2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『もののあはれは彩の頃。』(QUINCE SOFT 2017年)

エロゲー作品の世界設定ってときに突拍子もないものがあったりするんですが、その中でも唯一無二の世界を構築した作品が今回紹介する『もののあはれは彩(さい)の頃』。略称は『彩頃(さいころ)』。
表記は「あれ」ではなく「あれ」なので検索するときは注意してください。

秋の京都を舞台に、登場人物自身がコマとなってサイコロを振りながら双六をしていくという異色すぎる世界観が特徴です。

制作はLump of SugarのサブブランドであるQUINCE SOFT。
シナリオライターは後に『アメイジング・グレイス』や『さくらの雲*スカアレットの恋』などの名作を生み出すことになる冬茜トムさん。
冬茜トムさんといえば物語中に綿密な伏線が張りめぐらすライターさんとして有名で、この作品でもその個性がいかんなく発揮されています。

それだけではなく、登場キャラクター同士が双六という舞台で繰り広げられる戦闘シーンに熱くなったり、他の参加者を出し抜いてあがりを目指す駆け引きが面白い物語です。
イメージとしては『HUNTER×HUNTER』の「グリードアイランド編」に近い感じでしょうか。ルールは全然違いますが。

冬茜トム作品としては『アメグレ』や『さくレット』ほどの知名度はないものの、伏線回収のカタルシスが好きな方や、敵プレイヤーとの駆け引きに熱くなれる人には是非プレイしてもらいたい作品です。

  • 双六を題材にした特殊な世界観
  • 序盤から張られた綿密な伏線
  • 他キャラクターとの緻密な駆け引きと命を懸けたバトル
ブランドQUINCE SOFT
ジャンル和風すごろく体感ADV
初回発売日2017.09.29
DL版価格4,180円
シナリオ冬茜トム
原画ななろば華
おすすめ度85
シナリオ傾向

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
もののあはれは彩の頃。Vista 7 8 102017.09.29
もののあはれは彩の頃。普及版8 102020.11.27

初回版は普通の紙パッケージ。特典としてサントラCDが付属します。
普及版はトールケースパッケージでディスク以外の付属品はありません。こちらは現在も新品で購入可能です。
今のところ発売は18禁版のみで、CS版の類は出ていません。

今から買うならサントラが欲しければ初回版を中古で。
現物にこだわらないならダウンロード版(FANZA独占)を推奨。
ダウンロード版は普及版の発売に合わせて定価が安くなっていますが、セール時には500円均一の対象になっているので、買うならセールを狙いましょう。

システム

双六の盤面

ゲームエンジンは吉里吉里。画面下にテキストが表示される通常のAVGタイプのシステムです。画面サイズは1280×720。
双六がテーマの作品ですが、別に我々プレイヤーが直接双六をするわけではないのでゲーム性はありません。サイコロを振る以外は通常のテキストアドベンチャーです。
ただシナリオの分岐の仕方はちょっとわかりにくいものがありますね。

システム的には特に不満な点はありません。
強いて言うなら次の選択肢に進む機能が欲しかったところでしょうか。

全てのキャラの立ち絵には、いわゆる”目パチ・口パク”が搭載されます。
こういうのって始めのうちはキャラが生き生きして見えるんですが、しばらくすると見慣れてきて正直気にならなくなっちゃいますね。

シナリオ

前述のとおり、シナリオライターは冬茜トムさん。
トムさんはこれまで『Magical Charming!』や『運命線上のφ』といったLump of Sugar作品でライターの一人としてシナリオを担当していましたが、今回初めて単独のライターとしてシナリオを執筆しています。実質的なソロデビュー作といっていいくらい、シナリオライター・冬茜トムさんの個性や前面に出た作品です。

物語は主人公の東雲暁(しののめ あきら)を含む9人の男女が自身をコマとして双六をしていきます。サイコロを振ってマスを進み、各マスに設定された”宿命”(イベントみたいなもの)をクリアしながら”あがり”を目指していく、というもの。基本的なルールはよくある双六と同じですが、各プレーヤーには”戒(かい)”と呼ばれる独自の特殊能力が与えられていて、駆け引きやだまし合い、ときには殺し合いにも発展。可愛らしい見た目に反してデスゲームもののストーリーです。

テーマとなっている双六は、ルールが非常によくできているので様々な駆け引きが成り立ちます。
双六自体はサイコロの出目次第なので運要素が大きいのですが、宿命や戒を上手く使えば逆転可能だったりするんですよね。最初は一見すると意味のない宿命に思えても、終盤で逆転のための重要なピースになったりします。こういうのもある種の伏線と言えるかも。

テキストは基本的に三人称視点で語られ、主人公である暁以外のキャラクターの様子も随時描写されます。場面によっては一人称視点にもなるのですが、上手いこと使い分けられている感じ。

日常的なシーンが基本的にないので、かなりテンポよく進みます。
双六ではサイコロを振る”巡目”ごとにエピソードがまとまっている感じなので、中断しやすいのもいいですね。

