2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『この大空に、翼をひろげて』(PULLTOP 2012年)

休日に郊外の河川敷に行くと、学生グループと思しき人たちが無動力のグライダーを飛ばしていたりすろとこをよく見かけるんですが、いいですよね、ああいうの。個人的に凄く憧れます。
今回紹介する作品はそんなグライダーをテーマにした少年少女たちの物語、『この大空に、翼をひろげて』。もうタイトルからして爽やかな香りが漂ってきそうです。

制作はウィルプラス系列のブランド、PULLTOP。
2012年美少女ゲームアワードにて大賞部門の金賞だけでなく、シナリオ金賞・キャラデザイン金賞・ユーザー支持銀賞・BGM金賞と各タイトルを総なめにした作品です。略称はタイトルの最初と最後をつなげた”ころげて”。

風 車の立ち並ぶ街・風ヶ浦を舞台に、怪我により競技自転車を諦めざるを得なかった主人公・碧と、事故により車椅子生活となった少女・小鳥を中心とした恵風学 園ソアリング部(動力を持たないグライダーの製作・飛行)の少年少女の成長と恋愛を描く、PULLTOPらしい非常に爽やかな青春物語となっています。

シナリオは変に捻らない、直球ど真ん中の超王道ストーリー。おそらくあらすじを読んだ多くの人が想像するであろう物語がそのまま展開されるのですが、それでもここまで高評価なのはシナリオ・グラフィック・音楽等あらゆる要素の質の高さの現れでしょう。
エロゲ界に数多ある”部活物”の中でもトップクラスの完成度を誇り、シナリオ重視の方には誰にでも安心して薦められる作品となっています。

  • グライダーをテーマにした爽やか青春物語
  • いい意味で奇をてらわない王道展開
  • 部員以外の学生とも一緒に暮らしていく寮生活
ブランドPULLTOP
ジャンルADV
初回発売日2012.5.25
DL版価格7,124円
シナリオ紺野アスタ
七烏未奏 奥田港
原画八島タカヒロ 基井あゆむ
おすすめ度85
シナリオ傾向

あらすじ

少年と少女たちは、空と出会い、そして焦がれた。
いつか、自分たちの翼で飛んでみたいと

舞台は、さわやかな風が吹き抜ける街―― 風ヶ浦。
夢を失い、故郷へ帰ってきた少年・水瀬碧は、風車の立ち並ぶ丘で、車椅子がパンクして動けないでいた少女・羽々音小鳥と出逢う。
そして、ふたりがいる丘の上空を渡っていく、白い大きな翼―― グライダーとも。
まだその時、ふたりは気が付いていなかった。
それが全ての始まりなんだと……。

やがて彼らは、碧の幼なじみ・姫城あげはも巻きこんで、廃部寸前だったソアリング部の立て直しを始める。
誰もが子供の頃、思い描いた夢―― 「紙飛行機に乗って飛んでみたい!」
そんな憧れを叶えるために。

見上げる空は、どこまでも高い。
彼らが目指す場所は―― 遙か雲の彼方。

作品リスト

タイトル対応OS発売日入手難度
この大空に、翼をひろげてXP Vista 72012.5.25
この大空に、翼をひろげて FLIGHT DIARYXP Vista 7 82013.1.15
この大空に、翼をひろげて FLIGHT DIARY 本編同梱パックXP Vista 7 82013.1.15
この大空に、翼をひろげて SNOW PRESENTSXP Vista 7 82014.7.25
この大空に、翼をひろげて complete boxXP Vista 7 82014.7.25
この大空に、翼をひろげて MEMORIAL FLIGHT PACKVista 7 8 102016.4.22
この大空に、翼をひろげて -CRUISE SIGN-PS3 Vita2016.9.30
この大空に、翼をひろげてSwicth2019.9.5
この大空に! PULLTOP ジュブナイルパック7 8 102021.7.30

初回版にはサントラCDと公式サイトからいくつかのコンテンツをダウンロードできるライセンスキーが付いています。通常版はゲームディスクのみですが、初回版とパッケージがちょっと違うだけなので店頭で購入するときは注意してください。
また初回版の予約特典としてHシーンをいくつか追加する「SweetLoveパッチ」ディスクがありますが、このパッチはDLサイトにて個別に有料配信もされています。

