2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『はるまで、くるる。』(すみっこソフト 2012年)

困った…どう書けばいいかわからない…

…ということが作品のレビューや感想を書いたことのある方は一度くらいあるのではないでしょうか。
ネタバレなしで書く場合は特に。

今回紹介するのはそんなネタバレなしで紹介するのが難しい作品の筆頭、すみっこソフト制作の『はるまで、くるる。』。略称は「はるくる」。
萌えゲーアワード2012シナリオ賞銀賞を受賞した、シナリオに定評のある作品です。

この作品がきっかけで生まれた全4作の「四季シリーズ」第1作になります。メチャメチャ売れた、というわけではなさそうですが(パッケージの売り上げは3000本未満)、コアな人気のある作品です。
シリーズはそれぞれシナリオ上のつながりがないのでどの作品からプレイしてもOKですが、せっかくなので第1作からプレイしましょう。

公開されているあらすじは、主人公の少年・一季と4人の少女が寮生活をしながら学校に通い、少女の1人が突然「一季のハーレムをつくる」と言って服を脱ぎだすところから始まる学園ハーレムもの。
これだけ読むとよくあるハーレム抜きゲーのようにも見えます。ところがメーカーが設定した作品のジャンルは「侵蝕世界学園伝綺アドベンチャーゲーム」。ちょっと意味が分かりません。

シナリオを担当したのは渡辺僚一さん。
実はこの作品、当初は別のライターさんが書かれていて、そのときは普通のキャラ萌えゲーだったそうです。ところがそのライターさんが途中で逃げてしまったので、渡辺さんに白羽の矢が立った、とのこと。(この手の話は美少女ゲーム業界ではちょくちょくあったりします。有名どころだと丸戸史明さんの『ショコラ』(戯画)もそうですね)

その際キャラクターの立ち絵と数枚のイベントCGは書き上げられていて、「予算がないからキャラは増やせないがそれ以外は何をやってもいい」というオーダーだったので、渡辺さんが「これが最後の作品」と思って自分の中のものを全部ぶち込んだそうです。それが成功して今でも渡辺さんは第一線で活躍してるわけですから、人生何がきっかけになるかわからないですね。

ハッキリ言ってこの物語はネタバレなしでは何も語れない作品です。
このブログは基本的に公開されてる情報以外のネタバレは無しで紹介していますが、今回はさすがに無理。
もし「事前情報ゼロでプレイしたい」という方は今すぐブラウザバックして作品を購入してください。名作であることに間違いはないので今すぐ買っても後悔はしないかと。

この記事ではストーリー自体のネタバレはしませんが、あらすじには書かれていない本作のジャンルや方向性なんかは明らかにしたうえで紹介していこうと思います。

  • 綿密に構築された世界設定
  • 楽しくて居心地の良いヒロインたちとの生活
  • 絶望的な状況からの脱出
ブランドすみっこソフト
ジャンル侵蝕世界学園伝綺
アドベンチャーゲーム
初回発売日2012.4.27
DL版価格5,280円
シナリオ渡辺僚一
原画師走ほりお 笹井さじ
おすすめ度80
シナリオ傾向

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
はるまで、くるる。XP Vista 72012.4.27

パッケージ版は初回/通常版の違いも無ければ特に同梱特典があるわけでもありません。
予約特典にはサントラとおまけコンテンツ『あきおの名探偵』が付属しますが、今ではどちらもやや入手困難。
ちなみに『あきおの~』は本編と関係のないかなりおちゃらけたパロディゲームです。タイトルだけでなくパッケージ絵やゲーム内容も、ファミコンソフト『さんまの名探偵』のパロディですし。

今から買うならDL版を推奨。定価も比較的安く、ちょくちょく半額セールの対象になっているので買いやすいと思います。
パッケージ版は入手困難というわけではありませんが、中古価格が新品定価とほぼ変わらないプチプレミア状態なのでちょっと手を出し辛いですね。

すみっこソフト自体は残念ながら活動終了となっていますが、公式サイトはまだ生きているので体験版の配信も継続しています。

システム

画面下にテキストが表示されるオーソドックスなADVシステムです。画面サイズは1024×576というHDの一歩手前。
ほぼ必要最低限の機能しかないので、今からプレイするとちょっと不便なところはありますね。
特にロード後にテキスト履歴を持ち越せないのは残念です。

