2020年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』(ライアーソフト 2022年)

「メイデン」という言葉にどんなイメージを感じますか?
東海地方の民には高校球児が浮かんでしまうかもしれませんが、英単語のmaidenは「乙女」や「処女」という意味があります。オタクにとっては麻生元総理も読んでたと言われるPEACH-PITの漫画『ローゼンメイデン』が有名ですね。でも言葉の響きがなんとなく怖そうなのは中世の拷問器具「アイアンメイデン」の影響でしょうか。

今回紹介する作品はライアーソフト制作の『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』。
萌えゲーアワード2022シナリオ賞を受賞したホラーテイストのシナリオゲーです。

物語は外界から隔絶された学園「プエラリウム」が舞台。主人公の少女とクラスメイト達がとある技術を学びながら、学園――ひいては世界の秘密を解き明かしていく謎めいたストーリーです。
登場人物も恋愛対象も全て女の子という、いわゆる「百合もの」の作品でもあります。

特徴的なのは大石竜子さんによる原画。
非情に繊細かつ幻想的なイラストで、一般的なエロゲーとは一線を画す画風です。
しかもこの絵柄が作品の世界観とバッチリ合っているんですよね。

そしてシナリオライター海原望さんによる練り込まれた世界観とストーリー。
最初こそ『マリみて』のような耽美的な雰囲気で進みますが、次第に様々な謎や秘密が提示され、プレイヤーを物語の世界に引き込んでいきます。

海原さんと大石さんのコンビはライアーソフトの『フェアリーテイル』シリーズやANIPLEX.EXEの『徒花異譚』でもおなじみ。
ストーリーや世界観こそ違いますが、どこか共通する雰囲気を持っているので、これらの作品が好きな人にはお勧めの作品です。

女の子同士の愛情と共に世界の秘密が解き明かされていく感動をぜひ堪能してください。

  • 文章やイラストから感じる厳粛な雰囲気
  • 閉じられた学園内における女の子同士の秘めたる恋
  • 物語が進むにつれて明らかになる学園の秘密
ブランドライアーソフト
ジャンル百合ミスティックホラーADV
初回発売日2022.2.25
DL版価格7,945円~
シナリオ海原望
原画大石竜子
おすすめ度80
シナリオ傾向

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~8 102022.2.25
エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~PS4 Switch2023.4.27

PCパッケージ版は1種類のみ。特典の類は特にありません。
流通量がそんなに多くないのでショップで見かけることは少ないのですが、Amazon等での通販では継続販売されています。
税抜き定価7800円というフルプライスとしては安いけどミドルプライスとしては高い微妙な値段設定。ボリュームを考えるとちょっと高いかな…。

CS版はHシーンが削除された代わりに書き下ろしシナリオが新規CG付きで追加。PC版のファンクラブ通販限定で配布されたアペンドシナリオも収録されています。
限定生産盤にはアクリルスタンドとマイクロファイバークロスが付属。
エンターグラムの移植作品は2025年にDL版が軒並み配信終了になってしまいましたが、幸いこの作品は販売がiMelに移行して今でも継続販売されています。

今から買うならダウンロード版を推奨。
DL版はプラス500円くらいでボイスドラマ特典付きを買うことができます。
PC版CS版両方とも定期的にセール対象になっているので、セール時なら半額以下で買えますね。

システム

画面下にテキストが表示される通常のADVシステムです。画面サイズは1280×720。

普通にゲームを進めるうえでは問題ないのですが、右クリックでウインドウが消えなかったり、ボタンの意味がわかりにくかったりと微妙に直感的でないシステムです。「次の選択肢まで進む」ボタンと「スキップ」のボタンって普通逆じゃないかな…。
タイトル画面から操作説明が見られるので、プレイ前に見ておいたほうがいいかもしれません。

またテキスト履歴は全画面ではなくウインドウ上に一文ずつ表示されます。
昔はこういう仕様も多かったのですが、今となっては使いづらいですね。

オートモードのウエイト時間は文章の長さに関わらず一定。
解除するときは左クリックしなければならないので、止めた後に一つテキストが進んでしまいます。これ微妙にもどかしい。

ちなみに公式サイトにはクリア後に読める追加シナリオ「悪夢と救済」を収録したパッチファイルが配布されています。ダウンロード版も手動で追加する必要があるので、あらかじめ導入しておきましょう。

シナリオ

シナリオライターはライアーソフトの海原うみはらのぞむさん。
小説のような文体で場面ごとの情景が詳細に描かれます。
文体はだいたいこういう感じ↓

©ライアーソフト

エロゲーでこういう文章を書くライターさんってなかなかいないのではないでしょうか。いい意味でエロゲーとは思えない雰囲気。まさに文章からして「黙祷めいた厳粛さ」が感じられます。
ギャグシーンのない、終始シリアスなこの作品だからこそこういう文章が映えますね。