「~FLIGHT DIARY」は本編のビフォーストーリーと各ルートのアフターストーリー、サブキャラを対象にしたイフストーリーを収録したファンディスク。
「~SNOW PRESENTS」はミニシナリオやドラマCD等を収録したバラエティソフト。
「complete box」はこれら3本のセット。それぞれのパッケージをそのまま集めて特製BOXに収納したものなので結構場所をとります。「MEMORIAL FLIGHT PACK」はその廉価版でDVDケースサイズ。
「この大空に! PULLTOP ジュブナイルパック」はこの作品の全年齢版である「この大空に、翼をひろげて Flutter Wings」を含むPULLTOP4作品の全年齢版を同梱したもの。それぞれのサントラCDも付いています。

正直言って「SNOW PRESENTS」に関してはたいした内容ではなので、今からパッケージ版を買うなら本編と「FLIGHT DIARY」を収録した同梱パックを推奨。全部買うなら「MEMORIAL FLIGT PACK」を。
DL版は個別に配信されていますがたまに半額セールの対象になっています。

システム

システムは必要十分な機能を備えたオーソドックスなAVGスタイル。画面サイズは1280×720のワイド画面。
バックログには任意の場所にシーンごと巻き戻す機能が付いていますが、いったんゲームを中断するとログはクリアされます。(要するにロード後にセーブ前のシーンに戻ることはできません)

また通常のキーボードショートカット以外にマウスジェスチャ機能も付いていて、これは結構便利です。「選択肢に戻る」機能はなぜかマウスジェスチャからでしかできません。
サウンド面では音声の左右の違いが強調されています。つまり画面の左側にいるキャラの台詞はちゃんと左側から聴こえるようになっています。これは是非ヘッドホンで聴きましょう。

難点を言えばスキップがちょっと遅いことでしょうか。これ、地味に結構きついです。共通シナリオを飛ばすのに1時間近くかかります。ウチの環境だけかと思ったら他の方も同じだったようで。

シナリオ

企画とメインシナリオは紺野アスタさん(共通・小鳥・天音ルート)。サブで七烏未奏さん(風戸姉妹ルート)と奥田港さん(あげはルート)。

物語は学園のソアリング部を舞台に、数十年に一度しか現れない雲の回廊”モーニンググローリー”の上を翔ぶために部員たちとグライダーを製作していく、といういわゆる部活モノ。部員の多くは学生寮であるトビウオ荘から通っているので寮生活モノでもあります。

自作のグライダーを扱った物語なので序盤には製作方法や操作方法といった若干の専門用語が出てきますが、理系的なマニアックな話はそれほど多くありません。
部員が数人の部活で本格的なグライダーが作れるのかとか、そもそも日本でモーニンググローリーが都合よく現れるのかといった野暮な突っ込みはやめましょう。

複数ライター制のせいか、ルートによってテキストの雰囲気が若干違います。奥田さん担当のあげはルートに入ると急に会話の掛け合いがノリノリになったり、七烏さん担当の風戸姉妹ルートに入ると詩的なモノローグが増えたりします。ライターの個性が出て良いと見るか、統一感がないと見るかは微妙なところですね。

グラフィック

メイン原画家に八島タカヒロさん、サブで基井あゆむさん、SD絵担当が田口まことさん。
癖のないオーソドックスなキャラデザイン。黒中心の髪の色も落ち着いていて万人受けしそうです。
背景も綺麗で、随所に風を感じる夏の爽やかさを上手く表現していると思います。

気 になるところといえば服装の種類が少なすぎるということでしょうか。ほとんどのキャラは私服1種類と制服、後はイベント用の水着くらいしかありません。せ めて部活のときくらい着替えても良かったような気がします。いくら夏とはいえグライダー製作時に半袖やノースリーブ(あげはの私服に至っては肩丸出しの チューブトップ)、さらにフライトの時までひらひらのスカートを履いたままというのはさすがにどうかと思うんですが・・・。

