1万9188人。
これは昨年(2025年)の日本における自殺者の数です。
普通の人からすれば「生きたくても生きられない人だっているんだぞ」とか「死ぬくらいなら死ぬ気で頑張ればいいじゃん」といった正論や理想論を言ってしまいがちかもしれません。
でも当人からするとそんなんじゃ払拭できないんですよね。世界に「おめーの席ねぇから」と言われたときの絶望感って。
いやすいません、冒頭からセンシティブな話をしてしまいました。
気を取り直して今回紹介する作品は『はじめるセカイの理想論 −goodbye world index−』。公式略称は「はじ論」。
制作ブランドはこれまで数々の良作を作り続けてきたWhirlpool。Whirlpoolといえばいわゆるキャラゲーとシナリオゲーを交互に発表しているブランドですが、今作はシナリオ重視の作風。ブランド歴代最高と評価する人も多く、2024年ベストエロゲー投票では1位を獲得した名作です。
どんな物語?
物語は主人公と4人の女の子が神に呼び込まれ、各々が特殊な能力を与えられて新たな世界に転生。5人は現代風の街にある学園に通いながら協力して「世界の敵」と戦っていく、というもの。
笑いあり涙あり熱いバトルありという喜怒哀楽の詰まった作品です
あらすじだけ見るといわゆる「なろう系」のような物語に見えますが、中身はちゃんと「美少女ゲーム」している作品です。神の存在や異能力の設定など、異世界物のお約束を踏襲しつつ、物語自体はしっかりギャルゲーのメソッドで描かれています。
異世界物の設定とギャルゲーらしさが溶け込んだ世界観ですね。
どんな特徴?
この作品の特徴は作り込まれた個別ルート。
制作者側が「すべてがTRUEルート」と公言するように、各ヒロインルートのシナリオに独自性があって飽きさせません。
また世界観自体が意味深でミステリアスなので、徐々に世界の謎や目的が判明していく面白さも味わえます。
ストーリー前半は面白おかしく時に熱い物語ですが、個別ルート後半に入るとシリアス要素強めで感動的な展開が待っています。
また「理想とは何か」「幸福とは何か」といったちょっと真面目なテーマも内包しているので、プレイ後は思わず自分の人生について考えてしまうことがあるかも。
どんな人向け?
可愛らしいヒロインたちとの楽しいやり取りと感動できるシナリオを両立した物語なので万人に薦められる作品です。
比較的わかりやすい設定と物語なため、エロゲーを始めたばかりの初心者さんにもとっつきやすい作品となっています。
ヒロインたちとのラブコメやイチャラブだけでなく、感動的なストーリーも読みたいという人にはうってつけの作品です。
- 個性的なヒロインとの楽しいラブコメ
- それぞれ完成度の高い個別シナリオ
- 「理想の世界とは何か」を問い続ける深いテーマ

購入ガイド
| タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
|---|---|---|---|
| はじめるセカイの理想論 | 10 11 | 2024.2.22 | やや難 |
パッケージ版は1種類のみ。初回封入特典として主題歌フルバージョンのDLCカードが付属します。
新品パッケージはすでにロットアップしていて中古価格も高騰中(2.5万~3万円くらい)。
数としてはそんなに少なくはないのでたまに目にはしますがショーケース常連のソフトです。この作品に限らず、Whirlpoolのシナリオゲーは最近高騰傾向にありますね。
今から買うならダウンロード版(FANZA独占)を推奨。
残念ながらWhirlpoolは活動終了となってしまいましたが、ダウンロード版の販売は継続される模様です。
Whirlpool作品は定期的にセール対象になるので、安くなっているときに買いましょう。
現代的で使いやすいシステム
画面下にテキストが表示される標準的なシステムです。DL版はブラウザプレイに対応しています。
