2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『アマツツミ』(パープルソフトウェア 2016年)

過去に『明日の君と逢うために』や『未来ノスタルジア』といった良作をコンスタントに生み出してきた老舗ブランド・パープルソフトウェア(通称”紫”)制作の和風ファンタジー作品『アマツツミ』。萌えゲーアワード2016・主題歌賞受賞。
「アマツツミ」というタイトルは、スサノオが犯したとされる罪「天つ罪」という神道用語からきてるっぽいですね。

シナリオライターにかつて『ダ・カーポ(初代)』や『ef』といった名作を担当したベテランライターの御影さんを起用。この時点で期待はいやが上にも高まります。
ちなみにパープルソフトウェアの次回作『アオイトリ』も同じスタッフで制作されているんですが、コンセプトが対になっているだけでストーリー上の繋がりはありません。

ストーリーは夏の田舎町を舞台にして、言葉を使って自由に人を操ることが出来る主人公と4人の少女たちが織り成す”命”をテーマにした物語。やや重いテーマを扱っていますが、鬱な展開はそれほど多くはないので構えずにプレイしてもらっても良いかと思います。

内容は奇想天外というわけではなくむしろ王道に近いストーリーなんですが、御影さんによる読み応えのある物語と、パープルの看板原画家・克(こく)さんの美麗なグラフィックが合わさり、非常に完成度の高い作品になっています。
あとシナリオ重視の作品にしては結構エロいので実用性も十分(笑

  • 命をテーマにした感動的なシナリオ
  • 背景も含めた美麗なグラフィック
  • 実用性のあるHシーン
ブランドPurple software
ジャンル言葉が紡ぐ、絆のADV
初回発売日2016.7.29
DL版価格7,480円
シナリオ御影
原画
おすすめ度85
シナリオ傾向

あらすじ

声で人を操る、数少ない言霊使いの一族として育った主人公・誠。
彼は憧れと好奇心から、ある日 里を離れて外の世界へと飛び出した。

しかし、里の中だけしか知らない世間知らずな彼が まともな生活を送れるはずもなく、
とある田舎町でついに行き倒れてしまう。

そこを、通りがかった少女・織部こころ に助けられ……

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
アマツツミVista 7 8 102016.7.29
アマツツミ 普及版Vista 7 8 102017.9.29
アマツツミVita2018.5.17
天つ籠ノ鳥BOX8 102022.9.30

初回版は紙製パッケージで特典としてサントラCDが付属、予約特典には主題歌マキシシングルCDが付きます。
普及版は値段がやや安くなったもの。わずか1年で安くなるというのも珍しいですね。プラ製パッケージですが大きさは初回版と同じの、いわゆるメガトールケースサイズ。
CS版はVitaのみになります。

『天つ籠ノ鳥BOX』は同じスタッフにより作られた次回作『アオイトリ』に加え、それぞれのサントラCDがセットになったもの。これはダウンロード版にもサントラ(ハイレゾ音源)が付属します。

現在のところ中古価格はあまり安くなっておらず、普及版もロットアップしているので、今から買うならDL版を推奨。DL版の定価は普及版と同じなんですが、定期的に半額セールの対象になっているのでセール時に買いましょう。
『アオイトリ』も続けてプレイしたい&サントラが欲しいなら『天つ籠ノ鳥BOX』で。こちらもDL版がセール対象になっていて、単品で買うのとほとんど変わらない値段で購入でるので、サントラのぶんお得ですね。

システム

画面サイズは1280×720のワイド画面。
本編中に現れる選択肢を選んでシナリオが分岐する良くあるAVGスタイルです。ただテキストを表示させるメッセージウインドウが独特で、デフォルトの設定だとキャラの台詞を表示するときは、立ち絵やイベント絵のキャラクターの位置に合わせてテキストが表示されるというシステムになっています。
最初は面白い演出だと思ったんですが、だんだん読みにくくて疲れるシステムに思えてきたので、私は結局良くある画面下のウインドウ表示にしました。(ワンクリックで変更可能)

