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エロゲープレイヤーが見るべきアニメ『無職転生~異世界行ったら本気出す~』(スタジオバインド 2021年)

エロゲー好きが紹介するアニメ3作目。今回紹介するのは異世界に転生した主人公が冒険を繰り広げる物語『無職転生~異世界行ったら本気出す~』。
タイトルの読みは、最初私は北斗の拳の「無想転生」と同じように読んでたんですが、一文字目の”無”にアクセントを置くのが一般的な読み方みたいです。「春夏秋冬」と同じイントネーションですね。

原作は”理不尽な孫の手”さんによって「小説家になろう」に掲載されたWeb小説。
同時期に連載された『転生したらスライムだった件』(伏瀬)と並んで、いわゆる”なろう系”作品の草分け的存在としても知られている人気作です。

実は私、この手の「なろう系」の作品ってあんまり好みではなかったりするのでちょっと敬遠してたんですが、試しに見てみたらこれがメチャクチャ面白い! よく練られた世界設定にスリリングなストーリー展開、個性的かつ可愛らしいヒロインたち、どれをとってもツボにハマりまくり。「どうせどれも似たような話なんだろ」と高をくくっていた自分を全力で殴ってやりたい。
いや~、食わず嫌いってダメですね。

アニメ制作はスタジオバインド。なんとこのスタジオは『無職転生』を全編アニメ化するために作られた会社だそうで、長期シリーズになることを前提としたプロジェクトみたいです。
監督はアニメ『ゲーマーズ!』を手がけた岡本学さん。新進気鋭の監督さんらしいですが、今作ではシリーズ構成も担当されていて、力の入れようが感じられます。

演出も作画も背景も、「劇場版かよ!」と言いたくなるくらいクオリティの高い作品となっているので、”なろう系”が好きな人はもちろんのこと、苦手な人も是非一度観て欲しい作品です。

原作理不尽な孫の手
(MFブックス)
監督岡本学
シリーズ構成岡本学
キャラクターデザイン杉山和隆
高橋瑞紀
制作スタジオバインド
放映日時2021.1~
おすすめ度85
シナリオ傾向

あらすじ

34歳無職童貞のニートは無一文で家を追い出され、自分の人生が完全に詰んでいたと気付く。
己を後悔していた矢先、彼はトラックに轢かれ呆気なく死んでしまう。
しかし、ついで目覚めれば、そこはなんと剣と魔法の異世界! 
ルーデウスと名付けられた赤ん坊として生まれ変わった彼は、「今度こそ本気で生きて行くんだ……!」と後悔しない人生を送ると決意する。
前世の知識を活かし、魔術の才能を開花させた彼の新たな人生とは!? 
前世の知能を活かしたルーデウスは瞬く間に魔術の才能を開花させ、小さな女の子の家庭教師をつけてもらうことに。
さらにはエメラルドグリーンの髪を持つ美しいクォーターエルフとの出会い。彼の新たな人生が動き始める。

(コミック版より引用)

シナリオ

原作はWeb小説家の”理不尽な孫の手”さん、アニメのシリーズ構成は監督も努める岡本学さん。
原作小説は”小説家になろう”サイト上のランキングで5年以上1位を獲得したほど人気作です。
なろう小説は書籍化するとWeb版が削除されることも多いんですが、この作品は今でもWeb版が全編公開されています。

物語は34歳の無職童貞引きこもりだった主人公が交通事故に遭い異世界に転生。転生先の剣と魔法の世界で”ルーデウス・グレイラッド”として第二の人生を歩んでいく、という典型的な異世界転生もの。

主人公の新たな人生を産まれたときから丁寧に描いていて、アニメ1期では0歳から13歳までのエピソードが語られる、まるで大河ドラマのような長期にわたる物語です。

この種の転生ものは『このすば』や『Reゼロ』のように生前の姿のまま転生するタイプと、『幼女戦記』や『蜘蛛ですが、なにか?』のように意識を保ったまま全く別の姿でゼロ歳から異世界での人生を歩んでいくタイプに分かれますが、『無職転生』は完全に後者。

生前は34歳のヒキニートだった主人公が、転生先の異世界では真面目に魔術や剣術の勉強をタイトル通り本気でやって成長していきます。生まれ持った才能みたいなのも多少ありますが、他のなろう系作品に良くあるような最初からチート能力を持って無双するわけではないので、主人公に対して感情移入しやすい面もありますね。「俺だって若い頃もっと本気で勉強してれば・・・」みたいな後悔は大人なら誰もがあると思いますが、それを体現する主人公だと思います。

またこの作品は、他のラノベで良く出てくる「レベル」や「スキル」「ステータス」といったゲーム的なギミックもほとんどない(なくはない)ので、異世界モノに慣れてない人にも受け入れやすい王道的な世界観です。

ちなみにですがこのアニメ、物語のラストにヒロインとのHシーンがあります。さすがに直接的な描写のない朝チュン的なものですが、こういうエロゲみたいな展開のアニメって意外と少ないんですよね。ていうかエロゲ化早よ!