画面サイズは1920×1080のフルHD。ウインドウモードの時はサイズをフレキシブルに変えることが可能です。これはありがたいですね。フルHDのままだとウインドウモードの意味ないですし。また「常に手前に表示」することもできるので、ながらプレイもしやすくなっています。
バックログからのジャンプや既読シーンスキップ、お気に入りボイス登録など、昨今のエロゲについている機能はだいたい搭載されています。
オートモードのウエイト時間はテキスト量にかかわらず一定。しかもテキストの最初の一文字目が表示されてからウエイト時間のカウントが始まるので、長い文章のときは焦ってしまうかも。
ただウエイト時間のインジケーターが表示されるので時間の調整はしやすいですね。
またオートモード時は画面右上にこれ見よがしにアイコンが表示されます。これはコンフィグ画面で表示をOFFにすることができるので、邪魔だと思ったらとっとと切っちゃいましょう。
この作品はいわゆるシステムボイスが非常に充実しています。というか充実しすぎです。
セーブやロード時だけでなく、何かしら操作するときはほとんどボイスが付きます。
さすがにうっとうしいのでシステムボイス設定画面から必要なところ以外は切ったほうがいいかも。私はオートモードとスキップモード、バックログとウインドウ消去時のボイスは切ってました。
システムボイスの担当キャラはデフォルトではランダムですが、指定することもできるのでルートによって変えるのもいいかも。

突飛だがとっつきやすい世界観と物語
シナリオライターは近江谷宥さん。最近のWhirlpool作品のシナリオは大体この方ですが、別に専属というわけではなく、他のブランドでも活躍している実力派のライターさんです。
物語は主人公・小野宮シンが他の4人の少女と共に学園に通いながら、「勇者」としてこの世界を守るために「世界の敵」と戦うところから始まります。
主人公を含め5人の勇者は神によってほかの世界から召喚された「転生者」で、それぞれ特異な能力を保持。異世界転生ものでよくある設定ですね。
物語開始時点ではすでに主人公は他の4人のヒロインたちと仲良くなっていて「世界の敵」と戦っている最中なので、最初はちょっと戸惑うかもしれません。この世界に来ることになったいきさつや細かい世界設定などは、話を進めていくうちに少しずつ分かるようになっています。学校や街並みの雰囲気は基本的に現代と変わらないのでとっつきやすいですね。

中盤までは他のヒロインとのやり取りが楽しく、キャラゲーチックなノリで明るい雰囲気で進みます。ギャグシーンも変なパロディや下品なネタは少ない(ティアがセックスセックス言うくらい)ので気持ちよく笑えます。個人的にはこういう自然にクスッと笑える日常シーン大好きです。
そして個別ルート後半では各ヒロインの”元の世界”での秘密が明かされ、一気にシリアス展開になっていきます。この辺はいい意味でギャルゲー的な構成ですね。
ただめっちゃ細かいことを言えば、テキスト中で「時刻」のことを「時間」と書くのが個人的に気になりました。
「時間は昼の12時」みたいな言い回しはキャラのセリフ中だと問題ないのに、地の文だと違和感マシマシになってしまうのが不思議。ニホンゴムツカシイネ。
主人公の能力「ダウト」
そしてこの作品一番の特徴は、主人公の持つ「ダウト」と呼ばれる”嘘を見抜く能力”。
各キャラクターのセリフのうち、”嘘の言葉”がテキスト上では赤字で表示されるというゲーム媒体ならではの演出です。
テキストの色を変える演出といえば名作同人ノベルゲーム『うみねこのなく頃に』に出てきた「赤き真実」がありますが、本作ではそれとは真逆に嘘がわかる能力になっています。
これはシステム上のギミックというよりは、主人公とヒロインたちとの人間関係における重要なファクターになっているので、ストーリーに深みが増します。主人公の能力がバレてしまったときにヒロインたちはどうするか、というのも見どころの一つ。
