突然ですがみなさん、同人ソフトのRPGってやったことありますか? 同人誌と同じく、アマチュアのサークルが作ったRPGです。
私はそういう世界があると知ってはいたんですが、正直なんとなく趣味に合わなくてこれまで敬遠していました。
商業エロゲ界隈だとRPGを製作しているブランドってエウシュリーやアリスソフトをはじめとして数えるほどしかないんですが、同人ソフトの世界ではちょっと検索しただけでも膨大な数がヒットするほどのメジャーなジャンルだったりします。
そのほとんどが「RPGツクール」を使って製作されていて、絵とお話が書ければ誰でも作ることができるので、割と参入障壁が低いんですよね。
今回紹介するのはそんな星の数ほどある同人RPGの中でもトップクラスの面白さと評判の作品。サークル<深爪貴族>の紅唯まと(あかいまと)さん制作による『King Exit』。
2016年の発表当初は正直そんなに知られていなかった作品なのですが、その完成度の高さとシナリオの面白さが口コミで評判になり、全世界で30万本を超える売り上げを記録したそうです。(ただ売り上げの多くは海外っぽいですが、それでも国内数万DLの大ヒット)
この作品はシリーズもので、実質的な続編である『Demons Roots』も発売されていますが、両方プレイするなら先に『King Exit』のほうからをプレイしてください。
主人公はかつて魔族との戦争で人類を勝利に導いた少女・ゲオルイース。戦争終結から3年後に身に覚えのない罪で脱出不能な巨大地下監獄に収監され絶望の淵に立たされたところ、ある少女に出会ったことで監獄からの脱出を目指す、という物語。
正直、商業作品と比べると解像度が低かったりキャラクターボイスがなかったりと同人ソフトらしさのある作品ですが、そのぶん値段も安く(2000円以下)気軽にプレイできると思うので、同人RPG入門としてもおすすめの作品です。
この作品並みのクオリティを他の同人ソフトに求めるのはさすがに酷じゃね?ってくらい面白さが抜きん出ています。
- 地下牢獄からの脱出を目指すダンジョンRPG
- 現在と3年前が同時進行するストーリーライン
- 王道的でありながら引き込まれるシナリオ

