老舗ブランド・エルフのスタッフが(泥舟から脱出して)新たに立ち上げたブランド・シルキーズプラス(製作チーム:WASABI)の記念すべき第1作『なないろリンカネーション』。略称は「ななりん」。(ちなみに最初の”な”にアクセントを置くのがオフィシャルの読み方みたいです)
ブランド処女作ではありますが、経験豊富なスタッフが制作していることもあって完成度の高い作品となっています。萌えゲーアワード2014準大賞受賞も納得の出来。
またこの作品は「泣けるゲーム」としても有名で、終盤の展開は号泣必至。ハンカチを用意してプレイしてください。
物語は特別な力を持つ主人公が彼に付き従う”鬼”の少女たちと共に、街を彷徨う幽霊を見つけ出して成仏させるという”お役目”をこなしていくうちにある重大な事件を追うことになるという、オカルト&サスペンスチックなアドベンチャー。
作中ではややショッキングなシーンもあるので苦手な方は注意しておいてください。(グロいというほどでもないですが)
幽霊、つまりもうすでに死んでしまった人を扱う関係上、命に関わるシリアスなテーマがメインです。
ただこの作品はそれだけではなく、加賀美家の鬼達とのコミカルで温かみのあるドタバタ劇や、犯人を追い詰めていく緊迫したシーン、多くのプレイヤー が驚愕した意外すぎる事件の真相、メインヒロインである琴莉を中心とした恋の行方など、様々な要素が詰まった物語と言えます。
昨今のシナリオゲーとしてはやや短めの作品ではありますが、そのぶんコンパクトでテンポのよい物語が展開されるので、エロゲーの魅力や面白さを濃縮した作品として初心者さんにもおすすめの一本です。
Hシーンも結構たくさんあるしね(笑
- オカルト色の強いサスペンスストーリー
- 序盤から巧妙に張り巡らされた伏線
- 笑いあり涙ありのメリハリを利かせたシナリオ
ブランド | シルキーズプラス WASABI |
ジャンル | 涙あり笑いありの ホームコメディADV |
初回発売日 | 2014.9.26 |
DL版価格 | 7,537円 |
シナリオ | かずきふみ |
原画 | すめらぎ琥珀 |
おすすめ度 | 85 |
シナリオ傾向 |
あらすじ
大学三年生の夏。
公式サイトより
加賀見真は亡くなった祖父から譲り受けた家に移り住み、かねてからの念願だった一人 暮らしを始める――はずだった。
祖父の家にやってきた真を出迎えたのは、座敷わらしの少女と自らを鬼と称する女性。
彼女らは鏡に映らず、自分以外の人間の目に映らない不可思議な存在だった。
真は知る。 自身が “霊視” という特別な力を持つことと、祖父から受け継いだのは土地と家だけではなかったことを。
鬼を従え、町に彷徨う霊魂を現世から解き放ち、常世へと送ること。
それが代々受け継がれ、祖父から託された加賀見家の “お役目” であった。
あまりに突然すぎて理解が追いつかない真であったが、実際にお役目を果たしていくことで、少しずつ加賀見家当主としての自覚が芽生えていく。
そしてこの小さな町の平和を揺るがす、とある事件に巻き込まれていくのであった。
購入ガイド
タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
---|---|---|---|
なないろリンカネーション | XP VISTA 7 8 | 2014.9.26 | 易 |
なないろリンカネーション | Vita | 2015.9.17 | 易 |
なないろリンカネーション&あけいろ怪奇譚 マルチパック | XP Vista 7 8 10 | 2016.12.2 | やや難 |
シルキーズプラス5周年記念豪華BOX | 7 8 10 | 2018.7.27 | やや難 |
パッケージ版は基本的に1種類のみ。初回特典として主題歌CDが付属します。初回版はすでにロットアップしていて通常版の類も出ていないので、新品で購入するのは難しいかと。ただ中古ショップではちょくちょく見かけますし、値段もお手頃です。
CS版はVITA版のみ。定価はこっちのほうが安いと思います。ただこの作品はHシーンが結構シナリオに絡んでくるので、移植の際は一部の設定が改変されたみたいです。というよりよくCSで発売できたなという感じ。
「~マルチパック」はシルキーズプラスの次回作「あけいろ怪奇譚」とセットになったもの。特典としてドラマCDが付属します。流通量が少ないためなかなか手に入らないかも。
「5周年記念豪華BOX」はシルキーズプラス5作品をセットにしたもの。ビジュアルブックと主題歌やBGM全てを収録した音楽CDが付属します。
パッケージ版が手に入らなければダウンロード版を推奨。たま~に半額セールやまとめ買いの対象になることがあります。特にまとめ買いは1本当たり2000円くらいで買えるので、かなりお得ですね。
システム
画面下に文章が表示されるオーソドックスなAVGです。
必要最低限の機能はありますが、テキスト履歴はセーブ時に保存されません。また過去のシーンや前の選択肢に戻る機能も無いので、2014年のソフトにしてはかゆい所に手が届かないシステムです。キーボード操作もほとんど出来ないので、キーボード派の人にとっては使いづらいUIですね。
オートモードやスキップモードのボタンがメッセージウインドウの右端に集約されていますが、これもちょっと使いにくいです。というのもオートモードを解除するときはもう一度ボタンを押さないといけない上に、ボタンを押したときもクリックしたとカウントされるため、テキストが1つ進んでしまいます。普通に右クリックで解除できないんですよね。
またスキップのボタンは、既読スキップと強制スキップの2つが並んで配置されているので間違えないようにしてください。ていうか強制スキップのボタンっている?