またこの能力によってヒロインたちの個性もより際立っています。
下手な強がりやツンデレ台詞も赤字で表示されることで、よりヒロインたちが愛らしく見えるから不思議。
一見憎まれ口をたたいているようで実は仲間のことを大切に思っている、という描写も非常にわかりやすくなるんですよね。この演出思いついた人凄い。

繊細で可愛らしいグラフィック
原画・キャラデザはWhirlpoolの看板イラストレーター水鏡まみずさん。SD原画に”みるくぱんだ”さん。
まみず先生は非常に繊細で可愛らしい絵を描く方です。「原画家買い」する人が多いのもうなずけます。
イベントCGは72枚。SD絵が20枚。
ヒロインが描かれているCGは公平に1キャラにつき15枚ずつ。そのうち8~10枚くらいがHシーンのCGになります。意外とHな絵が多いですね。
主人公の姿は基本的に描かれませんが、SD絵では普通に描かれます。まぁ作中では男は一人しかいないので、いきなり出てきても戸惑うことはないかと。
個人的にはノゾミ先生の立ち絵で白いブラウスの下に薄っっっすら黒い下着が透けて見えるのがツボでした。先生が出ているシーンでは毎回目を凝らして胸元を見てたくらい。高校時代学校で同じことしてたのを思い出します(笑


四者四様のヒロインたち
![]() ヘルミリア=ヴァン=ノクスローゼ | 頭に角を生やした自称「魔王の中の魔王」。通称ヘル子。 尊大な性格で学園の授業はほとんど出ず勇者の活動もさぼりがち。いつも部屋でゲームしている。 保有能力は12の魔王を召喚する「絢爛たる12使徒」。 |
![]() 最上ヒナギク | 勇者メンバーの中では最年少の1年生。弱者を守り悪を倒す正義の侍。 頭は悪いが戦闘力は高い武力担当。性格が真逆なヘルミリアとは犬猿の仲。 保有能力はおせっかいな喋る刀「鬼哭紅蓮(おになきぐれん)」 |
![]() 綾月ハルカ | 知的で物静かな3年生。いつも図書館で本を読む少女。 とある目的のために能力を使って様々な検証をする。 保有能力は書いた内容がなんでも現実になる本「私のための物語(マイ・ディアー・ファンタズマ)」。 |
![]() ティア=フォーレンタイト | 礼拝堂で愛を語るシスター。とにかく愛。ひたすら愛を追求する。 愛の名のもとに主人公にセックスを迫る聖女。メンバーの中では一番の巨乳。 保有能力は他人のケガや病気を自分に転嫁する「永遠の献身(エターナルデボーション)」。 |
| 小野宮シン | この世界にやってきて日が浅い主人公。 戦闘向きではないがメンバーの中心にいることが多い2年生。 保有能力は他人の言葉の嘘を見抜く「ダウト」。 |
ヒロインと主人公を含めた5人が世界の敵と戦う「救世委員会」のメンバー。
登場人物はこのほかに委員会の顧問であるノゾミ先生、勇者たちの敵として立ちはだかる少女・ヨル、そして勇者たち5人をこの世界に召喚した張本人である「神ちゃん」。
神ちゃんはこの種の異世界召喚もののお約束である神様的存在です。全能の力を持ちますがフランクな性格で、たびたびノゾミの体を乗っ取ってちょっかいを出してきます。
このほかにも学園の学生や町の人たちなど、一応ストーリー上はモブキャラとして存在します。加えて回想シーンでは各キャラにまつわる人物も出てきますが、基本的に顔や名前は表示されず、ストーリー自体はメインの8人のみで進みます。この辺結構割り切ってる感じですね。
4人のヒロインたちは性格も能力も元いた世界も全く違うのが特徴的。
目的も考え方もバラバラですが、仲間意識はありなんだかんだ言いながら団結して敵と戦います。このメンバーの雰囲気がすごく良い。なんならずっとこのメンバーで生活したいと思わせるくらい。
個人的お気に入りキャラはハルカ。
感情は乏しいものの、理系チックで常に論理的に考える姿がどこか凛々しい。
能力がチート級なので、困ったらとりあえずハルカの本に頼るドラえもん的なキャラですが、ため息をつきながらもちゃんと協力するいい子でもあります。
エース級のキャスト陣
