2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『きまぐれテンプテーション』(シルキーズプラスWASABI 2019年)

主人公のことを「ダーリン」呼びするヒロインってなんとなく昭和チックな香りがしません?
『うる星やつら』のラムがいちばん有名だと思いますが、エロゲだと『ランス』シリーズのリアなんかもそうですね。ランスはギリ平成ですけど。

今回紹介するのはそんな「ダーリン」呼びするヒロインが魅力的な『きまぐれテンプテーション』。略称は「きまテン」。萌えゲーアワード2019準大賞・エロス系作品賞PINK受賞。

制作ブランドはシルキーズプラスWASABI。同ブランドの『なないろリンカネーション』(2014年)や『あけいろ怪奇譚』(2016年)に続く「オカルトホラーシリーズ」3作目。
前作・前々作とはストーリー上の直接的なつながりはありません。ただ世界観は同じですし、前作までのキャラも一部登場するので、過去2作もプレイしておいたほうが楽しみやすいと思います。

物語は4人いた住人全員が腹を裂かれて死亡した「呪いのマンション」を舞台に、主人公の陰陽師・巽悠久とイギリスからやってきた悪魔・アンネリーゼと共に事件の調査と呪いの解消を目指していく、ファンタジックなホラーミステリー。

定価が4000円弱という低価格帯なのでボリュームは小さめですが、シナリオの面白さとキャラクターの可愛さが上手く融合した作品です。
続編である『きまぐれテンプテーション2 ゆうやみ廻奇譚』も発売されていますが、あらすじやキャラ紹介がややネタバレチックなので、今作プレイ前は見ないようにしましょう。

  • 呪いのマンションを舞台にしたホラーサスペンス
  • 唯一のヒロイン・アンネのかわいらしさ
  • E-motoを使ったアニメーション演出
ブランドシルキーズプラスWASABI
ジャンル陰陽師が可愛い悪魔に
誘惑されるADV
初回発売日2019.9.27
DL版価格3,667円~
シナリオかずきふみ
原画きみしま青
おすすめ度80
シナリオ傾向

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
きまぐれテンプテーション7 8 102019.9.27
きまぐれテンプテーション 全年齢版7 8 102020.8.28
きまぐれテンプテーション1&2セット10 112024.11.29

パッケージ版は特典の類のないシンプルなもの。抱き枕カバー付きのスペシャルパッケージ版もありますが、こちらは定価越えのプレミア化。

翌年にはPC用の全年齢版も発売されています。値段は安いですが当然Hシーンはありません。パッケージの雰囲気が似ているうえに、ショップによっては18禁の棚に紛れ込んでいることもあるので注意してください。

『~1&2セット』は文字通り、続編である『きまぐれテンプテーション2』とセットになったもの。

パッケ版は特典もないですし、中古価格も安くないというか新品とほぼ変わらない値段なので、今から買うならダウンロード版(FANZA独占)を推奨。DL版はプラス1000円くらいでボイス特典付き限定版も販売されています。

システム

基本的なシステムは画面下にテキストが表示されるADVタイプです。画面サイズは1280×720。

この作品の立ち絵は目パチ口パクだけでなく、体全体もE-motoによりVTuberみたいに動きます。まぁ動くと言っても頷いたりちょっと体が動く程度なんですが、連動して髪の毛や胸が揺れたりするのでかなり臨場感がありますね。
非力なPCだとちょっとカクつくこともあるかもしれませんが、最近のPCなら基本的に大丈夫だと思います。どうしてもだめなら設定でE-motoをOFFにすることもできますし。

E-motoよりもシナリオ上の演出で背景を揺らしたりするときに、非力なPCだとかなり動きが重くなります。こういう演出は切ることができないみたいなんですよね。

またシナリオ中には「行動選択モード」というものがあります。これは主人公たちが事件の調査をするときにキャラクターと話したり部屋の中を調べたりするもの。部屋を調べるときは背景をマウスカーソルでクリックする、いわゆる「ポイント&クリック」方式になります。調べるといっても対象は一部屋につきせいぜい3~4か所くらいしかないおおざっぱなものなので、一昔前の推理アドベンチャーのようなシビアなものではなりません。