操作面ではちょっと使いづらいですが機能面では悪くなくて、既読スキップモードのときは未読の文章になってもスキップモード自体は継続しますし、オートモードとの併用も可能です。つまり既読スキップして未読の文章になると自動でオートモードが再開し、再び既読の文章になると自動でスキップが再開します。2周目以降は2~3行だけ未読の文章が出てきたりすることがよくあるので、これは結構便利な仕様です。
また通常のスキップ以外に既読の文章や選択肢、及び1日の初めまで一瞬でジャンプするシーンスキップ的なボタンもあります。スキップした後でも飛ばしたテキスト履歴も見ることができるので非常に便利な機能です。
シナリオ
企画及びシナリオライターはフリーの”かずきふみ”さん。
コミカルな日常シーンと緊迫したお役目のシーン、命にまつわるシリアスなシーンが混在する非常にメリハリのついたシナリオです。
テキストも癖が無くて読みやすく、ギャクシーンも変なネットスラングやオタクネタはほとんど出てこないので、万人受けする文章だと思います。
主人公の加賀見真は霊を見ることができる霊視の力を持ち、特別な力を持つ鬼を生み出し使役して街にいる霊を成仏させる”お役目”を祖父から引き継いだ、という設定。霊や鬼の姿は一般人には基本的に見ることができず、主人公の両親も鬼の存在だけでなくお役目のことも知りません。
ただ警察署内の窓際部署である十三課だけは霊の存在を認知していて、霊が原因で起きたと思われる事件の調査を加賀見家に依頼して解決を図っている、という世界観です。
全体の構成としては共通ルートに比べて個別ルートが短め。共通ルートで大きな事件を解決して個別ルートで最後の後始末をする、という感じなので、一般的なエロゲのように個別ルートでヒロインの悩みを解決する的な展開はありません。初回プレイ時はいつ個別ルートに分岐したのかちょっとわかりにくいかも。
グラフィック
原画はすめらぎ琥珀さん。イベント絵は全部で80枚、そのうちHシーンのCGは35枚。シナリオの短さの割りに枚数はそこそこあります。
ポップな表情とは裏腹に肉感的な体の描き方が特徴です。キャラの顔もしっかり描き分けられていて、良い意味で1人で描いているとは思えません。
キャラデザインは琴莉や由美のような人間キャラは普通っぽく、葵やアイリスのような鬼のキャラはカラフルな髪や派手な髪飾りで萌えキャラっぽくして区別しているような感じです。
キャラクター
滝川琴莉
お役目を引き継いだばかりの主人公が偶然出会うことになる少女。
ごく普通の少女でありながら霊や鬼の姿を見ることができ、隠れている霊も感知することが出来る。
攻略ヒロインの中では唯一パッケージに描かれている実質的メインヒロイン。
土方由美
主人公と同じ大学に通う同級生。巨乳。
主人公とは昔からの知り合いだが、霊や鬼の姿は一切見ることができない。
立場的にエロゲーではあまり見ない立ち位置のヒロインです。
伏見梓
十三課に配属された新人刑事。多少霊感があり、加賀見の家の中でなら鬼の姿を見ることができる。
個別ルートでの主人公との関係はセフレのようなドライなつながり。
シナリオゲーでこういう関係は珍しいですね。
伊予
長年にわたり加賀見家に住み着いている座敷わらし。普段は自室にこもってゲームばかりするネトゲ廃人。
実質的に加賀美家のまとめ役で、見た目は幼女ながら年寄り臭い言葉遣いの、いわゆる”のじゃロリ”。
桔梗
先代の加賀見家当主に使えていた鬼。和服美人で巨乳。
葵
桔梗との”儀式”により真に仕えるために生まれてきた最初の鬼。猫耳。
常にハイテンションでわがままな性格ですが、加賀美家のムードメーカーでもあります。
扶養
真に仕えるために生まれてきた2番目の鬼。見た目は桔梗と瓜二つ。
加賀美家の家事全般をこなし、一般人にも姿が見えることためご近所での情報収集も担当。
アイリス
真に仕えるために生まれてきた3番目の鬼。西洋人形のようなロリっ子。
人前で話すのは苦手なためテレパシーで会話を行う。
加賀見真
本作主人公。霊視の力を持つ大学三年生。
祖父の家で1人暮らしをする予定だったが、そこで伊予と桔梗に出会い、加賀見家八代目当主となる。