| 月野きいろ(ヘルミリア) | 明羽杏子(ヒナギク) | 蒼乃むすび(ハルカ) |
| 秋野花(ティア) | 白月かなめ(ノゾミ) | 夏和小(ヨル) |
| くすはらゆい(神ちゃん) |
主人公以外全キャラフルボイス。
モブキャラにも声が付きますが、メインキャラの兼ね役はせず別の声優さんを使っているみたいです。
メインキャラのキャストは10年代から20年代のエース級エロゲ声優をそろえた感じ。
ヘルミリア役の月野きいろさんは人気と実力を兼ね備えた声優さん。明るく元気なヘル子にぴったりの声ですが、後半ちょっと鼻が詰まったように聞こえるのは鼻炎か何かでしょうか。
ヒナギク役の明羽杏子さんは言わずと知れた人気声優。明羽さんは割と正統派のヒロイン役が多かったと思うので、ヒナギクのような猪突猛進キャラは新鮮です。
このころの明羽さんはもう結構お忙しくなってるはずですが、こうしてちょくちょくエロゲにも出てくれるのはありがたいですね。
居心地のいいBGM

ボーカル曲を除いたBGMは25曲。BGMの作曲は音楽クリエイターチームsolfa。
のんびりした曲からシリアスな曲まで、いい意味で美少女ゲーム然とした雰囲気の曲が多いです。尖った曲は少ないですが、すごく居心地がいい。
1分半程度の曲がほとんどですが、不思議と短さは感じません。
個人的お気に入り曲は、ゆったりした時の流れを感じる日常曲「黄昏に浮かれて」。
「この壁を超えろ」は勢いのある戦闘曲。派手すぎないのが逆に良い。
世界の秘密を探るときに流れる「変容する世界」は意味深で不安定な雰囲気を増長させます。
シリアス一色の「理想の果てに」は悲しげながらどこか力強さも感じる名曲。絶望の中で見つけた一筋の希望、みたいな。
3曲とも個性的なボーカル曲
| タイトル | 作詞 | 作編曲 | 詩 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 「Sweetest Doubt」 | 浮世かいか | A-dash | 美郷あき | OP |
| 「ideal world」 | 天ヶ咲麗 | 橋咲透 | solfa feat.小春めう | ED |
| 「Loop iii -three-」 | 天ヶ咲麗 | 橋咲透 | solfa feat.Rita | ED |
OP曲「Sweetest Doubt」を歌うのは美郷あきさん。ノリのいいテンポで勢いのある曲です。イントロ終わりの「デン♪デン♪デン♪」のリズムがキャッチー。
小春めうさんの歌う「ideal world」は明るく締めるEND曲。これまでを振り返ると同時に、これからの楽しい生活を予感させる前向きな曲です。
Ritaさんの歌う「Loop iii -three-」は物語をまとめるのにふさわしいEND曲。歌詞がストーリーを思いっきり反映した前向きな内容なので、聴いてるだけで「この作品をプレイしてよかった」と感慨にふけってしまいます。
3曲とも音楽鑑賞モードでフルバージョンを聴くことができるのはありがたいですね。
アルバムでは「Whirlpool ボーカルソング集 Vol.6 Theory」に収録されていますがやや入手困難。
ちょっとお高いですが、最近(2026年6月)発売されたWhirlpool Complete Collection「A Memory of All Songs」には今回の曲だけでなく、ブランドのボーカル曲がすべて収録されているのでWhirlpoolファンは必聴。
キャラゲーチックなムービー
プロローグの後にOPムービーが流れます。ムービー制作は[Mju:Z]の癸乙夜さん。
立ち絵やイベント絵だけでなく、SD絵もふんだんに使ったコメディチックなムービーです。
ヒロイン紹介のときの名前のフォントが全員違うのも個性や方向性の違いを表しているのでしょうか。
いい意味でパッと見はキャラゲーのように見える、明るくて楽しそうな雰囲気ですね。
