2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『はつゆきさくら』(SAGA PLANETS 2012年)

今回紹介するのは、良作をコンスタントに生み出す初心者御用達ブランド・SAGA PLANETS(通称サガプラ)から『はつゆきさくら』。タイトルの読み方に一瞬迷いますが、「セキセイインコ」と同じイントネーションです。
Gethu.com美少女ゲーム大賞2012、総合・シナリオ・ミュージック部門1位。2012年2chベストエロゲー投票1位。名実ともに2012年を代表する作品となりました。

SAGA PLANETSが春夏秋冬の各季節をテーマにした”四季シリーズ”最後の1作で、冬をテーマにした作品になります。ちなみに四季シリーズのほかの作品は、 『Coming×Humming!!』(春)、『ナツユメナギサ』(夏)、『キサラギGOLD★STAR』(秋)となりますが、ストーリー上のつながりはないので、『はつゆきさくら』からプレイしても全く問題ありません。

ストーリーは”卒業”をテーマにした学園物語。
あらすじだけ見ると爽やかな学園青春モノに見えますが、想像以上にファンタジックというかオカルトチックな要素が多いのでそのつもりでプレイしてください。

この作品はエロゲーファンにも人気で、感想データベースサイト「ErogameScape」においても未だにコンスタントに感想が投稿されています。総投稿数は今のところ約2400件ですが、2010年以降の作品で投稿数が2000を越えている作品ってそう多くはありません。

作風的には00年代のKey作品のような、「学園モノの皮をかぶったファンタジー」とか「終盤に怒涛の伏線回収」みたいな展開が好きな人に特におすすめの作品です。

  • 卒業をテーマにした冬の学園物語
  • 謎が多く、ファンタジー色の濃い設定
  • fripSideによるオープニングテーマ曲
ブランドSAGA PLANETS
ジャンル冬から春へ至る純愛ADV
初回発売日2012.2.24
DL版価格6,930円
シナリオ新島夕
原画ほんたにかなえ
とらのすけ ちまろ
おすすめ度80
シナリオ傾向

あらすじ

河野初雪は、白咲学園3年生。 進学校には珍しい不良学生。
卒業が危ないと言われ、今日もイヤイヤ授業に顔を出す。

今年最初の雪が降った12月。
初雪は旧市街の一画で、真っ白なドレスを着た美しい少女に出会う。
雪に降られながら、少女は一匹のウサギを探して街をさまよっていた。

一夜の不思議な出会い。

そして数日後。 学園にドレスの少女・桜 が転校してくる。
最後の冬へ、初雪を連れて行くために。

めぐる春夏秋冬。 終わる1095日。
やがて冬を越えて、春が訪れる頃。
ついに積もることのなかった雪の思い出を抱いて、少年は立ち尽くす。

初雪から桜まで 卒業おめでとう

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
はつゆきさくら(初回版)XP Vista 72012.2.24
はつゆきさくら(通常版)XP Vista 72012.3.30
はつゆきさくらVita2017.3.23
はつゆきさくらPS42019.12.29
はつゆきさくら
10周年アニバーサリーエディション
8 10 112022.12.23やや難
はつゆきさくらSwitch2023.6.29

PCパッケージ版は初回版と通常版があり、初回版には原画集が付属します。初回版・通常版ともに新品はロットアップしていますが、初回版の中古は流通量が多いのでショップで簡単に見つかるかと。
コンシューマ版はHシーンを抜いただけで特に追加要素のないベタ移植。

『アニバーサリーエディション』は本編を現行OSに対応させ、サントラ・イラスト集・タペストリー・アクリルパネルなどの特典を同梱した豪華版。現在は中古価格が定価の倍以上のプレミア商品となっています。

今から買うなら中古パッケージ版が値段もそこそこで買いやすいかと。発売からずいぶん時間が経っているので価格も安定しています。(通常版は3000円~4000円くらい。初回版は+1000円が相場)
ダウンロード版もありますが、10年以上前のソフトにしてはまぁまぁの値段がします。ちょくちょく半額セールの対象になっていますが、毎回ではないのでセールになっていたら迷わずゲットしましょう。

