性が高いと思います。
画面サイズは1280×720のワイド画面が基本ですが、4:3のディスプレイにも対応していて、そのときはCGを上側に表示して余った下側にメッセージウインドウを表示させる(つまりCGがウインドウで隠れない)ことも出来ます。もちろん通常のワイド画面表示も可能です。
テキストは2行にわたって表示されますが、文字の表示領域がかなり横に長いので長文のときは微妙に読み辛いかもしれません。一文字だけ改行されることもありますし。
オートモードはウエイト時間が文章の長さに関わらず一定なので最初戸惑いましたが、文字の表示速度をかなり細かく設定できるので、それで調整することが出来ます。
その他のシステムは一通り揃っていて特に不満はありません。
ゲームを再開するときは通常のロード画面のほかに「前回の続きから」を選択することが出来ます。これはセーブした場所ではなく、あくまで中断した場所から復帰するもので、使いようによっては結構便利ですね。
シナリオ
企画及びメインライターは冬茜トムさん。サブライター兼ディレクターに”しげた”さん。
物語は”オーロラ”と呼ばれる巨大な壁に囲まれた街で記憶喪失となった主人公がヒロインのユネに助けられ、聖アレイア学院という美術を専門に学ぶ学校に通うことになるところから始まります。
街の中は中世ヨーロッパのような石造りの町並みで、テレビや電話はありませんがボイスレコーダーや声紋認証などの電子機器は存在しています。そして”壁の外”の世界は101年前に滅亡しているという不思議な世界観です。
主人公は学院の仲間たちと美術を学びながら楽しく過ごしますが、12月25日に謎の大火災が発生し街が壊滅。その後主人公とユネは惨劇を回避するために不思議な力で12月2日まで時間を巻き戻す、というのが体験版までの流れ。
普通こういう”ループもの”の作品というのは「ループものであること」を隠して発表することも多いと思うんですが、この作品ではあらすじの段階で堂々と公表してます。わざわざ隠さなくてもプレイヤーを満足させることが出来るという自信の表れかもしれません。
ストーリー構成は全12章+αの章別構成で、だいたい1回のループが1つの章で構成されます。同じ展開の出来事は省略されることが多く、2周目のループ以降 は比較的テンポ良く話が進みます。そのため章の長さがまちまちで、数時間かかる章もあれば、あっという間に終わってしまう章もありますね。
またこの作品は美術(特に絵画)をテーマにした作品でもあるため、要所要所で有名な絵画やそのモチーフとなった神話に関する雑学が出てきます。しかもそういった雑学がちゃんとストーリーに反映されているのが凄いところ。
グラフィック
原画及びキャラクターデザインは”梱枝(こりえ)りこ”さん。頭身が低めで、ややデフォルメされた可愛らしいキャラデザです。まんがタイムきららとかに出てきそうな感じ。キャラの顔がどれも似通った感じなのはご愛嬌。
梱枝さんはフリーの女性原画家さんみたいですが、きゃべつそふと作品の原画を一手に引き受けています。可愛い絵柄でファンも多く、ぶっちゃけきゃべつそふと作品の人気はこの方の影響も大きいかもしれません。
美術がテーマの作品ということで、ミケランジェロの『最後の審判』やブリューゲルの『バベルの塔』、ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』といった有名な絵画の画像もたくさん出てきます。結構美術の勉強にもなりますね。
キャラクター
ユネ
主人公の同級生となる少女。聖アレイア学院での専攻は声楽。
物語的にも主人公のパートナーとして大災害の謎に立ち向かいます。
キリエ
寮で主人公の真上の部屋に住む同級生。専攻は映画。
明朗快活なちびっ子で爆発好きの映画監督。
コトハ
キリエの親友で1つ年上の先輩。専攻は油彩画。
学院での成績では常にトップを争う才女。キリエの映画では主演女優を担う。
サクヤ
主人公より1つ年下でいつも胸元を開けている巨乳。専攻は服飾。