スタッフクレジットも最小限なので、絵の動きに集中することができます。
攻略順に注意

共通ルートにある数回の選択肢でシナリオが分岐します。
というか実質的には一番最後の選択肢で決まるので、2人目以降は最後の選択肢のセーブファイルから再開すればOKです。他の選択肢は別に特別なCGが見られるとか分岐のフラグになっているとかはありません。
推奨攻略順は
ヒナギク → ティア → ハルカ → ヘルミリア
特にヘルミリアは一番最後にプレイしましょう。物語の締まりが一番いいです。
ハルカはとある謎が判明するので後半に回したほうがいいかと。
初めの一人をクリアするとサブキャラであるノゾミとヨルのルートが解放されます。
メインと比べると短いおまけ的なシナリオなのですぐプレイしてもいいのですが、ノゾミルートはとある秘密が明かされるため後半にプレイするのが無難かと。
自分はヒナギク→ティア→ヨル→ハルカ→ノゾミ→ヘルミリアの順でプレイしました。
総プレイ時間はゆっくりやって35~40時間。
初回プレイが10~12時間、2人目以降が5~6時間くらいでしょうか。
各キャラ4回目のHシーンが終わったらもうすぐ終わりの合図なので、そこから先は一息でプレイしましょう。
最後のシナリオは2時間程度で終わる短いものなので一気にプレイしてください。
ふくよかで個性的なおっぱい
Hシーンは各ヒロイン公平に5回ずつ。そのうち1回はクリア後に開放されるおまけHです。
サブキャラであるノゾミとヨルにも2回ずつHシーンがあります。
行為自体はオーソドックスなもので変なプレイはありません。
メインキャラ4人には全員口でするシーンがあります。
尺はシナリオゲーとしては普通。1回のシーンで使われるCGは1~2枚。
ヒロインは卑語も結構言いますが、伏字・消音による修正が入ります。
胸の大きさは結構大きめ。4人の中では一番小さいであろうヘルミリアでもそこそこの大きさがあります。
そしてなんといってもこの作品、というか水鏡まみずさんのエロ絵の特徴といえば、これでもかというくらい自己主張した乳首!
ぷっくり膨れた乳輪の上に梅干し大の乳首、真ん中にはハッキリとY字に窪んでいる乳腺が描かれています。エロ漫画のようにデフォルメされたおっぱいが好きな人にはたまらないかと。

私は…すいません、守備範囲外です。どっちかというと控えめの乳首が好きなもので…。
感想
世間の高評価にたがわず、すごく満足度の高い物語でした。
メッセージ性も強く、プレイ後は思わず自分にとっての理想や幸福について考えてしまいます。
物語前半の面白おかしい展開があるからこそ、後半のシリアスなテーマがより引き立ちますね。
以下、ストーリーのネタバレはしませんが、物語終盤のテーマ性についても言及しますのでまっさらの状態でプレイしたい方はスルー推奨。
他人の嘘を見抜く能力
本作の主人公である小野宮シンが持っているのは「他人の嘘を見抜く」能力。
美少女ゲーム界隈で「他人の気持ちや考えを読むことができる」主人公はちょいちょい見かけます。『サノバウイッチ』の保科柊史や『シンソウノイズ』の橘一真など。でもこの作品の主人公の能力は嘘がわかるだけ。
一見すると便利な能力のように見えますが、ある意味では残酷な能力でもあります。ウソがばれるのって信頼関係が破綻しかねないことですし、嘘がわかる能力を伝えないことはある種裏切りに等しい。変な話、嘘をつくこと自体よりも罪深いことかもしれません。
正直なところ、実際に嘘がわかる人間がいたら自分は近付きたくないかも…。
この作品ではその辺の主人公の葛藤も如実に描かれています。この能力が単なるスパイス程度ではなく、がっつりシナリオに絡んでくるので感情移入してしまうんですよね。ゲーム上、主人公がわかる嘘はプレイヤーにも共有されるので、ある意味共犯関係にも思えます。
主人公は嘘が嫌でこの能力を望んだのに、その能力で苦しんでしまうというのは何とも皮肉です。
個別ルートで異なるシナリオの方向性

この作品のコンセプトは「ヒロイン全員がTRUEルート」。
