「我々の住むこの世界は高度な文明がコンピューター上で実行しているプログラムなのではないか」
という、いわゆる世界シミュレーション仮説。
おそらく多くの人が一度は聞いたり考えたりしたことがあるのではないでしょうか。イーロン・マスクがこの説の信奉者だということも有名ですね。
証明も反証もできないのでその真偽は別にするとしても、なんとなくワクワクする話ではあります。だからこそ『マトリックス』や『ソードアートオンライン』など多くのフィクションでも扱われたテーマなのでしょう。
今回紹介する作品は、すみっこソフト制作のSF四季シリーズ3作目『あきゆめくくる』。公式略称は「あきくる」。今作のタイトルは「くるる」ではなく「くくる」なので注意してください。
シミュレーション仮説や量子力学の多世界解釈など、理系的な用語がたっぷり出てくるSF作品です。
シリーズ過去作とストーリーや世界観のつながりは全くないので、この作品からプレイしても大丈夫。ただ下ネタがバンバン出てくる会話のノリや、専門用語がバンバン出てくる世界設定が独特なので、あらかじめ過去作をプレイしておいた方が雰囲気をつかみやすいかもしれません。
物語は北海道のルルランという架空の街に事実上隔離された6人の少年少女が、学園を卒業するために「ラブコメ」をしていく、というもの。
一見面白おかしいキャラゲーチックな雰囲気ですが、その実がっつりSFしているというのもこのシリーズの特徴。
やや難解な用語や設定がたくさん出てきますが、シナリオが進むにつれて様々な謎が解明していく展開にすごくワクワクします。
シリーズ過去作とは設定がかなり違うので、二番煎じ三番煎じになってないのもいいですね。
また今作ではSFだけでなく、ヒロインの純愛もしっかり描かれています。萌えゲーアワード2016純愛系作品賞受賞も納得の出来。
ヒロインたちとのハイテンションな学園ラブコメと、意味深かつ難解なSF設定が上手く混じり合った作品です。
タイトル通り「秋」を舞台にした物語なので、現実の季節に合わせて9月ごろにプレイするのもいいかもしれません。現実の9月はまだ夏っぽいですけど…。
- 量子力学をテーマにしたSFストーリー
- メインヒロインだけでなくサブヒロインの純愛も描く
- ヒロインたちとのコミカルな学園ラブコメ

購入ガイド
| タイトル | 対応OS | 発売日 | 入手難度 |
|---|---|---|---|
| あきゆめくくる | Vista 7 8 10 | 2016.12.22 | 並 |
パッケージ版は初回版の1種類のみ。初回特典としてファンブック、予約特典にはサントラが付きます。通常版の類はありません。
また今回は前作までにあったパロディADVの類も無し。
中古価格は比較的買いやすい値段ですが、流通量が多いわけではないのでやや見つけにくいかも。
今から買うならダウンロード版(FANZA独占)を推奨。
毎回ではないですが、結構頻繁に半額セールの対象になっているのでセール時に買ったほうがお得です。
ちなみにシリーズ4作目の『ふゆから、くるる。』は、すみっこソフト活動停止によりシルキーズプラスからの発売になりました。
システム
ゲームエンジンは吉里吉里。画面下にテキストが表示される通常のADVシステムです。画面サイズは最大で1280×720。
ウインドウモードでのプレイは9段階に画面サイズを調整(最小で320×180)することもできるので、他の作業をしつつ”ながらプレイ”もできそう。欲を言えば「常に前面に表示」みたいな機能が欲しかったかも。
テキスト履歴からのジャンプなど普通にプレイするうえで最低限の機能はそろっています。
「次の選択肢に進む」機能は画面上のメニューバーにしかないので注意してください。私最初気が付きませんでした。
オートモードのウエイト時間は文章量に関わらず一定。
テキスト履歴の表示中はそのシーンのCGも表示されます。
ただ履歴のウインドウが不透明でCGがほとんど隠れてしまうためあんまり意味ないような…。
物語中はエピソードの切れ目や日付が変わるときにアイキャッチが入ります。その際アイキャッチ→タイトルコール→カレンダーと3つも表示されるのでややテンポが悪くなりますね。
シナリオ

企画及びシナリオライターは前作から引き続き渡辺僚一さん。ディレクターに木緒なちさん。