他にもキャラは出てきますが、メインとなるキャラはこの9人。攻略対象なのは琴莉と由美、梓、伊予の4人。他の4人の鬼たちともHシーンがあります。
母親のような桔梗と芙蓉、真をからかいつつもどっしりと家を支える伊予、思ったことはすぐ口にするお調子者の葵、引っ込み思案な末っ子アイリス、そこへ妹のような琴莉が加わることによりアットホームな加賀見家を形成します。この家族の雰囲気が実に良いんですよね。往年の名作『家族計画』を彷彿とさせます。
ボイス
秋野花/あさみほとり(琴莉) | 星咲イリア/咲乃藍里(由美) | かわしまりの/瑞澤渓(梓) |
真宮ゆず/柏木美優(伊予) | 御苑生メイ/小山さほみ(桔梗・芙蓉) | 桜川未央/小林眞紀(葵) |
藤咲ウサ/桜咲千依(アイリス) |
主人公以外フルボイス。
キャスト陣が非常に強力です。メイン及びサブキャラ担当声優全員が、発売時点で考えても数多くの作品に出演しているキャリア5年以上の実力者たち。正に一分の隙もありません。
しまりのさん・御苑生さん・桜川さんに至っては00年代前半から活躍されている10年戦士。
特に葵役の桜川さんの演技が素晴らしい。喜怒哀楽を隠さず表に出す葵というキャラにあわせるように、台詞を字面通り読まずにちょっとずつアレンジしてるんですよね。例えば不満を表すときの「え~~~っ」という台詞も、「ンえ~~~っ」というように最初に「ン」を入れることによって本当に不満タラタラな雰囲気が伝わってきます。これぞベテランの技。葵は加賀美家のムードメーカー的な立ち位置なので、声優さんもノリノリで演技しているように感じます。
BGM
BGM作曲は未来さんとCroissant(クロワッサン)さん。曲数は主題歌のインストVerも含めて32曲。曲の切れ目は無く、エンドレスに曲がループします。
のんびりした日常曲から緊迫した場面の曲までまんべんなく揃っています。どちらかというと日常曲が多めでしょうか。奇抜な曲は少なく、背景音楽に徹した曲が多いような感じ。
個人的お気に入りは悲しい場面で流れる「傷心」。曲を聴くだけで様々な場面が思い出されます。
日常曲では「silent night」がいいですね。印象に残る曲というわけではないんですが、心身ともにリラックスできる環境音楽のような感じです。読書中にエンドレスで流したい。
主題歌
タイトル | 作詞 | 作曲 | 歌 | 備考 |
---|---|---|---|---|
「リンカネーション」 | ブラックミストアイランド | Croissant(クロワッサン) | ムーサン・ベリー | OP |
「Your ray send me」 | ブラックミストアイランド | Croissant(クロワッサン) | ムーサン・ベリー | ED |
OPテーマ「リンカネーション」は初めはそこまで思い入れは無かったんですが、繰り返し聴いてると良さがわかってくるスルメのような名曲。歌詞も物語の内容に非常にマッチしていて、一度クリアしてから改めて聴くとより味わい深くなりますね。
OPムービーで流れるのはいわゆる大サビにあたる曲の一番最後の部分で、それとは別に1番にあたるショートバージョンも収録されています。
OPテーマはゆったりとした包み込むような優しさを感じる曲調で、どちらかというとEDテーマっぽい感じなのですが、「Your ray send me」のほうもこれはこれでEDテーマにふさわしい曲です。歌詞の内容はまんま琴莉エンドを踏まえたものですし。
歌っているムーサン・ベリーという方は、エロゲではこの作品と次回作の『あけいろ怪奇譚』でしか歌われていないんですよね。素晴らしい歌声なのにもったいない。
曲のフルバージョンはパッケージ版の初回特典である主題歌CDと別売りのサントラに収録されています。DL版の人はサントラを買いましょう。サントラの配信版は1曲ずつ購入することも出来るので、主題歌だけ購入することも可能です。
ムービー
立ち絵やイベント絵を使ってキャラ紹介をしていくオーソドックスな構成ですが、作品の雰囲気が良く出ていて完成度の高いムービーです。(Vita版もキャストクレジット以外は同じ構成)