ダウンロード版は単品以外に『はつゆきさくら』を含めた”四季シリーズ”の4本セットが約2万円で購入できます。シリーズ全部プレイしたい場合はこちらで。

システム

ゲームエンジンはビジュアルアーツ製の「RealLive」。
まぁゲームエンジンの違いはプレーヤーにとってあんまり意識することはないと思いますが、サポートもビジュアルアーツが請け負っています。サポートまで他社に委託できるのは中小メーカーにとって便利そうでいいですね。サガプラは 2019年にビジュアルアーツとのパートナーブランド関係を解消しましたが、サポートは引き続き請け負っている模様。

システムは選択肢や場所移動で分岐するオーソドックスなAVGスタイル。画面サイズは1280×720。
普通にプレイする上では十分な機能が揃っているので不満はありません。

オートモードの挙動がやや特殊で、一旦オートモードにするともう一度オートのボタンを押さない限り解除されません。バックログやセーブ画面から移った後はもちろん、中断後にデータをロードした後もオートモードが継続します。この仕様はちょっと意外でしたが、慣れると結構便利ですね。これもっと流行って欲しいです。
マウスポインタを動かしているときはオートが停止するのも、操作がしやすくてナイスな仕様。

シナリオ

年下のアイスダンサー・あずま夜

企画、及びシナリオライターは新島夕さん。新島さんは四季シリーズの過去作にも参加されていて、そのときは複数ライターの1人だったんですが、今作では企画からシナリオまで1人で担当されています。

この作品は冬を舞台にした卒業がテーマの作品なんですが、公開されているあらすじでは物語の内容を意図的に隠しています。個人的には「別に隠すほどのことでもなくね? むしろちゃんと書いたほうが良くね?」と思うので、正確なあらすじを書くことにします。まっさらな状態でプレ イしたいという人は以下の記述は読み飛ばしてください。(ちなみにWikipediaはさすがにネタバレし過ぎなので、プレイ前は見ないようにしましょう)

10年前に合併してできた内田川邊市に住む主人公・河野かわの初雪は市内の白咲学園に通う3年生。内田川邊市は”ゴースト”と呼ばれる幽霊のはびこる町で、初雪はゴーストを統べる王・ゴーストチャイルドとしてある目的のために行動を起こそうとしたところ、ドレスを着た不思議な少女・玉樹桜と出会う。
その後、学園で桜と再開した初雪は、教師の指示で学生の悩みを聞いて無事卒業させる進路指導委員の仕事を手伝うことになる―。
大雑把なあらすじはこんな感じで、かなりファンタジー色の濃い作品です。

キーポイントとなる”ゴースト”というのはその名の通り幽霊みたいなもので、一般人は噂レベルでしか認識されていないのですが、初雪はゴーストの姿を見ることができるだけでなくコミュニケーションもとることができます。
ゴーストとは何なのか、なぜ初雪がゴーストチャイルドと呼ばれているのか、初雪や桜の目的は何なのか、といった謎を提示しながら物語が進んでいきます。

グラフィック

年上のバイト少女・小坂井綾

メインの原画は”ほんたにかなえ”さん、とらのすけさん、ちまろさんの3人。そのほかにサブで3人ほど。
イベント絵は約90枚。その他にカットイン的な絵もCGモードに登録されます。
全体的にややデフォルメされた感じで、可愛らしくて綺麗なCGです。複数原画家のおかげか、ヒロインの表情が微妙に異なっていて、いい意味で個性が出ています。

イベント絵では主人公の顔も描かれるんですが、不良生徒という割にはちょっとなよっとしているデザインですね。正直あんまり強そうに見えない…。

キャラクター

意味深なセンターヒロイン・玉樹桜

玉樹 桜
主人公が旧市街で出会った不思議な少女。後に白咲学園の3年に編入。
ウサギのネムとともに時折一発ギャグをかます明るい性格。バニー!