グラフィック

原作イラストはシロタカさん。
アニメ版キャラクターデザインは杉山和隆さん(1クール目)と髙橋瑞紀さん(2クール目)。

原作イラストは凄くカッコイイ感じでこれはこれで良いんですが、アニメ版のキャラデザは年相応のカワイさを残した今風のデザインになっています。個人的にはアニメ版のほうが好み。

第1期は年単位で話が進む物語なので、作中でのキャラクターの見た目もちゃんと少しずつ成長していきます。
男目線からすると、初登場で9歳だったエリスが1期終了時に15歳になるまで、(色んな意味で)段々と大きくなっていく様はどうしても目が行ってしまいますね(笑
エロゲーでもこういう成長過程を描いた作品出てきて欲しい・・・。

またこの作品は背景も物凄く綺麗な上に、キャラの動きも凄く滑らかで、戦闘シーンではまるで劇場版アニメのようにぐりぐり動きます。
特に2クール目のクライマックスである第21話「ターニングポイント2」の戦闘描写は必見です。まるで視聴者がその場にいるかのような臨場感。正直私は作画や動画のよさは良く分からない素人ですが、そんな私でも鳥肌が立つような演出でした。

キャラクター

ルーデウス・グレイラット
本作主人公で、元冒険者の両親の間に産まれた少年。前世は無職童貞の引きこもりニート(34歳)でエロゲオタクだったが、交通事故に遭いこの世界に転生。見た目は子供、頭脳はおっさん。
転生先の世界では一念発起して真面目に魔術や剣術の鍛錬を続けた結果、類稀なる能力を持つ魔術師となる。

ロキシー・ミグルディア
ルーデウスのために両親が呼んだ魔術の家庭教師。
寿命の長い種族のため、見た目は10代だが実年齢は40代。

シルフィエット
ブエナ村でルーデウスにできた初めての友達。エルフとの混血で愛称はシルフィ。
シルフィにとってもルーデウスは唯一の友達で、ルーデウスから魔術を習う。

エリス・ボレアス・グレイラット
ルーデウスが金を稼ぐために家庭教師として赴任するボレアス家の少女。
気に入らなければ口より先に手が出る、昨今少なくなった暴力系ヒロイン。

ヒロイン以外にも獣神族の剣士ギレーヌや魔大陸で会うスペルド族の戦士ルイジェルドなど、多くの魅力的なキャラが出てくるんですが、中でも個人的にお気に入りのキャラがルディの父親・パウロ。
冒険者としては一流なんですが、女にだらしなく、父親たらんとして息子を叱ろうとするも逆に言いくるめられてしまったりと、父親としてはちょっと不器用だったりするところもあるのが逆に人間味があって良いですね。

ボイス

内山夕実(ルディ)茅野愛衣(シルフィ)小原好美(ロキシー)加隈亜衣(エリス)
杉田智和森川智之金元寿子Lynn
会沢紗弥高田憂希浪川大輔豊口めぐみ
高岡瓶々小野大輔柚木涼香

実力派揃いのキャスト陣です。
ちょっとしたサブキャラにまで有名声優さんが配役されているあたり、力の入れようが感じられます。

主人公のルーデウスは基本的に内山さんの声ですが、モノローグのときは前世の男役の杉田さんが声を当てています。
転生先でも前世の人間の声が出てくるのは割と珍しい演出だと思うんですが、内山さんと杉田さん声のギャップが逆に良いですね。

ちなみにこの作品はちょくちょく性行為のシーンもあったりするんですが、喘ぎ声もバッチリ出てきます。表の声優さんもなかなかやるやん!