セーブやロードといった各種システムメニューは画面上にある半透明のボタンに集約されています。これはキーボードのファンクションキーにも対応していて、コンフィグ画面から様々な機能を割り当てることが出来ます。
結構使いやすいシステムデザインですが、ボタンの数がかなり多いので慣れるまではちょっと戸惑うこともあるかもしれません。
キーボード以外でもマウスジェスチャ機能もあるので、マウス派の人も安心。

またゲームを中断するときは通常の「タイトルに戻る」や「ゲームを終わる」以外に、「ゲームを中断する」というボタンがあるんですが、これでゲームを終えると再開したときに(タイトル画面を経ず)中断したシーンから直接始めることができます。
便利な機能だとは思うんですが、個人的にゲームを起動した直後に物語が再開するのって物凄く違和感があったので私はほとんど使いませんでした。これは「ちょっと席を外すとき用」の機能ですね。

ちなみに私はDL版を購入したのですが、最初セーブが出来なくて焦りました。どうもProgramFilesフォルダにインストールしてしまったのがマズかったみたいです。(SAVEフォルダがインストールしたフォルダに作られる上に変更不可のため)
同様の症状に遭う人もちょくちょくいるみたいなんで、DL版の方は注意してください。

シナリオ

企画・原案及びメインライターは御影さん。サブライターは使わずに1人で書かれているみたいです。最近ではこういうの珍しいですね。

主人公の誠は、”言霊”という言葉で他人を意のままに操ることのできる能力を持つ一族の少年で、村の規律を破って1人で里に下りてくるところから始まります。
この”言霊”という能力は、特に制約もなく何度も命令できる(しかも記憶もある程度操作できる)というコードギアスもびっくりの便利過ぎる能力ですが、主人公は割と躊躇なく使いまくります。ただ「自分に惚れろ」とか 「誰かのことを忘れろ」みたいな致命的な命令はしないので、物語的には添え物程度の扱いです。能力がストーリーに直接絡んでくるのは1章くらいでしょう か。まぁ極端な使い方したら話終わっちゃいますしね(笑

物語は全4章の章別構成で、1章ごとに1人のヒロインをフィーチャーした物語が展開するため、ゲーム開始後の早い段階でヒロインごとのストーリーが始まります。一般的なエロゲーのように始めはみんなでまったりと日常シーンが続く、みたいな展開は少ないので、比較的テンポ良く話が進みますね。ギャグシーンも少なめ(無くはない)の割と真面目な作風です。

ただ主人公は開始時点で性経験が豊富な上に世間知らずでもあるので、性に対して躊躇がなく、共通ルートの段階でも頻繁にヒロインとHします。つまり話が進むにつれて主人公に抱かれたヒロインが増えていくので、最終的にはちょっとしたハーレム状態になりますね。

グラフィック

CG枚数はイベント絵が107枚、SD絵が15枚。
メイン原画家は今やパープルソフトウェアといえばこの人、克(こく)さん。加えてサブで月杜尋さん、SD原画に鳥取砂丘さん。
両目がちょっと離れた感じの漫画チックな表情が特徴のデザインで、一般の人にも親しみやすい絵だと思います。一部の立ち絵に少しだけバランスの悪さを感じますが、それ以外は非常に丁寧に描かれています。
彩色も作品の雰囲気に合わせた落ち着きのあるシックな色合いで、あんまり萌え萌えっとした感じではないですが、クオリティ自体は非常に高いですね。
制服のデザインも良い意味で地味な印象で、田舎の学校感が上手く出ています。

イベント絵は要所要所で”光”を意識した構図になっていて、窓から差し込む昼間の日の光や西日の鮮やかなオレンジ色、夜に飛び交う蛍の光など、思わず見入ってしまうほど美麗なCGが多いです。

ま たキャラクター絵だけでなく背景となる山間部の豊かな自然も丁寧に描かれています。特に水の表現が凝っていて、小川や湖のシーンでは水の流れがリアルタイ ムに描写されます。こういう一部だけ動かす演出って下手にやるとかえって違和感があったりするんですが、全く不自然なところがないのが素晴らしい。しかも PCにもほとんど負荷をかけない安心設計。

