
先日、「Laplacianの公式サイトで『白昼夢』以前の作品が消えてる」というというXの投稿がちょっとした話題になりました。
実際のところLaplacianのサイトから過去作が消えたのは数年前の話なので、これまでもこの手の話はちょくちょく目にしてたんですよね。
ただ今回はなぜか結構大きな話になってしまったので、Laplacianの代表である緒乃ワサビさんがXとnote、およびYouTubeの配信で説明に回るという事態になっています。
まぁ今回の話は別にLaplacianが何か悪いことをしたわけでもないので、いわゆる”炎上”とはちょっと違うかもしれませんが、中にはかなり強めにLaplacianを批判している方も少数ながらいる感じ。
エロゲブランドが解散したり全年齢に移行するときは、過去作の公式ページを残す場合と残さない場合にはっきり分かれます。
最近解散したWhirlpoolは今のところサイトは残っていますし、ウグイスカグラ・OVERDRIVE・minoriなどはもう解散してずいぶん経ちますが、一応公式サイトはまだ生きてます。
逆に戯画やILLUSIONなどはもう公式サイトごと消滅していますが、ここはDL販売もすべて終了して完全になかったことにされてますね。
実質的に全年齢に移行したKeyやLeaf、FrontWing辺りは一応作品のサイトは残ってます。ソシャゲメーカーとなったニトロプラスやアリスソフト、オーガストにタイプムーン辺りも作品のページは残していますね。
なのでLaplacianのように「ブランドは残っているけど過去作のエロゲのページは消す」というケースの場合、「エロゲを作っていたことを黒歴史化してる」「全年齢作品を売るためにエロゲを捨てた」みたいな邪推をしてしまう人も残念ながらいました。
もちろん緒乃ワサビさんは「黒歴史化したわけではない」「エロゲを下に見ているわけでもない」とハッキリ明言されています。
詳しくは緒乃ワサビさんのnoteや動画を見ていただきたいのですが、思いっきりざっくりまとめると、
- Qなぜ全年齢に移行した?
- A
個人的な感情問題。18禁での物語作りはやり切った。
- Qなぜ公式サイトから過去作を消した?
- A
銀行から融資を受けやすくするため。
- Qなぜ別ブランドで残さなかった?
- A
ブランドを統一し、新規ユーザーに分かりやすくするため
ということみたいです。
細かい部分は少し複雑なところもあるため、「そもそもLaplacianって何?」という人でもわかるように解説していきたいと思います。
Laplacianってどんなブランド?

Laplacianはシナリオライターの緒乃ワサビさんが中心となって2016年にデビューしたエロゲーブランドです。
作品としては
『キミトユメミシ』(2016年)
『ニュートンと林檎の樹』(2017年)
『未来ラジオと人工鳩』(2018年)
『人類最強性欲の嫁 工口倫子』(2019年)
『白昼夢の青写真』(2020年)
といった感じで主にシナリオ重視の作品をコンスタントに発表しています。
中でも2020年の『白昼夢の青写真』は最大のヒット作で、重層的なシナリオと綿密に設計された世界設定、涙なくして見られない終盤の展開など、個人的にも大好きな作品。ユーザーの間でも高評価で、ErogameScapeの中央値で90点を叩き出した名作中の名作です。
『工口倫子』だけは異色の作品でエロ重視の抜きゲー。この作品はその後サブブランドのPRINCIPIAに移して続編も制作されました。
そんなLaplacianは2022年にエロゲ制作を終了しソフ倫も脱退。
現在は全年齢向け美少女ゲームブランドとして2025年に『記憶の鍵盤』、2026年に『久我山栞の死様手帖』をSteam等で発売。
今後はラノベ作家の長月達平さんを迎えた『MONOCHROME SERENADE』や、緒乃ワサビさん自身が手掛ける『アイソメリカ』が発売予定となっています。
ちなみに「Laplacian」というブランド名は理系学生ならおなじみの数学用語「ラプラス作用素」から、「PRINCIPIA」はご存じアイザック・ニュートンの著作『自然哲学の数学的諸原理』からとられていると思われます。作品自体もどことなく理系的な雰囲気がありますよね。
Laplacianが全年齢に移行した理由