キーボードのエンターキーはメッセージ送りに使えますが、押し続けると強制スキップになるので気を付けてください。

シナリオ

企画とプロデュースは木緒なちさん。シナリオライターは後に『蒼の彼方のフォーリズム』等を手掛けることになる渡辺僚一さん。

物語は主人公と4人のヒロインが春休みに寮で暮らしながら学校に通い、エロくて楽しい学園生活を送る、……というのがあらすじにも書かれているOPまでのストーリー。

…なんですが実はあらすじからは想像できないほどハードなSF作品です。

序盤からなぜかキャラクターたちが記憶を失っていたり、なぜか彼ら以外の登場人物が1人もいなかったり、なぜか寮(として使っている旅館)からは空を貫く巨大な煙突が立っていたり、要所で謎の日数カウントが表示されたりと意味深な設定がたくさん出てきますが、プレイヤーには後半までほとんど説明されません。
世界設定が全く分からないまま主人公とヒロインたちによるキャッキャウフフなハーレム展開が続くという、意図的にプレイヤーを置いてきぼりにする構成になっています。

中にはこの展開に嫌気がさして脱落してしまう人もいるかもしれませんが、本格的に物語が始まるのはOP以降なので、自分に合わないと思っても何とかOPまでは進めるようにしてください。最悪序盤のHシーンはスキップしてもかまいません。

本編に入った後もちょくちょくギャグシーンはありますが、かなりシリアスなシーンも多くなります。中にはショッキングな展開もあったり非常に重い決断を迫られたりと、序盤のキャッキャウフフなシーンに戻りたくなるほどハードなストーリーが待っています。

グラフィック

原画は笹井さじさんと師走ほりおさん。SD原画に広瀬まどかさん。
イベント絵は全部で70枚、SD絵が14枚。ボリュームを考えると少ないということはないかと。要所要所でイベント絵が表示されます。

ヒロインはキャラゲーチックにややデフォルメしたデザインですね。キャラゲーとして先に立ち絵がデザインされたというのもうなずけます。
等身が低めで顔も少し横に広がった感じの、可愛らしくはあるものの今から見るとちょっと古めのキャラデザです。

キャラクター

和葉かずは 静夏しずか
どこかずれたところはあるが自分の意思を貫く強さを持つ少女。相棒はバール。バールのようなものではなくバール。
誰が決めたわけでもないが4人の中心にいることが多い。

仁燈にとう 春海はるみ
委員長のような真面目な性格だが押しに弱い少女。巨乳。
野菜の調達から料理まで、寮での食事の一切を引き受ける。

未木みき 秋桜あきお
1人でいることを好むが、その実さみしがり屋な少女。
趣味は魚釣りと推理小説。感情に左右されず論理的な考え方ができる。

士蓮しれん 冬音ふゆね
4人の中では一番小柄で後輩のような存在。金髪ツインテールの貧乳。
いつも明るい性格でくだらない冗談ばかり言っているが、空気を読んでわざとそうしている面もある。

一季かずき
本作主人公の少年。
唯一の男であるがゆえに警戒されるも、打ち解けてからはみんなに頼りにされる。

メインの登場キャラは実質この5人。一応苗字も設定されていますが、作中で呼び合うのは下の名前のみ。
全員季節に関する名前になっていますが、メタ的な設定ではなく、本人たちもそのことに気付いています。

ヒロインは4人一気に登場するうえに、名前が変に統一されているので最初は覚えにくいかもしれません。ただキャラ自体は非常時個性的なのですぐ慣れると思います。なんだかんだで4人しかいませんし。

お気に入り、というか一番目立つキャラはやはり冬音ですね。
序盤からかなりハイテンションでギャグシーンの中心はだいたいこの子。
下ネタも結構ありますがかなり笑わせてもらいました。

ボイス

竹岡美柳(静夏)芹園みや(春海)かわしまりの(秋桜)青葉りんご(冬音)