小坂井 綾
主人公より1つ年上で白咲学園の卒業生。通称”浪人”。
落ち着いた性格で、初雪とともにカフェでバイトをする少女。

あずま 夜
白咲学園の2年生で、放課後はスケート場で練習に励むアイスダンサー。
委員会メンバーの中では貴重な常識人でありツッコミ役。

東雲 希
1年生のくせにおっぱいがでかい進路相談委員委員長。
初雪の親友となるべく無理に男言葉を使ってるのがカワイイ。

シロクマ
ヒロインの中では最年少で、自称ロシア出身のシロクマ。グルルシロ!
世間知らずだが白咲学園の受験を目指し、初雪と同じカフェで働きつつ勉強中。

河野初雪
本作主人公で白咲学園3年生。
周りから恐れられる不良生徒だが、教師の来栖により強制的に進路指導委員を手伝うことになる。

メインキャラのうち桜、夜、希、及び主人公の初雪と、不良グループ”白咲ヤンキース”の4人(竹田・金崎・久保・室屋)を加えた8人が進路指導委員のメンバーで、学生の様々な悩みや問題を解決していきます。
ヒロインの年齢がそれぞれ綺麗に1歳刻みになっているので、バランスの取れたキャラ構成ですね。

ボイス

山羽みんと(桜)佐本二厘(綾)桐谷華(夜)杏子御津(希)涼屋スイ(シロクマ)
七原ことみ星咲イリア結衣菜如月葵
田中美智美月西野みく

主人公以外フルボイス。名義はCS版も同じです。
桜役の山羽みんとさんはいわゆる車の人。名前の元ネタはYAMAHAのミント。ネタ元が尽きてきたのか、ついに原付にまで広げてきました(笑

夜役にはこの頃から徐々に人気の出てきた桐谷華さん。流れるような台詞は非常に聞きやすい。やっぱ上手いですこの方。
モブキャラも兼ね役でメインヒロイン役の人が担当してたりするんですが、桐谷さんだけ上手すぎてすぐわかります(笑

シロクマ役の方はちょっと演技が残念というか、ぶっちゃけあんまり上手くはないですね。シロクマは突飛な台詞が多いキャラなので多少誤魔化せているかなという感じ。

BGM

BGMの作曲は水月陵さん。ボーカル曲を除いた曲数は33曲。
全体的にはいい意味でオーソドックスな曲です。寂しげな曲がちょっと多めでしょうか。

個人的お気に入りはピアノの優しい旋律に癒される「Snow princess」。どことなく泣きゲーブランドKeyの作風に合いそうな曲です。
「Ghost parade」は正に最終決戦BGM。どこか壮大な曲調でRPGのラスボス曲にありそうな感じ。
各ルートラストで流れる「送る言葉」はタイトル通り卒業をイメージした曲。明確なメロディーはないんですが、桜の木の下で学び舎を巣立っていく卒業生のBGMにぴったりです。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「HesitationSnow」yuki-ka八木沼悟志 川﨑海fripSideOP
「Presto」KOTOKO中沢伴行 尾崎武士KOTOKOOP
「freak of nature : start」高瀬一矢高瀬一矢彩菜挿入歌
「メリーゴーランドをぶっ壊せ」新島夕竹下智博結衣菜挿入歌
「風花」月子藤島鉱一郎月子ED
「GHOST×GRADUATION」新島夕ピクセルビーmonetED

1stOP曲「HesitationSnow」を歌うのはfirpSideの南條愛乃さん。正に八木沼サウンド全開というノリノリの曲調で、エロゲ界におけるfripSideの代表曲と言える名曲です。

2ndOP曲「Presto」はKOTOKOさんによる卒業をテーマにした曲。色んな思い出を背に歩き出していく若者に送りたい前向きで明るい曲です。インストVerがタイトル画面でいつも流れているので、耳慣れた曲にボーカルが乗るとゾクッとしますね。
ちなみにタイトルの「Presto」は音楽用語の「急速に」とイタリア語の「またね」という意味があるそうです。

ムービー

プロローグ後に1stOPムービーが流れます。ムービー制作はIris motion graphics。
立ち絵やイベント絵を加工したものが使われていて、全体として”雪”の演出が印象的なムービーです。「HesitationSnow」の曲調に合わせて、ちょっとシリアスな雰囲気になっています。
途中で少し3DCGも使われていますが、いかにもCG然とした質感なのでちょっと浮いてる感じがしなくもない。

