美少女ゲームブランドKeyは『AIR』や『CLANNAD』、『リトルバスターズ』等のいわゆる”泣きゲー”を数多く作ってきた人気ブランドですが、今ではもう完全に全年齢向け作品にシフトしているメーカー。
しかも最近はフルプライス作品だけでなく、手を出しやすいロープライス作品も手掛けていて、他の美少女ゲームブランドとは一線を画しています。
今回紹介するのはそんなKeyが放つ低価格全年齢向け作品『終(つい)のステラ』。
”キネティックノベル”と呼ばれる、選択肢のない一本道シナリオが特徴の作品です。
物語はAIを搭載した”シンギュラリティマシン”と呼ばれる大型機械に地上の多くを支配され、衰退していく人類が息をひそめて暮らしている未来の地球が舞台。
荷物や情報を運んで売買する”運び屋”の青年ジュードがある人物の依頼を受けて、少女型のアンドロイド・フィリアを目的の場所まで連れていくために旅に出るところから始まります。
シナリオライターには『CROSS†CHANNEL』や『最果てのイマ』等で00年代から活躍しているベテランライターの田中ロミオさんを起用。もうこの時点でクオリティは約束されたようなもの。
同じキネティックノベルシリーズである『planetarian』や『Harmonia』とストーリーの繋がりはないので、この作品から始めても問題ありません。
ロミオ好きの方はもちろん、SF好き、アンドロイド好き、終末世界好きの方にはお勧めの作品です。
ロープライス作品なので、時間をかけずに気楽に読めるのも良いですね。
- 人類が滅亡しつつある退廃的な世界観
- アンドロイドヒロイン・フィリアの健気さ
- 短くも奥深い、感動的なシナリオ

| ブランド | Key |
| ジャンル | キネティックノベル |
| 初回発売日 | 2022.9.30 |
| DL版価格 | 1,980円 |
| シナリオ | 田中ロミオ |
| 原画 | SWAV |
| おすすめ度 | 85 |
| シナリオ傾向 |
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あらすじ
地球が、すでに人類の世界ではなくなってから久しい。
世界はシンギュラリティを起こした機械群に支配され、人々はその片隅で、息を潜めて生き長らえていた。
運び屋“ジュード”の元に、依頼が舞い込む。
それはシンギュラリティ機械群の影響を受けない、少女型アンドロイド“フィリア”を輸送して欲しいというものだった。
世間知らずなフィリアの行動に嫌気がさしながらも、ジュードは旅を始める。
時には略奪を繰り返す人間から逃げ、時には機械群が闊歩する危険地帯を通り抜け、輸送依頼を果たそうとする。
フィリアは何度も人間になりたいと口にする。
遥か空の先に辿り着けば、アンドロイドは人間になれると言うのだが……?
購入ガイド
| タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
|---|---|---|---|
| 終のステラ 初回限定版 | 8 10 11 | 2022.9.30 | 並 |
| 終のステラ 豪華限定版 | 8 10 11 | 2022.9.30 | やや難 |
| 終のステラ 通常版 | 8 10 11 | 2022.10.28 | 易 |
パッケージは初回版と豪華限定版、通常版の3つ。
初回版にはサントラボーカルCDとアートBOOK、豪華限定版にはそれに加えてB2タペストリーと書き下ろし小説、オリジナルカラビナ、特製ステッカー、スペシャルカードが付属します。豪華限定版はプレミア化しているので今となってはやや入手困難です。
今から買うならダウンロード版を推奨。税込定価1980円なので通常版(定価2420円)よりちょっと安いです。クーポン等を利用すればもっと安くなります。
DMMでは全年齢サイトとアダルトサイトの両方で配信されていますが、内容に違いはありません。
サントラの現物は単品販売されていないので初回盤・豪華版でしか手に入りませんが、各種配信サイトでDL販売&サブスク化しています。
システム
システムは画面全体にテキストが表示されるノベルタイプ。
物語中には選択肢も出てこない上に、テキストのフォントも明朝体なので、本当に声付きのデジタルノベルという感じです。
画面サイズは1920×1080のフルHD。ディスプレイがフルHDに対応していなくても問題なくプレイできます。
初回起動時はタイトル画面を経ずに直で物語が開始するので注意してください。
本編中のUIは右下にオートモードボタンとメニューボタンの2つしかないシンプルなつくり。セーブやロードを行うメニュー画面は未来的なデザインで雰囲気が出ていますね。
セーブファイルは100個くらい用意されてますが、さすがにそこまで使うことは無いかと。
物語は1日ごとの章別構成になっていて、一度読んだ章はクリア前でもタイトル画面からいつでも振り返ることができます。
シナリオ

