2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『猫撫ディストーション』(WHITESOFT 2011年)

今回紹介するのは、近年稀に見る名作揃いだった2011年の中でもひときわ異彩を放つ作品、WHITESOFT製作の「猫撫ディストーション」。
どういう作品か一言で説明するのが非常に難しく、公開されているあらすじを読んでも多分ほとんどの人が「よくわからない」と思うことでしょう。

物語のテーマは”家族”なのですが、舞台が非常に突拍子の無いSF設定になっています。
3年前に死んだはずの妹が普通に生きていたり、姉の性格が激変していたりするのはまだ序の口で、実の母親は見るからに年下のロリっ子、父親も若返って性格が馬鹿に、極めつけは飼い猫が何故かネコミミメイドの人間になっていたりします。
そしてシナリオのほうも非常に難解。わざとぼかして抽象的に描かれることも多く、”観測”や”認識”といった哲学的かつ量子力学的な概念が頻出します。

間違っても初心者に薦められる作品ではないですが、ストレートなエロゲに飽きた人には是非試してほしい作品ですね。「シュレディンガーの猫」とか「ウィトゲンシュタイン」とかが好きな人は特に。

  • 哲学的で難解なシナリオ
  • 「家族」をテーマにした物語
  • 完成度の高い音楽
ブランドWHITESOFT
ジャンル揺らがないADV
発売日2011.2.25
DL版価格3982円
シナリオ藤木隻 元長柾木
原画ミヤスリサ
月音 みやま零 
おすすめ度80
シナリオ傾向

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
猫撫ディストーションXP Vista 72011.2.25
猫撫ディストーションExodusXP Vista 72012.2.24
猫撫ディストーション 恋愛事象のデッドエンドXP Vista 72015.5.29
猫撫ディストーション&
猫撫ディストーション Exodus 2in1+α おまけデータ
7 8 102017.6.23やや難

パッケージは初回/通常版の違いは無く、初回特典の類もありませんが、予約特典として小冊子とサントラがつきます。特典のサントラは入手困難ですが、後に改めて一般発売もされているので、そちらを購入することを推奨。
「~Exodus」は本編アフターストーリーやショートストーリーを収録したファンディスク。

「~ 恋愛事象のデッドエンド」は元々DL専売で予定していたものを、ユーザーのクラウドファンディングにより資金を集めてパッケージ販売(通販のみ&DL販売 は中止)というよくわからない経緯で発売されましたが、やたら短い(プレイ時間30分程度&CG5枚)上にシナリオの評価も散々だったようなので、手を出さないほうが無難でしょう。

「~2in1+α おまけデータ」は現行OSに対応した本編とファンディスク、及びサントラCDやイラストデータが同梱されたもの。ショップではなかなか見かけませんが、今のところ通販でなら購入可能です。
これ以外に、月刊「メガストア」2015年12月号の付録DVDに本編が丸ごと収録されています。

内容的にかなり人を選ぶ作品なので、まず本編をやってみて、気に入れば「Exodus」も購入、という形で良いかと。パッケージ版はどちらも中古ショップで投げ売り価格になっています。

システム

システム自体はオーソドックスなAVGスタイル。画面サイズは1024×576のワイド画面。
メッセージウインドウは固定せず、立ち絵に応じて画面の任意の位置で表示されます。その際、台詞にあわせてウインドウを拡大させたり震えさせたりする場面もあり、演出に一役買ってます。
ただ、オートモードのウエイト時間が文章量に関わらず一定(調節は可能)なので、長い文章だと読みきれないこともあるかもしれません。

あと細かいことですが、右クリックメニューを呼び出したときにカーソルが必ずセーブの位置に来るので、適当にクリックしてしまうとうっかり上書きセーブしそうになることもあるかも。

シナリオ

メインライターは藤木隻さん、サブで元長柾木さん。文章が非常に難解なのである程度覚悟しておきましょう。
物語は主人公である樹が妹の死をきっかけに不登校状態になり、両親や姉との関係もギクシャクしていた七枷家がある晩を境に激変。姉の性格は別人のようになり、両親は性格だけでなく見た目も若返り、さらにペットの猫は猫耳メイドの人間に、極めつけは死んだはずの妹もしれっと生きている異常事態のなか本当の家族の意味を模索していく、というかなりエキセントリックな内容になっています。

