『三国志』『封神演義』『蒼天航路』『キングダム』…
日本人ってなんだかんだで中国の歴史や物語が好きですよね。多分中国人以外で中国史に一番詳しいのって日本人なんじゃないの?って思うくらい。
私自身も結構好きなほうで、三国志の武将は横山光輝の漫画と『恋姫†無双』で覚えました。
今回紹介するのは、そんなみんな大好き中国史における「楚漢戦争」をモチーフにした作品『双天†恋姫 ‐至源の王‐』。「至源」というのはどうやら造語で、文字通り「源に至る王」という意味でしょうか。
『恋姫†無双』『戦国†恋姫』といった歴史ものエロゲの制作を続けているBaseSonの新たな作品になります。
物語の舞台となるのは始皇帝が死去した後の秦朝末期の中国。戦国時代を描いた漫画『キングダム』(原泰久)の時代から約40年後くらいの世界です。
主な登場人物は楚の国の武将で後に「西楚の覇王」となる項羽と、下級役人出身でありながら後に漢帝国を築き上げる劉邦。この二人が秦帝国を倒し、大陸の覇権を争う物語を描いた作品です。
戦国時代や三国志と比べると登場人物が少ないのでやや地味な時代ですが、歴史的には非常に熱くてドラマチックな物語。日本でも司馬遼太郎の小説や横山光輝の漫画『項羽と劉邦』が有名ですね。
また「国士無双」や「背水の陣」「四面楚歌」といった今でも使われる言葉は、この時代が元ネタになっています。
恋姫シリーズということで当然ながら主要な登場キャラはほとんどが女の子。
『無双』や『戦国』では50人以上の武将(ヒロイン)がいましたが今作はわずか10人。わちゃわちゃ感のあった過去作と比べると少数精鋭です。
ただそのぶんキャラの掘り下げが深く、よりシナリオ重視な作品になっています。
登場人物たちによる互いの夢と意地がぶつかり合う熱い展開に心が躍ります。
元ネタになった歴史を知らなくても十分楽しめます。むしろ下手に知らないほうがいいかも。
単に史実をなぞるだけでなく後半はオリジナルのストーリーが進むので、歴史の黒幕は誰なのかというミステリアスな展開も。
恋姫シリーズ好きにはもちろん、歴史ものが好きな人にもおすすめの作品です。
- 『項羽と劉邦』をベースにした歴史もの作品
- ファンタジー要素も加えた熱い戦い
- この時代らしい夢を語る前向きなキャラクター

| シナリオ傾向 |
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購入ガイド
| タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
|---|---|---|---|
| 双天†恋姫 -至源の王- (豪華版) | 10 11 | 2024.9.27 | 易 |
| 双天†恋姫 -至源の王- (通常版) | 10 11 | 2024.9.27 | 易 |
パッケージは豪華版と通常版があります。
パッケ絵は同じなのでタイトルロゴの下にある「豪華版」の文字のあるなしで判別してください。大きさは同じですが持ってみると豪華版のほうが重いです。
豪華版の特典はA4サイズのアクリルパネル、サントラCD、ボイスドラマ、追加Hシーン、デジタル原画集、トレカ。
ボイスドラマ、追加Hシーン、原画集はシリアルコードが必要なダウンロードコンテンツなので中古品ではほぼ無理ですね。
原画集は立ち絵、及び一部のイベント絵が彩色前の原画の状態と共に掲載された70ページほどのもの。原画家さんの一言コメントはありますが設定資料的な解説はありません。
通常版の特典はトレカのみ。
ダウンロード版も通常版と豪華版があります。
定価はほぼ変わらないので今から買うならパッケージ版を推奨。2025年の段階でAmazonならタペストリー付きの新品豪華版が1万円以下で買えます。(というか今見たら6100円でした。なんだこれ安すぎ!)
