2010年代作品美少女ゲームレビュー

エロゲーレビュー『シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~』(Azurite 2016年)

個性的な作品を作り続けている「ライアーソフト」と、クオリティの高さで定評のある「シルキーズプラス」がタッグを組んで立ち上げた新ブランド「Azurit(アズライト)」制作のミステリーADV『シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~』。
萌えゲーアワード2016ゲームデザイン賞受賞。

物語は他人の考えを読み取ることが出来るという特殊能力を持つ主人公が、その能力を手がかりにして同じ班のクラスメイトと共に様々な事件を解決していきます。
美少女ゲーム界隈では意外と少ない、プレイヤーによる”謎解き”をメインにしたミステリー作品で、イメージ的には『逆転裁判』や『ダンガンロンパ』に近い感じでしょうか。(作風は全く違いますが)

特殊能力を駆使するため、いわゆる「本格ミステリ」とは趣が異なります。ミステリ作品の必須要素である”ノックスの十戒”なんかも結構無視してるところもあるので、そういう厳格なミステリは期待しないほうが良いかもしれません。西尾維新の『戯言シリーズ』あたりが好きな人にお勧めの作品です。

ちなみにこの作品は体験版が結構大ボリュームなこともあり、序盤の展開をネットでネタバレされてることが多いので情報収集するときは注意してください。公式サイトのマスターアップイラストからしてある種のネタバレです。

  • 特殊能力を使ったミステリー作品
  • やや難易度の高い推理パート
  • 班活動を通してのコミュ障主人公の成長
ブランドAzurite
ジャンルミステリー・サスペンスADV
初回発売日2016.12.22
DL版価格8,963円
シナリオ海原望 他
原画はましま薫夫
おすすめ度80
シナリオ傾向

あらすじ

今年の春「静乃宮学園」に入学した橘一真(たちばな・かずま)は、他人の心象を受信する能力を持っていた。
他人の心が分かるといえば便利そうだが、「実際はどの意識が誰のものかわからない」
「対象が複数いると入り混じって受信する」という中途半端なもの。
生まれながらの能力ではあるが、完全に制御できるものではなく、否応なしになだれこんでくる人々の意志に振り回されることもしばしば。
それでも日々制御する訓練を重ねつつ、なんとか人並みの学園生活を送っている。

「静乃宮学園」では、1年を通じて様々な行事を共にこなしていくグループ「行動班」を組む教育方針をとっている。
「気持ちのいいメンバーと楽しい1年を過ごしたい」という生徒たちの思いをよそに、メンバーは無慈悲にもくじ引きで決まる。

人付き合いの苦手な一真の元に集まったのは個性の塊の様なメンバーだった。

8人はまとまることもなく、ただ同じ「行動班」であるという事で最小限の付き合いをしつつも行動を共にする。
そんな中、女子更衣室からの盗難事件が発生する。
これは、後に「受信探偵」と称される様になる、橘一真のはじまりの事件であった…。

公式サイトより

購入ガイド

タイトル対応OS発売日入手難度
シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~7 8 102016.12.22
シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~PS42019.2.28

発売されているのはパッケージ版とダウンロード版、全年齢PS4版の3つ。PCパッケージ版には特典としてデジタル原画集が付きます。

注意点としてはこのゲーム、パッケージ版であってもネット認証が必須になります。それもDMM.COMのアカウント登録(無料)が必要。しかもパッケージ版のディスクにはゲームデータが8割くらいしか入ってないそうなので、ディスクからインストールした後、ネット経由で残りのデータをダウンロードする必要があります。(パッケージ版であっても同梱されているアクティベーションコードを入力すれば、ディスクを使わずにネットから100%ダウン ロードすることが可能)

メーカーさん曰く「ダウンロードの手間を省くためにデータの大部分をDVDに収録しました」とのことですが、いやいやそうじゃないでしょう(笑
違法コピー&中古対策なのでしょうが、正規ユーザーにとっては凄くめんどくさい仕様になってしまっています。