BGM

作中BGMの作曲は藤澤慶昌さん。これまでに『ラブライブ!』『GATE』『有頂天家族』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『宇宙よりも遠い場所』などなど、数々のアニメの劇伴を担当された作曲家さんです。
サントラはBD特典ですが、個別に配信もされています。

主題歌

タイトル作詞・作曲編曲備考
「旅人の唄」大原ゆい子MANYO大原ゆい子OP
「目覚めの唄」大原ゆい子MANYO大原ゆい子OP
「継承の唄」大原ゆい子MANYO大原ゆい子OP
「祈りの唄」大原ゆい子MANYO大原ゆい子OP
「遠くの子守の唄」大原ゆい子MANYO大原ゆい子OP
「旅人の唄~帰郷~」大原ゆい子MANYO大原ゆい子OP
「オンリー」大原ゆい子吉田穣大原ゆい子ED
「風と行く道」大原ゆい子吉田穣大原ゆい子ED

主題歌を歌うのはOP・ED共にシンガーソングライターの大原ゆい子さん。『からかい上手の高木さん』や『リトルウィッチアカデミア』の主題歌を歌った方ですね。

作詞作曲も大原さん本人がやられていて、OP曲の編曲はエロゲー業界でもおなじみのMANYO(まにょっ)さん。OP曲のわりに非常にゆったりとした曲調で、異世界の雄大な世界観と何気ない人々の日常を表してるような気がします。オープニングの演出と相まって挿入歌のような雰囲気の曲です。

2クール作品のアニメながらOP曲が6曲も使われているため頻繁に新しい曲が流れます。ただ曲自体が良い意味でそこまで印象に残らないヒーリングミュージックのような曲なので、「そういえば前の曲と違うな」と後から気付くことも多かったですね。

ムービー

なんとこの作品、いわゆるオープニングムービーにあたるものがありません。
その代わり主題歌とスタッフクレジットを流しつつ、街の雰囲気やルーデウスたちの旅の様子など、毎回違う映像を流す演出になっています。他のアニメだと1話くらいならこういう演出をやる回もあるでしょうけど、全話って何気に凄いことですよ。トータルで考えると約1.5話分余計に映像作ってるわけですから、メチャクチャ手間がかかってます。

感想

ここ最近のアニメはよく”粗製乱造”とか言われることもあるくらい雑な作りの作品も正直あったりしますが、そんな中でも『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』みたい に物凄く高いクオリティ誇るアニメも出てくるあたり、日本のアニメ業界も捨てたものではありません。この『無職転生』もそれらの名作アニメに比肩する作品だと思ってますが、いかんせんストーリーが一般向けではないので知名度は鬼滅や進撃に及ばないんですよね・・・。

この作品は戦闘シーンでキャラクターがぬるぬる動くのはもちろんのこと、背景美術が物凄く美麗に描き込まれていたり、食卓に並ぶ料理や通りを歩く人々の動きまで非常に丁寧に描かれているため、単純に映像作品としての作りこみが半端じゃありません。
ぶっちゃけこのアニメ、制作に相当金がかかってると思います。

また普通この手の異世界転生モノ作品では、「転生先でもなんか上手いこと言葉が通じるようにしておいたよ」と都合の良い設定があったりするのが常なんですが、この作品では日本語は普通に通じません。
しかも作中世界では人間語・獣神語・魔神語の3つの言語が出てきて、それぞれちゃんとゼロから文法や単語を作って声優さんに喋らせるという、メチャクチャ手間のかかることをやっています。
1つくらいならまぁ他の作品でも異世界語を作ることはたまにあるかもしれませんが、このアニメでは3つ、しかもこの世界の標準語である人間語も産まれたてのルディ(つまり転生直後の主人公)にとってはちゃんと異世界語に聞こえるようにわざわざ作っているという念の入れよう。

作画や演出に関しては岡田斗司夫さんがべた褒めしているので、そっちを見てもらうのも良いかも。この人は独自の解釈とか言い出すとちょっとアレですが、細かい演出の解説なんかは非常に参考になりますね。
2期も楽しみ『無職転生』に感心した異世界モノなのに“無い”ところを改めて言語化してみた(岡田斗司夫チャンネル)
「無職転生」第2クール最新解説 岡田斗司夫ゼミ(岡田斗司夫チャンネル)

もちろんアニメとしての演出だけでなく、ストーリーも非常に秀逸。異世界モノとしては奇をてらったものではなく、むしろ王道的な物語なんですが、ひとつひとつのエピソードがしっかり作りこまれています。なにより主人公のルディをはじめ、エリスやシルフィの成長も丁寧に描かれているので、そういったキャラクターの成長譚としても楽しめる構成です。

正直なところ、いかにもなろう小説的なタイトルで損をしているような気がしなくもないですが、食わず嫌いで敬遠するのは非常にもったいない作品だと思います。適度にエロいのも良いよね!
今回の第1期でアニメ化できたのは物語全体からすると序盤に過ぎないみたいなので、このアニメが2期3期と続いていくためにもみんなで応援しましょう。我々の投資が次の作品に繋がるのです!
(追記:2023年には第2期が放送開始されました。誰だよ学園編つまらないって言ったやつ! メチャメチャ面白いじゃんか!)

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