キャラクター

織部 こころ
主人公が最初に会うことになる少女。主人公が転がり込むことになる喫茶店「折り紙」の一人娘。
唯一”言霊”によって主人公と関係を築く妹キャラ。

朝比奈 響子
神社の一人娘で巫女さん。主人公とはクラスメイト。
極度の引っ込み思案なので友達はいないが性格は比較的明るい2号さん(笑

恋塚 まな
主人公と同じ里に住む幼馴染で許嫁。巨乳&陥没。そして非処女。
主人公よりも強い”言霊”の力を持ち、思ったことはストレートに言う主人公一筋の毒舌家。

水無月 ほたる
こころの親友で、誰とでも仲良くなる明るい少女。唯一の貧乳。
何故か”言霊”が全く通じない、実質的に物語のメインヒロイン。


”言霊”を使って街や学校に入り込む主人公。
世間知らずですが女性の扱いは慣れていて、あまり幼さを感じない青年です。
ただどうしても”誠”というと某SchoolDaysの主人公のイメージが・・・。

これ以外にこころの母親であるあずきさんと、誠のクラスメイトになる光一が主なキャラクター。そんなに数は多くないですね。章によってはゲスト的なキャラが出てくる場合もあります。
特に4章で登場する通称”OR様”はラスボスとして強烈な印象を残します。

ボイス

秋野花(こころ)夕季鈴(響子)山田ゆな(愛)小倉結衣(ほたる)
真中海西乃ころね小池竹蔵

主人公以外フルボイス。声優さんの名義はVita版と共通です。
メインキャラの配役の中ではこころ役の秋野花さんとほたる役の小倉結衣さんがツートップ。
秋野さんの甘えるような妹ボイスはいつまでも聴いていたいと思えますし、4章での小倉さんの演技は誰しもが「声優さん凄い」と驚嘆することでしょう。それくらいこの2人の演技は抜きん出ています。

サブキャラではあずきさん役の真中海さんがさすがベテランという名演技。なんであずきさんルートがないんだ・・・。

BGM

BGM製作はアブカワオサムさん。曲数は主題歌のインストverも含めて36曲で、明るい曲からシリアスな曲まで一通り揃っています。
音楽鑑賞モードが曲タイトルを選択するだけのシンプルなもので、再生ボタンやシークバー等が無いためちょっと使い勝手が良くないですね。曲を止めたいときは曲タイトルをもう一度クリックすれば止まります。

個人的お気に入りはほたるのテーマである『合わせ鏡の向こう側』。非常に明るくてハイテンションな曲ですが、ほたるルートを終えてから聴くとまたちょっと違った印象になります。
『始まりの予感』は夏の日差しを感じる癒し曲。
『明日への期待』は逆に夏の夕暮れを感じさせるまったりとしたピアノ曲。
シリアスシーンで流れる『信じる強さと信じる辛さ』は物語補正も相まって非常に印象に残る名曲。

主題歌

タイトル作詞作・編曲備考
『こころに響く恋ほたる』石川泰宝野聡史橋本みゆきOP
『繋がるココロ』石川泰yuki nakano、k ueno浅葉リオED
『コトダマ紬ぐ未来』石川泰田辺トシノ山崎もえED

メインテーマ『こころに響く恋ほたる』を歌うのはパープルソフトウエアの主題歌を一手に引き受ける橋本みゆきさん。イントロとサビの部分の力強さが印象的な曲です。タイトルがヒロインの名前を繋げたものなのも心憎い。
山崎もえさんの歌う『コトダマ紬ぐ未来』は優しさと力強さを併せ持つ、グランドエンドにふさわしい名曲。

主題歌3曲のFullバージョンはまとめて予約特典CDに収録されていますが、中古ショップでたまに見かける程度。ただヤフオクやメルカリ等ではちょいちょい出品されてる(落札価格はだいたい1000円前後)ので入手困難というほどではありません。
『こころに響く~』に関しては(次回作『アオイトリ』の主題歌と共に)橋本みゆきさんのアルバム「YOUnison 15→」に収録されていて比較的簡単に入手できます。

また「紫盤2017」というパープルソフトウエアの主題歌集CDでも聴けますが、プレミア価格になっているのでこちらはちょっと厳しいですね。

ムービー

第1章終盤にOPムービーが流れます。残念ながらムービー鑑賞モードはありません。
作中のイベント絵を加工して動きを感じさせたり、日の光や蛍がキラキラと舞う幻想的な作りになっています。
微妙にネタバレ画像も入っているのであまり注意して見ないほうがいいかも。
これ以外に4章冒頭でもムービーが差し込まれます。やっぱり公式にも4章が本命なんですね。

