2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『素晴らしき日々~不連続存在~』(ケロQ 2010年)

エロゲブランド「ケロQ」を率いるシナリオライター”すかぢ”さんが中心になって制作された『素晴らしき日々~不連続世界~』。略称は”すばひび”。
萌えゲーアワード2010シナリオ部門金賞・大賞部門銅賞、Getchu.com美少女ゲーム大賞2010シナリオ部門・ミュージック部門1位、2010年2chベストエロゲ投票ではぶっちぎりの1位、という押しも押されぬ超名作。

この作品は1999年にケロQから発売され、”三大電波ゲー”の1つに数えられた『終ノ空(ツイノソラ)』のリメイク、というよりリテイク作品で、電波具合に磨きのかかったかなりぶっ飛んだ作品です。(ちなみに残りの2つは『さよならを教えて』と『ジサツのための101の方法』。どちらもプレミア価格になっています)
まずそのシナリオが非常に難解。世界観の説明をあえて大幅に省いているので、正直序盤では何やってるのかよくわからないと思います。一応序章のあらすじをコピペしてみましたが無視してください。というかこれ、あらすじになってません。

私はこの作品が評判になってから事前情報をシャットアウトして、レビューサイトはもちろんオフィシャルサイトや通販サイトも一切見ずにプレイしましたが、結 果的に大正解でした。別に致命的なネタバレがあるわけではないのですが、キャラ紹介や各章あらすじは見ないほうがより楽しめるかと思います。
ただ極めて人を選ぶ作品なので、体験版や公式に許可されているプレイ動画で雰囲気をつかんでおいたほうがいいかもしれません。

ストーリーの内容はネタバレ無しで上手く説明するのが難しいのですが、はっきり言って初心者向けではありません。
まずテキストがかなりイっちゃってて読んでると頭がおかしくなりそうになります。恋愛描写もあまりなく、中盤にかけてはかなり胸糞悪い展開もあるので、プレイするには覚悟が必要。
内容的にコンシューマ化やTVアニメ化は絶対不可能で、正にエロゲーでしか表現できない作品といえます。
こういう作品がたまに出てくるからエロゲーはやめられません。

  • シナリオライターすかぢ氏による難解かつ個性的なテキスト
  • 目を覆うような陰惨な展開
  • 序盤から綿密に張り巡らされた伏線
ブランドケロQ
ジャンルADV
初回発売日2010.3.26
DL版価格5,980円/7,980円
シナリオSCA-自(すかぢ)
原画基4% 硯
籠目 karory
おすすめ度90
シナリオ傾向

あらすじ

ある日、水上由岐は空からぬいぐるみが落ちてくるのを見る。
空に受理されるために投げられたという彼女のぬいぐるみは、何度か空に舞ったのか、所々痛んでいた。
「空に受理される」──それはこの街でいつからか言い伝えられる「空に帰る日」を探すための行為。
それは、世界そのものである少女と、空の少女が出会う場所で成就するという。

天の川をまたぐベガとアルタイル、織女星と夏彦星とも呼ばれる二つの星、それらに北十字星の頂の星デネブをくわえた夏の大三角。
それは三位一体に例えられた聖なる図形と呼ばれる。
聖なる図形が天に輝く時に、世界と空は出会う。
その地点を探し続ける高島ざくろ、そして若槻鏡、若槻司、主人公の水上由岐をくわえた四人は空と世界、神なる三角が交わる場所を探す冒険を始める。

公式サイトより

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
終ノ空95 981999.8.27
素晴らしき日々~不連続存在~(特装初回版)2000 Me XP Vista2010.3.26
素晴らしき日々~不連続存在~(通常版)2000 Me XP Vista2010.5.14
素晴らしき日々~不連続存在~(フルボイスHD版)7 8 102018.7.20
素晴らしき日々~不連続存在~ 10th anniversary特別仕様版8 102020.12.25やや難

現在主に流通しているのは、初回版、通常版、フルボイスHD版の3つ。
特装初回版には特典としてアートブックが付きますが、通常版にもサイズが違うだけでほぼ同じものが付属します。
「フルボイスHD版」は文字通りフルボイス化してCGも高画質化(1280×960)、さらに新規ルートを追加したもの。新規のアートブックに加え複製色紙が付属。

これ以外にこの作品の原典となった『終ノ空』(1999年発売)も出ていますが、古すぎる上に流通量も少ないので今ではショップでもほとんど見かけません。 初回版と廉価版があるのですが、どちらもプレミア化しています。ただ以前は万単位の値段が付けられることが多かったんですが、特別仕様版発売以降は1万円 以下で買うことが出来ます。売ってればの話ですが。