システム
画面下にテキストが表示される通常のADVシステムです。画面サイズは1920×1080。
使用エンジンはArtemisEngine。起動直後に「Artemis」のロゴが表示されるのは映画みたいでカッコイイ。
一通りのシステムはそろっているので特に不自由はありません。
キーボード操作はファンクションキーが割り当てられています。
「次の選択肢に進む」ボタンがありますが、そもそも選択肢がないので多分ほとんど使わないかも。
オートモードはウエイト時間が一定なうえに、ボイスの後にもウエイト時間があるのでちょっと使いづらいですね。
本編は通常のストーリーパートと、ストーリーの切れ目に挿まれる拠点フェイズに分かれます。
拠点フェイズでは各キャラクターの個別イベント(Hシーンを含む)を見ることが可能。個別イベントはだいたい一つあたり10分ぐらいの分量で多くは2~4個ですが、終盤は6~8個くらいある場合もあります。
個別イベントを見ずにストーリーパートを進めることはできますが、後から見返すことはできないのでその都度見ていくことを推奨。
ストーリー中は要所で地図が出てくるので、位置関係を把握しやすいのはいいですね。
また物語中に初出の歴史用語(地名や人名・役職など)が出てくると、その都度「用語辞典」に追加されて簡単な解説を読むことができます。
「項羽と劉邦」の話はどちらかというとマイナーなので、こういう配慮はありがたかったです。
シナリオ

シナリオライターは小沢裕樹さん、日野亘さん、式乃彩葉さんの三氏。
式乃さんは2017年の『真・恋姫』のリメイクでデビューされた方。日野さんは『るいは智を呼ぶ』や『ハロー・レディ!』を手掛けたベテランライター。小沢さんは00年代前半から活躍されている超ベテランです。
物語は仙境に住む「外史管理人見習い」の司馬遷(♂)が主人公。彼が夢に見た「破滅の未来」から世界を救うため下界に降り、山賊の首領をしていた劉邦に出会うところから始まります。
当時の秦王朝は苛烈な弾圧により民の不満は最高潮に達し、始皇帝亡き後は各地で反乱が起きて乱れまくった世の中。
劉邦は司馬遷の助けを得ながら仲間と兵を集め楚の国に入り、凶王と恐れられる楚の将軍・項羽と共に秦帝国を打倒。しかしその後、大陸の覇権をめぐって項羽と対立していくという大河ドラマのようなストーリーです。
物語は全3章の章別構成。一つの章も4つの節で分かれているので、全部で3章12節の物語です。
1章が劉邦陣営、2章では項羽陣営が描かれ、だいたい史実に沿ったストーリーが展開。
物語後半からはファンタジー色が強くなります。序盤から「幽鬼」というオカルト要素がちょくちょく出てくるため、後半のオリジナル展開になっても唐突感はあまりないですね。
混乱の時代なので、当然「戦」―つまり戦争のシーンも描かれます。
ただ戦のシーン自体は盛り上がるのですが、意外と数が少ないので史実のように戦の連続という展開にはなりません。「これから戦争になるのか?」と思ったらあっさり決着してしまうことも。
ちなみに作中の世界は「正史」(つまり現実世界の歴史)から分かれた「外史」というパラレルワールドのような設定。主人公は太乙真人の弟子で仙人のような存在です。
「劉邦が項羽に殺される」という主人公が見た予知夢の通りになってしまうとこの外史が破滅してしまうため、それを阻止するためにこの世界に介入していく流れ。
主人公は正史での出来事を知っているため、その知識を生かして積極的に立ち回ります。ちなみに『恋姫無双』のときは「本来の歴史だと殺されてしまうキャラを救う」ために介入しました。でも今作では「このままだと殺されてしまう劉邦を救う」ために介入するので、『恋姫無双』のときとはちょっと違う方向性です。
テキストはこの世界観を壊さないように横文字の類は基本的に使われません。