主人公以外フルボイス。
4人しかいませんが、全員一線級の声優さんなので安心して聴いていられます。

静夏役の竹岡美柳さんは、いわゆる車の人ですね。元ネタはタケオカ自動車工芸が1999年に発売した1人乗り電気自動車「ミリュー」。相変わらずチョイスが渋いです。

ハイテンションギャグが目立つ冬音役の青葉りんごさんは、後半で全く別の一面も見せてくれます。声優さん凄い。

BGM

BGMの作曲はTGZ SoundsのSHIMさん。
サウンドモードで聴ける曲はボーカル曲を除くと19曲。シナリオのボリュームを考えるとやや少なめでしょうか。
いい意味でいかにもエロゲーっぽい曲が多いですね。
ただサウンドモードがタイトル画面に重なる形で表示されるので、微妙に使いにくいです。

個人的お気に入り曲は
しっとりとしたピアノが印象的な「届かぬ声」。
ノスタルジックなアコギの雰囲気のいい「茜色の雲の隙間に」。
悲しげでどこか幻想的な「Never forget me」はなんとなくKey作品で使われそうな曲。
終盤で流れる「Over the reason」はまさに未来を掴もうとするかのような力強さを感じます。
電子的な音が奏でる「カーネーション」はSF作品であることを象徴するような曲。往年の名作『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』あたりを彷彿とさせます。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
「春の陽」華憐電気電気式華憐音楽集団OP
「春に舞う想い」wightmo2Barbarian On The Groove feat.真理絵ED

オープニング曲を歌うのはデンカレこと電気式華憐音楽集団の華憐さん。
全体的な曲調自体は明るめですが、ちょっと不安を感じるフレーズがあったりするのはデンカレらしいですね。
この曲はデンカレのベストアルバム「華憐的音楽集II」に収録されていて、単品でもDL購入が可能です。また各種音楽サイトでも配信されています。

エンディング曲「春に舞う想い」はイントロからしてグランドエンドに相応しい前向きな曲。

時を越えて
いつかこの場所で
また会えると信じ続けてる
ほら
溢れ出す思い出たちを
胸に抱いたままで

「春に舞う想い」より

もう歌詞が青春映画みたいなんですよ。
これから新たな世界に向かって歩き出す、卒業式に流れるような雰囲気ですね。
ちなみにこの曲はサウンドモードでフルバージョンを聴くことができます。

ムービー

長めのプロローグの後にOPが流れます。
OPが流れたと同時に「あ~、そういうストーリー構成なのね」とわかるくらいベストなタイミング。
一度見た後は起動後のアバンタイトルでも流れるようになります。

内容はプロローグの雰囲気とは打って変わって、謎めいたシナリオゲーらしい映像構成です。
作中では遠景でしか描かれなかった煙突がアップで描かれるので、「実はこういう構造をしていた」というのがここでわかります。思ったよりも”太い”ですね。

ムービー制作はsleepwalkerさん。個人で映像制作などをされている方みたいですね。この作品以外にも戯画の『キスベル』やChuablesoftの『アステリズム』等のムービーを制作されています。

攻略

本作はシナリオ構成がやや特殊。

まず攻略順は、
春海→秋桜→冬音→静夏
で固定です。
このうち選択肢で分岐するのは「春海→秋桜」の部分のみ。ここは一回の選択肢で分岐しますが、ちょっとわかりにくいかもしれません。
初回の春海ルートでも選択肢は出てきますが、それらは全てBADエンドに関わる選択肢。普通にポジティブな選択肢を選べば間違えることは少ないと思います。

春海エンド後の2週目は「4人のうちだれを誘うか」のシーンから再開するようにしてください。その選択肢で分岐するわけではありませんが、直後に秋桜ルートに分岐する選択肢が新たに出現します。

秋桜ルート後は選択肢のない一本道。
シームレスに次のルートが始まりますが、日数のカウントを見れば新たなルートに入ったかどうかがすぐわかると思います。

総プレイ時間はオートモードでゆっくりやって20~25時間。
OPまでが5~6時間、その後は1ルートあたり3~5時間くらいでしょうか。個別ルートはそんなに長いものではありません。

Hシーン

回想モードで見られるシーンは全部で23回。
このうちOPまでに出てくるのが15回。
繰り返します。OPまでに15回Hシーンがあります。
こんなの抜きゲーでもそうそうないのでは…。

序盤のシーンではハーレムHもあります。
ハーレムといってもみんなに入れるのではなく、一人を脱がせてみんなでいじるというシーンが多いですね。ちなみにその一人というのは主人公も含みます。
女の子同士で愛撫したりもしますが、百合とはちょっと違う感じ。