テキスト中にちょっと難しい漢字や熟語が多いのも特徴。まぁ私の漢字知識が乏しいのが主な原因ですが、読めなかったり意味が分からなかったりする言葉が結構ありました。皆さんはこれ読めますか?
「峻険」「匂欄」「深甚」「畢竟」「陥穽」「覿面」「不可謬」
「吝か」「倦む」「糾える」「蹌踉めく」「久闊を叙する」などなど。
ただ本作の場合、こういう難しい言葉を使うのもちゃんと意味があったりするんですよね。

グラフィック

原画はフリーの”ななろば華”さん。
見た目はよくある萌えゲーチックなキャラデザインです。ぶっちゃけ顔だけ見るとみんな同じに見えますが、髪が結構派手なのでキャラの区別は全く問題ないですね。

イベント絵には主人公である暁の顔もはっきり描かれます。ただかなり幼い感じのデザインなので、正直学園の3年生には見えないかも。

物語の舞台が京都ということで、背景にも実際の京都をモデルにしたものが描かれています。
渡月橋や八坂神社、鴨川に円山公園など有名な観光スポットもたくさん出てくるので聖地巡礼が捗りそう。

キャラクター

野々宮 京楓(きょうか)
何故か主人公を敵視し、妨害を繰り返す少女。

鬼無水(きなみ)みさき
一見のほほんとしているが意志の強い少女。胸元の空いた着物がエロい。
誰も死なせずにあがりを目指す理想主義者。

クレア・コートニー・クレア
日本語ペラペラのイギリス人留学生。
他人との人間関係に敏感。

琥珀
口数の少ないロリ娘。神出鬼没でつかみどころがない。
物語序盤に全裸で暁に遭遇。

東雲 暁
本作主人公。
占いや風水が趣味の自称ラッキーボーイ。

双六の参加者はこの5人の他に、誰彼構わず襲い掛かる少女・鹿乃 縁(ゆかり)、冷静で真面目な性格の小太りの少年・大誠、頭が回り駆け引きも上手い美少年・黎(レイ)、飄々とした性格で他のプレイヤーをけむに巻く青年・カラス、以上9人が双六に参加するメンバー。それに加え中立の立場で双六の説明をする謎の和服女性・クナドが主な登場人物。
公式サイトにはもっと詳しい来歴が書かれていますが、プレイ前は見ないほうが楽しめると思います。

ボイス

三暗あん子(京楓)相模恋(みさき)橘まお(クレア)白雪碧(琥珀)
蒼原千佳奏雨
ナオト†サンクチュアリ片倉慶黛希和インプレッサ次郎

主人公以外フルボイス。
キャストは10年代声優がメインという感じでしょうか。
三暗あん子さんはあまり聞かない名前ですが、演技は特に問題ありません。

キャストの中では縁役の蒼原千佳さんがいちばん印象的。
可愛らしい声質ながらセリフの一つ一つに狂気を感じます。あまり有名な方ではないですがもっと出演してほしいなぁ。

BGM

BGMの作曲はTeam-OZ。
曲数は全部で22曲。物語の長さのわりにやや少なめでしょうか。
太鼓や琴っぽい音を使った、和風な感じの曲が多いですね。京都が舞台なので世界観によくあってます。

個人的お気に入り曲はアコギと琴っぽい音がコラボする『舞ひ踊れ』。道が開けたような感じが前向きな気分になります。
必殺技ともいえる”戒”を使うときに流れる『風林火山』は、まるで祭囃子のような曲調で熱くなれる曲。
ピンチの時に流れる『兆』はお腹に響く太鼓のリズムと不安をあおるメロディが緊張感を増します。
各ルート終盤に使われる『軍立ち』は正に勝ち確BGM。主人公たちの作戦がハマったときにピッタリな曲です。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「色化粧」りょーちんTeam-OZnaoOP
「縁道~ゆかりみち~」氷青氷青氷青ED

OP曲を歌うのはfripsideの初代ボーカルを務めたnaoさん。
まるで舞い踊るようなテンポのいい前向きな曲です。

ED曲を歌うのは声優の氷青さん。
物語を〆るにふさわしいしっとりとした曲ですね。双六の激闘で熱くなった心をクールダウンしてくれます。

ムービー

プロローグの後にOPムービーが流れます。
ムービー制作はKIZAWAstudio。
サイコロや盤面を強調して双六であることをフィーチャーしたムービーになっています。
キャラ紹介でSDキャラがちょこちょこ顔を出すのがかわいいですね。

攻略

この作品はシナリオ構成がやや特殊です。
シナリオのネタバレをするわけではありませんが、まっさらな状態でプレイしたい方は以下の説明を読み飛ばしてください。


シナリオは双六中に2ヶ所ある”分かれ道”で、サイコロ振るときにクリックするかどうかでシナリオが変化します。
これにより4つの「共通END」と呼ばれるルートに分岐してうち一つが実質BADエンド、残りの3つがそれぞれみさき・琥珀・クレアをメインにしたいわゆるノーマルルート的なストーリーです。
ノーマルと言っても物語的には非常に重要なので、実質的には全く異なる3本のシナリオを見る感じ。