キャラクター

羽々音 小鳥
空にあこがれる車椅子の少女。自称くーるびゅーちー。
序盤では心を閉ざしているものの、仲間と打ち解けていく過程を丁寧に描いています。

姫城 あげは
活動的な主人公の幼馴染。
カラッとしていて個人的に好みのキャラなんですが、個別ルートでの展開はちと不評。

望月 天音
ソアリング部のガレージに篭って図面を引き続ける天才。一般常識には疎い天然キャラ。
ある理由により”超留年”しているので他のキャラよりかなり年上。そして巨乳。

風戸 亜紗
ソアリング部のグライダーを見て入部してくることになる後輩。
ホワホワとしていてしっかり者の妹とは対照的。見た目は幼いロリっ娘枠。

風戸 依瑠
亜紗の双子の妹。天音ほどではないものの、かなりの素養を持つ天才。
誰に対しても斜に構えた態度で、姉の亜紗と一緒にソアリング部に出入りするものの入部はしない。

水瀬 碧
学生でありながら女子寮であるトビウオ荘の寮母になるというハーレムポジション。
自転車レース中の事故がトラウマになっているものの、基本的に前向きで行動力のある主人公。

この他にもトビウオ荘のほかの住人や、達也や柾次といった男の幼馴染、生徒会の朱莉、ほたるやひばりのようなヒロインの家族など、たくさんのキャラが登場します。この手の部活モノで周りの人間をどんどん巻き込んでいく展開はベタながら燃えますね。しかもどいつもこいつも良い奴ばかりです。
唯一、教師の飛岡のみ悪役のポジションで、その理由も天音ルートで明かされますが、まぁプレイしていれば大体察しはつきますね。

ボイス

星咲イリア(小鳥)萌花ちょこ(あげは)五行なずな(天音)有栖川みや美(依留)
羽鳥空如月葵遠野そよぎ
小次狼蒼井夕真祭大!事務台車

主人公以外フルボイス。名義はCS版と共通。
サブキャラの兼ね役がほとんどないので、EDを見ると声優さんの名前が結構たくさんの並びます。
キャストを見ると、女性陣はいわゆる”エロゲ専業”の声優さんがほとんどですね。

あげは役の萌花(モカ)ちょこさんは当時デビューしたての方のようですが、とても新人さんとは思えないほど上手い! 個人的に応援してる声優さんの一人です。
その他のキャストもベテランさんが多いので実力は折り紙つきですが、あえて言うなら小鳥役の星咲さんはHシーンの演技がちょっと拙いかなと思わなくもない。

BGM

作曲はTOWFIVEのおおくまけんいちさん。曲数は25曲。
作品のテーマに合った爽やかな曲が多いですね。日常曲からシリアスな曲まで良曲揃い。

個人的なお気に入りは、タイトル画面でも流れる「A New World」。壮大で神秘的な雰囲気に冒頭のコーラスが上手くマッチして、大空に憧れるキャラクターたちの気持ちが良く現れています。同じフレーズを使う「dreamin’ little bird」との対比が素晴らしい。

「Open the Wind」は主題歌のアレンジなのですが、疾走感のある曲調がフライトシーンにぴったり。
意外なところではギャグシーンなどに使われる「Great Carnival!」が良い感じ。繰り返し聴いてるとテンション上がります。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「Precious Wing」Minao Ohseおおくまけんいち茶太OP
「Perfect Sky」Minao Ohseおおくまけんいち霜月はるかOP・ED

ボーカル曲は2曲と少な目。
オープニングテーマ「Precious Wing」はOPと挿入歌として、メインテーマ「Perfect Sky」はOPと挿入歌、そしてEDにも使われるので何度も聴くことになります。
どちらも疾走感のある爽やかな曲で、歌詞にも「♪置き去りにしてた 君の滑走路」「♪新しい上昇気流を探そう」といった感じに空やグライダーに関するキーワードが多用されていて作品の雰囲気にとても合っていますね。
ファンディスクの『SNOW PRESENTS』にはメインキャスト5人による「Perfect Sky」の合唱verが収録されています。