よくあるシナリオゲーだとグランドルートがメインで個別ルートは実質前座、みたいな構成もありますが、この作品においては個別ルートすべてがメインです。実際プレイしてみると各個別ルートにテーマや感動ポイントがあり、力の入りようがよくわかります。
しかも各ヒロインは来歴が全く異なっているうえに目指す理想も違うので、4つのシナリオそれぞれで新鮮な感動を味わえました。それでいて根柢の部分ではつながりを感じるので、全体が一つの作品として統一感もちゃんとあるんですよね。ホントよくできてますこの作品。
中でも個人的に一番好きなのはヘルミリアルート。
ヘルミリアは見た目や言動は突飛ですが、シナリオ自体は一番身近で等身大の物語なんですよね。シナリオの前半と後半でヘルミリア自身の成長をしっかり感じるので思わず応援したくなりました。必死に生きようともがくヘルミリアの姿や、ずっと後悔していたことを解消する終盤のシーンでは思わずもらい泣きしてしまったほど。めっちゃいい子です、この子。
理想とは近付いていく目標地点
この作品で語られるのは「理想」とは何か、「幸福」とは何か、ということ。結構真面目なテーマです。
物語全般を通じて各キャラたちは神ちゃんから「君はこの世界に何を望む?」と問いかけられますが、これは我々プレイヤーにも問われているように思えます。
私も年甲斐もなく理想や幸福について考えてしまいました。
話はそれますが、私最近数学にちょこっとハマってるんですよ。数学では数列や関数の「近付いていく先の値」のことを”極限値”と言います。
みたいな高校数学でもおなじみの奴ですね。
ちなみに実数である π=3.141…も、√2=1.412…も、1=0.999…も極限値です。1
この極限値って実は「近付き方」はどうでもいいんですよね。
急速に近付いてもいいし、ゆっくり気長に近付いてもいい。
まっすぐ近付いてもいいし、ぐるぐる寄り道してもいい。
途中で極限値に到達してもいいし、到達しなくてもいい。
ただ一つのゴールに向かって確実に近付いてさえいればいい、というのが極限の特徴です。
人生の「理想」や「目的」って数学で言うところの「極限値」なのではないかと。
「近付いていく先」があれば人は頑張れるんですよ。
お金を1億円稼ぎたいとか、家族4人で幸せな家庭を築きたいとか、推しのアイドルを1位にしたいとか、YouTubeで銀の盾がほしいとか、ブログの閲覧者数を月3万にしたいとか。
急いで駆け上がろうがゆっくり回り道をしようが近付き方は何でもいい。以前よりちょっとでも目標に近付いている自分を認識できれば、成長や喜びを実感できるんじゃないかと。
これは往年の名作『加奈~いもうと』における印象的な台詞
願わくば、明日のわたしが、今日のわたしより優れた人間でありますように……。
にも通じるものがありますね。少しずつでも前に進める人間は本当に強い。
この作品は別に自殺を止めるほどの力はないかもしれません。2
でもちょっと人生の目標地点を見失ってしまった人には、新たな理想を思い描く一つのきっかけになるんじゃないか、そんなことを思わせる物語でした。

あなたの理想の世界に必要なものは何ですか?
お金? 家族? 時間? エロゲ?
- よく誤解されますが、数学では
0.9 0.99 0.999 …
という数列が「限り無く近付いていくただ一つの値」を極限値と定義し、その値を無限小数「0.999…」で書き表します。0.999…が1に近付くわけではありません。数列の近付いていく先が0.999…です。なので「1≒0.999…」ではなく、ぴったり「1=0.999…」になります ↩︎ - もしちょっとでも自死を考えているとしたら悪いことは言いません、誰かに相談しましょう。友人でもいいし、専門医でもいいし、SNSでもいいし、ChatGPTでもいい。一人で抱え込むのは百害あって一利なしです。 ↩︎
使用している画像の著作権はWhirlpoolに帰属します