物語は外部から隔絶され女性しかいない学園「プエラリウム」で、記憶を失い全裸で倒れていた主人公の少女・アルエットが発見されるところから始まります。
試験を経て学園の一員となったアルエットは、ある夜、異界となった学園で化け物のような存在と戦う一人の少女を見つける。――という百合ミスティックホラー作品です。

百合とミステリとファンタジーとホラーその他という様々な要素のある作品ですが、物語としては一本筋が通っているので読みやすい物語です。
最初は「ただの百合かな」と思っていたら、「いや、ファンタジー?というかホラー?」「いや、むしろがっつり○○?」といった感じで、世界観が判明するにつれ物語の雰囲気が変遷していきます。新鮮な驚きを味わうためにはあまり事前情報を入れないほうがいいかもしれません。

恋愛要素は重要ではありますが描写自体は少なめ。
学園の規則としてそういう感情は禁止されているので、背徳的で秘めやかな描写が多く、あまりベタベタしたものではありません。

物語中には時折、各キャラクターの”夢”の中の出来事が描かれます。
これは夢と現実の境をあいまいにするためか、最初は全く説明されません。
読み手側としては話が突然飛ぶのでかなり戸惑うと思いますが、ウインドウの横に顔が表示されたらそのキャラの夢の中の話だと思ってください。

テキスト中には小説っぽい雰囲気を出すためか、やや難しめの言葉が頻出します。
読みはルビが降られますが、意味は知らないとわかりにくいものがあるかも。
深更しんこう 恬淡てんたん 瞋恚しんい 宿痾しゅくあ 含羞がんしゅう 白晢はくせき 蹌踉そうろう 炯炯けいけい 赫々かくかくたる ひしめく
海原さんは割とこういう難しめの漢字や言葉を使いますよね。プレイヤーの国語力が試されます。「ひしめく」ってこういう漢字なんだ…。

グラフィック

アルエットとアヴェルラ

原画は大石竜子りゅうこさん。
繊細かつ幻想的で、非常に美しいイラストです。
パッと見で大石さんの絵であることがわかる特徴的な画風ですね。
彩色もボヤっとしていて複数の色が混じっているので、手書きの絵画ような雰囲気もあります。

表情はやや少女漫画っぽいデザイン。
目元や唇が強調されていてまるでお化粧をしているように見えます。
作中の学園は規則が厳しいので化粧は多分で禁止されているでしょうから、作劇的な演出かも。
真っ赤な唇って美少女ゲームではあまり見ないので逆に新鮮です。

イベントCGは53枚。
キャラクターをメインにして場面を切り取ったような構図の絵が多いですね。
”花”を描いたCGも多いのですが、少し抽象的で絵画のようなデザイン。
現実には無さそうな華やかな色合いの花を描くことで幻想的な雰囲気を醸し出します。

各キャラクターの服装は基本的に共通の制服と部屋着のみ。
バリエーションは少ないですが、各キャラ下着と全裸の立ち絵があります。部屋着→下着→制服の順番で立ち絵を変化させることで着替えのシーンを描く演出です。こういうのちょっとエロくていいですね。

制服はゴシック調の雰囲気で基本的に黒一色。胸元と袖口のみ白というシックなデザインです
スカート丈も長くて、一番短いアルエットでもひざ下、ルクに至ってはくるぶしあたりまで隠れています。ここまで露出度の低い制服ってエロゲーではなかなかないですね。

キャラクター

花園で語らうルクとアルエット

アルエット
記憶を失った主人公の少女。名前の由来はフランス語のヒバリ(alouette)から。
優しく前向きな性格で、勉強や人間関係にも努力を欠かさない。

ルク
口数は少ないが誰よりも優秀な黒髪の少女。特進クラス1位。名前の由来は英語のミヤマガラス(rook)。
誰ともなれ合わず孤高を貫き、ひたすら研鑽を積む。

アヴェルラ
高圧的で女王のように振舞う少女。特進クラス2位。名前の由来はイタリア語のモズ(averla)。
ルクとはソリが合わず「アレ」呼ばわりするが、実力は認めている。

ロビン
燃えるような赤い髪を持つ中性的で凛々しい少女。特進クラス3位。名前は英語のコマドリ(robin)から。
奔放な性格で他人に対して無関心だが、読書の邪魔をされると怒り出す。