シリーズ過去作と同じく、下ネタや理系用語が頻出する独特の作風です。
物語は主人公のちはやが妹と別れ、北海道のルルランという街へ半強制的に連れていかれるところから始まります。
ルルランに連れてこられたちはやを含む6人の少年少女はDNAに人工的な遺伝子を組み込められ、なにかしらの特殊能力を持つ「保持者」と呼ばれる存在。
とある理由で住人がいなくなったルルランの街を救い、学園を卒業するためみんなで「ラブコメ」をしていく。…というのが大まかな流れです。
この作品はいわゆるSF的な「ループもの」なんですが、ループするのはちはやたちではなく”街”。つまり街は同じ一日を繰り返している(物を移動させたり壊したりしても次の日には元通りになる)けどちはやたちにとっては普通に時間が経過していく、というちょっと変わった世界設定です。
また物語中には主人公や歩たちが起こした闘争「白露擾乱」や、歌を聞いた人間が次々と殺人を犯す「凄歌事件」、遺伝子改造を主導した「咎五家」など、作中世界独自の事件や用語が頻出します。この辺りは序盤では詳しく説明されないのでちょっとわかりにくい面もあるかも。ただ後でちゃんと説明されるので最初はなんとなく雰囲気で理解しておけば大丈夫です。
物語は共通ルートと個別ルートの途中くらいまでコメディ重視の明るいノリで進みます。もうこれがかなりハイテンションで笑わせにくるんですよ。
ヒロインたちが面と向かってち〇こだのま〇こだの言ったりする独特のおかしさのある雰囲気。多少下品ではありますが汚くはない、なんとなく女子校のような空気かも。女子校行ったことないけど。
全体的に1シーンが長め(アイキャッチ間がだいたい20~30分)なので中盤はちょっとダレちゃうこともあるかも。
ただ時折謎めいたSFシーンも挿まれるので油断はできません。
特に個別ルート後半は量子力学の用語も多くなりかなりSF色が強くなります。
さっきまで楽しくラブコメしていたのが急にシリアスで難解なSF展開になることも。こういうメリハリのある展開もこの作品の特徴ですね。
グラフィック

原画は前作に引き続き笹井さじさんとイチリさん、SD原画にひづき夜宵さん。
イベントCGは全部で70枚。加えてSD絵が14枚。
キャラゲーチックにデフォルメされたポップで可愛らしい感じのキャラデザです。
前作『なつゆる』では体型だけでなく顔つきもロリっぽかったですが、今作は年齢相応の表情になっています。いい意味でとっつきやすいデザインですね。
メインヒロイン全員が長髪なのはちょっと珍しいかも。それぞれちょっとした編み方や髪飾りの違いで個性を出している感じ。
またイベントシーンに夕日をバックにしたものが多いのも、秋を舞台にしたこの作品らしい特徴。
状況によって主人公の姿もイベント絵や立ち絵に表示されます。
いい意味でラノベの主人公にありそうなデザインですね。
キャラクター

伊橋 歩
「~だわ」口調が特徴的な主人公の幼馴染。責任感の強いリーダー気質。
過去に主人公と起こしたとある事件の咎でルルランに送られる。
小高 柚月
どこか抜けた感じのするクラスメイト。
自分たちは罪な存在と考え、子孫を残さないためにやたらと去勢を勧めてくる。
土織 キス
生まれてからずっと入院続きの小柄な少女。シニカルな性格だが愛嬌はある。
理系知識が豊富で趣味はレールガンの制作。
佐々木 沙織
記録上は大量殺人を行っているが本人は記憶喪失のため全く覚えていない少女。
ナイフの扱いが得意。また自分のおっぱいの揺らし方を日々研究している。
原島ちはや
本作主人公の少年。
メンバーの中では比較的常識人で突飛な言動をするヒロインたちに振り回される。
この他にちはやの妹で原島家当主の原島みはや、闘争による怪我で男性器を喪失した襷ノア、自称前科200犯のロリ教師・永崎サリ、以上が主な登場人物。
身内のキャラ以外登場しないのはシリーズ共通の設定ですね。
個人的お気に入りキャラは土織キス。
普段はやや上から目線の物言いですが、主人公への恋心を意識すると顔を真っ赤にしてあたふたする様子が実にカワイイ。
ボイス
| 有栖川みや美(歩) | 杏子御津(柚月) | 沢澤砂羽(キス) | 風音(沙織) |
| 鈴藤ここあ | 藤咲ウサ | かわしまりの |
主人公以外フルボイス。
どの方も実力十分なので安心して聴いていられます。
しまりのさんはシリーズ皆勤賞ですね。