個別ルートではヒロインごとに2回ずつ。
一部お尻でする以外は比較的オーソドックスな行為です。
胸の大きさは春海(巨)>秋桜(大)>静夏(普)>冬音(微)
春海はシーン中でもかなり大きく描かれますね。むろん胸でするシーンもあります。

行為の最中は卑語も言いますが、伏字、P音による修正あり。
また破瓜のシーンでは出血描写もあります。

感想

私はプレイ前、少なくとも普通の作品ではないということは知っていたのである程度構えてプレイしたんですが、それでもかなりの衝撃を受けました。

綿密に練られたSF設定

この作品の特徴といえば綿密に構築されたSF設定。
正直なところこの手のSF展開は美少女ゲームと相性がいいので、これまでたくさんの名作が生まれています。
ただそれらの作品は「なぜそれが起こるのか?」という原理や理由をあいまいにしていることがほとんどなんですよね。
でもこの作品は現象の1つ1つはもちろん、建物等が存在する理由や、登場人物がこの5人だったわけなど、ちゃんと後から説明されるのでしっくりしやすくなっています。

これが他の作品だと
「何か不思議な力が働いて世界がこうなった」
みたいになりがちなところをこの作品では
「誰それがこういう目的をもってこういう技術を使った結果こうなった」
といった感じできちんと説明されているんですよね。

もちろんSFではあるので使われている技術は未来的というかやや荒唐無稽なものもあります。『ガンダム』におけるミノフスキー粒子的なご都合主義物質も出てきますし。
ただこれだけの設定を矛盾なくまとめられているのは凄く納得感があるんですよね。「リアルではないけどリアリティはある」みたいな。

とある重大な問題の最終的な解決方法もかなりぶっ飛んでいて、「いやいやさすがにそれは無理でしょw」と突っ込みたくなる気持ちもあるんですが、逆に壮大すぎて強引に納得させられた気になりました(笑

キャラとシナリオのバランス

この作品はヒロインたちの性格も個性的で、やり取りが非常に楽しいんですよね。
これ普通にキャラゲーとして作っても名作になったんじゃね?と思うくらい。

加えて中盤以降はいい意味で明るいシーンとシリアスなシーンの落差がすごく激しいのも印象的。
さっきまでキャッキャウフフしてたのに急にショッキングなシーンになったりもします。まさにジェットコースター。
後半では辛い展開が続くこともあるので、何も知らなかった序盤のハーレム展開に戻りたくなることも多いかと。

ただシリアスなシーンにも適度にギャグやボケをはさんでくるんですよね。メチャメチャ深刻な話をしているときにサラッと笑いを取りにくる、その辺もシリアスになり過ぎないように上手いこと調整している感じがします。

読後感のいいラスト

なるべくネタバレなしで語ると、ラストシーンも非常に爽やかなものになっています。
メッセージ性のあるストーリーにもなっていて、特に
「同じ環境にいる生物は進化しない」
みたいなくだりは実社会でもよく言われることですね。春(新学期や新生活)をテーマにしたこの作品らしいメッセージです。
環境が変わることって結構なストレスになりますし、できればずっと居心地の良いぬるま湯につかっていたい。でもそれだと進化も成長もしない。自分みたいな安定志向の人間には耳の痛い話です。

そういう意味では就職を控えた大学生や転職をしようとする若い社会人の方に向いた作品なのかもしれません。
また辛いことがあってちょっと引きこもってしまっている人にも、一歩外へ出る勇気を与えてくれそうです。
新生活を前にすると不安が付きまといますが、この作品で静夏も言っているように、とりあえず元気があればたいていのことはできるようになるんじゃないかと。


一見するとある種イロモノといえるかもしれませんが、エロゲーとしての完成度は高い作品でした。
キャラやシナリオはもちろん、世界観やメッセージ性なども高水準でまとまっているのは渡辺僚一というシナリオライターのなせる業といったところでしょうか。結構エロいのもいいよね(笑

この作品はタイトルにもあるように春が舞台というかテーマになっているので、特に3月から4月の卒業~入学・入社のシーズンにプレイしたほうがいいかも。
新入生や新社会人の方は大変なことも多いと思いますが、元気を出して頑張ってください。

まぁ私はずっとぬるま湯生活なんですけどね…
昨日と同じ今日最高です…



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