先日、アニメ『86-エイティシックス-』の最終回が放送されたんですが、いや~素晴らしかった! 語彙力がなくて申し訳ないのですが、「面白い」というより「素晴らしい」という言葉がぴったりのアニメ作品だと思います。
なので今回はいつものエロゲレビューのノリでアニメも紹介してみます。
原作は安里アサトさんの同名ライトノベル。
物 語は現実よりほんの少し技術が発達した世界で、隣国に大量の無人機で攻め込まれたサンマグノリア共和国が”エイティシックス”と呼ばれる被差別民族の少年 少女たちに四足歩行兵器”ジャガーノート”に半強制的に搭乗させ戦わせているところに、共和国軍のエリート少女・ヴラディレーナ・ミリーゼ少佐が管制官と して着任する、という戦争もの。
命を削りながら絶望的な戦いに身を投じていく少年たち、というのはなんとなく『マブラヴオルタネイティブ』や『進撃の巨人』あたりに通じるものがありますね。
監督はA-1 Picturesの石井俊匡さん。TVアニメは初めての監督さんらしいのですが、全体の構成や個々の細かい演出まで、とても初監督作品とは思えないほどの完成度だと思います。
石井俊匡監督、うん、名前覚えた。
萌えキャラや恋愛描写がほとんどなく、カッコイイロボットとかも出てこない硬派な作品ですが、人の命が軽い戦争ものの作品が好きな人には是非見てもらいたいアニメです。

原作 | 安里アサト (電撃文庫) |
監督 | 石井俊匡 |
シリーズ構成 | 大野敏哉 |
キャラクターデザイン | 川上哲哉 |
制作 | A-1 Pictures |
放映日時 | 2021.4~ |
おすすめ度 | 90 |
シナリオ傾向 |
![]() |
あらすじ
ギアーデ帝国が開発した完全自律無人戦闘機械<レギオン>の侵攻に対応すべく、その隣国であるサンマグノリア共和国が開発した無人戦闘機械<ジャガーノート>。
公式サイトより
だが、無人機とは名ばかりであり、そこには”人”として認められていない者たち―エイティシックス―が搭乗し、道具のように扱われていたのである。
エイティシックスで編成された部隊<スピアヘッド>の隊長である少年・シンは、ただ死を待つような絶望的な戦場の中で、ある目的のために戦いを続けていた。
そこに新たな指揮管制官<ハンドラー>として、共和国軍人のエリート・レーナが着任する。
彼女はエイティシックスたちの犠牲の元に成り立つ共和国の体制を嫌悪しており、”人型の豚”として蔑まれていた彼らに人間として接しようとしていた。
死と隣り合わせに最前線に立ち続けるエイティシックスの少年と、将来を嘱望されるエリートの才女。
決して交わることがなかったはずのふたりが、激しい戦いの中で未来を見る―。
シナリオ

シリーズ構成はドラマの脚本出身で、アニメ『スイートプリキュア♪』や『約束のネバーランド』等を手がけた大野敏哉さん。
普通はラノベのアニメ化というと1クールで大体原作2~3巻分くらいを消化することが多いと思うんですが、この作品では原作3巻分を2クール23話で描くというかなり丁寧な作りになっています。特に1巻の部分は1クール丸々使ってじっくりと物語が進みます。
もちろん無駄な引き延ばしがあるわけではなく、原作では描かれなかった部分を補完したり、所々でアニメオリジナルの展開を加えたりして、違和感なく1本の作 品として完成されています。というより原作のほうがやや駆け足に描かれるので(1巻は特に)、むしろアニメの進み具合のほうがちょうど良いようにも感じるほど。
物語は壁に囲まれたサンマグノリア共和国が隣国のギアーデ帝国から無人機”レギオン”による侵攻を受け、それに対抗するために共和国側も無人機を開発。だが共和国側の無人機は名ばかりで、実際は年端も行かぬ少年少女たちが乗り込んで使い捨てにされているという現状。
舞台となるサンマグノリア共和国では白い肌と銀色の髪が特徴的な白系種<アルバ>と呼ばれる民族がそれ以外の民族に対し徹底的な差別と弾圧を加え、戦争が起きるとアルバ以外の全員を86区にある強制収容所に隔離。
