今回紹介するのはアニメの制作・販売で有名なアニプレックスが全年齢ギャルゲー制作のために立ち上げたブランドANIPLEX.EXEの第1弾作品『ATRI -My Dear Moments-』(アトリ マイ ディア モーメンツ)。
制作は『サクラノ詩』シリーズ等で有名なブランド・枕と、数々の名作を生み出してきたFrontwingがタッグを組み、ANIPLEX.EXEが販売するという形になっています。
物語は突然の海面上昇により多くの都市や街が水没し、文明が後退してしまった近未来が舞台。
子どもの頃に事故で片足を失った主人公が、海底で発見したロボットの少女・アトリと過ごしていく短い夏の日々を描いていきます。
パッと見では可愛らしくて爽やかな印象を受けますが、中身はロボットヒロインならではの結構重いストーリーです。
アトリの可愛らしさ目的でプレイすると強烈なカウンターパンチを喰らいます。
ただ短くまとまった物語は非常に感動的なので、ぜひ多くの方にプレイしてもらいたい作品です。
ロープライスなので手に入れやすいですしね。
ちなみにこの作品は2024年7月よりTVアニメも放送中。
制作スタジオはTROYCA。監督は『やがて君になる』や『ロード・エルメロイII世の事件簿』を手掛けた加藤誠さん。シリーズ構成は『ラブライブ!』や『響け!ユーフォニアム』シリーズ等数々の名作アニメを生み出した花田十輝さん。原作未プレイ・プレイ済みに関わらず是非見ましょう。
- メインヒロイン・アトリのかわいらしさ
- ロボットものならではの感動的な物語
- 短くまとまった濃密な構成
ブランド | ANIPLEX.EXE |
ジャンル | アドベンチャー |
初回発売日 | 2020.6.19 |
DL版価格 | 2,200円 |
シナリオ | 紺野アスタ |
原画 | ゆさの 基4% |
おすすめ度 | 85 |
シナリオ傾向 |
購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
ATRI -My Dear Moments- | 8 10 | 2020.6.19 | ― |
ATRI -My Dear Moments- | Switch | 2021.12.16 | ― |
本編は基本的にダウンロード販売です。全年齢版のみで18禁版は存在しません。
PC版はDMM・DLSite・Steamで販売されています。DMMでは18禁のFANZAではなく全年齢PCゲーム売場でしか扱っていないので注意してください。
一応物理メディアとしてはサントラCDの初回特典に本編を収録したDVDが付属していますが、現在はやや入手困難です。プレミア化してるわけではないようですが、あったとしても多分中古音楽CD売場に並んでいると思うので見つけにくいですね。
CS版はSwitchから発売されていますが、こちらもダウンロード販売のみ。
この他にAndroid版とiOS版も配信されています。
定価が安いので買いやすいですが、セールのときはさらに安くなります。
SteamではANIPLEX.EXEの他の作品(『徒花異譚』と『ヒラヒラヒヒル』)を同梱したバンドル版も販売されているので、全部プレイ予定の方はこちらで。セール時は3作合わせて4000円弱で購入できることもあります。
システム
ゲームエンジンはおそらくFrontwingと同じものを使ってると思います。画面サイズは1280×720 。
画面下にテキストが表示されるAVGスタイル。DMMではブラウザプレイにも対応しています。
テキストは日本語以外に英語と中国語(簡体字・繫体字)も表示させることが可能です。
その他必要な機能はだいたい揃っているのでプレイするうえで不満はありません。
強いて言うなら「次の選択肢まで進む」機能がシーンごとに止まるのでややめんどくさいくらい。まぁBADENDの回収以外ほとんど使わないですけど。
バックログからのシナリオジャンプもできますし、バックログ自体”シーンごと”にまとめて表示させることができるので、かなり前のほうまで戻ることができます。
操作はタブレットPCにも対応していて、各種システムボタンを大きく表示されることもできます。
マニュアルにはないですが、一部の機能はマウスジェスチャにも対応しているみたいですね。
通常の状態から右クリック+マウス右でオートモード、右クリック+マウス左でタブレットモード、そこからさらに右クリック+マウス左でスキップモードになるっぽいです。
シナリオ
企画及びシナリオライターは『この大空に、翼を広げて』や『見上げてごらん、夜の星を』等を手掛けた紺野アスタさん。