大人しい性格ではあるけど、主人公に対してはぐいぐい迫ってくる後輩。
シュウ
自分のことをほとんど覚えていない主人公。
唯一確かなのは壁の”外”の世界から来たということだけ。
登場人物はこれ以外に、男友達のヨウジと先輩のギドウ、学院の教師であるリリィ先生と商店街の店長など。
主要な登場人物はそんなに多くないですが、全てのキャラが物語に多かれ少なかれ絡んでくる絶妙なキャラ配置だと思います。
ボイス
月白まひる(ユネ) | 桜田紅(キリエ) | よもぎすふれ(コトハ) | 藤咲ウサ(サクヤ) |
桜上水琥珀 | 相模恋 | ||
本間かいな | 赤兎馬 | 木下くわがた丸 |
主人公以外フルボイス。名義はPS4版と共通です。
正直なところ、サクヤ役の藤咲さん以外は知らない方ばかり。軽く調べてみても他の作品でもあまり見かけない方が多いですね。
藤咲ウサさんは他作品でも結構耳にするベテランさんですが、今作では小さな声でつぶやくような演技が特徴的。
唯一気になったのがリリィ先生役の桜上水琥珀さん。ちょっと棒読み気味です。ゲーム開始直後、最初に聴く声になるので「おいおい大丈夫かこの作品・・・」と心配になりますが、他の方の演技はほぼ問題ありません。
BGM
BGM作曲はsolfaさん。曲数は19曲とやや少なめ。
まったりと落ち着いた日常的な曲が多いですね。
個人的お気に入りは、ゆったりとしたピアノの旋律が印象的な癒し曲「星屑のカーテン」。
三拍子のリズムと様々な楽器の音色がいかにも芸術家の生活を連想させる「陽だまりのアトリエ」。
タイトル画面でも使われる数少ないピアノソロ曲「おぼえていてね」も耳に残る名曲。
12月が舞台ということで「Jingle Bells」や「Silent Night」、「We Wish You A Merry Christmas」といったクリスマス曲のインストゥルメンタルも頻繁に流れます。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
『コールドボイス』 | 冬茜トム | a.k.a.dRESS | ave;new feat.佐倉紗織 | OP |
『夜明けの虹を越えて』 | 冬茜トム | 伊吹ユキヒロ | 小春めう | ED |
OP曲を歌うのは00年代に”きしめん”こと『True My Heart』で一世を風靡(?)した佐倉紗織さん。今作でも良い意味で舌っ足らずな声色は健在です。
ED曲の『夜明けの虹を越えて』はグランドエンドにふさわしいしっとりとした名曲。これまでの出来事が走馬灯のように思い出されます。個別エンドではEDが流れないので感慨もひとしお。
そして絶対流れるだろうと思っていた挿入曲『Amazing grace』は説明不要の名曲ですね。使われるシーンも良い意味で反則。
ムービー
ムービー制作はMju:zの神月社さんとかがみさん。神月さんらしい雪や羽の舞う演出が特徴的なシンプルな作り。途中で時計の針を表示させたり映像を逆再生させたりしてループものを暗示させる構成です。
キャラ紹介の場面でキャンバスに描くように立ち絵が表示されるのは、美術がテーマのこの作品ならではの演出ですね。
OPムービーはクリア後のおまけモードからいつでも観ることができます。
攻略
序盤で数周ループした後、”絵画を選ぶ”という変わった選択によってルートを選ぶことになるんですが、結局全部のルートを選ぶことになるので、あまり順番は気にしなくてもいいと思います。デフォルトの位置にある絵画を選べば章番号通りに進むのでそのまま選べば良いかと。
絵画選択の場面でヒロインの絵を選べば、その後の選択肢で個別エンドに分岐します。この個別エンドはHシーンはありますがENDムービーは流れないノーマルエンド的なシナリオなので、シーン回収目的のシナリオと思ってください。
最終章で分岐する最後の選択肢はどちらを選んでも大筋では変わらないので、好みのほうから選んでもらえばOKだと思います。