『~10th anniversary特別仕様版』はUIを改善した本編フルボイス版に、『終ノ空』の99年版とそのリメイク版である『終ノ空remake』、さらにサ ントラCDとボーカルCDに加え特製ブックレットまで付けた文字通り特別仕様。完全にファン向けの仕様で、『終ノ空remake』はこれでしか入手できま せん。またプレミア化するんだろうなぁ…。

今から買うなら「フルボイスHD版」一択です。どうしても中古で安く済ませたいなら特装初回版か通常版を。
特装初回版は一時期プチプレミア化してましたが、今では投げ売り価格になっています。
ダウンロード版は通常版とフルボイスHD版の両方が配信されているので注意してください。どちらも定期的に割引セールの対象になっています。
あと一応、Steamでも海外版が『Wonderful Everyday Down the Rabbit-Hole』というタイトルで配信されていますが、音声以外はすべて英語。

システム

テキストが画面下のウインドウに表示されるAVG形式と全画面に表示されるノベル形式の混合タイプです。
画面サイズは800×600(HD版は1280×960)。

コンフィグの設定項目は必要最低限という感じですが、特に不便はありません。でもセーブファイルの編集が出来ないのは地味に痛いかも。データを上書きすると き以外は確認メッセージが出ないので、セーブ画面でうっかりクリックミスすると変な場所にセーブしてしまったりするんですよね。
セーブ時にはテキストログも保存されます。シナリオジャンプや”選択肢まで戻る/進む”的なシステムはありませんが、スキップも速いですしそもそも選択肢も少ないので必要ないでしょう。

珍しい特徴としては、ゲーム起動後からロード画面までBGMやSEが一切鳴りません。最初サウンドの設定がおかしくなったのかと思いました。
また、序章終了後は改めてスタートメニューからプレイする章を選ぶのですが、割れたガラスの欠片のようなものを選ぶ演出になっているので、最初はどこをクリックすれば良いのかちょっと戸惑うかもしれません。第1章はいちばん右上の欠片になります。

シナリオ

メインのシナリオライターはSCA-自(すかぢ)さん。サブで藤倉絢一さんと彩音さん、ちとせさん。
非常に個性的というか癖のある文章で、正直、良くも悪くも読んでて疲れます。
物語は全6章の章別構成。スタート直後はいわゆる序章(分岐もあるので結構長い)で、全ての序章シナリオをクリア(ちゃんとEDムービーもあり)するとようやく本格的な物語である第1章が開始します。

各章には英文のサブタイトルが付いていて、それぞれ主人公が違います。ほぼ同じ出来事に対して視点を変えて体験していくことになるんですが、それぞれ全く違う物語になってしまうのが凄いところ。
ある章ではホラーテイストだったり、別の章では狂気に染まっていく電波シナリオだったり、壮絶な鬱展開だったりと、とても同じ作品とは思えないほど雰囲気が違います。
特に第2章の展開は”電波”過ぎて頭がおかしくなりそうです。さすがにこれは好き嫌いがはっきり分かれるかもしれません。
”ネタばらし”的な展開になるのが4章以降なので、何とか頑張ってそこまで進めて下さい。本編は4章からと言っても過言ではありません。

また本編中には過去の有名文学作品や哲学書からの引用・オマージュが多数出てきます。読書好きの方はより楽しめるかもしれません。ただ宮沢賢治やルイス・キャロルはまだしも、ウィトゲンシュタインやシラノ・ド・ベルジュラックを読んだことのある人ってそうはいないような・・・。

ちょっと気になったところでは、テキストが全画面に表示されるノベルモードになっても文体がほとんど変わらないので、誰がしゃべってるのか良くわからなくなるこ とがあります。特に男性キャラは声がつかないので区別が付きません。一応テキストログには名前が表示されるんですが、いちいち確認するのもめんどくさいで すね。

グラフィック

キャラデザインは基4%(もとよん)さんをメインに、硯さん、籠目さん、karoryさんの複数体制。すかぢさんも一部のサブキャラを担当しています。
全体的にやや尖った感じの癖のあるデザインです。今どきの萌え萌えっとした絵ではなく、なんというか良い意味で古臭さを感じます。2000年代前半みたいな。

彩色も特徴的。キャラクターは全体的に白と紫っぽい色合いで統一されていて、どことなくシックで退廃的な印象を受けます。緑や黄色といった原色系の色がほとんど出てきません。