ただ台詞中には「マジで?」とか「やばい!」とか「ぶっちゃけ」といった現代の砕けた表現も使われます。これによって固くなり過ぎないように親しみやすい台詞回しになっていますね。
グラフィック

イベントCGは70枚。SD絵が7枚。
イベント絵のうち半分くらいがHシーンのCGになります。もうちょい戦闘シーンのCGが欲しかったかも。
原画家は瀬之本久史さん、こ~ちゃさん、月杜尋さん、ぎん太郎さんの4人。
それぞれいい意味で個性が出ていて、表情にバリエーションを出しつつ全体の雰囲気は統一されているという理想的な複数原画体制です。
色合いは劉邦軍のキャラは赤と白の暖色系、項羽軍のキャラは青と黒の寒色系をベースにしていて対照的。
服のデザインは過去作のように露出度が高く、エロいものが多いですね。項羽軍は特に顕著です。胸の谷間丸出しの水明の衣装エロ過ぎる…。
各キャラ衣装が1種類しかないのがちょっと残念かも。
テキストでは「鎧を着て」みたいな記述があっても衣装は変化しません。というか戦場に出てもヒロインは誰一人として鎧を着てないので、その辺は想像力で補いましょう。
主人公の姿は立ち絵はないもののイベント絵には描かれます。
割と突然出てくるので、最初は正直「こいつ誰?」と思ってしまいました。
キャラクター

劉邦(桜香)
誰もが苦しまず夢を見られる国を作るために王を目指す、自称「赤龍の乙女」。
何事にも素直で前向きな性格。子供の頃に項羽と義姉妹の契りを結ぶ。
樊會(凛風)
大剣を振り回し劉邦軍一の武を誇る。
劉邦とは幼馴染で互いに絶大な信頼を置く。身内に対してはダダ甘のお姉さん。
張良(雪)
劉邦軍の戦略と戦術を取り仕切る軍師。始皇帝の暗殺を企てるが失敗し劉邦の配下となる。
日頃は落ち着いた性格で趣味は物語の執筆。自分のことを助けてくれた主人公のことを兄様と慕う。
韓信(綺羅)
用兵に関しては劉邦軍最強の大将軍。通称”国士無双”。
始めは楚軍にいたが自分の力を認めさせるために劉邦軍に参加。ややツンデレ気味。
項羽(愛莉)
自ら戟(げき)を振るって敵をなぎ倒し、従わぬものは皆殺しにする楚の凶王。
日頃は寡黙で冷静な性格だが、個人の武力は作中最強。幼馴染の劉邦のことを義姉上と慕う。
虞姫(彗)
項羽の身の回りのお世話をする寵姫。口下手な項羽と配下たちの調整役も担う。
明るい性格だが敵対する者に対しては辛辣。
范増(水明)
項羽軍の軍略を担う軍師。項羽からは亜妹(あふ)と呼ばれ信頼される。
性格は暗くて陰険なコミュ障。項羽以外の人間に対してぐちぐち陰口を叩く。
英布(魅音)
項羽軍の切り込み隊長。巨大な鉄球を振り回して敵陣に突入する。
カラッとした姉御肌の性格で面倒見も良い。部下からも慕われるが酒癖は悪い。
彭越(揺光)
盗賊団を従えて項羽と共に戦う楚軍の客将。親しい者はおらず誰も真名を呼ばない。
一人称は「ほっちゃん」。人を食ったようなおどけた喋り方をするが知性は高い。
難民の少女(南斗)
咸陽で主人公に保護された天涯孤独な少女。
小悪魔的な言動で周囲を戸惑わせるが、時折的を射たことを言うことも。
司馬遷(匠)
仙境で外史を管理する仙人・太乙真人の弟子。
「破滅の未来」を回避するため下界に降り、劉邦と行動を共にする。
劉邦たちには正体は隠しているが、的確な判断と指示により「天の標」ともてはやされることに。
主要な登場人物は主人公を含めてこの11人のみ。一応項羽の叔母で楚軍の大将である項梁には立ち絵はありますがボイスはなし。
また劉邦軍にはこれ以外に蕭何(しょうか)という歴史的にも重要なキャラがいるのですが、名前が出てくるのみで直接登場することはありません。
この辺は明らかにヒロインの数を絞ってる感がありますね。今後シリーズ化すれば登場するかも?