最終ルート開始後にはグランドオープニングムービーが流れます。制作はゆずソフトの”ろど”さん。
どっちかというと、こちらのムービーのほうが正統派OPムービーといった感じです。
使われているCGは各個別ルートのエンディングで使用されたものなので、これまでの物語を振り返るエンディングのようなOPムービーです。
あと途中で出てくるねんどろいどのようなヒロインのデフォルメCGキャラがカワイイ。

攻略

進路相談委員委員長・東雲希

プロローグ後の本編冒頭で場所移動選択肢を選ぶことによりルートが分岐します。

個別ルートは半固定で、初回は桜のみ。桜ルートクリアで綾・夜ルート開放。綾ルートクリアで希ルート、夜ルートクリアでシロクマルートが開放。
推奨攻略順は桜→綾→夜→シロクマ→希。この順番なら章番号通りに物語が進みます。
総プレイ時間はゆっくりやって30~35時間くらい。

以下、ちょっと構成のネタバレを含みます。


5つのルートを終えるとタイトル画面に最終シナリオ「Graduation」ルートが追加。ここでは終盤の選択肢で綾アナザーエンドと桜TRUEエンドに分岐するので、先に綾エンドを見ておきましょう。

また「Graduation」ルート解放後に改めて本編をスタートすると、場所移動選択肢が追加されて、サブヒロインである「竹田」「金崎」「ネム(一人飯)」選ぶことができるようになります。これはちょっとしたショートストーリーのようなもので、特に見なくても問題ありません。というか存在に気付かない人も多そうですし。

Hシーン

シーン回想に登録されるHシーンは全部で19個。1ヒロインあたり3~4回。卑語には伏字とP音が入ります。
行為の内容はオーソドックスなもので尺は短め。女の子はみんな初めてですが、出血描写はありません。

感想

グルル、シロ!

「卒業」がテーマの作品ですが、裏のテーマが「復讐」という穏やかでない雰囲気の物語でもあるので、事前情報無しでプレイした自分としてはちょっとついていくのが大変な作品でしたが、作品全体としては満足度の高い物語でした。

思ったよりもファンタジー色の濃い作品で、物語の雰囲気がいい意味で00年代前半の感じがするのも個人的に好み。
序盤はのほほんとした学園シーンが多いのですが、終盤にはバトルシーンもあったりして、高校3年生の3学期というギャルゲー的なイベントを作りにくい季節を敢えて舞台に設定した割りに、メリハリの利いた物語になっていると思います。

また各個別ルートの内容も多かれ少なかれ本筋の物語に関わってくるものなので、各ルートをクリアするごとに少しずつ事の真相が明らかになっていく構成もダレずにプレイできて良いですね。

難点を言えばちょっとシナリオの描写不足が否めないことでしょうか。
おそらく意図的にやっているんでしょうが、中盤まで世界観の説明や主人公の目的が明かされないので、やや感情移入しにくい面があるかと思います。
また一部の個別ルートも描写が淡白で、ヒロインと一緒に出かけたと思ったらあっという間に帰宅していたり、特にドラマチックな告白イベントもないままいつの間にか恋人同士になっていたりすることもありました。

シナリオ後半ではバトルシーンぽいものもあるんですが、ライターさんが燃えゲーに慣れてないせいか、ちょっと淡白で盛り上がりに欠けるかも。決め台詞的なものもあるものの、中途半端なので読んでるこっちが恥ずかしくなります(笑
やっぱこういうのって恥ずかしがらずに厨二要素全開で振り切ったほうが楽しいですね。

ただそれを補って余りある終盤の展開は、中盤までのフラストレーションを一気に解消する気持ちのいいもので、各個別ルート及びグランドルート終了時は心から「卒業おめでとう」と言葉を送りたくなります。
私は実はサガプラの他の「四季シリーズ」はプレイしていなかったんですが、(シナリオ上のつながりはないものの)他の3作品をプレイした人からすると、正にシリーズを”卒業する”的な感動もひとしおだったようです。

いやもちろん、エロゲから卒業するわけではないですけどね。

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