哲学や量子力学の概念や用語が頻繁に出てきますが、謎解きがメインというわけではないので細かい言葉の定義や意味を考えず、雰囲気で楽しめれば良いかと思います。むしろあまり深く突っ込まないほうがいいかも。
哲学的な内容に注目されがちですが、七枷家の普段の日常描写も非常に面白く良い味出してます。特にギズモや父親の電卓はコメディリリーフ的な立ち回りをすることが多いので笑いが絶えません。

グラフィック

キャラデザインは、ミヤスリサさん(ギズモ・式子)、月音さん(結衣・柚)、みやま零さん(琴子)の3名。
表情がどこか漫画チックなデザインです。
絵柄はある程度統一されていますが、琴子のみ雰囲気がちょっと違いますね。シナリオ上のキーパーソンなのでわざと変えたのかもしれませんけど。

イベント絵の数は71枚とそこそこありますが、立ち絵のバリエーションが少なく、服装はそれぞれ1種類しかありません。ただそのぶんポーズは結構多いので飽きが来ることはないかと。

キャラクター

七枷 琴子
3年前に病死した主人公の妹。何故か生き返っていますが気にしてはいけません。
作中キャラ人気No.1。唇に指を当てて「兄さん」とか言われたら、誰もが妹属性に目覚めることでしょう。

七枷 結衣
主人公の姉。たまに変な力を使いますが気にしてはいけません。
きつい性格ながら主人公には甘い。Yes!黒タイツ!

七枷 式子
主人公の母親。植物を育てるのが得意で、食虫植物が歩き出したりしますが気にしてはいけません。
見た目ちびっ子になってますが実の母親。文字通り永遠の処女。

七枷 ギズモ
主人公の飼っていたペットの猫。何故か人間(しかもメイド)の姿になってますが気にしてはいけません。
次第に人間の言葉もしゃべるようになりますが、性格は猫のまま。


七枷家の隣に住む主人公の幼馴染。ヒロインの中では唯一まともな人間。
おせっかいで活動的という典型的な幼馴染キャラ。Yes!黒タイツ!

七枷 樹
本編主人公。学生だが3年前の琴子の死をきっかけに不登校状態に。
物語上は何気に主人公が最も重要なキーパーソンになっています。

このほかに出てくるキャラは主人公の父親・七枷電卓と柚の母・蜜柑のみ。後は名前の無いモブキャラが何人かいるくらいで、基本的にこの8名のみで世界観が構築されています。

ボイス

佐本二厘(琴子)白波凛瑚(結衣)涼森ちさと(式子)
佐藤しずく(ギズモ)夏野こおり(柚)
理多小池竹蔵

主人公以外フルボイス。
キャラが少ないので声優さんも少なめ。家庭用が出ていないので妹さんの名前が書けないのですが、ベテラン揃いのキャスティングで、キャラの個性にもバッチリ合ってます。

結衣役の白波さんは事務所移籍により名義が多くなってきた方。今作では声が低いので最初気付きませんでした。
ギズモ役の佐藤さんは、どこかで聞いた声だな~と思ってググってみたら納得。最近は妹さんの歌手活動が忙しくなってきたせいか、めっきりエロゲには出演されなくなってしまいましたね。どうせならこの作品の主題歌もfripSideに歌ってもらえばよかったのに…。

BGM

BGMの作曲は数多くのアニソン・ゲーソンを手掛ける”Elements Garden”の藤田淳平さん。
曲数は16曲とやや少なめなのですが、これが実に名曲揃い。この作品のレビューサイトをまわっていると、ほとんどの方がBGMの素晴らしさに言及されています。
曲は全てピアノと弦楽器のみで構成されていて、クラシカルな雰囲気を醸し出します。特に日常曲は非常に癒される曲ばかり。

個人的お気に入りはタイトル画面でも流れる「Distortion」。ピアノの伴奏に乗せてヴァイオリンとチェロが交互に優しい曲調の主旋律を奏でます。
他にも琴子のテーマとも言える「World eyes」やピアノの独奏曲「Dynamic equilibrium」など、良曲を挙げたらキリがありません。是非サントラ買いましょう。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「Bullshit!! Hard problem!!」KOTOKO高瀬一矢 尾崎武士OuterOP
「永遠~小さな光~」詩月カオリ井内舞子詩月カオリED