恋姫シリーズらしく、各キャラ表向きの名前以外に親しい者のみに呼ぶことの許される「真名」という名前(「桜香」や「愛莉」など)があります。これによって女の子っぽい呼び名になるわけですね。
個人の武の強さは 項羽>樊會>英布>韓信>彭越>劉邦 でしょうか。軍師タイプの張良と范増は論外。兵を率いる将軍としての強さは韓信がTOPになりそう。
ヒロインの中では個人的に水明がお気に入り。
始めは上から目線で匠のことを良いように使っていた水明が、デレた後はすっかり妻気取りでベタベタしてくるのがキモかわいい。
この作品では恋愛感情は割とドライなキャラが多いのですが、水明は割と純粋で一途なんですよね。一歩間違えればストーカーになりそうですけど(笑
ボイス
| 猫村ゆき(桜香) | 鈴谷まや(凛風) | 風花ましろ(雪) | 青山ゆかり(綺羅) |
| 神代岬(愛莉) | 明羽杏子(彗) | 相模恋(水明) | 葵時緒(魅音) |
| 一色ヒカル(彭越) | 小波すず(南斗) |
主人公以外ヒロインフルボイス。
全員が一線級の実力派声優さんです。
モブキャラはともかく、項梁や項伯といったシナリオ上そこそこ重要なキャラにもボイスが付かないのはちょっと残念。
大声で兵に檄を飛ばすシーンではちょっと迫力不足になる方もちらほら。まぁエロゲー声優だとこういう役は珍しいでしょうから仕方ない面もあるかも。
ただ超ベテラン声優である一色ヒカルさんは叫び声も堂に入っていて迫力がありました。さすがレジェンド。
韓信役の青山ゆかりさんは個人的にも大好きなんですが、今作では萌えキャラ的な演技に振り過ぎていてちょっと浮いてしまっているような気も。
韓信は見た目は確かに古典的な萌えキャラデザインなんですが、あんまり将軍っぽい声じゃないんですよね。
残念ながら台詞を読み間違えてると思しき箇所が結構ありました。
「戟(げき)」を「ほこ」と読んだりするのはまぁ仕方ないとしても、国名の「斉(せい)」を「さい」と読んでしまうのはスタッフが気付いてあげてほしかったですね。確かに「さい」と読みたくなる字面ですが(笑
また「戦場」に関しては「いくさば」なのか「せんじょう」なのかバラバラだったので統一してほしかったです。ニュアンスによってあえて読み方を変えてるのかとも思いましたが、そういうわけでもなさそう。
まぁ歴史ものだとこの手の誤読はあるあるなので、あまり気にせずサラッと流すほうがいいかも。
BGM
作中BGMはボーカル曲のインストVerも含めて20曲。シナリオの長さと比べるとやや少なめ。
音楽モードは操作ボタンがないのでちょっと使いづらいです。
全体的にどこか中華っぽい雰囲気のある、恋姫無双のときに近い曲が多いですね。
ただ作中で使われる曲はループせずに途切れてしまうこともあるのがちょっと残念です。
個人的お気に入り曲は、おそらく一番聴く機会が多いであろう「勇往直前」。まさにこれから邁進していこうという気持ちの上がる曲です。
戦闘シーンで流れる「雲蒸竜変」はまさにこれから開戦と言わんばかりの壮大な曲。途中の転調が気持ちいいのでぜひ最後まで聴いてほしい。
同じく戦闘シーンの「竜虎相摶」は静と動のメリハリのついた熱い曲。ライバル同士が思いをぶつけあって戦うのにふさわしい雰囲気です。
強大な敵を前にしたときに流れる「鬼哭啾啾」は、徐々にキーが上がっていくのが未知の敵に対する恐怖や不安感を倍増させます。
主題歌
| タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 「天命」 | 西坂恭平 | 西坂恭平 | AiRI | OP |
| 「Dark&Right」 | Duca | chokix | Duca Rin’ca | 挿入歌 |
| 「雛罌粟の午睡」 | ハラユカ。 | 西坂恭平 | 新海雅代 | ED |
OPテーマ「天命」を歌うのはAiRIさん。
非情にスピード感のある曲調でテンションが上がります。まさに燃えゲーのOPとしてふさわしい熱くて力強い曲。