彼らはエイティシックスと呼ばれ、共和国の市民権を餌に戦場へ駆り出されていく、という設定。
支配民族と被支配民族という構図は、アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』や『進撃の巨人』のマーレ編などでも描かれたりしましたが、この作品での弾圧は非常にエグいです。支配民族である白系種(アルバ)は、ごく一部の良識派を除いて一般市民レベルでもエイティシックスのことを家畜以下の存在としか認識しておらず、アルバの良識派はもちろん当のエイティシックスたちも今さら国民の意識を変えるのは無理と諦めてしまっているほど。
エイティシックスたちが戦っているレギオンはある種の亡霊のようなあやふやな存在であるため、支配民族であるアルバのほうを徹底的に人間のクズとして描くことにより、視聴者の敵意をアルバに向けるような構成になっています。
グラフィック

原作イラストはしらびさん、アニメのキャラクターデザインは川上哲哉さん。
比較的原作イラストに忠実なキャラデザで特に違和感はありません。ただ原作イラストよりは若干大人っぽいデザインになってますね。あとレーナの胸が意外にデカいです。
メカニックデザインは原作と同じくI-IV(あいふぉー)さん。
エイティシックスたちが搭乗して戦う”ジャガーノート”という機体は四足歩行する虫みたいなデザイン。最初見たときは「うわっ、キモッ」と思ったものですが、慣れてくると逆にかっこよく見えてくるから不思議なものです。ちなみにジャガーノートはバンダイからプラモデル化もされています。
共和国側の機体は無骨で実戦的なデザインであるのに対し、レギオン側の機体はやや有機的で足の数も多く、まるで宇宙生物を彷彿させるようなデザインです。この対比も面白いですね。
キャラクター

ヴラディレーナ・ミリーゼ
共和国側の主人公で、わずか16歳で少佐に昇進した共和国軍のエリート。愛称はレーナ。コールサインは「ハンドラー・ワン」。
共和国内のエイティシックスに対する迫害に反対する正義感の強い少女。
シンエイ・ノウゼン
86区側の主人公で「スピアヘッド」戦隊の隊長。16歳。パーソナルネームは「アンダーテイカー(葬儀屋)」。
寡黙でマイペースな青年だが、ジャガーノートの戦闘技術は天才的。愛称はシン。
ライデン・シュガ
シンと同じ16歳ながら兄貴分的な役割を担う第2小隊隊長。
シンに対し怒ったり心配したり優しく受け止めたりする、通称ライデンママ(笑
セオト・リッカ
クールだが口が悪い第3小隊隊長。16歳。
絵を描くのが得意で様々なイラストや風景画を描き、部隊のパーソナルマークも作成する。
ダイヤ・イルマ
アンジュに好意を寄せる金髪のイケメン。17歳。
お調子者の面もある戦隊のムードメーカー。
アンジュ・エマ
普段は穏やかな性格だが、戦闘時は攻撃的な少女。16歳。
混血ではあるがパッと見はアルバに見えるため、アルバと86の両方から迫害を受けた過去を持つ。
クレナ・ククミラ
遠距離狙撃が得意な少女。15歳。
シンに恋心を抱いていることは部隊内で周知の事実だが、本人には全く相手にされない。
カイエ・タニヤ
東洋人っぽい見た目の気さくな少女。18歳。
レーナと視聴者にトラウマを植えつける。
主人公・シンが戦隊長を務める”スピアヘッド”戦隊は20名以上の隊員がいますが、ぶっちゃけその大半が死にます。しかもそのうち、ちゃんと死に際が描かれるのは数人のみで、多くは(視聴者側からすると)「いつの間にかいなくなってる」というドライな見せ方です。
「いつ誰が死んだ」ことをあえて明示しない代わりに、作った料理が余ってたり、毎日書き直されてたはず黒板が更新されなくなってたりすることを描写することで、隊員が徐々に減っていることを匂わせる作りになっています。こういう演出って逆に心が抉られますね。
ボイス
千葉翔也(シン) | 長谷川育美(レーナ) | |||
山下誠一郎 | 鈴代紗弓 | 早見沙織 | 藤原夏海 | 石谷春貴 |
白石晴香 | 杉山里穂 | 三上哲 | 古川慎 | 楠大典 |