2曲とも曲自体は文句のつけようがないくらい良い曲なのですが、正直ちょっと多用されすぎてる感はありますね。もう少し使いどころを絞っても良かったんじゃないかなと思わなくもないかも。

ムービー

ムービーは2つ。序盤(といってもスタートから数時間後)に「Perfect Sky」と共に流れるのが、はらださん製作の”プレビュームービー”。キャラ紹介を兼ねたオーソドックスな作りです。

中盤のターニングポイントに「Precious Wing」と共に流れるのがハッピーヒップバルーン製作の”オープニングムービー”。キャストやスタッフクレジットの表示の仕方にセンスを感じます。
こちらはメインヒロインの小鳥にスポットを当てていて、一部に3Dモデリングを使ったアニメーションの入る凝った作りになっています。はっきり言って、小鳥の、小鳥による、小鳥のためのムービーといって差し支えないかと。

攻略

物語中の数回の選択肢を選んでルートが分岐するオーソドックスなタイプで、選択肢自体もストレートなものなので迷うことは無いかと思います。
プレイ時間はスキップを含めて大体35~40時間くらい。私はのんびりやってたので60時間以上かかりました。

推 奨攻略順は、小鳥→あげは→亜紗→双子→天音。初回プレイ時は小鳥かあげはルートしか進むことができません。天音ルートはソアリング部の過去が明かされる 話なので最後にとっておいたほうが良いと思います。ちなみに天音ルートに分岐する選択肢はストーリー序盤に追加されるので、天音ルートに進みたいときは最 初から始めましょう。

またこの作品は、シナリオ重視作品に珍しく亜紗と依瑠両方と付き合う双子ハーレムルート(亜紗ルートクリアで開放) があります。それもオマケ的なものではなく、しっかり作りこまれたシナリオです。むしろ淡白な亜紗ルートのほうがオマケなのかもしれません。亜紗ルートは 「え?そこで終わり?」という感じで突然EDになります。

Hシーン

各キャラ4回ずつ。風戸姉妹は亜紗ルートで2回、双子ルートで3回、そのうち1回は3Pになります。
さらに予約特典のSweetLoveパッチを当てるとそれぞれ1回ずつ追加。シナリオ中に挿入されるわけではなく、タイトル画面から追加コンテンツとして選ぶショートストーリーのようなものになっています。

Hシーンの行為自体はオーソドックスなのですが、回数を重ねるとヒロインの反応が(良くも悪くも)結構乱れますね。隠語もバンバン叫ぶし、「らめぇ~~~!」とか「しゅごい~~~!」みたいな抜きゲーばりの嬌声をあげるキャラもいます(笑

難点を言えば、CGの構図があんまり上手くありません。せっかくの女体が主人公の体に隠れて見えなかったり、ヒロインよりも主人公のケツがアップになってた り、かと思ったら主人公の体を描かずに男性器だけポンと浮いてたりもします。致命的なのはエロゲーにおけるタブーとも言える、”主人公の顔”がはっきり映ってるシーンまであります。絵自体は上手いのにちょっと残念。

感想

超がつくくらいの王道青春シナリオであるこの作品。
人によってはあげはルートや風戸姉妹ルートの評価がイマイチですが、ある意味それは小鳥ルートと天音ルートが高評価であることの裏返し。いや、個人的にはあげはルートも好きですよ(笑

作中では主人公を含めたソアリング部の部員たちがグライダーを製作し、テストフライトを繰り返していく様子が描かれますが、グライダー製作に関しては設計し た天音が超天才であるという設定に加えて、通っている学校が工業系で部員たちに技術力があるため、時間はかかるものの大きな失敗もなく完成します。試行錯誤を繰り返しながら完成させる、という展開を望んでいる人は肩透かしを食らうかもしれません。

なのでどちらかというと製作より飛ばすほうがメインの物語。ありがちですが、プレイ後はグライダーに乗ってみたくなりますね。
正直、自分は学生時代にあまり自慢できる思い出がないので、こういう「仲間と一緒に何かに熱中する」という体験は凄く憧れます。それがハーレムサークルならなおさら(笑
爽やかな学園青春物語が好きな方には是非プレイしていただきたい一品となっています。

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