「Dark&Right」は挿入歌扱いですが、1章終了時にムービーと共に流れるので実質的ににはEDテーマですね。DucaさんとRin’caさんによるツインボーカルでとてもいい曲なんですが、2人の声質が似通っていてちょっと区別がつきにくいかも。
最終ENDに流れる「雛罌粟の午睡(ひなげしのごすい)」はゆったりした曲調で、戦乱の時代が終わり平和になった世の中を印象付けます。普通に純愛ゲームのエンディングでも使われそうな曲ですね。
歌うのは新海雅代さん。優しい声色で、最近だと『アンラベル・トリガー』の曲も担当されています。
ムービー
第1章1節終了時にムービーが流れます。ムービー制作はPRHYTHM VISION。
立ち絵とイベント絵を生かした、非常にダイナミックでスピード感のあるムービーです。
項羽と劉邦という2人の英雄が激突する物語を1分40秒のムービーに凝縮しています。『双天†恋姫』ってどんな作品?と思ったらこのムービーを見ればOKです。
もう何度見ても飽きない素晴らしいクオリティ。
なんというか、00年代の『恋姫無双』と比べると、20年近く経ってムービーの作りも凄く進化していることを実感します。(無双のムービーもあれはあれでいいんですけど)
キャラ紹介のフォントが激しさを感じる毛筆に加えてアルファベットも併記してあって、過去と現代のクロスオーバー感がありますね。
しかもキャラ紹介は短時間しか表示されないので、毛筆のフォントがすごく印象に残ります。
そしてサビ終わりの歌詞に合わせて表示される主題歌タイトルの「天命」。燃え上がるようなフォントで画面いっぱいにドドーンと表示されるのがすごくカッコいい!
途中、水明が一瞬出てくるシーンで何が書いてあるのかと思ってコマ送りして見たら、

おい!(笑
攻略
選択肢がないので自由度や攻略性はありません。
一度のプレイですべてのイベントを見ることができ、CGも全部埋まります。
総プレイ時間は拠点イベントをすべて見たうえでゆっくりやって35~40時間。
一本道シナリオなのでかなりのボリュームを感じます。
Hシーン

回想シーンに登録されるHシーンは26個。
尺はシナリオゲーとしてはやや長め。使われるCGは1回あたり1~2枚。
卑語には伏字・P音による修正が入りますが、P音が小さめなのであまり気になりません。
一部のキャラを除き、全体的に胸は大きめ。乳首も結構大きく描かれることも多い(キャラによる)のでこれは好みが分かれるかも。
当然ですが時代に合わせるため、「セックス」とか「クリトリス」といった現代的なワードは出てきません。
行為自体は比較的オーソドックスなものが多いですね。
基本的に主人公との一対一の和姦行為で、本編中に3Pや百合Hはありません。(豪華版の特典にある追加Hのひとつに3P(匠×愛莉×彗)あり)
感想

「項羽と劉邦」という日本人にとっては(三国志などと比べると)微妙にマイナーな題材を扱ったこの作品。私は武将の名前や大まかなストーリーと結果しか知らなかったんですが、それでも十分に熱い展開を楽しめました。
ちょうど『キングダム』のアニメも見ていたおかげでこの時代に対しても親近感が沸きます。「咸陽」とか「函谷関」といった地名が出てきたときは、「これ信や李牧が出てきたやつ!」とちょっと嬉しくなりました。
史実とオリジナルストーリーの融合
物語前半はほぼ史実をなぞったストーリー。
過去作の『恋姫†無双』に近く、実際の歴史を萌えキャラでついた意見していく楽しさがあります。知らない人には勉強になるかも。
始めは小さなグループのリーダーに過ぎなかった劉邦が段々と勢力を拡大し、やがて項羽と肩を並べるほどの将軍となって行きます。この辺の立身出世の物語は大河ドラマを見ているような楽しさがあります。長い中国史でも、何の血筋もなく身分も低かった人物が一代で皇帝まで上り詰めたのは劉邦が初めてらしいので、中国でも人気があるみたいですね。日本でいう豊臣秀吉みたいな感覚でしょうか。史実の劉邦は天下を取った後、一緒に戦った忠臣たちを次々と誅殺したり追放したりしてるので、この辺も秀吉とかぶります。