久野美咲 | 内田夕夜 | 植田佳奈 |
シン役の千葉さんはここ最近メインどころの役が増えてきた方。レーナ役の長谷川さんはどちらかというと若手だと思いますが、演技自体は申し分なく、これからの活躍が(エロゲファン的にも)楽しみな声優さんです。
2クール目から登場するフレデリカ役の久野さんはさすがプロ幼女声優。最近のアニメに出てくる幼女の大半は久野さんのような気がします。今作のフレデリカはいわゆる”のじゃロリ”ですが、この演技がまた素晴らしい。変にギャグっぽくなることなく、作品の世界観にあったキャラを創っています。2クール目の見所というか聴き所の1つですね。
BGM
劇伴の作曲はアニメ『進撃の巨人』や『ガンダムUC』など数々のアニメで名曲を生み出してきた澤野弘之さんとKOHTA YAMAMOTOさん。
澤野さんは戦闘曲が多く、YAMAMOTOさんは日常曲が多めな感じですかね。
今作は悲壮感の強い作品であるためか、イケイケのボーカル曲は少なめですが、澤野さんらしさは健在。ワンフレーズ聴いただけで「あ、これ澤野サウンドだ」とわかると思います。
「RE:g1-ON」「9re7」とかタイトルも含めてめっちゃ澤野さんらしい曲ですよね。「!”#$%&’()0」とかどうやって読むねん(笑
主題歌
タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
「3分29秒」 | シノダ | シノダ | ヒトリエ | ヒトリエ | OP |
「境界線」 | 秋田ひろむ | 秋田ひろむ | amazarashi | OP | |
「Avid」 | cAnON | 澤野弘之 | 澤野弘之 | SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki | ED |
「Hands Up to the Sky」 | cAnON | 澤野弘之 | 澤野弘之 | SawanoHiroyuki[nZk]:Laco | ED |
「アルケミラ」 | たかはしほのか | たかはしほのか | リーガルリリー | ED | |
「LilaS」 | Honoka Takahashi | 澤野弘之 | 澤野弘之 | Honoka Takahashi | ED |
主題歌はOPが2曲、EDが4曲。
第2クールOPの「境界線」は冒頭からしてamazarashiらしさのあふれる曲で、一度聴いたら忘れられません。曲のタイトルや歌詞も物語に合ったもので、作品に対するリスペクトを凄く感じます。
第1クールEDの「Avid」はこれぞ澤野ミュージックと言わんばかりの曲。切なさを感じる落ち着いたイントロからサビに向けて徐々に盛り上がっていく曲調が素晴らしい。単体の曲ではなく、最初から「86というアニメ作品のエンディング」として作られた意思を感じます。
ぶっちゃけ歌詞はよく聞き取れないんですが、雰囲気でなんとなく聴くもよし、歌詞を見ながら味わって聴くもよしの名曲です。
ムービー
「3分29秒」とともに流れる第1クールOPムービーは所々で表示されるデジタリックな演出が印象的。これはレーナ側から見た戦場を意味してるんでしょうね。
そしてラストには満開の花畑に後ろ向きで佇むエイティシックスたち。始めはちょっと意味がわからないんですが、ストーリーが進むごとにその人数が増えていき「うわ、そういうことか・・・」と視聴者の心を折りに来ます。
そして「境界線」とともに流れる第2クールOPムービー。こちらはかなりアグレッシブなムービーで、シンと4人のパイロットが物凄い形相で迫ってくるシーンは鳥肌が立ちます。
さらに特徴的なのがタイトルロゴを表示するタイミング。一般的なアニメだとタイトルロゴはイントロの前後か、もしくは一番最後に持ってくることが普通だと思うんですが、このムービーではサビの後半というある意味中途半端なところでシンプルなタイトルロゴが表示されます。でも何故かこのタイミングが曲調と神懸り的にばっちりハマっていて、見ていて凄く気持ちがいいんですよね。この演出考えた人凄い!