キャラクター

水上由岐
序章、及び第1章主人公。愛煙家で読書家。
あっけらかんとした性格で、喧嘩の強い姉御肌の少女。

若槻鏡
由岐の幼馴染で同級生。典型的なツンデレキャラ。
名前といい容姿といいキャラ設定といい、モデルは明らかに『らき☆すた』の柊かがみ。

若槻司
同じく由岐の幼馴染で鏡の双子の妹。マイペースで常識的。
これもモデルはどう見ても『らき☆すた』の柊つかさ。

高島ざくろ
序盤で由岐が出逢うことになる引っ込み思案な少女。
クラスのリーダー格の少女から陰湿なイジメを受けている。

橘希美香
ざくろの友人で共にイジメを受けている少女。
文系キャラが多いこの作品の中で唯一といってもいい理系少女。

間宮羽咲
常にウサギのぬいぐるみを持ち歩く間宮卓司の妹。

音無彩名
屋上などで何の前触れもなく遭遇する意味深な少女。

間宮卓司
学校内に秘密基地を作って漫画やエロゲを持ち込む、気の弱いオタク少年。
不良グループから執拗なイジメにあっている。

悠木皆守(ともさね)
不良グループをシメるやたら喧嘩の強い少年。
ちょっと名前が読みにくい。

このほかには不良グループの城山や沼田、ざくろをいじめている赤坂と北見、オカマバーのマスターなど様々なキャラが登場します。
どいつもこいつも個性的で、中には本気で殺意を抱くほど不快なキャラもいるかと。

個人的にお気に入りなのは理系少女の希実香ですね。
「まぁ、文系なんて何の役にも立たないけどね、社会に出てからもクズだし」
いや希実香さん、それ言っちゃうんだ・・・。

ボイス

かわしまりの(由岐)小倉結衣(鏡)如月葵(司)涼屋スイ(ざくろ)
北都南(希美香)西田こむぎ(羽咲)成瀬未亜(彩名)
佐山森(卓司)

女性キャラフルボイス。男性キャラは卓司のみボイスが付きます。(HD版は全キャラフルボイス)
なかなか実力派の方が多く、堅実なキャスティングです。ざくろ役の涼屋さんだけちょっと知名度が劣る感じ?

由岐役のかわしまりのさんは正にベストマッチの配役。強気な姉御キャラと言えばしまりのさんの真骨頂!
サブキャラもメインキャストの方が兼ね役で担当されてますが、しっかり演じ分けられているのでほとんど気がつきません。北都南さんが担当する岩田美羽のみ希美香と声がかぶってるかなと思うくらい。

BGM

BGM作曲はszakさんとryoさん。音楽鑑賞モードで聴ける曲数は全部で39曲。
ちなみに全てのエンディングを見ないと音楽鑑賞モードが開放されません。
心が洗われるような物凄く美しい曲もあれば、狂気を演出するために不安感をかき立てるおどろおどろしい曲まであります。

お気に入り曲はなんと言ってもこの作品のテーマ曲とも言える「夜の向日葵」。夏をイメージさせるピアノの旋律が非常に印象的で、そのメロディはまるで久石譲作品のよう。AIRの『夏影』とかが好きな方にはドストライクな名曲。

そ の他では夏の夕方をイメージした旋律が印象的な「夏の大三角」、聴くだけで満天の星空が見えてきそうな「小さな旋律」、Hシーンにも流される癒し曲「なぜ 日は傾くのか」、変わったところではギャグシーン等で使われる「Les Enfants du Paradis」も昔のゲーム音楽を彷彿させる電子音がどこか懐かしさを感じます。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「空気力学少女と少年の詩」すかぢszakはなOP
「ナグルファルの船上にて」すかぢピクセルビーmonetED
「神と旋律」すかぢピクセルビーmonetED
「鏡の世界には私しかいない-another version-」 すかぢピクセルビーmonetED
「終末の微笑」すかぢszakはなED
「登れない坂道」すかぢピクセルビーmonetED
「呪われた生/祝福された生」すかぢszakはなED

ボーカル曲は全部で7曲。OPとEDに使われるのみで本編中に挿入歌はありません。
どれも名曲揃いなんですが、何故か音楽鑑賞モードで聴くことができません。なんで!?

OP曲である「空気力学少女と少年の詩」は勢いのあるギターのイントロで始まる明るくてノリのいい良曲。
作品全体が暗い雰囲気なので、最初は曲が浮いてるなぁと思ってたんですが、改めて歌詞をよく読んでみると作品世界そのままだということに気付かされます。というかプレイする前と後で歌詞の印象が変わりすぎ! 怖いよこの歌詞!