順調だったLaplacianが全年齢作品に舵を切った理由として、緒乃ワサビさんは配信の中で、
「『白昼夢』でやり切ったから一区切りつけて新しい物語に挑戦したかった」
と説明されています。
なんでも昔は学園ものやエロいシーンに情熱を燃やせたけど、年を取ってきたらそこまで気分が乗れなくなってきた、ということらしいです。これ、ぶっちゃけ30代以上の人は共感できる部分があるのではないでしょうか。年取ると学生時代って遠い昔のように思えてきますし、ぶっちゃけ性欲も無くなってきますよね(笑
加えて制約のない全年齢版で作品を作ってみたいという希望もあったみたいです。素人考えだと「18禁のほうが制約ないのでは?」と思ってしまいがちですが、18禁だと必ずヒロインとのHシーンを入れないといけないので、それを取っ払った新しい物語を作りたいということらしいですね。
自分にとって、自分が作りたいエロゲって青春であるべきだったんですけど、自分が「もう若者の青春を等身大で書けねえわ」って思ったのが感情面ではあるかも。やり切ったって言うのもあるし、学園でキャピキャピみたいなものに前ほど乗れなくなったって言うのもある感じですかね。
緒乃ワサビの裏社長室【2026年7月30日】より抜粋
(中略)
学園ものの、自分が作りたい青春物語のエロゲだったら恋愛が絶対主題に入ってくるわけだけど、なんかそういうものを取っ払ってエロゲの外に行くか、より新しいエロを突き詰めるかじゃないですか、書き手として。これはどっちがおもろそうかなと思ったときに、普通に「新しいことやってみたいな」「新しいもの書いてみたいな」と思ったのが感情的なところっすかね。
ここに関してはもうエロゲ業界嫌だとか、そういうネガティブな発想ではなかった気がしますね。
また緒乃ワサビさんは配信の中で「娘がエロゲ制作を嫌がったらたらやめるつもりだった」とも仰っています。
実際のところ緒乃さんの場合は娘さんから嫌とは言われなかったそうですが、一般的なクリエイターの場合「子供が生まれたら18禁から足を洗う」という方も少なくなさそう。
Laplacianに限らずブランド設立から10年前後くらいで解散したり全年齢に移行したりするケースが多いのも、こういった家庭的な理由があるのかもしれません。一生エロゲ作り続けるというのもそれはそれでハードそうですし。
また今回緒乃ワサビさんは言及されなかったんですが、全年齢だと「利用できる素材や宣伝の範囲が一気に広がる」ということもあるみたいです。これはトトメトリのルクルさんが動画で仰っていたんですが、ゲームに使う音や画像の有償素材って多くが18禁NGらしいんですね。これが全年齢になるとほぼ自由に使えるようになる。さらにYouTube等でも堂々と宣伝できるうえ、ファミ通やAUTOMATONといった一般ゲームメディアでも取り上げてもらえる可能性がある。
特に外注の多い小規模のブランドではこういった制作上のメリットも大きかったのかも。
過去作品を公式サイトから消した理由

『白昼夢』より前の過去作品をサイトから消した理由は緒乃ワサビさんのnoteではっきり書かれています。
それはひとえに
「銀行から融資を受けやすくするため」
だそうです。
当たり前ですが、ゲームを作るには多かれ少なかれお金が必要です。
自己資金を用意できればそれに越したことはないですが、たいていの場合はそれでは足りないのでどこかからお金を借りなければならない。
一般の企業なら銀行から借りることになりますが、誰でも借りられるわけではなくて、銀行が「貸しても良い」と思った企業のみ借りられるんですね。
その「貸しても良い」かどうかを判断するのがいわゆる”保証団体(信用保証協会)”なんですが、この団体が基本的に18禁NGらしいんですね。
なので一般的なエロゲメーカーは流通会社(いわゆる問屋)からお金を借りてゲームを制作する、というスキームになっています。
この辺の詳しい事情は、以前NEXTONの中の人がBugBugのインタビューでも説明されていました。
ではエロゲ会社の場合は銀行から融資を受けるかというとその選択はとれず、多くの会社は流通会社からお金を借りることになります。
BugBug.NEWS【ネクストン・まついさんの万屋月報】より
エロゲ会社は少人数かつアダルト商材なのでなかなかに銀行から融資を借りるのは壁があります。そこで問屋である流通会社が開発資金を貸すということをしてくれます。
これのおかげでたくさんのエロゲブランドが作品を制作することができた素晴らしいビジネスモデルなんですが、全年齢化すると逆に流通から借りられなくなるわけですね。(基本的に全年齢版はパッケ販売を行わないことが多いので)
そうすると一般企業のように銀行からお金を借りるしかないんですが、その際の保証を受けるときに過去に発売したエロゲがネックになってしまう。だからサイトから過去のエロゲを消して完全に全年齢ブランドになる必要があった、ということらしいんですね。
これはLaplacianだけの話ではなくて、同時期に全年齢化しているspriteも公式サイトでは18禁要素を排除しています。spriteの場合は過去作のページを残していますが、それらはすべてPC全年齢版やCS版向けのものになっていて、キャスト表記もいわゆる”表の声優さん”になっているんですよね。多分ここも同じ理由なんじゃないかと。
全年齢に移行したブランドの中でもKey(ビジュアルアーツ)やLeaf(AQUAPLUS)、FrontWing辺りは過去作のサイトも残していますが、3社とも親会社が比較的大きいのでそういった融資関係の心配がないのかもしれません。(ビジュアルアーツは中国のIT企業テンセント、AQUAPLUSはゲーム会社ユークス、FrontWingはグッドスマイルカンパニーが親会社)
ブランドを分割しなかった理由は?