キャナリー
アルエットの世話係を担う優し気な少女。特進クラス4位。名前は英語のカナリア(canary)から。
ロビンには何故か嫌われているが、何かと会いに行く。

マコー
生真面目で委員長気質な少女。特進クラス5位。名前は英語のコンゴウインコ(macaw)から。
勉強には熱心だが、要領が悪く成績を落としている。

パヴォーネ
のんびりしたマイペースな少女。特進クラス6位。名前はイタリア語のクジャク(pavóne)から。
才能はあるもののだらしがなく、朝はいつもマコーに起こしてもらっている。

主なキャラはこれらに加えて神出鬼没な一般生徒オルロ、学園唯一の教師であるアドラーの計9人。その他に一般生徒が数人出てきますが、メインはこの9人を中心に物語が進みます。
舞台となるプエラリウムでは6人の特進クラスと40人ほどの一般クラスに分かれているという設定。この2つは授業も寮も別なので食事や祈りの時間以外は交わることがありません。物語は基本的に特進クラスをメインに描かれます。

お気に入りキャラは金髪縦ロールのアヴェルラ。
私はこれまでこういうお嬢様系のドSキャラってあまり好みではなかったのですが、このキャラは別。中盤以降は物語の核になると同時に、とても魅力的なキャラで感情移入してしまいます。ヤバい、アヴェルラに鞭で叩かれたい…。

ボイス

萌花ちょこ(アルエット)あじ秋刀魚(ルク)北板利亜(アヴェルラ)
鶴屋春人(マコー、オルロ)野月まひる(パヴォーネ、アドラー)かわしまりの(ロビン)
北大路ゆき(キャナリー)

主人公含め全キャラフルボイス。
面子を見るに実力派の精鋭を揃えた感じでしょうか。
北板利亜さんと野月まひるさんは出演本数こそ多くはないですが、意外とキャリアが長いベテランさんです。

特に何かの伏線というわけではないですが、鶴屋さんはマコーとオルロ、野月さんはパヴォーネとアドラーの兼ね役になっています。正直プレイ中は全く気が付きませんでした。パヴォーネとアドラーなんて言われても同一人物の声とは思えません。声優さん凄い。

BGM

BGMの作曲はさっぽろももこさん、松本慎一郎さん、内山利彦さん。
全体的にクラシカルで荘厳な感じのする曲が多いですね。
左右の音の違いを強調した曲もあるので是非ヘッドホンで聴きたいところ。

音楽鑑賞モードで聴けるBGMは主題歌のインストVer.を除くと7曲。
…え? 7曲? いやいやそんなわけないでしょう。明らかに収録されてない曲が何曲かあります。残りの曲って聴けないんですかね? 改ページかスクロールボタンを見落としてるのかと思いましたがそういうわけでもなさそうですし。

個人的お気に入り曲は終盤の緊迫した場面で流れる「大いなる造化」。コーラス付きでRPGのラスボス戦のような壮大かつ荘厳な戦闘曲です。男子はこういう曲大好きですよね。音楽モードで聴くと結構長い曲であることがわかります。

サントラはBOOTHで販売されていますが、こちらもボーカル曲を含めて9曲しか収録されていないんですよね。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「Nevermore」Rita内山利彦RitaOP・ED

主題歌を歌うのはRitaさん。オープニングとエンディングの両方に同じ曲が使われます。
落ち着いていながら力強い、前向きで優しい曲です。
歌詞も物語に合った内容で、プレイ後はちょっと違った印象に聞こえます。
音楽モードでは歌詞付きでフルバージョンを聴くことが可能。意外と長い曲ですね。

ムービー

起動後のタイトル前に毎回ムービーが流れます。
ムービー制作はKIZAWA studio。
作中のCGを使い、幻想的でまるでおとぎ話を語るようなムービーです。
鳥かごを使ったキャラ紹介が印象的。結構ショッキングな演出もあってホラーものであることも示唆していますね。

攻略

序盤から中盤にかけては一本道のシナリオですが、終盤になると突然選択肢が現れてストーリーが分岐します。
ほとんどがバッドエンドになる選択肢ですが、先にバンドエンドも見ておきましょう。
二択のうち”上の選択肢”がだいたいバッドエンドになります。

物語中には場所移動選択の場面もありますが、基本的にすべて回るのでストーリーに影響はしません。
ただ最後の場所移動選択のみ回数制限があり、失敗するとバッドエンドになります。難しくはないですがテキストをよく読んで慎重に選んでください。場所移動選択時はテキスト履歴がリセットされるうえ、一度選んだ場所は消えてしまうので後から確認することはできません。