また一度ソフトがアカウントに紐付けされるとそのアカウントでしかプレイできない(つまりアカウントの開放が出来ない)ので、中古では絶対に買わないでください。(そもそも中古で売ってないと思いますけど)

今から買うならダウンロード版(FANZA専売)を推奨。税込み定価8963円というDL版にしては結構強気の値段設定で、ぶっちゃけ新品パッケージ版の実売価格のほうが安いんですが、定期的に半額セールの対象になっています。
エロシーンいらなければPS4版で。

システム

システムはシルキーズプラスのものを使っていると思われます。見た目は違えど機能的にはほぼ同じ。画面サイズは1280×720のワイド画面。
ゲームの構成としては通常のAVGパートと、実際に事件を推理する推理パートに分かれています。
推理パートでは順番に問題が提示され、選択肢の中からトリックや犯人を当てていくという、いかにも謎解きゲームっぽい構成です。

このゲーム最大の注意点としては、起動時は毎回ネット接続が必須で、しかもDMM.COM謹製の「DMM Game Player」というアプリを経由して起動させないといけません。これはパッケージ版もダウンロード版も同じ仕様です。
また、アンインストールは必ず「DMM Game Player」経由で行ってください。フォルダを手動で削除すると再インストールできなくなる可能性があるそうです。

この「DMM Game Player」というのは、まあ言ってみればDMM限定のブラウザ&ランチャーみたいなもので、有料ゲームだけでなく基本無料のソーシャルゲームや、定額やり放題のゲームも一括で管理することが出来ます。(動画で使う「DMM Player」とは全く別のアプリです)
ちなみにこのプレイヤー、ウインドウを閉じただけでは完全に終了せず、タスクトレイに常駐したままになります。完全に終了させたい場合はタスクトレイのアイコン上で右クリック→終了を選ぶようにしましょう。
ただこのプレイヤーは起動に少し時間がかかるので、そのまま常駐させたほうがいいかも知れません。いちいち終了させてると週に1回くらいのペースでプログラムがアップデートされるのもめんどくさいですし。

シナリオ

ストーリー原案兼メインライターはライアーソフトの海原望さん。ライターは他に禾刀郷さんと茗荷谷甚六さん。
エロゲーでは数少ないミステリー作品です。

主人公の通う静乃宮学園では、クラスの中でくじ引きにより振り分けられた”行動班”という数人のグループを作って課題をこなしていくというシステムになっています。そして主人公の所属する班が様々な事件に巻き込まれ、それを主人公が解決していく、というのが大まかな流れ。

物語は全7章構成で大体1章につき事件が1つ起きる、という形になっています。事件の内容はミステリの王道である密室殺人あり、人の死なない日常ミステリ的なものもあり、特殊能力の絡んだものもありとバリエーションに飛んでいて飽きません。
第1章で大きな事件が起き、その謎を追う過程で他の事件を1つずつ解決していき、最終章で1章で起きた事件の真相を暴く、という海外ドラマのような構成です。

探偵役となる主人公は「他人の考えていることを”心の声”として聞く事が出来る」という特殊能力を持っているのですが、無機質な声として聞こえるため誰が考えているのかまでは基本的にわかりません。つまり「少なくともこの中に犯人がいる」ことを主人公が知っている状態で調査や推理を開始します。
また主人公は能力のことを他人には隠しているので、”心の声”自体を証拠にすることは出来ず、推理を披露するときはセオリー通りに証拠や証言を集めて論理的に犯人を追い詰めていきます。
この主人公の能力設定は物語的に上手いですね。

グラフィック

原画家はクロックアップで『ユーフォリア』や『マゴットベイツ』を手がけた”はましま薫夫”さん。イベント絵は全部で80枚。
青年漫画に近い画風で、良い意味であまり萌えを感じない一般的なキャラデザです。