ちなみにOP曲のシングルCDは中古市場で定価越えのプレミア価格になっています。まぁプレミアといっても2~3000円くらいなので買えない値段ではないんですけど。以前はもっと高かったですし。
本編中にもフルバージョンが使われますが、演出にあわせてイントロがピアノソロバージョンになっています。

ムービー

第1章冒頭にOPムービーが流れます。ムービー鑑賞モードはありません。
主題歌にあわせて爽やかで明るい作り。本編というより序章のイメージで作られた感じですね。

攻略

章別構成ですが各章1~2回の選択肢により分岐します。それぞれの章のエンディングをすべて見ると次の章が開放される、という流れ。
選択肢が少ないので難易度自体は低いかと思いますが、選んだ後にどう展開するか予想がつかない事が多いですね。
序章はオーソドックスに3人の中から選ぶだけですが、ざくろは最後にすることを推奨。

本編の3章まではそれぞれTRUEエンドとHAPPYエンドがあるんですが、出来れば後味の悪いTRUEエンドを先にやったほうが良いかもしれません。 TRUEエンドは各章で同じ結末を迎える、言ってみれば”正史エンド”で、HAPPYエンドはそれを回避した形になります。まぁ選択肢の段階ではその後ど うなるかわかりにくいんですが、なんとなく「好感度が高くなるっぽい」選択肢がHAPPYエンドに繋がっていると思ってもらえれば。

4章 以降は基本的に一本道ですが、第6章後のエピローグは3種類あります。どこで分岐するのかといえば、実は第4章に1回だけ出てくる選択肢で決まるという時 間差分岐。2つのエピローグを見ると、第4章でさらに選択肢が追加され、最後のエピローグを見ることができます。これはわかりにくい。特に最後のエピロー グに気付かずにプレイを終えている人は一定数いそうな感じです。

フルコンプまでの総プレイ時間はゆっくりやって40~50時間くらい。何気にかなりのボリュームです。

Hシーン

シーン回想で見られるHシーンは全部で24個と結構な量があります。陵辱シーンもいくつかあるので苦手な人は注意してください。それ以外にも女の子同士の百合Hや、いわゆる男の娘(というより女装男子)のシーンもあります。

ただ正直なところを言えば、CGには癖がありますし、そそるシチュエーションでもないため、”それ目的”では使いにくいかもしれません。頭がイっちゃってるキャラも多いですし。

感想

今回の記事はストーリーの内容にあえて触れずに書いたため、ちょっとわかりにくい紹介になってしまったかもしれませんが、この作品がエロゲ史に残る名作であることは間違いありません。
その上で改めて注意しておきますが、この作品はかなり好き嫌いがハッキリ分かれる作品だと思います。好きな人にはたまらないけど、ダメな人には全く受け入れられないでしょう。正直なところ、私も第2章では「もう勘弁して」と何度も挫折しそうになりました。

またテキストが哲学的でかなり難解なので、1周しただけでは作品世界の理解はおぼつかないかも。私もクリア後にレビューサイトや解説サイトを回ってようやく「アレはそういうことだったのか」と気がつくことも多々ありました。
終盤のネタばらしを知った状態で改めて1章からプレイし直すと、綿密に伏線が張られていて、キャラクターの何気ない言動にちゃんと意味があったことがわかります。

もちろん謎や伏線をいちいち理解しなくとも、なんとなく雰囲気で物語を楽しむことも可能です。むしろ作品的にはそういう楽しみ方を推奨してるのかもしれません。ぶっちゃけ細かいとこまで突っ込むと結構ご都合主義的な設定も見受けられますし。

序盤の頭がイっちゃってる電波シナリオや陰湿過ぎるイジメの描写だけでなく、とても万人受けしそうにない展開がてんこ盛りなんですが、それらをひっくり返すような中盤以降の展開はさすがに目を見張るものがあります。諦めずに最後までプレイできてよかったと心から思うと共に、主人公たちの幸せを願わずにはいられません。

この作品のエンドロールをよく見ると、企画・シナリオ・プロデュースに加えてグラフィックに演出、主題歌の作詞にまで”すかぢ”さんの名前がいたるところ記されていて、良い意味でシナリオライター”すかぢ”さんの個性が前面に出た作品といえます。
最近の商業エロゲ制作では分業制をとることが多くなっていますけど、こういう実質1人のクリエイターが中心となって制作された個性的な作品も良いものですね。

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