舞台は数年前に原因不明の海面上昇で多くの都市が海の底に水没した近未来の世界。子供の頃に事故で片足を失った17歳の主人公・夏生(なつき)が借金返済のため潜水艇を使って海底に沈んた祖母の家から遺産を捜索し、カプセルに入ったロボットの少女・アトリを発見したところから物語は始まります。
基本的には明るくほのぼのとした雰囲気のシナリオです。
序盤から余分な描写がないのでテンポよく進みます。
ロープライスなのでそんなに長いお話ではないですし、起承転結がハッキリしているので物語を追いかけやすいかと。
グラフィック
メインの原画家は”ゆさの”さん。サブで枕の基4%(もとよん)さん。アートディレクターはSCA-自(すかぢ)さん。
イベント絵は25枚。その他にSD絵が6枚。さすがにフルプライス品と比べると少ないですが、シナリオのボリュームからいえばそんなに少なくは感じません。重要なシーンではたいていイベント絵が使われますし。
全体的に可愛らしくて美しい絵柄です。夕日をバックに笑顔を見せるアトリのCGとか最高過ぎて壁紙にしたいくらい。
その他のCGも基本的にアトリをメインにした構図が多いですが、主人公の夏生も割とはっきり描写されます。ぶっちゃけ夏生の目つきはちょっと悪いんですが、むしろそれによって明るいアトリの表情が引き立っている感じ。
全年齢向け作品なのでエロいCGは無く、露出度も低め。
ただ水着を着るシーンで、ブラ紐が微妙に肌から浮いている描写がちょっとエロいです。こういうのいいですよね。
キャラクター
アトリ
主人公の祖母の家で眠っていたロボットの少女。外見は中学生くらい。口癖は「高性能ですから」。
非常に明るく天真爛漫な性格で、主人公の足の代わりに生活の手伝いをする。
斑鳩夏生(なつき)
本作主人公で17歳の少年。
子供の頃のトンネル事故により母親と右足を失う。
神白 水菜萌(みなも)
夏生の幼馴染で高校1年生。巨乳。
明るくまじめな性格で、学校では子供たちをまとめる教師役。
名波 凜々花
水菜萌と同じ学校に通う小学5年生。
身寄りがないが性格は非常に明るく活動的で、勉強も得意な少女。
野島 竜司
学校の中では一番年上の18歳。
性格はやさぐれているが、心を許した相手には頼もしいみんなの兄貴分。
キャサリン
夏生に祖母宅のサルベージをけしかけた借金取り。本名不詳の日本人。
護身用にナイフを持ち歩く気の強い女性。
この他に立ち絵のない生徒が何人かいます。
始めのうちは子供Bとか子供Cとか表示されますが、夏生が子供たちに溶け込むとちゃんと名前がでるようになります。
水菜萌たち高校生組と凜々花たち小学生組は年が離れていますが、海面上昇と人口流出により他の学校が廃校になっているので、街の子供たちはみんな同じ学校に通っているという設定です。
キャラの中ではメインヒロインであるアトリがもう可愛いのなんの!
多分プレイした多くの人がアトリの純粋さや健気さにほだされてしまうかと。この可愛さが後半のシリアスシーンにも生きてくるんですよね。
「高性能ですから!」という可愛い口癖も前半と後半では全く違う意味に聞こえてきます。
ボイス
赤尾ひかる(アトリ) | 髙橋ミナミ(水菜萌) | 日笠陽子(キャサリン) |
春野杏(凜々花) | 細谷佳正(竜司) |
主人公以外フルボイス
全年齢向け作品なのでキャストもアニメ声優がメインです。
この他にチョイ役で鶴岡聡さんやブリドカットセーラ恵美さんも出演しているみたいですが、私の耳では気付きませんでした。
アトリ役の赤尾ひかるさんは『アサルトリリィ』や『こみっくがーるず』等で主人公を演じていた方ですね。いかにもローティーンの女の子という声質です。
竜司役の細谷佳正さんは相変わらず兄貴キャラが似合う声優さん。凄く頼りがいのある声ですね。
BGM
BGM作曲は枕の作品を手掛ける松本文紀さん。曲数は20曲。
ミュージックモードに再生ボタンや停止ボタンがないので微妙に使いづらいです。
個人的お気に入りは小鳥が歌うような日常曲「ごきげん戦闘ロボ」。ドラクエみたいなRPGで街のBGMとして使われそうな曲です。
タイトル画面でも流れる「親愛なるあの日々へ」はこの作品を象徴するピアノ曲。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「光放て!」 | 紺野アスタ | 松本文紀 | 柳麻美 | OP |
「Dear Moments」 | 紺野アスタ | 松本文紀 | アトリ(赤尾ひかる) | ED |
OP曲「光放て!」を歌うのはシンガーソングライターの柳麻美さん。作曲は松本文紀さんなんですがイントロのピアノがすごく枕っぽいです。
曲自体は非常に前向きでスピーディーな曲。歌詞をよく読むと思いっきりエンディング後の夏生の心情を描いたものだとわかるので、クリア後に聴くとより心が揺さぶられます。