テキストウインドウの隅にあるボタンでは「操作手帳」を見ることができます。これは調査の進行によってどんどん記録されていくTIPSのようなもので、できるだけ読むようにしてください。何気に重要なことが記録されたりもします。新しく記録されたときは場面転換時に画面の右上に通知が表示されるので、その都度読むようにしましょう。

ちなみに公式から「『行動選択』スキップ機能追加パッチ」と「Hシーンアニメパック」が配信されているので導入しておきましょう。DL版もデフォルトでは導入されてない状態なので、あとから追加する必要があります。

シナリオ

シナリオライターは前作及び前々作と同じ、かずきふみさん。
テンポが良くてメリハリのある、非常に読みやすい文章を書かれる方です。

物語は陰陽師である主人公・巽悠久(たつみはるひさ)が、彼の師匠の指示で住人4人が死亡した”呪いのマンション”で事件の調査をすることに。当該のマンションに行ってみると、イギリスから来た悪魔・アンネリーゼが部屋に住み着いていて一緒に調査を始める――、というところから始まるサスペンスもの。
事件によって殺害された人物も登場する、ファンタジックなホラーものでもあります。

幽霊や妖怪の類は存在するものの一般人には認知されておらず、そういったものに対応する陰陽寮という組織や警察の十三課が設立されている、という世界観。ただこの辺の設定は作中ではあんまり詳しく語られないので、初見だとちょっと雰囲気がつかみにくいかもしれません。
基本的に前作『あけいろ怪奇譚』や前々作『なないろリンカネーション』と世界観が共通しているので、(必須ではないですが)過去作をプレイしておいたほうが理解しやすいと思います。

ミドルプライス作品なのでシナリオは短め。
作中では調査の状況を外部の人間に報告したりはしますが、基本的にマンション内からは出ないクローズドな物語です。

グラフィック

原画・キャラクターデザインは”きみしま青”さん。
この作品以外にUs:trackの『恋×シンアイ彼女』(2015年)やGLOVETYの『アインシュタインより愛を込めて』(2020年)を担当されている方ですね。

イベント絵は全部で32枚。
枚数は少ないですが、全体的に明るくて可愛らしく、万人受けしそうな絵柄です。そのぶんホラーなシーンとの対比が際立ちます。
前作までのすめらぎ琥珀さんからは原画家さんが変更になっていますが、前作までのキャラのCGは出ないので特に違和感はありません。

立ち絵があるのはメインヒロインのアンネのみ。
他の登場キャラはイベント絵が1枚あるだけと、かなり差別化されています。というよりコストの問題ですかね。
その代わりアンネの立ち絵は非常にバリエーション豊かで、E-motoで動くだけでなく、服装もほぼ毎日変わります。毎日新鮮なアンネの姿を見られるのは良いですね。
デフォルトの悪魔の姿はメチャメチャエロい恰好ですが、次第に見慣れてきます(笑

キャラクター

アンネリーゼ
イギリス出身の悪魔で、サキュバス的な夜の眷属。愛称はアンネ。一般人にはその姿が見えない。
日本のアニメや漫画が好きで、日本の永住権を得るために主人公に協力する。

巽悠久
陰陽寮に所属する陰陽師で大学一年生。コミュ障気味の童貞。
陰陽師としての経験はそれなりにあるが特別な術を使えるわけではないので、霊を祓うときは妖刀を使用。