あらすじ
“英雄ゲオルイース”の戦いが人類を救った。
世界を地獄と化した魔族は全滅。
人類は平和な日々を取り戻したのだ。
あれから三年…。
“英雄ゲオルイース”は街も仲間も家族も失い。
大罪を償うため連行されていった…悪夢の”地下監獄”へと。
購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
King Exit(DL版) | Vista 7 8 10 | 2016.12.22 | - |
King Exit(パッケ版) | Vista 7 8 10 | 2017.8.11 | やや難 |
このゲームは同人作品なので、一般的なゲームショップでは売っていません。
2016年の12月にDSLiteとFANZA(旧DMM)でダウンロード販売が開始された後、2017年に記念的にDVDパッケージ版が全国の同人ショップ(とらのあな等)で販売(1700円)されました。
現在パッケージ版は中古ショップで3000円くらいのプレミア価格になっています。今後製作者の紅唯まとさんが有名になったらもっと高値になるかも?
今から買うなら当然ダウンロード版で。18禁版はDLSiteとFANZA、及びBOOTHで配信されています。
定価も安いですが、DLSiteとFANZAではたまにセールの対象になったりするのでさらに安く購入することが可能。
それとは別にSteamでエロ無しの全年齢版が配信されていて、定価が198円(セール時は100円以下)とかなり安いんですが、残念ながら日本語には対応していません。
システム
ゲーム自体は同人RPGご用達のRPGツクールVXAceで制作。インストールにあたりランタイム等を新たに導入する必要はなく、単体で動作します。(というかダウンロードデータにランタイムパッケージが同梱されています)
以下私は古いバージョンでプレイしていたので、最新バージョン(ver3.0.0)では状況が異なる場合があります。
解像度が明記されてませんがたぶん640×480の4:3サイズ。
同人ソフトだから仕方ないかもしれませんが、システム周りは商業ソフトと比べてかなり貧弱です。コンフィグ画面は音量調整とキーボード入力の変更くらいしか出来ないですし、オートモードや既読スキップのような機能もありません。フルスクリーン表示する際は一般のアプリと同様、[Alt]+[Enter]キーで行います。(一応F1キーで出るプロパティから起動時のフルスクリーンを選択することも可能)
インストール時は、”ダウンロードファイルを解凍したフォルダ”に直接インストールするようにしてください。(つまり、ダウンロードしたzipファイルの展開先をインストール予定のフォルダに解凍、その後同じフォルダにインストール)
私の環境だと別のフォルダにインストールしても上手く起動できませんでした。
ゲームシステムはキャラを上下左右に動かして監獄を探索していくダンジョンRPG。見た目は古きよきスーファミ時代のRPGですね。
残念ながらマウスによる操作はできず、キーボードかゲームパッドで操作することになります。キーボード操作はカーソルキーを使い、いわゆるWASDキーでの操作はできません。右手でキャラを動かすのって微妙に違和感がありますね。
敵との戦闘システムはランダムエンカウント&フロントビュー形式&コマンド選択型のターン制バトル。要するに昔のドラクエと同じですね。シンプルですがわかりやすい。
ただオート戦闘のような機能は無いので、雑魚キャラとの戦闘が地味にめんどいです。エンカウント率もやや高めですし。(Ver3.0.0にてエンカウント率軽減)
戦闘時や移動時は[shift]キー押しっぱなしで進行速度が速くなりますが、右のShiftキーを8秒以上押し続けると「フィルタキー機能」のダイアログ が出現してしまうので注意してください。フルスクリーン時にこれが出て対処を間違えると操作不能になることがあります。ていうか私がなりました。
Shiftキーを押すときは左側のキーを使いましょう。(Ver2.0.0でバトル早送り機能が追加)
シナリオ
シナリオ担当はサークルの主催者でもある紅唯まとさん。
物語は3年前に魔族との戦争に勝利し、英雄として人々の尊敬を集めていた主人公の少女ゲオルイースが何者かの陰謀により身に覚えのない罪を着せされ、巨大な 地下監獄の奥深くに収監。何もかもを奪われ失意のどん底にいたところ、同じ監獄に収監されていた少女スティアラと出逢ったことをきっかけに希望を見出し、 仲間とともに監獄からの脱出を目指す、というのが大まかなあらすじ。
シナリオは章別構成で全8章+α。戦闘敗北によるバッドエンド以外は特に分岐の無い一本道の構成になります。
展開としてはそれほど奇をてらったものではなく、割と王道的なお話ですね。
途中でSFチックな概念が出てきますが、あんまりストーリーには絡んできません。というかあの設定無くてもよかったような・・・。
この作品の特徴的なギミックとして、主人公の夢の中で3年前の魔族との戦争のシーンが平行して進行します。それも単なる回想シーンではなく、キャラを動かして戦闘をこなしたりと普通にRPGのシステムでプレイしていくという形になるので、プレイヤーとしては現在 と過去を同時進行で体験していくことになります。こういう構成は斬新で上手いですね。しかもこういう形にしたのもストーリー上ちゃんと意味がありますし。
グラフィック

グラフィックも紅唯まとさん。
CG観賞モードが無いのでイベント絵の枚数がわからないのですが、Hシーン以外でもたまにイベント絵が使われます。
絵柄は多少デフォルメした感じの良い意味で同人っぽい雰囲気のCGですね。商業作品と比べるとちょっと安っぽく感じてしまうかもしれませんが、「同人とはこういうもの」と思えばすぐ慣れると思います。むしろ同人ゲームの中ではクオリティは高いほうかと。
解像度(640×480)はかなり低いんですが、元々ややラフな絵なのでフルスクリーン表示してもそんなに違和感がありません。
テキストのフォントも解像度の割りに滑らか。
キャラクター