感想

私はアニメ開始当初はまだ原作未読だったものの、なんとなくその評判は聞いていて、放送開始時は全裸待機していたのですが、想像を上回る素晴らしい作品でした。
さすがにアニメだと細かい設定や機体の性能なんかの説明は省かれていて、「あの蝶っぽいの何?」とか疑問に思ったりもしましたが、その都度Webサイト等で確認していました。あんまりネタバレなどを気にしなくてもいい作品なので、普通に調べて大丈夫だと思います。まぁ雰囲気でなんとなく察することもできるでしょうけど。
個人的にはニコニコ動画のコメント欄で解説してくれる人がありがたかったです。
またこのアニメは演出の意図が非常にわかりやすいので、私のようなニワカアニメファンにも楽しみやすい作品になってます。
これが凝った監督さんだと「言われなきゃ気付かない」マニアックな演出があったりするんですが、この作品はいい意味でストレートな演出が多いです。
1話冒頭の線路上を疾走するシーン、1クール目ラストで飛び立っていく5羽の鳥、最後にたどり着いた一面の花畑、そして誰もが感動した最終話Cパート。わかりやすいといっても決して安っぽくはなく、非常に心を揺さぶられる演出だと思います。
台詞回しも変に持って回ったものではなく、要所要所でぐっと来るストレートな台詞が印象的。
「得体が知れない、万が一そんな理由で子供を殺さないと生き延びられないなら、――人類なんて滅んでしまえばいいんだよ」(エルンスト・ツィマーマン)
なんだこのカッコ良すぎる台詞! 汎用性が高そうなので自分もいつか言ってみたい(笑
そしてここからはちょっとラストのネタバレにもなるんですが、この作品ってアニメの最終回まで主人公のシンとヒロイン(?)のレーナが直接会わないんですよね。こういう展開って映画『君の名は』などでもありますが、ずっと別々の視点で物語が進んでいたからこそ、最後にようやく出会うシーンは感動もひとしお。
それまで”レイドデバイス”による通信のみでコミュニケーションをとっていたレーナとシンたちエイティシックスが、最後の最後で対等な立場となって出会う。 それも1クール目ではエイティシックスたちを指揮する立場だったレーナが、先に行ってしまった彼らに何とか追いつこうと懸命に戦い抜いた結果としての邂逅。く~~っ!痺れる!! そりゃエルンストもノリノリになるわ(笑
重厚な世界観に良く練られたストーリー、魂を揺さぶる演出と音楽、息もつかせぬ戦闘シーン、声優さんによる迫真の演技、どれをとっても申し分なく、個人的には大満足のアニメでした。
世間の評判も上々のようなのでおそらく近いうちに2期も制作されるのでしょうが、少々時間がかかっても構わないので是非今回のようなクオリティを期待したいところ。石井監督頼みます!
それにしても原作の売り上げがシリーズ累計で160万部(2022年3月現在)ってマジですか? こんなもんなの? いや、少なくはないんだろうけど、もうちょっと売れててもいいんじゃない? こんなに面白いのに!
アレか、今どきのラノベは異世界転生してハーレム作ったり、有能主人公がパーティーを追い出されたりしないと売れないのか・・・。