オープニング曲は一度聴いたら忘れられない、ノリノリでハイテンションな曲。歌詞もメチャクチャ口汚い(褒め言葉)、Rockな内容です。KOTOKOさんってこういう歌詞も書くんですね。歌っている「Outer」というのはKOTOKOさんをメインボーカルにした謎のバンドだそうです。(もちろん作中に出てくる琴子とは全くの別人です)
ただ、どういうわけか音楽鑑賞モードでボーカル曲が聴けないのは残念でなりません。
OP曲のFull.verは予約特典のサントラに収録されています。

それにしてもこの作品はBGMにElements Garden、ボーカル曲はI’veという二大チームがタッグを組んだことになるんですが、今となってはこの2つに大きな差がついてしまいましたね…。

ムービー

OPムービー製作はKIZAWA Studio。OP曲に合わせた非常にスピード感のある構成になっています。
哲学的なシナリオを反映するかのように、”言葉”や”観測”を意識した作りが印象的。
作中の印象的な台詞やCGを表示するだけでなく、とても目で追いきれないような大量の文章やCGが一瞬で流れていく演出は非常に斬新ですね。

また、この作品ではENDムービーに入る前に、プレENDムービーのようなものが流れます。これが流れるとあと30分くらいで終わるという合図のようなものなので、最後まで一気にプレイしましょう。エロゲの終盤って止め時が難しいので、こういう構成はありがたい。

攻略

共通シナリオでいくつかの選択肢を経た後、個別ルートに入る直前で改めてフラグの立っている任意のルートを選ぶ、という構成になっています。シンプルな選択肢が多いので攻略難度はそんなに高くありません。多少わかり難い選択肢もありますが、”前の選択肢に戻る”機能もあるので間違えてもすぐ戻ることができます。また、スキップが非常に高速なので周回プレイも苦になりません。
総プレイ時間は20~25時間。昨今のシナリオゲーとしては短め。

推奨攻略順は、ギズモ→柚→式子→結衣→琴子。
正直どのキャラから やっても最初は「わけわからん」ことになると思いますが、式子と結衣シナリオはSF設定がふんだんに生かされているので後にしたほうが良いと思います。琴子ルートはいわばグランドENDにあたるので、他のキャラ全てのEDを見ないと入ることができません。

Hシーン

Hは1キャラあたり3~4回ずつ。シナリオゲーとしてはオーソドックスな行為が多いです。
ただキャラによっては連続して行為に望むこともあるので、時間的に長くなってちょっとダレてしまうこともあるかも。
またシーンの最中はいわゆる”地の文”が少なく、行為の多くがヒロインの台詞によって描写されるので、結果的にヒロインがよく喋ります。これを不自然とみるか、台詞が増えて良いと見るかは微妙なところですね。

胸の大きさは立ち絵ではそんなに大きくは見えないのですが、着痩せするタイプが多いのかHシーンではやや大きめ(ギズモ・結衣・柚)に描かれます。あと個人的には、せっかく黒タイツ履いてるキャラが2人もいるのに、”履いたまま”の行為が無かったのは残念でなりません。

感想

「もしかしたら自分が今見ているすべて物は全て精密なCGなのではないか?」
「自分が認識していない物は存在しないのと同じではないのか?」
みたいな疑問や妄想は誰しも若い頃一度は考えたことがあるかと思います。ネット上には「哲学的ゾンビ」や「世界5分前仮説」等の哲学的な思考実験を目にする ことも多いでしょうし、アニメやラノベの世界でも「観測者問題」や「多世界解釈」のような量子力学的なネタを扱ったSF作品もたくさんあります。そんな哲学的・量子力学的ネタ大好き人間が作ったのがこの『猫撫ディストーション』という作品。

正直言って全体的な完成度はそれほど高くありません。他の作品と比べるとボリュームも少ないですし、テーマのひとつである家族愛についてもやや表現が直接的で説教臭いところがあります。
SF設定に関しても結構何でもアリな感じなので綿密に組まれたとは言い難く、そもそも最後までプレイしても全ての謎が明かされるわけではありません。ぶっちゃけ、ライターさんが自分の文章に酔って突っ走りすぎだなぁと思うことも無くはないかも。あるルートでは手塚治虫の『火の鳥』のような壮大な展開になります し(笑

でも私は好きです、この作品。決して誰にでも薦められるという類のものではないですし、好き嫌いがはっきり分かれると思います。むしろこういう作品でも世に出すことができて、なおかつ一定の評価を得られるエロゲ業界の懐の深さを感じずにはいられません。アニメやラノベだったら多分企画段階で突っぱねられますよ(笑

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