推奨攻略順はまずBADエンドを見た後、みさき→琥珀→クレア。できるだけこの順番でプレイしてください。
攻略順といっても選択肢が出るわけではないので初見で狙ったルートに行くには難しいと思いますが、
1週目:[1ヶ所目]サイコロ以外をクリック(BADエンド)
2週目:[1ヶ所目]サイコロをクリック→[2ヶ所目]サイコロをクリック(みさきルート)
3週目:[1ヶ所目]サイコロをクリック→[2ヶ所目]サイコロ以外をクリック→サイコロをクリック(琥珀ルート)
4周目:[1ヶ所目]サイコロをクリック→[2ヶ所目]サイコロ以外をクリック→サイコロ以外をキリック(クレアルート)
という感じで進めれば良いかと。

全てのルートをクリアすると2ヶ所目の”分かれ道”にてTRUEルートとも言える選択肢が出現し、その後は基本一本道。エンディング後の選択肢で各ヒロインごとのエピローグに分岐します。こちらは特に推奨順はありません。

総プレイ時間はゆっくりやって25~30時間くらい。
長くもなく短くもない、ちょうどいい感じのボリュームですね。

Hシーン

Hシーンは各キャラ4回×4人で16回。
本編中のHは各キャラ1~2回で、残りは回想モードでクリア後に開放されます。
一応クリア前でも”全開放ボタン”を押せばすべてのHシーンを見ることが可能です。ただシーン中に本編のネタバレ台詞があるので、クリア前は見ないほうがいいかも。
卑語には伏せ字&P音による修正が入ります。

行為自体は基本的にオーソドックスなもの。だいたい1シーンにイベント絵が2枚使われます。
一部のキャラにはいわゆる「射精管理」のシーンがありますね。シナリオゲーではちょっと珍しいかも。

感想

異色の設定が特徴の作品なので最初はちょっと構えてたんですが、意外とすんなり入り込めてスムーズに楽しめました。
思ったよりもバトル要素が多くて熱くなれる作品ですね。

・綿密な伏線と世界設定
まずは冬茜トムさんらしい伏線の張り方や世界設定の構築が見事。
「登場人物が双六のコマとして動いていく」という突飛な設定に戸惑うと思いますが、それは作品内のキャラクターも同じ。最初戸惑っていたキャラたちが、いつの間にか双六をするのが当たり前になっていく過程も上手くプレイヤーと同期していきます。

またシナリオが進むに従って徐々に世界やキャラクターの謎が明かされていく過程が絶妙。
一気にすべてが明かされるのではなく、「???」→「!??」→「!!?」→「!!!」という感じで少しずつ双六世界の謎が解き明かされていくのもいいですね。

・”縁”がテーマの物語
どちらかというとエンタメ寄りの作風ではありますが、メッセージ性もあるのがこの作品の特徴です。

キーワードとなっているのは”縁(えん)”。
日常生活でも「ご縁がある」とか「これも何かの縁」といった感じで何気なく使う”縁”という言葉が、上手くシナリオや設定に生かされている感じ。
キャラクター同士の縁も強調されているので、「人は一人では生きていけない」というある意味ありきたりな言葉も、この作品をプレイした後はずっしりと心に響きます。

・熱い双六対決
この作品はデスゲームものでもあるのでキャラクター同士の戦闘シーンもあるんですが、能力や設定を上手く使った対決が非常に熱いです。
また直接対決だけでなく、双六のルールや設定を上手く使った頭脳戦も繰り広げられるので、これも別の意味で熱い。特に各共通END終盤は大逆転劇が多く、読み応えのある展開ばかり。

作中のキャラクターは一発逆転の秘策に打って出るんですが、その内容が我々読み手には最初明かされないので「ここからどう逆転するんだ?」というワクワク感が半端ないんですよね。

・冬茜トム作品の入門として
綿密な伏線や世界設定が構築された作品ではありますが、後のトム作品である『アメイジンググレイス』などと比べるとややインパクトは弱めかも。
この作品における”敵の正体”もぶっちゃけ大半の人が予想できるでしょうし、テキストに施された仕掛けもこの種の作品に慣れた人だと早い段階で違和感に気付くと思います。

だからといってこの作品がつまらないということは決してありません。複雑な謎解きやトリックというよりは、この作品独特の熱い双六バトルを楽しむためにプレイしたほうがいいかもですね。そのうえでいい意味で分かりやすい伏線や仕掛けが施されているので、トム作品の入門編として『アメグレ』や『さくレット』の前に『彩頃』からプレイするのをおすすめです。

恋愛要素こそ少ないものの、燃え要素や謎解き要素がちょうどいいバランスで配合された作品でした。

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