ED曲はアトリ役の赤尾ひかるさんによるキャラソン。
BGMの「親愛なるあの日々へ」のボーカルアレンジ曲になります。
あのエンディングでアトリの歌を聴かせるなんて卑怯(誉め言葉)。
ムービー
本編のプロローグ後にOPムービーが流れます。
ムービー前半はキャラ紹介、後半はストーリーを匂わす構成。物語終盤のCGも結構使われてますが、そんなにネタバレというわけでもないので安心して見てもらってよいかと。
攻略
基本的に一本道のシナリオですが、途中3つの選択肢で2つのエンディングに分岐します。
エンディング1がGOODエンド、エンディング2がBADエンドですね。普通にポジティブな選択肢を選んでいけばGOODエンドになると思いますが、ひとつでも間違えるとBADエンドになります。
3回目の選択肢後に分岐するので、セーブファイルを残しておきましょう。
順番はどちらからでもいいですが、話の流れからすると先にBADエンドを見ていたほうがスムーズです。
両方のエンディングを見るとタイトル画面に「TRUE END」ルートが解放されます。
これはエピローグ的な短いシナリオなので、本編から間を開けず一気にプレイしてください。
ただ個人的にはこのTRUE END、無くても良かったかな~と。この作品をアトリと夏生の物語とすれば必要なのはわかるんですが、描くにしてもハッキリと書かずに匂わす程度にとどめてプレイヤーの想像に任せるほうが好きです。
エンディング1で奇麗に終わってると感じた人はあえてBAD ENDやTRUE ENDを見ないのもアリかも。
総プレイ時間はゆっくりやって10~12時間くらい。
フルプライス作品と比べると短いですが、そのぶん濃密なシナリオです。
むしろこの短さが良いんですよね。
感想
「心があるって幸せな事ですね。美しいものを見て、美しいって思えるんですもの」
泣けるギャルゲーとして有名な『ATRI』。評判に違わず感動的な物語でした。号泣するプレイヤーが多いのもわかる…。
実質的にヒロインはロボットであるアトリ1人なんですが、このキャラクターが可愛すぎると同時に設定が上手く物語に生かされています。
・ロボットと心
この作品のテーマは「ロボットに心は宿るのか」ということ。
心というのは改めて考えると極めて抽象的ですが、攻殻機動隊シリーズでいうところの”ゴースト”のようなものでしょうか。あの作品ではタチコマのようなAIと草薙素子のようなサイボーグは”ゴースト”のあるなしで明確に区別されます。
美少女ゲームの世界において「ロボットヒロイン」というのは珍しいものでもないんですが、基本的に心があることを前提に物語が進むことが多いですね。何せ恋人同士になるわけですから、もし相手に心がなかったら文字通りお話になりません。
ところがこの作品では真正面から「ロボットの心」について切り込んでいきます。
この切り込み方が結構エグいんですよ。
・夏生とプレイヤーの同調
この作品でも前半は健気で可愛らしいアトリの言動にほっこりして明るい日常が描かれます。
ところが後半に入ると状況が一変。いわゆる起承転結の”転”の部分にあたるところが非常に強烈で、私自身もかなり心が抉られました。夏生の受けたショックをほぼそのままプレイヤーにも与えてきます。
メタ的な視点で見れば、ある意味美少女ゲームにおけるタブーを犯しているとも言えるので、「このままプレイを続けても大丈夫なのか?」と不安になるくらいです。
ただそれがあるからこそ、終盤の感動に繋がっていきます。
結末としては王道的なんですが、中盤の辛い時期があったからこそ、より夏生に感情移入することができるわけです。
アトリが可哀想だから泣けるというより、アトリのそばにいる夏生の気持ちがわかるからこそ前向きな涙を流すことができる。この作品の根底にあるのは主人公である夏生の成長物語なんですよね。
・ロープライスならではの作品
作品としては、ひとつのテーマ&ひとりのヒロインに絞ったのは大英断だと思います。
1人のヒロインのための世界観、ひとつのテーマのための物語であるからこそ、濃密な作品が完成したのではないかと。
おそらくこの作品の場合、無理にヒロインやボリュームを増やしてフルプライス作品にしたらここまで感動が濃くはならなかったのではないでしょうか。
もちろんフルプライスはフルプライスでいい面もたくさんあるんですが、こういう”泣けるロープライス作品”ももっと増えてほしいです。
ロープライス作品って抜きゲーだと割とよくあるんですが、シナリオゲーは少ないんですよね。
ひょっとしたらこういうロープライス作品が、縮小している美少女ゲーム業界の起爆剤になりうるかもしれません。