シナリオライターはもうすっかりベテランになった田中ロミオさん。
ロミオさんといえばシュールなギャグシーンで笑わせにくる作品が多かったと思うんですが、今回の作品はシリアス一辺倒。ギャグシーンはもちろん恋愛シーンすらない真面目な作風です。
■『終のステラ』スペシャルインタビュー シナリオ・田中ロミオ (visualstyle)
物語の舞台となる世界は、シンギュラリティ機械群と呼ばれる暴走した大型のマシンに人類が殺戮され、生き残った者がマシンに見つからないようにひっそりと暮らしているという未来の地球。
文明は崩壊し、技術の進化も止まっているため、かつて作られたコンピュータ端末等の機械を都市の残骸から発掘し街まで運んで生計を立てている”運び屋”をしているのが主人公のジュード。
ジュードがある老人から破格の報酬で依頼を受け、生まれたばかりのアンドロイド・フィリアを老人の元まで届けるために危険な旅をしていく、というのが大まかなストーリー。
テキストの特徴としてはキャラ同士の会話のシーンにおいて地の文がほとんどないことが挙げられます。
この種のノベルタイプの作品だと
「〇〇………〇〇」と誰々は言った。
みたいに小説のような書き方をすることも多いんですが、この作品では通常のAVGのように基本的に台詞のみで会話が進みます。
始めはちょっと違和感があったんですが、地の文がなくても文体やキャラボイスでちゃんと誰の台詞かわかるため戸惑うことはありません。むしろこっちのほうがテンポよく読み進めることができますね。
グラフィック

CG枚数は主にキャラの描かれたイベントグラフィックが21枚、人物や道具等をアップにした演出用グラフィックが76枚、背景グラフィック80枚。
原画家はSWAVさん。
主にネットで作品を発表されていて、国外での評価も高く、つい最近個展も開催された新進気鋭のイラストレーターさんです。
■リッチな画作りで生み出す「シネマティックなイラスト」とは? イラストレーターSWAVインタビュー (pixivision)
背景を含め非常に美麗かつ繊細なイラストで思わず見入ってしまいます。素人目にもメチャメチャ手間と時間がかかっているだろうことが想像できるくらい本当に美しい。
あまり萌え萌えっとした絵柄でもないため、いい意味で美少女ゲームっぽくないですね。
彩色も原色系の色が少なく、落ち着いた淡い色の多いイラストです。
本作は全年齢版なのでもちろんHシーンはないのですが、ヒロインの肌の露出は控えめで体のラインもあまり出ないため、エロティックさはほとんど感じません。逆にこれが作風に凄くあってます。
この作品に限ったことではないですが、SWAVさんのイラストって単にキャラクターを可愛く描くだけでなく、背景を含めた絵全体から物語性が感じられるんですよね。
「こんなこと喋ってそう」とか「こういう設定がありそう」とか「この後こうなりそう」みたいな感じで、見てるだけでいろいろ想像力が掻き立てられるイラストです。
キャラクター

