2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『景の海のアペイリア』(シルキーズプラスDOLCE 2017年)

過去に『なないろリンカネーション』や『あけいろ怪奇譚』を世に送り出した”シルキーズプラス”制作のSFアドベンチャー、『景(ひかり)の海のアペイリア』。
『なないろ~』を制作したチーム”WASABI”とは別のチーム”DOLCE”制作で形の上ではデビュー作となりますが、そこはさすが元”エルフ”スタッフのブランド。ほぼ完璧なクオリティで、萌えゲーアワード2017準大賞・及びコンセプトデザイン賞を受賞する名作となりました。

この作品は完全没入型VRMMOゲーム”セカンド”を主な舞台とする近未来の物語で、どことなく人気ライトノベル『ソードアート・オンライン』を彷彿とさせます。ただSF設定がふんだんに取り入れられているため、どちらかというと『Ever17』や『シュタインズゲート』のような科学アドベンチャーに近い世界観です。
”観測者問題”とか”多世界解釈”といった量子力学的ワードが好きな方にうってつけ。やっぱ日本人は量子力学大好きですからね。

主人公が偶然作り出した自我を持つ人工知能少女・アペイリアを中心とする物語は、最近少なくなってきた「謎が謎を呼ぶ展開」を大いに楽しめる作品なので、是非ネタバレ無しでプレイしてください。

  • 謎が謎を呼ぶミステリアスな展開
  • 仮想世界を舞台にしたやや難解なSF設定
  • 下ネタ全開のテキスト
ブランドシルキーズプラスDOLCE
ジャンルADV
初回発売日2017.7.28
DL版価格7,537円
シナリオ範乃秋晴
原画いつい
おすすめ度90
シナリオ傾向

あらすじ

名前も顔も居場所も知らない。 実在するかさえわからない。
お前を必ず見つけ出す――

『このメールは未来から送信されている』

2045年 冬。
双葉学園 萌えるAI研究会に所属する 桐島零一 は、偶然にも自我のある人工知能 アペイリア の開発に成功する。

触れてみたい、とパソコンの中の彼女が言う。
零一はAI研究会の部員たちと共に、デジタルの彼女に触れる方法を模索する。

そしてアペイリアの機能を使い、完全没入型VRMMO『セカンド』を作った。
剣と魔法、科学の融合したその仮想世界は第二の現実で、彼らは馬鹿騒ぎをしながら冒険を始める。

だが、『セカンド』は制御の利かない危険なゲームだった。
仮想世界に囚われたアペイリアを救うため、零一たちは命懸けでログインするのだが……

 自我を持った人工知能と、彼女を開発した零一。
 そしてその仲間たちが送る、恋と青春の科学冒険ファンタジー。

――やがて彼は、一つの仮説に辿り着く。

アペイリアを奪おうとしている、何者かの存在に。

公式サイトより

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
景の海のアペイリアXP Vista 7 8 102017.7.28
景の海のアペイリア ~カサブランカの騎士~7 8 102017.12.22
シルキーズプラス 5周年記念豪華BOX7 8 102018.7.27やや難

パッケージ版は今のところシンプルなモノが1つのみ。
初回特典の類は特にないですし、こだわりがなければダウンロード版でも問題ないかと。
ダウンロード版は他のシルキーズプラス作品と一緒に、年に一度くらいのペースで半額やまとめ買いのセールになるためそれを狙うというのも手。
『~カサブランカの騎士』はサブキャラ2名をフューチャーしたファンディスク。

これ以外にシルキーズプラスの過去5作品を集めたセット版があります。さすがにお値段高め(2万ちょっと)ですが、特典も豪華ですし1本当たりの値段を考えるとお得かも。他のシルキーズプラス作品(なないろリンカネーション等)をプレイ予定の方はこちらで。

システム

システムは通常のAVGスタイル。画面サイズは1280×720。この時期のソフトとしては珍しく、WindowsXPやVISTAといった古いOSにも対応しています。
基本的な機能はそろっていますが、バックログ関係がやや貧弱で、シーンを巻き戻すシナリオジャンプ機能は搭載されておらず、中断した際にテキストログが保存されません。