正直、美少女ゲーム界隈だとキャラの顔が似たような感じになってしまう原画家さんも多く、よく「判子絵」などと揶揄されることもあったりするんですが、はましまさんの描くキャラはちゃんとそれぞれ書き分けがされていて、目元や顔の輪郭がキャラごとに微妙に異なります。

ちょっと残念なのは服装のバリエーションが少ないことでしょうか。物語は季節的に春から秋くらいまで続くんですが、登場人物の制服が夏希以外は全員冬服オンリーなのに、私服はみんな半袖なので季節感があまり沸きません。

キャラクター

雪本さくら
屋上に佇む、口数の少ないミステリアスな少女。
パッケージ絵で1人だけ上下反転してるのはちゃんと意味があります。

桃園萌花
素直で優し過ぎるがゆえにクラスで浮いてしまう少女。
この娘のみ”心の声”が本人の声として聞こえ、心から主人公に期待と羨望の目を向ける。

風間夏希
物怖じせずに言いたいことはハッキリ言うことのできる、スポーティーな水泳部少女。
胸の大きな水泳部員って大変だよなぁ・・・。

黒月沙彩
トリッキーな言動が目立つ自称霊感少女。
学校に熊のぬいぐるみを持ち込む見た目はロリっ娘だけど、実はしっかり者。

大鳥百合子
真面目で責任感のある、名門家系の一人娘。
委員長キャラっぽいけど委員長ではない演劇部員。

橘一真
本作主人公。他人の心の声が読める能力者。
コミュ症な上に滑舌が悪く友人が少ない。なんと言うか個人的に身につまされる主人公(笑

これに加えて野球部の北上陽一、見た目は軽薄だが友達思いの高永瞬太がクラスでグループを組むことになる3班メンバー。
これ以外に各章で事件に関わるキャラがそれぞれ何人か出てくるんですが、数はそんなに多くないので正直事件の容疑者が限られてしまうことも多いですね。

ボイス

くすはらゆい(さくら) 萌花ちょこ(萌花)橘まお(夏希)秋野花(沙彩)かわしまりの(百合子)
北見六花理多あじ秋刀魚桜川未央香澄りょう
奥山歩
佐和真中小池武蔵囲まこと古川徹人巌蝉秋

主人公以外フルボイス。PS4版でも名義は変わりません。
新旧あわせて実力派の方を取り揃えた感じのキャスティングです。何気にサブキャラも一線級の方が担当されています。
今作で一番聴く機会が多いのが”心の声”役の奥山歩さん。感情的な棒読みという変わった役どころは多分この作品でしか聞けないでしょうね。
男性陣で驚いたのは巌蝉秋さん。なんで突然こんな大ベテランさんが!? 東方が赤く燃えているのか!?

BGM

BGM作曲はシルキーズプラスの未来さん。曲数は34曲。微妙に音楽モードが使いづらいです。

個人的お気に入りはタイトル画面でも流れる曲で、さくらのテーマでもある「屋上の少女」。序盤の悲しげなメロディから中盤以降への盛り上がり方が最高です。
「屋上の少女」と似た感じの構成の「絆」も雰囲気の良い良曲。
真相が判明したときに流れる「決意の時」も非常に印象的。

主題歌

タイトル作詞作曲備考
「シンソウノイズ」Ayumi.折倉隆則霜月はるか×CeuiOP
「Voice」Astilbe×arendsiiAstilbe×arendsiiAstilbe×arendsiiED

オープニング曲は霜月はるかさんとCeuiさんのツインボーカル。なんと言う贅沢!
もちろん単に交互に歌うだけではなく、ちゃんとコーラスにもなってて互いの良さを引き立てています。どちらも透き通るような声の持ち主で聴いてると耳が幸せになりますね。もうこれは本格的にユニット組んでほしい。

エンディング曲はほとんどインストverが流れるんですが、最後のTRUEエンドのみボーカルverが流れます。

ムービー

OPムービー制作は”原田”さん。
イベント絵を加工してアニメーションさせる(Live2Dかな?)という、かなり動きのある凝った作りになってます。
赤と黒のコントラストを強調した演出はどっかで見たことあるなと思ったら、『Maggot baits』のムービーを作られた方なんですね。