最終章をクリアするとそれぞれのヒロインごとの後日談を集めたアフターシナリオをプレイすることができます。
総プレイ時間は本編+アフターシナリオまで、ゆっくり目のオートモードで35~40時間くらい。
Hシーン
シーン数は各キャラ公平に4つずつで合計16個。そのうち本編にあるのは4つのみで、残りはクリア後のアフターシナリオです。本編の4つのシーンも途中で分岐する個別エンドにあるもので、本筋のシナリオ中にはHシーンが存在しないというかなり思い切った構成です。
行為の内容は非常にオーソドックスなもの。どのヒロインも初々しい反応で卑語の類はほとんど言いません。
ほとんどのヒロインに妊娠を望む台詞がありますが、実際に妊娠はしません。
1回だけ避妊した上での行為があるんですが、モザイク無しのゴム描写があるのはちょっと萎えますね…。
珍しいところでは、ほぼ全員に着衣Hがあります。これは半裸という意味ではなく、上半身は完全に服を着た状態でHします。個人的にあんまり好みではないんですが、それなりに需要があるんですかね?
いやそれよりも、コトハ先輩はせっかく黒タイツ履いてるのに行為の最初からタイツ脱いでるのはプログラムのバグか何かですか?
感想
主人公が同じ時間を繰り返す”ループもの”の作品というのは、わざわざWikipediaのページが 作られていることからもわかるように割と昔からあるジャンルで、アニメ界隈では押井守の劇場アニメ『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』がそのはしりでしょうか。2000年以降ではTVアニメ化の際に本当に同じシナリオを8週連続で繰り返して話題になった谷川流 の『涼宮ハルヒの憂鬱・エンドレスエイト』や、ハリウッド映画化もされた桜坂洋のライトノベル『All Need You Is Kill』あたりが有名です。
美少女ゲームの世界では元々周回プレイが前提であるため特に”ループもの”との相性が良く、これまでもたくさんの名作が生まれてきました。(ネタバレ回避のために作品名は伏せます)
そんな中2010年代後半になって新たに生み出されたループものの名作『アメイジング・グレイス』。
この作品は単なるループものではなく、クリスマスに起こる惨劇を「誰が」「何のために」「どうやって」引き起こしているのかを解明していくミステリー的な要素が強い物語でもあります。
また物語の見せ方も非常に上手く、序盤から中盤にかけての本当に何気ない描写に意味があって、終盤で事件の謎や街の秘密が明かされたときは「あれが伏線になってたのかよ!!」と驚嘆するプレイヤーが続出。
あちこちレビューサイトや掲示板を回ってみましたが、ネタばらしの直前まで気付かなかったという人がほとんどです。
ただまぁ、主人公に対しては「オマエは気付けよ!」と言いたくはなるかも(笑
普通、ミステリー作品というのはネタがわかってしまったら楽しめないものですが、この作品の場合1回クリアしてネタを理解したうえで、もう一度最初から伏線をなぞりつつプレイしたくなるくらいの魅力があります。
メインライターを担当した冬茜トムさんはこういう緻密な伏線がちりばめられたシナリオが得意らしく、この作品のヒットによって前作の『もののあはれは彩の頃。』(QUINCE SOFT)も再評価されている感じです。
きゃべつそふとでの次回作『さくらの雲*スカアレットの恋』も含めて”ライター買い”したくなるクリエイターさんですね。
ちなみに作中の日付がちょうどこの作品の発売された2018年11月に合わせてあるので、発売日に購入した人にとってはまさにリアルタイムで物語を体験でき たことになります。発売日に買うのはこういうメリットもあるんですね。開発者の方は「絶対に延期できない」というプレッシャーがあったでしょうけど(笑
もちろん今から読んでも十分楽しめるので、綺麗に伏線を回収していく物語が好きな方はぜひプレイしていただきたい作品です。