私の環境だと最初うまく起動できなくて焦りました。OSを再起動させた後、「管理者として実行」させることでなんとか起動できましたが、どうもウチのPCとは相性が悪かったようで。

またプログラム自体も若干重めで、私の環境(古いノートPC)だと背景を動かしたりする一部の演出時には動作が非常に不安定になりました。一文を表示するのに30秒以上かかったりもするので結構ストレスが溜まります。せめてこの手の演出をカットする機能が欲しかったところ。(画面効果をOFFにする機能はあるんですが、画面の切り替わりが早くなるだけで演出自体をカットすることはできません)
軽く調べてみたら同様の症状を示すユーザーも少なくなかったようなので、非力なPCを使ってる方は注意してください。

シナリオ

シナリオライターは名作青春ADV『あの晴れ渡る空より高く』を手がけた小説家の範乃秋晴さん。前作ではロケットの知識をふんだんに披露してくれましたが、今作では量子力学のウンチクが多数出てきます。
SF作品が量子力学をテーマにすることは珍しくなくて、そういう場合はたいてい「シュレディンガーの猫」を題材に用いるんですが、この作品では「二重スリット実験」のほうを扱う珍しいパターン。しかも図を使ってガチで説明します。これはもう「エロゲで学ぶ量子力学」とか出すべきですね。
作品中の説明でわからなかったらネットでググれば多くの解説サイトが見つかると思うので、これを機に調べてみるのもいいかも。

物語本編は主人公・桐島零一が作っていたAI少女・アペイリアがとある偶然の出来事により自我と知性を持ち、世界中のコンピュータをつなげた「アペイリアネットワーク」を用いてバーチャルMMOゲーム「セカンド」を制作、仲間と共にゲーム世界へログインして遊んでいたところある事件が起こる、というもので、まぁ言ってみれば「シュタインズゲート」と「ソードアートオンライン」を足して2で割ったような感じ。

テキストの特徴としてはいわゆる”下ネタ”が結構多いです(序盤は特に)。開始早々からして下ネタというかエロネタで笑わせに来ますし、主人公・零一の「セカンド」内での特殊能力が精液によって発動するという抜きゲーのような設定なので、シリアスな戦闘シーンも台無しです(褒め言葉)。
いや、面白いからいいんですが、これのせいでコンシューマ化やTVアニメ化が不可能になってしまったであろうことを考えると、ちょっと残念な気もします。

中盤以降はマジメな展開になるのでギャグシーンも少なくなりますが、ネタばらし的な世界設定の説明が多くなります。この説明がかなり細かくて長いのでちょっと読んでるほうが付いていけなくて辛いかもしれません。私も思わず寝落ちしそうになりました。でも決して説明の途中で中断しないようにしてください。
というのも、この手の説明は図を使ってなされることが多いんですが、図の表示中にセーブして中断した後、再びロードすると場合によってはプログラムが強制終了してしまうようです。説明前のセーブファイルから再開すれば問題なくシナリオが進みますが、私も最初この症状に悩まされて途方に暮れてしまいました。

グラフィック

原画担当は”いつい”さん。イベント絵は全部で74枚。
デザイン自体はラノベの挿絵のようなオーソドックスで爽やかな印象の絵が多く、(別に変というわけではないのですが)髪の描き方が短冊みたいに固まって見えるのが特徴的です。

物語中には戦闘シーンも多いのですが、各キャラ1種類の一枚絵を使いまわすのみで複数のキャラが絡み合うシーンはほとんどないのはちょっと残念。
あと立ち絵とイベント絵ではキャラの表情が微妙に違って見えるので、最初は少し違和感があるかも。

キャラクター

アペイリア
主人公が開発した人工知能少女。主人公の命令は何でも聞くロリっ娘。
話す言葉は機械的なんですが、話し方は命令を待つ子犬のようで癒されます。自分も「命令をください、オーナー」とか言われてみたい・・・。

桐島 三羽(みう)
主人公の義理の妹。同じ学園のAI研究会に所属することになる同い年の2年生。
主人公を「兄さん」呼びする典型的な義妹キャラであり、「死んでください」とか平気で言う典型的なツンデレキャラ。やはりテンプレは大事。