攻略

まずヒロイン攻略に関してですが、これは簡単。各章終盤に「事件の解決を諦めてヒロインと一緒になる」的な選択肢が出てくるので、それを選べば個別ルートに入ります。ただこれは個別ルートといっても実質バッドエンドのようなものなので、ほぼHシーンとエピローグしかありません。

推奨攻略順は話の流れのままに。本筋のストーリーラインから外れていく途中下車方式なので、出てくる順番に選べば良いと思います。ただ個別エンドはあんまり後味が良くないので最初からTRUEエンド狙いでも良いかと。

そして事件のトリックや犯人を当てる推理パート。
実は終盤以外は間違えてもバッドエンドがないので、わからなくても総当りで正解にたどり着くことが出来ます。ただ中にはめんどくさい問題(たくさんの選択肢の中から2つを選ぶ、みたいなの)もあるんですが、それまでに得られた手がかりやヒントを参考にすれば ある程度絞れると思うので、難易度はそんなに高くはないと思います。
ただ6章以降は間違えるとBADエンドになってしまうので必ずセーブしたほうが良いですね。私は5~6回くらい失敗してBADエンド行きになりました。中にはパズル的な問題もあって結構頭を使います。

エンディングはBADエンドも含めて全部で8つ。総プレイ時間はゆっくりやって35~40時間くらい。全てのエンディングを見るとキャストコメントを聴くことができます。

Hシーン

Hシーンはほとんどのキャラが2回ずつ、萌花のみ4回。一部陵辱っぽい展開もあります。
各キャラ共通ルートで1回、個別ルートで1回Hします。共通ルートの段階で全キャラとHしてしまうのはシナリオゲーでは珍しいですね。Hする理由がちょっと強引かなと思わなくもないですが。
行為の最中にはヒロインの口から呼吸に応じて白い息を吐いている描写がリアルタイムで追加されて、生々しさを感じる演出になっています。

はましまさんの描く女体って妙に肉感的でそそりますね。こう、ムチムチっとした肉付きがたまりません。
胸はさくらと沙彩以外大き目。仰向けになったときはちゃんとおっぱいが横に流れる感じになるのも逆にエロい。
はましまさんがCLOCKUPで原画を担当されたときは陰毛描写があったんですが、今作ではツルツルです。あれって原画家さんではなくブランドの方針で決まるんですね。

感想

ライアーソフトとシルキーズプラス(元エルフ)というベテランスタッフを抱えるブランドが協力して作っただけあってかなりクオリティの高い作品に仕上がったこの作品。
ネット認証関係がめんどくさいのは販売にDMMが関わってるからでしょうか。(もうマジで余計なことすんなって感じですが)

がっつり読ませてくれるシナリオは海原望さんの真骨頂。
先の読めない展開はプレイヤーをぐいぐい引き込んでいきます。私は体験版も事前情報もほとんどなしでプレイしたので、第1章のあの展開には度肝を抜かされましたし、最終章の犯人当ては全く気付きませんでした。

ただこれは良く言われることなんですが、特殊能力がメインとなる4章以降の展開は好みの分かれるところかもしれません。普通のミステリが読みたかったという 思いはなくはないですが、私は4章以降も楽しめました。手口が特殊能力になっただけでちゃんとミステリーはしてますし。

それにこの作品はミステリー要素だけでなく、主人公たちの青春物語としても秀逸です。
各ヒロインはそれぞれ悩みを抱えていて、主人公に至っては見ていて痛々しくなるほどのコミュ症ぼっち。
そんな主人公たちが様々な事件を乗り越えながら少しずつ絆を深め、かけがえのない仲間となっていく展開は正にジュブナイルの王道。最終章では涙無しに見られないかもしれません。

この1作で終わらせるにはもったいないコンテンツだと思うので、これは是非アニメ化なり続編なりの展開をしていってほしい作品ですね。

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