ゲオルイース
三年前の魔族との戦争で人類解放軍の総司令を務め、人類側を勝利に導いた英雄。
男っぽい名前ですが、れっきとした少女。おっぱいでかい。
3年前の戦争のときはちゃんと背がちょっと低く描かれます。
スティアラ
神父殺害の罪で投獄された盲目の少女。魔法を使えば周囲の状況を視ることが出来る。
戦闘時は主に回復役を担う僧侶枠のロリっ娘。
グイーネ
ゲオルイースより少し年上で幼馴染。
3年前の戦争の際はレジスタンスを率いて孤軍奮闘し、救世主と呼ばれる。
サミダレ
肉弾戦が得意な武国ヤマトの女王。
3年前の戦争でも活躍したが、現在は条約違反をしたとして他の王と同じく地下監獄に投獄。
この外にも男性キャラを含め、トータルで10人程度が仲間になります。
販売サイトのキャラ紹介では何故かキャラの名前が公開されてないんですが、特に何かの伏線やネタバレというわけでもないと思うので普通に名前で書かせてもらいました。
3年前のパートでは騎士・僧侶・法術士といった「いかにもRPGっぽい」キャラクターが多いですが、現代パートではカラの鎧・女王蜘蛛・異世界人といったバラエティに富んだキャラが登場します。この辺はプレイヤーにわかりやすく飽きさせない工夫が感じられますね。
ボイス
この作品にキャラボイスはありません。
BGM
BGMはこの作品のために作られたものではなく、フリーないし有料で公開されている音源を利用してるみたいです。製作者は元アリスソフトのShadeさん、煉獄小僧(煉獄庭園)さん、Mus Musさん。
音楽鑑賞モードが無いので曲名や曲数がわらかないのが残念ですが、インストールフォルダのBGMフォルダに1曲ずつoggファイルとして格納されているので、適切なソフトを使えば一応聴くことはできます。
個人的お気に入りは夢の中での通常戦闘曲。ノリノリで熱くなれる曲です。特に曲がループしたときのつなぎが良いですね。
そしてラスボス戦で流れる曲も激熱。最初聞いたとき「なんだかランスっぽい曲だなぁ」と思ったらやっぱりShadeさんの曲でした(笑
初期のバージョンでは別の曲だったらしいのですが、後でShadeさんの曲に差し替えられたみたいですね。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「Celluloid -Splash.Ver-」 | みるく | 煉獄小僧 | みるく | ED |
エンディングでボーカル曲が流れます。これもフリーの音源らしいですね。
曲名でググると初音ミクの曲がヒットしますが、これとは全く別っぽいみたい。この辺の業界よくわかんない・・・。
ムービー
起動直後に数秒のアバンムービーが流れますが、これクリアした後に見ると泣けてきますね・・・。
それとは別にPVも公開されてます。
公式の動画ではなく、有志の方が作った支援PVみたいですね。
攻略
基本的に一本道のシナリオなので、戦闘で負けない限り必ずエンディングにたどり着きます。(戦闘で負けてもやり直しが効くので何度も挑戦することが出来ます)
RPGとしての難易度はそんなに高くありません。エンカウント率がやや高めなので、普通にダンジョンを攻略していれば自然とレベルも上がっていくはずです。
キャラが戦闘中にやられても、戦闘後にHP1で復活するのでいちいち生き返らせる必要もなし。
ダンジョン中の回復ポイントは限られますが、キャラがレベルアップするとHPとMPが全快するので、MP残量を気にせず魔法を使いまくれます。
ただ途中でパーティーメンバーが抜けたり入れ替わったりすることが良くあるので、回復役がいなくなるとちょっと大変ですね。
1周にかかるプレイ時間は人によって変わると思いますが、普通にプレイしてだいたい15~20時間くらいでしょうか。製作者さんは18時間くらいで終わると想定しているそうです。
2週目以降は追加要素もあるのでやりこみプレイをすることも出来ますが、すべての実績を開放するのはかなり大変。
Hシーン

Hシーンはシナリオ中にあるものが32個、戦闘で敗北した後のバッドエンドの陵辱が10個。
内容は陵辱成分が多めで、中には結構ハードなものもあります。個人的にはちょっとキツすぎて使えませんでした。
尺は短めでCGの差分もあまり無いため、正直実用性はイマイチな感じ。
女の子同士のHもあるのでそっち方面ではやや使えるかも?
Hシーンは見ずにスキップすることも出来ますが、スキップしたとしても回想モードにはちゃんと登録されます。
感想

「同人RPGの中では最高のシナリオ」と絶賛されることも多いこの作品。
ぶっちゃけ私は同人RPG童貞だったので他の作品と比較することは出来ないのですが、実際プレイしてみると、なるほどこれは完成度の高い作品です。とてもアマチュアが作ったとは思えない。
シナリオ自体は王道といえば王道なんですが、決してありきたりではなく、予想外の展開や「この先どうなるんだ?」というワクワク感も味わえるので、ダレずに最後まで楽しむことが出来ました。
内容的に鬱な展開も多いので、クリアしても手放しに喜ぶことは出来ないのですが、そのちょっとした後味の悪さもこの作品の良い意味での特徴だと思います。なんというかガンダムとかイデオンを見た後みたいな。
同人界隈ではかなり有名な作品みたいですが、一般のオタク界隈ではまだそこまで知名度が高くない(ErogameScapeでのデータ数は2022年6月現在72件)と思うので、もうちょっと広まっても良いんじゃないかなとは思います。
今回レビューサイトもいくつかまわりましたが、多くが同人ゲームをメインにやられているサイトさんで、商業エロゲをメインにやられているサイトさんでこの作品をプレイしている方って数えるほどしかいないんですよね。
商業エロゲーしかプレイしないごく普通の一般人(正に以前の私)からすると、なかなか同人RPGは興味のアンテナに引っかからないかもしれませんが、意識して視野を広げていないとこういう名作を見落としてしまうんだな~ということをつくづく感じました。
「エロゲーはプレイするけど同人RPGはちょっと・・・」という方にこそ是非プレイして欲しい作品です。
もちろん続編である『Demons Roots』も一緒にね!