東ましろ
数少ないAI研究会の部員である1年生の後輩。
引っ込み思案で押しに弱く、使用するハンドルネームは主人公に勝手につけられた「ドMヘンタイ」。

(にのまえ)久遠
主人公の幼馴染でAI研究会幽霊部員。歳はひとつ上のお姉ちゃん。
漫画好きの中二病で、たまに闇の眷属が姿を現しますが声質からして全く違います。声優さん凄い。
一(にのまえ)という名字はフィクションでたまに出てきますが、テキストだと読みにくいですね・・・。

桐島零一
本編主人公。自他共に認めるヘンタイ。
仲間思いの凄くいい奴なんですがヘンタイ。頭もよくて頼りになるんですがヘンタイ。

このほかに「セカンド」内で会うことになる女戦士の沙羅と正円、同じく「セカンド」内で”研究所”というギルドに所属し一癖も二癖もある男・シンカーとブックマン、久遠の父親でAI研究者の空観が主な登場キャラクター。
登場キャラがそんなに多くないのでアペイリアを狙う犯人が絞られてしまうんですが、全く予測不能なのが凄いところ。登場キャラをあえて少なくすることでミスリードを狙ったのかもしれません。普通あいつが黒幕だと思いますよね・・・。

ボイス

秋野花(アペイリア)橘まお(三羽)小鳥居夕花(ましろ)桜川未央(久遠)
手塚りょうこ歩サラ
古川徹人(零一)植木亨倉島丈野☆球

モブキャラも含め全キャラフルボイス。主人公の零一は普段は声なしですが、戦闘シーン等では声がつきます。

今回のキャストの中ではやはりアペイリア役の秋野花さんの演技が素晴らすぎる 保護欲をかき立てるロリボイスに加えて、AIキャラらしい微妙な感情の乗せ方が正にプロの技。声優さん凄い。

男性陣で注目すべきはシンカー役の倉島丈さん。ゲーム発売後に行われた人気投票でダントツの得票数を獲得してしまったがために、5周年記念ボックス発売の際にキャラクターソングを歌う羽目になりました(笑

BGM

曲数は全部で38曲。のんびりとした日常曲からシリアスな曲まで多種多様。

個人的お気に入りは、まったりとした日常曲「寛ぎ」、チェンバロ(?)のような音が主旋律を奏でる癒し曲「親密」。
各ルート中盤以降で流れることの多い「思考」も物語補正と相まって印象に残ります。この曲が流れたらストーリーが動く合図。

サントラCDは一応あるんですが、限定販売のため単品だと今ではちょっと入手困難です。ヤフオクやメルカリで探すしか。

主題歌

タイトル作詞・作曲編曲備考
「アペイリア」薬師るり根本克則(KParaMUSIC)薬師るりOP
「信じられるよ」薬師るり根本克則(KParaMUSIC)薬師るりED

主題歌を担当するのは薬師るりさん。2000年代から抜きゲー・シナリオゲー問わず幅広く楽曲提供されている方ですが、実は私は今作で始めて聴きました。
OP曲の『アペイリア』は初め聴いたときはそんなでもなかったんですが、ある程度ストーリーを進めてから改めて聴くと歌詞が物語にぴったりというかそのまんまだったことに気付かされます。特にラストの「♪アペイリア 景(ひかり)をつないで」というワードは非常に印象的。

ムービー

長めのプロローグ、というか共通ルートを半分強くらい進めたとこでやっとOPムービーが流れます。最初ムービー無いのかと思いましたが、入れるとしたらキリの良いあのタイミングしかなかったんでしょうね。

ムービーの内容はイベント絵を動かしたり一部にアニメーションがあったりと、かなり動きのあるスピーディな作りになっています。所々でデジタリックな演出があるのもこの作品らしい。
ちょっと重いムービーなので非力なPCだとカクついてしまうこともあるかもしれません。
せっかく良い作りなのにムービー鑑賞モードがないのが残念です。ファイルもアーカイブ化されているので直接見られないですし。

攻略

総プレイ時間はゆっくりやって40~45時間くらい。スキップをほとんど使わないと思うのでテンポ良く進みます。
本編中に出現する選択肢は1箇所のみ。3つの選択肢から選ぶだけの非常にわかりやすいものなので迷うことはないかと思います。
通常の選択肢以外にも、ある時点で”メールを送る”イベントがあるんですが、送るメールは事実上固定されているので送れるメールだけ選べば問題なく進みます。