キス役の沢澤さんはさすがの演技。ちょっとロリっぽくて得意満面のキャラは沢澤さんの声とベストマッチ。成長したアー〇ャみたいな感じ(笑
杏子御津さんはこれまでロリ系のキャラが多かった気がしますが、今作では巨乳の痴女っぽいキャラ。この声でパンツとかおちんちんとか連呼しているのは新鮮です。
注意点として、プレイ前はErogameScape等で声優情報を見ないようにしましょう。ある意味ネタバレになります。
まぁ見なくても察してしまう人はいるかもしれませんが、私は気が付きませんでした。というか声優さん凄い。
BGM
BGM作曲はTGZ SOUNDsのSHIMさん、椎名治美さん、A-dashさんの三氏。
サウンドモードで聴ける曲数は21曲。物語の長さのわりにやや少なめでしょうか。
コミカルな曲からシリアスな曲まで幅広くそろっていますね。
個人的お気に入り曲はコメディ―シーンで流れる「秋雨前線最前線」。非常にコミカルでノリが良く、いい意味でいかにもゲーム音楽といった楽しさがあります。
幻想的な雰囲気を醸し出す「とおいゆめ」は、どこかKey作品のようなノスタルジックさを感じます。
主題歌
| タイトル | 作詞 | 作・編曲 | 歌 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| roop ~遠い世界のキミに贈るたったひとつの恋の歌~ | Rita | 流歌 | Rita | OP |
| Vector | Rita | 流歌 | Rita | ED |
ボーカル曲を歌うのはRitaさん。残念ながらサウンドモードで聴くことはできません。なんで?
OP曲「roop~」はいい意味でいかにもキャラゲーにありそうな明るくて前向きな曲。イントロのリズムとメロディが気持ちいい。
ED曲「Vector」はしっとりとした恋の歌。
個別ルート後にも流れるんですが、エピローグを見た後で改めて歌詞を読むと物語にピッタリなことがわかります。
純愛作品の〆として最高の曲で、聴くだけでちょっと泣けてくるんですよ。下ネタ言いまくってた作品とは思えない感動的な歌詞とメロディーです。
僕らは生きてる
「Vector」より
未来の光がまだ 曖昧なままだとしても
恋したんだ
君と僕は確かに 想いを重ねて
記憶の声 時を越えて
ただボーカル曲が収録されている予約特典のサントラがなかなか手に入らないのが残念。
ムービー
プロローグの後にOPムービーが流れ、一度見ると起動後のアバンタイトルでも流れるようになります。
ムービー制作はMju:Zのどせいさん。
全体的にキャラゲーチックでポップなつくり。世界観やキャラ設定をポップ体の文字で説明する、わかりやすいっちゃわかりやすい内容です。
背景の黒板に「シュレーディンガーの猫」のような物理やSFのワードを入れてあるのがこの作品らしい。
攻略
共通ルートに出てくる数回の選択肢により個別ルートに分岐します。
それぞれの選択肢で各ヒロインに対するフラグを立てていき、最後の選択肢で分岐するヒロインを選ぶ、という流れになります。各選択肢はヒロイン1人に対するポジティブかネガティブな選択になっていて、複数ヒロインに対する排他的な選択肢は基本的にありません。
全ての選択肢でネガティブな選択をすればヒロイン分岐の選択肢が発生せず、サブヒロインのみはやorノアのルートに入ります。
推奨攻略順は(みはや → ノア)→ 歩 → 柚月 → キス → 沙織。
沙織ルートのみロックがかかっていて、他の3人をクリアすると解放されます。
キスルートは割と根幹の謎が解明されるので3人の中では最後に。
サブキャラであるみはやとノアはいつでもいいですが、メインのシナリオに関係するわけではないので先に終わらせておきましょう。
なのでゲームの流れとしては、
・一週目は全てネガティブな選択を選んでみはや&ノアルート
・その後最初から始めて全てポジティブな選択を選び、ヒロイン選択の場面でセーブ
・3人のルートをクリア後、ヒロイン選択時に追加される沙織ルートへの選択肢を選ぶ
という感じがいちばんスムーズかと。
総プレイ時間はゆっくりやって35~40時間。シリーズ過去作と比べても長めのボリュームです。
沙織ルートクリア後は1~2時間くらいのエピローグがあるので、最後(4回目の沙織H後)はしっかり時間をとってプレイしてください。
Hシーン