この他にもサリィ・ロゥジィ・クーリィ・ハーヴィーといった”マンションの住人”が登場します。どのキャラも個性的ですが、ヒロインというわけではなく、あくまで事件の関係者という位置づけです。この4人は殺人事件の被害者なので、全員すでに死亡済みというところもこの作品ならでは。
この他に前作・前々作からもキャラが1人ずつ登場しますが、基本的に事件の報告をするのみで、物語に深く関わってはきません。

メインヒロインのアンネはメチャメチャいいキャラですね。可愛くて楽しくてエロいなんて悠久でなくとも入れ込んでしまいます。主人公のことを「ダーリン」呼びする押しかけ女房的なキャラですが、むしろそこがいい。

アンネとのノリの良い日常会話の面白さは、どことなく同じかずきふみ作品の『9-nine』に登場する新海天を彷彿とさせますね。むしろかずき作品のキャラの良さをアンネに凝縮している感じ。

ボイス

歩サラ(アンネ)
鈴谷まやくすはらゆいあじ秋刀魚手塚りょうこ
秋野花杉原茉莉

主人公以外フルボイス。
少ないながらも10年代のエース級を並べたようなキャスト陣です。

メインヒロインであるアンネ役は人気と実力を兼ね備えた歩サラさん。アンネの魅力がポサラさんの演技によってさらに増しています。

マンション住人の娘たちの配役も実にスキがありません。この4人はすでに死亡済みなんですが、明るく振舞うこともあればホラーチックなおどろおどろしい場面、胸が引き裂かれるような悲痛な叫びもあったりします。一部ボイチェンを使って加工したような声もありますが、どれも実力の高さをうかがえる見事な演技です。

BGM

BGMの作曲は『ななリン』や『あけいろ』だけでなく、『景の海のアペイリア』や『バタフライシーカー』等のシルキーズプラス作品でBGMを手掛けてきた未来さん。
MUSICモードで聴ける曲は主題歌とそのインストバージョンを除くと20曲。少なめですがシナリオのボリュームを考えるとこんなもんでしょうか。

個人的お気に入り曲はポップな電子音が特徴的な「アンネリーゼのテーマ」。タイトル通りアンネとの楽しい日常をイメージしたような曲です。
OP曲「Fantastic Conflict」のARRANGE-VERも凄く良い曲。どこか寂しげだけど前向きなピアノ調べに思わず涙が流れそうになります。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「Fantastic Conflict」こはるんこはるんsolfa feat. 小春めうOP
「願い」Rin橋咲透solfa feat. RinED

OPテーマ「Fantastic Conflict」を歌うのは小春めうさん。純愛ラブコメ作品のようなポップで明るいラブソングです。アンネの想いと悠久の想い、どちらとも取れる歌詞ですね。

ED曲の「願い」は非常にしっとりとしたバラード。悲しげな曲ですがエンディングの雰囲気にぴったり合っています。バッドエンドでインストバージョンが流れていた曲が、TRUEエンドで初めてボーカルが付くので感慨もひとしお。

両曲ともショートVerしか収録されていないのがちょっと残念です。

ムービー

プロローグ的な話の後にOPムービーが流れます。
OP曲に合わせて明るくポップなつくり。
当然ながらアンネの魅力を最大限フォーカスしたムービーになっています。まさにアンネのアンネによるアンネのためのムービー。
ホラー要素の類は一切入っていないので、このムービーから物語の内容を類推するのは不可能ですね(笑

攻略

エンディングはTRUEエンドが1つ、ほかにBADやNOMALエンドが5つ。
物語中の選択肢、及び行動選択時の選び方によって物語が分岐します。
それぞれのエンディングにはタイトルがつけられていて、タイトル画面にある操作手帳にどのエンディングを見たかが確認可能。

何気に昨今のゲームにしては攻略難易度が高いです。普通にプレイしていて初回でTRUEエンドにたどり着く人は少ないのではないでしょうか。
私は3~4周ほどしてもTRUEエンドに行けなかった、というか何をどうすればTRUEに繋がるのかがさっぱりわからなかったので攻略サイトを頼りました。