フィリア
生成槽から生まれたばかりの少女型アンドロイド。
性格は純真で好奇心旺盛。最初の望みは「人間になること」。
ジュード・グレイ
崩壊していく世界で”運び屋”をしている青年。
機械に対する深い知識と技術で仕事をこなす現実主義者。
この他にジュードに仕事を依頼した老人・ウィレムと、ジュード達が旅の途中で出会う少女型アンドロイド・デリラが主なキャラクター。
これ以外にもモブ的なキャラは出てきますが、ストーリーに絡んでくるのはこの主にこの4人。
短いシナリオだということを踏まえてもかなり少ないですね。
ボイス
| 指出毬亜(フィリア) | 花守ゆみり |
| 木村良平(ジュード) | 郷田ほづみ |
主人公を含め全キャラフルボイス。
ヒロインのフィリアを演じるのは指出毬亜さん。ラブライブの「ニジガク」でエマ役をやられていた方ですね。
フィリアは心を持ち始めたアンドロイドという難しい役どころだと思いますが、感情的にはなるけどちょっと機械っぽさも残るという感じが上手く出ていると思います。声優さん凄い。
主人公のジュード役は『銀の匙』の八軒や『はがない』の小鷹等で有名な木村良平さん。意識的に低い声にしてどっしりとした印象を感じる演技です。
BGM
作中BGMは27曲。作曲はICEさんがメインでそのほかに大橋柊平さん。ICEさんというのは香港の人らしいんですが、Keyもよく見つけてきましたね。
全体的に落ち着いていて、物語の雰囲気に合った良い意味で真面目な曲が多い感じです。
個人的お気に入りは非常に落ち着いた日常曲「White Flower」。これはED曲「Ortus」のoffボーカルアレンジになります。
主題歌
| タイトル | 作詞・作曲 | 編曲 | 歌 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 「breath of stella」 | 針原翼 | 棚橋EDDYテルアキ | 相宮零 | OP |
| 「終の祈り」 | rinos | rinos | rinos | 挿入歌 |
| 「Ortus」 | 針原翼 | 棚橋EDDYテルアキ | 相宮零 | ED |
OP曲はKeyにしてはかなりアグレッシブな曲調です。力強いサビの部分が耳に残ります。
歌っている相宮零(あいみや ぜろ)さんはニコニコ動画等で活動している歌い手さん。
プロの歌手にも引けを取らないほど力強い歌声です。
挿入歌「終の祈り」は優しい曲調とrionosさんのウィスパーボイスで癒される、ある意味Keyらしい曲。
ED曲「Ortus」はこれまでの旅を振り返り新たな一歩を踏み出すような、これもKeyらしい曲です。非常に前向きになれる曲なので物語の読後感の良さに一役買っています。
EDと挿入歌はSOUNDモードでフルバージョンを聴くことができます。
ムービー
短めのプロローグの後、OPが流れます。
作中のイベント絵を加工して動きを付けた作りで、作中の燃え所を集めた熱いムービーです。
結構終盤のCGも使われるので、最初はあんまりじっくりと見ないほうがいいかも。
攻略
選択肢のない一本道のシナリオなので攻略要素はありません。
一度のプレイですべてのCGを見ることができます。
総プレイ時間はゆっくりやっても10時間程度。人によっては1日くらいで読めてしまうかも。
感想

短いながらも重厚な物語で、ロープライス作品としては非常に満足度の高い作品でした。
Keyのキネティックノベルでいうと、第1作の『planetarian ~ちいさなほしのゆめ~』が崩壊後の世界とアンドロイドヒロインという同じような設定の作品でしたが、コンセプトはだいぶ違う感じですね。
過去の田中ロミオ作品ともまた違った作風です。
今作のテーマはアンドロイドであるフィリアの成長。
生まれた直後からあんまりアンドロイドっぽくないというか、人間味のある反応を示すフィリアですが、精神的にはまだ子供といっていいほど幼い少女。そんなフィリアがジュードと旅をしていくことにより少しずつ成長していく様を見ていくのは、まるで父親になったような気分になります。
Keyの過去作である『CLANNAD』や『AIR』のようないかにも美少女ゲーム然とした作品と比べるとだいぶ毛色の違う作風ですが、物語後半はKeyらしく感動的な展開が待っています。
なんだかんだで作品の根底にあるテーマみたいなものは過去作と似通っているところもありそうな気がしますし。
商業的に見るとメインのスタッフはほとんど外注で作られているので、Keyとしても新たなステージに挑戦していくという気概も感じられます。
この作品は基本的に恋愛描写がないので美少女ゲームと言っていいのかどうか微妙なところですが、親子のようなジュードとフィリアの関係を見ていると、ある程度の(自分のような)年齢を重ねたおっさんのほうが感情移入しやすいかもしれません。
自分も普通ならフィリアのような娘がいる歳なんだなあ、とか考えるとちょっと鬱になってきますが…。
美少女ゲームとして、というより物語として非常に完成度の高い作品だと思うので、ちょっと感動したい人や人生に疲れてしまった人におすすめ。
昨今の美少女ゲームと比べるとかなり短い作品ですが、それはネガティブなものではなく、むしろこの短さだからこそ濃密で感動的な物語となっています。これで1980円は安い。