ムービー鑑賞はCGモードの最後のページにEDムービーと並んで登録されているので、一度見ればいつでも見返すことができます。
攻略
本編中盤くらいまでに現れる十数回ほどの選択肢によりシナリオが分岐します。選択肢は基本的に特定のヒロインに対して何かをするかしないかの二択で、「2人のうちからどちらかを選ぶ」みたいな排他的な選択肢はありません。なんとなく好感度が上がるっぽい選択肢を選べば問題なく狙ったルートに入れると思いますが、念のため狙っていないヒロインの選択肢はネガティブな選択肢をいくつか選んでおけば確実です。
総プレイ時間はゆっくりやって20~25時間くらい。早い人は15時間くらいで終わらせちゃうみたいです。
普通に全てのエンディングを見ればCG及びシーン回想をフルコンプできます。
エンディングは全部で5つ。
推奨攻略順は琴莉1→琴莉2→伊予→梓→由美。とりあえず琴莉は最初にプレイしましょう。
琴莉ルートは最後の選択肢で2つのENDに分岐しますが、最初は琴莉エンド1(リンカネーション)のほうが良いと思います。ただこのENDに分岐する選択肢は内容的にちょっと選び辛いんですよね。最後の選択肢は涙をこらえて「そうかもしれない」を選んでください。
由美と梓は最後にしたほうが良いと思いますが、どちらをラストにするかは人によって意見が分かれます。まぁぶっちゃけどっちでもそんなに変わらないですが、私が強いて薦めるなら由美をラストにしたほうがいいかなと。
Hシーン
シーン回想に登録されるHシーンは23個。そのうち9回は共通ルートで行う鬼たちのとHです。
シナリオゲーにしては数が多めで、OPムービー前の早い段階からHシーンがあります。
行為自体は比較的オーソドックスなもの。尺は長くもなく短くもなくといったちょうど良い感じで、だいだい2回戦か3回戦くらいまで。また一部のHシーンは避妊具を使います。
人間ヒロインとのHは始めは初々しさのあるものですが、回を重ねるうちに慣れてきて卑語も言うようになります。伏字・ピー音等による卑語修正はありません。
胸はアイリスと葵以外は比較的大きめ。原画のすめらぎさんは肉感的な絵を描かれる方で、胸やお尻のムチムチっとした肉付きがそそります。
総評
中盤まではコミカルなシーンで大笑いし、終盤にかけてだんだん緊迫したシーンが多くなり、最後は悲しいシーンでボロボロと涙を流すという、文字通り”笑って泣ける”を地で行く作品です。
00年代はこういう作風のエロゲが結構多かったのですが(『AIR』しかり『家族計画』しかり)、10年代に入ってからはこういう”泣きゲー”は少なくなってきたように思えます。
共通ルート終盤で判明する事件の真相については、各種感想サイトを見てみると序盤で気付く人と終盤まで気付かない人に分かれてるようですね。ぶっちゃけ私は (自慢するわけじゃないですが)結構早い段階で気付くというか、多分そうなんだろうな~と予想はつきました。仕掛けとしては映画や小説等でよくあるっちゃあるネタですし。
もちろん物語的には気付かないほうが純粋に楽しめると思います。ただ気付いちゃった人でも序盤から伏線が張られていて誰も嘘をついていないことを確認しながら物語を読むことが出来るため、これはこれで楽しめました。
中には”気付いちゃった人用”のミスリードと思しき要素もあったりするので、ライターさんとしてもある程度気付かれることは織り込み済みだったかもしれません。
そもそもこの作品においてミステリー要素はそれほど重要ではなく、メインテーマは命、というより人生にまつわる物語。殺人事件の被害者となってしまった霊をどう成仏させるのかが5つの個別ルートそれぞれ違うので、人によってどれが最良のエンディングなのかは違ってくるかもしれません。個人的には琴莉ルートと梓ルートはメチャメチャ泣けましたが、ベストは梓かな~と。何気に三角関係の要素もあるんですよね。
ボリュームこそ少ないですが、恋愛要素とサスペンス要素、コミカルな要素とアダルトな要素、アットホームな要素とスリリングな要素、こういった様々な要素ががギュッと詰まった物語なので、非常に濃密な体験の出来る作品でした。