回想モードに登録されるHシーンは全部で15個。メインヒロインは沙織が4回で他が3回ずつ。みはやとノアにも1つずつHシーンがあります。
ノアは一応男ですが、局部は女の子のように描かれます。胸もちょっとありますし。
行為自体は比較的オーソドックスなものが多いですが、柚月は3回中2回はお尻でします。しかも屋外で。
沙織は4回のうち1回は互いに性器をいじるだけでCGも横顔だけのものなので実質みんなと同じ3回ですね。
胸はキス以外かなり大きめ。Hシーンでは特に大きく描かれます。
一応物語中で胸が大きい理由も説明されるんですが、まぁ少々強引なのでそういうものだと割り切りましょう。
またほとんどのキャラに何らかの形で口でするシーンがあります。
卑語には伏字とP音による修正が入ります。
というか日常シーンも卑語言いまくりなのでピーピー鳴りまくりです。
感想

『はるくる』『なつゆる』に続くSF四季シリーズらしい、ラブコメとSFが上手く融合した物語でした。
SF要素はもちろん、ラブコメというか純愛要素もしっかり入っていて、これまでのシリーズとはまた別の方向性の楽しさがありましたね。
とある目的のため意図的に「ラブコメをする」という少々強引な導入ではあります。ただ個性的なメンバーとラブコメのお約束をなぞっていくうちに見ているこっちも楽しくなってくる居心地の良さがあるんですよね。
量子力学を取り入れた難解な設定
この作品もシリーズ過去作と同様、やや専門的な物理用語が頻出します。
特にメインとなるのが量子力学の二重スリット実験と、そこから派生した多世界解釈。
なんとなくですが、有名な「シュレーディンガーの猫」ではなく「二重スリット実験」のほうを題材にした作品ってマニアックでコアな感じがしますね。私こういうの大好きです。
ただ正直なところ、設定自体はツッコミどころが多くやや荒唐無稽なところもあります。作中でも言及されてますが、そもそも二重スリット実験ってミクロな世界の話ですし。
多少というかかなり強引な設定が多々ありますが、妙に納得感もあるのは過去シリーズで慣らされているからでしょうか。
考えてみれば美少女ゲームという媒体自体、当たり前のように”別ルート”があるので、SF作品に出てくる「多世界解釈」と非常に相性がいいんですよね。
綿密に編み込まれたSF作品ももちろん良いのですが、この作品のように「こまけぇことはいいんだよ!」的に割り切ってぶっ飛んだ作品もこれはこれでめっちゃ楽しい。
4人のメインヒロインの個別ルートでそれぞれ全く異なる謎や設定が明かされていくので、プレイするたびに「今度はどんな謎が明かされるんだろう?」とワクワクしながらプレイすることができました。すべてのルートをプレイして初めて、作品世界全体の設定を理解することができます。
よくこの種の謎は「パズルのピースを埋める」みたいに言われますが、この作品は4人のヒロインの個別ルートを使って、4つの大きなパズルのピースを組み上げる感じでしょうか。
ただそんな中、重要キャラでありながらルートが存在しないキャラがこの作品には一人いるんですよね。
サブヒロインの純愛
エロゲープレイヤーならご存じの通り、エロゲには攻略対象となるメインヒロインと攻略対象にならないサブヒロインがいます。一般的にはサブヒロインとの恋愛は描かれません。
もしサブヒロインが本気で主人公に恋をしていたらどうなるか?なんてことを考えるとちょっと身につまされるものがありますね。
この作品でもとあるサブヒロインの恋愛がフィーチャーされます。ですが当然”サブ”なので主人公との恋は成就しません。
他の作品でならファンディスクで補完されたりするのでしょうが、この作品にはそれもない。
サブヒロインの恋も描きつつ、主人公と他のメインヒロインとの恋も見せつける。…というある意味シビアで残酷な物語です。
もちろん物語は綺麗に〆られているので後味は悪くありません。むしろサブヒロインの恋を描かなかったからこそ、物語の余韻に浸れます。
この作品は萌えゲーアワードで「純愛」賞を受賞していますが、メインヒロインだけでなくサブヒロインの純愛も描いているのが受賞につながったのかも。
どこか別の世界で、サブヒロインが幸せな恋をしているルートがあることを願わずにはいられません。
・関連作品リンク
SF四季シリーズ
量子力学をテーマにしたSF&下ネタコメディ