推奨攻略順は特にありませんが、しいて言うならTRUEエンドを最後に。
他のBADエンドをすべて見ているからこそ、TRUEエンドにおけるアンネの言葉に重みが出てきます。

総プレイ時間はゆっくりやって12~15時間。
短いシナリオですが、事件の調査とアンネとのイチャイチャシーン以外はほとんどないので、作品の良さがギュッと凝縮したボリュームだと思います。

Hシーン

シーン回想に登録されるHシーンは8個。Hの相手はすべてアンネでサブキャラとのHはありません。BADエンドにも専用のHがあります。
「Hシーンアニメパック」を導入するとHシーンのCGもE-motoで動くようになります。エロソシャゲによくある感じのやつですね。おっぱいぷるんぷるん。

尺は普通、というかシナリオの短さを考えると相対的にやや長めでしょうか。
行為自体は比較的オーソドックス。胸でしたり口でしたりするシーンもありますが、全てラブラブHです。

ちなみにCGモードや回想モードにはクリア前でも見られるようにできる”解放ボタン”が右上に用意されています。一度解放させると元に戻すことはできないので間違って押さないようにしてください。

感想

短いながらも非常に濃密でうまくまとめられた作品でした。
前々作『ななリン』や前作『あけいろ』もそうですが、このシリーズはシナリオやキャラ、そしてエロがうまく組み合わさった、正にエロゲーならではの物語ですね。

可愛らしい絵柄とホラー要素のギャップ

この作品はアンネをはじめとするキャラがとても可愛らしく描かれています。登場するキャラの多くは殺人事件の被害者なので幽霊みたいなものなんですが、意外と悲壮感はそんなにないんですよね。

しかしひとたびホラー展開になると非常におどろおどろしくなるのでその落差が恐怖を駆り立てます。
直前まで普通に話していたキャラが、何かのきっかけで突然豹変してしまうのはかなりショッキング。なにかに襲われるという物理的なホラーというよりは、精神的な怖さを前面に出したホラーという感じです。

サスペンス要素

物語の中心は、とあるマンションで起きた殺人事件。一つの事件に集中するので間延びすることがありません。これはミドルプライス作品ならではですね。
ミステリーというよりサスペンスよりの内容で、トリックとか暗号とかそういうパズル的なものありません。「誰が」「何のために」事件を起こしたのかを主人公とアンネが調べていきます。

ただ登場人物の数が少ないこともあって、事件の元凶となる人物は正直なところ予想の範囲内でした。そんなに気をてらった展開でもないので、多分プレイした人の多くがなんとなく気が付くのではないかと思います。改めて序盤を振り返ってみると、ちゃんと伏線も張ってありますし。

でもそのぶん物語としてはしっくりくるものでしたし、終盤の展開や演出の良さも相まってすごく引き込まれました。
黒幕がわかってても楽しめる作品というのは、それだけ完成度の高いことの証拠かと。

メインヒロイン・アンネのかわいらしさ

この作品はいわゆるヒロインにあたるキャラがアンネ一人だけなんですが、この子がもうマジで可愛いんですよ。
始めはその露出度の高い煽情的な服装に加え露骨な巨乳、やたらベタベタしてくる性格など、正直言ってあんまり好みではなかったんですが、プレイしていくうちに主人公共々見事にほだされてしまってめっちゃ好きなキャラの一人になりました。まさにテンプテーション! もうずっとアンネとイチャイチャしていたいです。
これだけ感情移入できるからこそ、ラストシーンでは非常に胸が締め付けられました。

今この記事を書いているときがちょうど続編である『きまぐれテンプテーション2』の発売直後なんですが、ネット上では「やっとまたアンネに会える」といったファンの声も多く目にします。やっぱ人気なんですね、このキャラ。
自分も魅了されてしまった一人なので、早いうちに続編もプレイしようと思います。

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