過去作のページを残すには「全年齢と18禁でブランドを分ける」という方法もあります。
なぜそれをしなかったかというと、
「新規ユーザーのためにブランドを統一しておきたかった」
ということみたいです。
この辺はnoteに詳しく書かれているのですが、ちょっと話が込み入っているので簡単にまとめてみます。
もともとLaplacianというブランドは、運営を担当するチカニカイ社と、スタッフが所属して受託制作を担当するヒトメモリ社という2つの会社で成り立っていました。
つまり作品の販売をチカニカイ社、制作をヒトメモリ社に分けていたんですね。ヒトメモリ社は表面上18禁を扱っていないので銀行からの融資も受けられたそうです。
そして2022年、ブランドを全年齢化するときに制作会社であるヒトメモリ社をラプラシアン株式会社に改称。その際、ラプラシアン社にゲームブランド「Laplacian」と『白昼夢の青写真』の作品権利を移譲することに。
今現在FANZAからの利益はチカニカイ社に、Steamからの利益はラプラシアン社に入っているそうです。

なのでもし今の段階で過去作のサイトを復活させるとなると「Laplacian」ではなく「PRINCIPIA」ブランドからになるのが正しい形。そのためにブランドロゴやムービーも一応作り直したそうです。
ただ肝心のPRINCIPIAブランドに会社のリソースを割くことができず、実質休業状態でドメインも失効。新規ユーザーにとっても過去作をLaplacianブランドから販売した方がわかりやすいだろうということで、以前のままの状態にしているそうです。
要するに「ブランドを分けてサイトを復活させる」か「ブランドそのままでサイトを失くす」の二択で後者をとったというわけですね。
現状だと、
過去作アーカイブを作るならそれはプリンキピアブランドのサイトになるのだが、
そこに載っている作品を買って起動するとラプラシアンのロゴが出てくる。そんなことするくらいなら、Fanza販売サイトにカタログ&販売機能を一元化しておくのがいいだろ、というのが今の自分の判断です。
『ラプラシアン公式サイトに過去作を掲載していない理由』より
以上、緒乃ワサビさんのnoteとYouTube配信の内容を簡単にまとめてみました。
私自身の認識に間違いがあるかもしれないので、正確なところは緒乃ワサビさんのnoteを読んでください。そこにすべてが書かれています。
私個人の感想としては、まぁ理想を言えば過去作のサイトを残してほしかったです。
ただ今回の緒乃ワサビさんの説明はすごく納得できるものだったし、経営上の事情を鑑みればやむを得ないことだったのかなと思います。
旧作の場合、ストーリーやキャラクターの説明にサンプル画像の閲覧だけならFANZAやげっちゅ屋の販売サイトで事足ります。パッケ版の修正ファイルもCi-enで配布されているので、ユーザーの不都合はそんなにないかも。しいて言うならサンプルボイスが聴けないくらいでしょうか。むしろ過去作がプレイできるだけで御の字です。
最近はインディーゲームを中心に公式サイトを作らないところも増えてきているので、近い将来公式サイトという風習そのものが無くなり……はしないにしても簡略化していくことはあるかもしれません。ぶっちゃけ公式サイトって読むのに時間かかるんですよね。最新情報はだいたいSNSで得ることができますし。
今後も他のエロゲブランドが全年齢化したときに過去作のページがなくなることは十分あり得ます。
その際「金のためにエロゲを捨てた」なんて心無いことを言うのはやめません?
クリエイターからすれば作品は我が子同然でしょうから、消すのは断腸の思いだったはずです。望んで無かったことにしているわけがない。
脊髄反射で感情的に叩くのではなく、事情を想像したり察してあげたりした方がお互いのためになるんじゃないかなぁ、と私は思います。

Laplacianの次回作も楽しみです
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