推奨攻略順は、ましろ→三羽→久遠→アペイリア。ましろルートは話の流れで最初に、久遠ルートはあるキャラの秘密が判明するので3人の中では最後にしたほうが良いと思います。3人分のルートを終えるとシームレスにアペイリアルートが開始。

ただこの作品は構成が非常に特殊。出来るだけネタバレ無しで説明するつもりですが、構成に関するネタバレも見たくない方は以下の数行は読み飛ばしてください。

まずゲーム開始から共通ルートを半分以上進めてOPムービーを見た後、しばらくすると選択肢が現れます。
この選択肢を選んだ直後は残りの共通ルートが進み、メールを送った後、冒頭で”次のルート”の選択肢を選び、その後”前に”選んだ選択肢の個別ルートが開始、という流れになります。
推奨攻略順で説明すると、共通ルート(前半)→選択肢【ましろ】→共通ルート(後半)→選択肢【三羽】→個別ルート(ましろ)→ED(ましろ)→選択肢【久遠】→個別ルート(三羽)→・・・、という感じ。初めはちょっと混乱するかもしれません。

Hシーン

シーン回想に登録されるHシーンは全部で21個。メインの3人以外にサブキャラである沙羅と正円にもHシーンがあります。

作中の仮想世界「セカンド」の能力として、主人公とHすると女性キャラの能力が上がるといういろんな意味で都合の良い設定のため、序盤のから割と頻繁にHします。
個別ルートに入ってからは現実世界で愛のあるHが各キャラ3~4回ずつくらい。

内容は比較的軽め。服を一枚ずつ脱いで・・・みたいな展開がほとんどないのであまり変化のないあっさりした行為が多いですが、大体1回の行為で2~3回くらいフィニッシュするのでそこそこの尺があります。
またほぼ全員にお口や胸でするシーンがあり、3Pも数回あります。

アペイリア以外のキャラは胸は大きめ。服を着た状態だとそんなでもないですが、Hシーンになると比較的大きく描かれることが多いですね。

感想

久々のガチなSF設定モノとなった『景の海のアペイリア』。
美少女ゲームの世界においてはシステム的にSF設定と相性が良いので、これまでもたくさんの作品が作られてきました。古くは『この世の果てで恋を歌う少女YU-NO』から始まり、『CROSS†CHANNEL』、『Ever17』、『ひぐらしのなく頃に』、『シュタインズゲート』等々、どれも名作揃いであるためこれらと比べられてしまうのは酷かなとも思ったんですが、ふたを開けてみれば過去の名作に勝るとも劣らない、正真正銘の名作の仲間入りをした・・・と私は思ってます。

あえて難点を言うのであれば、ちょっと「難しすぎる」というとこでしょうか。世界設定の説明が込み入ってるので、1回の説明で理解するのはなかなか大変かもしれません。私もクリア後にあちこちの考察サイトを回りましたが、未だに完全に理解できたとは正直言いがたいですね。

またとあるルートでは論理パズルのような対決があって、これも非常に頭を使います。プレイヤーが何か選ぶわけではないので苦手な方はそのまま読み流せばいいのですが、私はこの手の論理パズルが好きなのでバックログを確認しつつ零一と一緒に「これが間違ってると仮定すると、こっちが正しいことになってこれとこれが矛盾するから・・・」などと考えながらプレイしてました。こういうのもっと増えてほしいです。

こういったSF作品では最終ルートで全ての謎が明らかになるのが定番なのですが、この作品では個別ルートであるヒロイン3人のストーリーもしっかりしているので、最後のアペイリアルートまで飽きることなくプレイすることが出来ると思います。それぞれのルートでヒロインを助けつつ、少しずつ世界の謎に近づいていくという、この構成のバランス感覚は素晴らしい。TVアニメ化とかしたら絶対人気でたと思うんですが、やっぱ下ネタがなあ・・・。地上波じゃ無理だろうなあ・・・。

「エロゲーであること」を重視したがために”第2のシュタゲ”になり損ねてしまった感もありますが、SFギャルゲーの系譜を受け継ぐ作品として是非多くの人にプレイしてほしい作品だと思います。

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