攻略

シナリオ構成は各章終盤に個別ルートへ分岐する選択肢が現れる、いわゆる途中下車方式です。
推奨攻略順はシナリオの順番通りに、こころ(1章)→響子(2章)→愛(3章)→ほたる(4章)の順でプレイしてください。
それぞれ1度しか選択肢が現れないので迷うことはないと思います。

総プレイ時間はゆっくりやって30~35時間くらい。1・4章がやや長めでそれぞれ10時間弱、2・3章が6~7時間くらいでしょうか。構成上、スキップをあまり使わないのでテンポよく読むことが出来ます。

Hシーン

Hシーンは各ヒロイン5~6回ずつ。そのうち共通シナリオの段階でそれぞれ2~3回Hします。しかもそれぞれのヒロインの章以外でもHする、という展開も結構あります。(例えば第1章はこころシナリオですが、こころ以外ともHします)
主人公は以前から里で許嫁の愛とやりまくってるという設定なため、あまりHに対し抵抗がありません。無闇やたらとするわけではないものの、共通ルートでも隙あらばHするのは純愛系の作品としては珍しいですね。
行為自体は(たまに言霊を使う以外は)割とオーソドックスなもの。ヒロインは卑語も頻繁に言うようになりますが、伏字やP音等による修正はありません。

個人的には、あるシーンでワンピースを着たヒロインのスカートの下から全身を覗くという、なかなか他の作品で見ない斬新な構図が印象に残ってて、新たな境地を開拓された気分になりました(笑
普通ああいう構図だと描くのはパンツまでと思うんですが、ちゃんとおっぱいまでハッキリ見えてます。このアングルは結構エロいですね。考えた人凄い。描いた人はもっと凄い。

胸はほたる以外大きめ。乳頭周辺が円錐状にツンと上を向いた形のおっぱいで、乳首が小さめな上に乳輪は大きめなので活火山みたいな形をしています。正直これは好みの分かれるところかもしれません。色もピンクではなく、濃い肌色といった感じ。
愛に至っては完全に乳首が陥没していて、しかも何故か母乳が出てきます。まぁこの辺はあまり深く考えてはいけないのでしょう。これ以降のパープル作品でも陥没&母乳キャラが出てくるので、多分原画家さんの趣味だと思います。

あと気になったところといえば、”潮”が出る孔はそこじゃないですよね・・・。

感想

10年以上エロゲーを続けている身としてはなんとなく懐かしさを感じるような作品でした。

全4章のシナリオは全て命をテーマにして書かれていますが、決してワンパターンというわけではなく、4つのシナリオそれぞれ別のアプローチで命と向き合っています。
あらすじで書かれている内容以上にファンタジー色の濃い物語なので、改めて振り返ると’00年代に一世を風靡(?)した泣きゲーの作風に近いように感じますね。
なので正直なところ、1章と2章の展開は「どっかで見たような話だな」と思わなくも無かったのですが、最近始めたプレイヤーさんにとっては1周回って新鮮に思えるかもしれません。

ただあえて難点を言えば、1~3章までの個別ルートがちょっと盛り上がりに欠けるんですよね。共通シナリオで思いっきり感動させられた後に個別ルートに入る構成上、どうしても個別ルートの出来事が相対的に小さく見えてしまいます。ぶっちゃけ2章3章の個別ルートって何があったか良く覚えていません(苦笑

でもその分、4章の展開は素晴らしいの一言。内容的にも一番重い話ではあるんですが、それまでに主人公が経験してきた1章から3章までの出来事を糧にして問題と向き合っていくので、読み手側としても非常にカタルシスを感じます。
パッケージ絵にはほたるしか描かれていなかったり、4章だけにOPが追加されていることからみても、4章のほたるシナリオがこの作品のメインなのでしょうね。

全体的に重い話が多いにもかかわらず読後感はそんなに悪くないので、シナリオゲー好きの方はもちろん、初心者さんの最初の一本としても最適なんじゃないかと思います。

タイトルとURLをコピーしました