総プレイ時間はゆっくりやって15~18時間。
値段のわりにやや短めでしょうか。

TRUEエンドを見た後はエクストラシナリオが解放されます。
15分程度の短いシナリオなのでクリア後にそのまま読んじゃいましょう。

Hシーン

誰もいないところで秘めたる行為

シーン鑑賞モードに登録されるHシーンは7つ。
そのうち主人公のアルエットが絡むシーンは2つ。
当然全て女の子同士の百合Hか一人Hになります。

ほとんどのHは口や指を使った軽めの行為。道具は使わないですし、そんなに濃厚というわけではありません。
耽美的ではありますが、あまりエロくはないかも。

行為の最中は「攻め」と「受け」がハッキリ分かれている感じ。「その性格なら攻めだろうな」というイメージ通りの攻守です。
尺は短めで、だいたい1シーンあたり1~2枚のCGが使われます。

胸の大きさは立ち絵からくるイメージよりはやや大きめ。
やや漫画チックにデフォルメされた胸の描き方をしています。
乳首は描かれますが、性器は服や体の一部で隠されているのでモザイクによる修正はなし。
また行為中は下品な卑語も言わないので、P音等による修正もありません。

感想

「エヴァーメイデン」を争うルクとアヴェルラ

独特な画風が目を引く作品ですが、プレイしてみると世界観やストーリーが練り込まれていて、物語が進むにしたがってすごく引き込まれていきました。

本作はいわゆる”百合ゲー”ではありますが、あまり百合を前面に出したシナリオではありません。百合はあくまで世界観を構築する要素の一つに過ぎないので、それが雰囲気の良さにもつながっているのではないかと。そういう意味では百合ゲーの初心者さんにもプレイしやすい作品です。

公式のジャンルは「ミスティックホラー」となっていますが、ミステリィというよりはサスペンスに近い感じでしょうか。何か事件の犯人を捜すという物語ではないですし。
むしろ「世界の謎を暴いていく」のがメインになりますね。

徐々に明らかになる世界観

物語の開始時は意図的に学園や世界の設定がぼかされているのが特徴的。それが神秘さや幻想的な雰囲気にもつながっていきます。
「え?これはどういう意味?というかそもそもこの学園は何なの?」と疑問符ばかりつくかもしれませんが、話を進めていくうちに少しずつ世界観が判明していく流れ。
派手な展開もありますが、ストーリーと共に設定や世界観を読み込んでいくような楽しさもありますね。 
主人公のアルエットは記憶を失っているため、世界の認識がプレイヤーと同期しているのもわかりやすくていい。

ストーリーを進めていくと学園の座学室で学習に使われる「とある装置」が登場。
何の前触れもなく当たり前のように存在するこの装置によって、物語の方向性のようなものが一気に開けていきます。
私、序盤で一番驚いたのがこのシーンでした。
なんとなくこういう世界観かな~と勝手に想像していたものが一気にひっくり返されました。物語的にはそこからが本番だったかもしれません。
そこから先はいろんなパズルのピースを嵌めながら、全体としての伏線や世界観が徐々に見えてくるという形になります。

そして物語後半には次々と明らかになる真実。
この学園は何のためにあるのか。生徒たちが見る夢は何なのか。どうしてアルエットは記憶を失っていたのか。当たり前の知識が生徒たちに欠けているのはなぜか。様々な秘密が一本の線につながっていきます。終盤はプレイする手が止まりませんでした。

「エヴァーメイデン」というキーワード

一般的な作品においてタイトルがストーリー上に登場する、いわゆる「タイトル回収」。この瞬間って物語の一番盛り上がるシーンで出てくることが多いんですが、本作品においては割と序盤から、しかも頻繁に「エヴァーメイデン」という言葉が使われるんですよね。

序盤では最も優秀な生徒に送られる称号という意味で使われます。往年の名作『処女はお姉さまに恋してる』における「エルダー・シスター」や、『マリア様がみてる』の「ロサキネンシス」みたいな感覚でしょうか。
正直なところ、この種の学園ものでは割とありがちな設定です。

ところが物語が進んで学園の秘密が明らかになってくると、この「エヴァーメイデン」という言葉の意味が全く違ったものになっていきます。
全てを知ってもなお彼女たちは「エヴァーメイデン」を目指すのか、というのも見どころの一つ。


物語の終盤ではある種「セカイ系」のような様相も呈してきます。
ヒロインを犠牲にして世界の安寧をとるか、あるいは世界を敵に回してもヒロインと添い遂げるか。これまで多くの作品で扱われたテーマですが、考えてみればどちらもワガママなんですよね。その選択を強いる世界も含めて。

どちらを選択するにせよ何より重要なのは相手への想い。
平和な世界を見ながら大切な人を想い続けるか、滅んだ世界を見ながら大切な人と一緒にいるか。自分としては、案外どちらも幸せなんじゃ?と思うようになったかもしれません。


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