そして物語後半はファンタジー要素を強くしたオリジナルストーリーが展開。
2章終盤にはラスボスとなるキャラが現れ、主人公たちが挑んでいきます。この辺はインレの『Chusingura46+1』と雰囲気が似ていますね。
多少急展開ではありますが、知っている歴史から外れ、どうなるかわからないワクワク感が得られます。
急展開といっても序盤からファンタジックな要素はちょこちょこ出てきますし、中盤にかけて謎めいた要素も少しずつ判明していきます。なので急展開ではあるものの唐突感や違和感はなく、スムーズにオリジナル展開になっていったのは良かったですね。
主人公の成長
主人公である司馬遷こと匠の立ち位置が非常に特殊。
多くの歴史ものエロゲでは現代に住む主人公が女の子だらけの世界に転移する、という「なろう系」みたいな設定が定番です。ところが今作では仙境に住む(『封神演義』でもおなじみ)太乙真人の弟子が主人公。本来の歴史は知っているものの、現代人とはやや違う感覚を持っています。
なので世界の破滅を救うべく積極的に歴史に介入し、表舞台にも登場します。
これまでも恋姫シリーズの主人公はどちらかというと傍観者の立場だったので、積極的に動いていく主人公は感情移入しやすいですね。
しかも話が進むにしたがい、匠もちゃんと成長していきます。
剣の腕だけでなく、兵を率いる将としても成長するうえ、その成長が物語に直結します。
他のヒロインは登場時点でほぼ完成された強さを持っているので、こういう主人公の成長譚が描かれるのも良いですね。
また主人公が劉邦陣営だけでなく、ライバルである項羽陣営にも属するのが見所の1つ。
これによって全てのキャラにスポットが当たるうえ、多角的な視点に立つこともできます。
項羽陣営に移った匠が再び劉邦と出会ったときは、どんなやり取りが交わされるのかちょっとドキドキしました。
ヒロインたちのすがすがしさ
作中ではこの時代ならではの「夢」が語られます。
特に劉邦(桜香)の「みんなが幸せに暮らせるような王になる」という夢は単純ながらすがすがしい。ヒロインというより主人公のようなキャラですね。劉邦が物語の中心にいることで、歴史を動かす核になっていく。劉邦のようなキャラが物語を動かすからこそ、物語のテーマや方向性もハッキリするんですよね。
項羽と劉邦は何度も戦いますが、別に憎しみ合っているわけではありません。「王になれるのは1人だけだから、ぶつかるのはしょうがないよね」みたいな感じで、恨みっこなしの正々堂々とした戦いが繰り広げられるのがいいですね。
劉邦以外のキャラもそれぞれの立場で夢を持っています。
後のことを考えず、「今」の夢を追う劉邦たちの生き様が本当にすがすがしい。
我々は学校の授業で「歴史は点ではなく線で学べ」みたいなことを先生に言われたと思いますが、歴史の登場人物たちにとっては「今」の夢が大事。過去はともかく未来のことなんて知ったことじゃない。
これで思い出すのが虚淵玄さんの『Fate/zero』に出てくる、かつてヨーロッパ世界を征服したライダーことイスカンダル(アレキサンダー大王)。彼は自身が死んだ後に帝国が分裂したことを問われ、「悼みはするが悔やみはしない」みたいなことを言っていました。自分の築き上げた帝国がその後どうなろうと当人はあまり気にしないのかもしれません。
とにかく自分が夢に向かって駆け上がること自体が楽しいんじゃないかと。だからこそ彼らのような英雄が魅力的に映るんですよね。
「彼方にこそ栄えあり、届かぬからこそ挑むのだ。
『Fate/zero』より
覇道を謳い、覇道を示す、この背中を見守る臣下のために!」
現代だと「成功した後が大事なんだ」なんてことはよく言われます。でも案外、劉邦たちのように後先考えずに目の前の夢や目標に向かって邁進したほうが人生楽しいのかもしれません。

